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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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58話 記憶という名の真実

よろしくお願い致します。

「まず始めに言っておく。私は正確にいえば獣人の王、その転生者エリゴルであり、獣人の王、本人ではない……これより語る事は、獣人一族が封印から解き放たれた時に、私の意識の中に甦ってきた獣人の王としての記憶だ──」 




                   ◇◇◇




 今から時を遡る事、数百年──遥か昔の時。


 私はこの不毛な魔物が巣くう地に、我ら一族の理想郷となるべき安住の地を求めて、魔物どもを駆逐し、戦っていた。

 そんなある時、この地でひとつの軍勢を率いた英雄と呼称されているひとりの人間の男と、巡り会った。


 それと時を同じくして、この地にて思いがけず邂逅を得、見つけ出した、水の大精霊の青い光を放つ精霊石。


 目的とする利害が共に一致した私とその男は、手を組み協力し、助け合って理想となる国を作り上げる為、共に戦うのを約束し合った。


 そしてその約束通り、一団となって戦った私とその人間の英雄との関係は、やがて、互いに厚い信頼と友情によって強く結ばれる事となった。


 『戦友』まさにそう呼ばれる関係となっていたのだ。


 そんな我々は、水の大精霊の大いなる力を借り受け、この地に巣くう全ての魔物を討ち滅ぼした。

 

 やがて、この地に国を作り上げた我らは、この国の初代の王に人間の英雄を就かせた。そして私は軍事を一手に担う彼の信頼の置ける右腕として、側に在り続ける事を王となった男に誓う。


 それからの私は、作り上げた我らが国の版図を広げる為に、我が一族と国の軍勢を率い、その領土を拡大させていった。


 そんな中、幾多の生命を奪うその行為。戦争という名の殺戮を、何回繰り返したのだろうか? 


 そんなある時。私が、我が一族を率いて遠征に向かっている時に、それは起こった。


 突然、背後から味方である筈の軍勢から、不意討ちとなる攻撃を受けたのだ。

 我々は必死になって応戦したが、元より多勢に無勢、しかも全く油断していた事も合間って、かなりの苦戦を強いられた。

 それと今の我らの獣人としての力が、かなり弱体化している。まさか考え難い事だが、何らかの手段を用いて、水の大精霊の持つ力を我々に対して行使しているのか?


 やがて、その背後からの攻撃を受けて、獣の力を弱められた我が一族が、次々に倒されていく。その光景を目の当たりにし、私は確信する。


 我ら獣人の一族は、戦友と信頼していたあの人間の英雄、今は国王となったあの男に裏切られたのだ。

 そして奴は今、我々、獣人の一族を無き者にしようとしている。


 私はその仕打ちに怒り狂った。


 ──許せぬ! 奴だけは必ず我が手で八つ裂きにせねば!


 私は苦戦を強いられている一族を叱咤し、力を奮い立たせ、馬の踵を返しながら自ら先頭を駈り、敵となる軍勢の中央突破を図った。

 その後へと続く我が一族達。そしてひたすらに奴のいる王城を目指し、馬を走らせる。


 戦いに戦いを重ね、やがて、遂に王城に辿り着いたその時、我が獣人の一族は、ほぼ半数以下にその数をすり減らしていた。

 王城の城門前には、意外にも兵士は配置されていない。


 私は静寂に包まれたその空間を、城門に向けて、ひとり馬を駈り近付いて行く……そしてその城門で我が目を疑う光景を目の当たりにした!


 ─────


 ──爆発的に込み上げてくる怒りの感情に、尖った牙を、ギリリと鳴らす!!


 そこには城に残していた我が最愛の姫が、その身を全裸に剥かれ、身体の至る所に何本もの剣を突き立てられたまま、磔にされて城門に掲げられていた。美しかったその顔は、絶望と苦悶の表情を浮かべている……。


 私は彼女の亡骸をそっと降ろし、身体に突き立てられた全ての剣を抜き取った。次に我が姫の目を手で押さえ閉じらせる。そして彼女のかつて美しかった透き通った水色の髪を、やさしく撫でた。


 最後に腕に抱き締めて、泣き声とも雄叫びとも取れない大声を上げながら、私は号泣した!


 ─────


 やがて、城門の城壁の上にひとりの人物が姿を現す。それはかつての戦友、今は憎悪の対象となる最も憎き存在。


 奴は城壁の上から私に向かい、言い放った。


「……悪く思うな、獣人の王よ。両雄並び立たぬというもの。故に、私は貴様のその強大な力が妬ましく、恐ろしいのだ。私が作る理想となる国に、貴様らのような蛮族は最早、必要ない。今までの協力には感謝する。だが、今この場所にて、貴様ら獣人共は全て討ち滅ぼす!」


 そしてその男は、何かを言い忘れたかのように言葉を付け足す。


「ああ、そうだ。貴様がこの世に未練を残さぬよう、貴様の愛する美しい姫君は、見ての通り既に命を奪っておいた……まあ、最後に充分に楽しませては貰ったがな……くくっ、さすが噂に違わぬ絶世の美女。最高に具合が良かったぞ、まさに凌辱しがいがあったというものよ──ふふ、ふははははっ!」


 ─────


 ──グゥルルル、ガアァァァアッ!!


 私は己をも見失うような、怒りの咆哮を上げた!


 それを見下ろしながら、奴は手を上げ合図を出す。それに応じ近くに伏せてあったのか、騎馬兵の軍勢が現れ、城門前の我らを取り囲むようにして待機する。見上げれば城壁の上からは、数多くの弓兵がこちらへと向け、弓を引き絞っていた。


「おお、それと獣人の王よ。我らが水の精霊石を見つけ出した時、私は偶然にもこいつを拾ってな。どうやら『精霊石の欠片』というものらしい」


 そう言いながら、奴は手にあるそれを私に見せてくる。青い光を放つ小指程の大きさの、とても小さな水晶のようなものだった。


「貴様には黙って隠し持っていたが、正解だった。魔導士共に調べさせていると、色々な事が判明してな……こいつにはどうやら、魔力(マナ)特殊能力(アビリティ)などの力を封じ込める事ができるらしいのだ」


 奴は手に持つ水晶を天に掲げる。


「──このようになっ!!」


 奴が手にする小さな水晶が、放つ青い光を大きくしながら音を立てた。


 ──ピキィィーン


 それと同時に急に身体に重く負荷が掛かり、全身に巡る力が急速に奪われていく……周りを見回すと、私以外の一族は、獣人化が解かれ、人の姿となってしまっていた。


「ほう、さすがに獣人の王と言った所か……だが、これで理解できただろう? この石のおかげで貴様らを弱体化し、その数を減らす事に成功した。そして獣人共はただの人間となる。まあ、貴様は例外のようだがな……ふふっ、またあの娘も、獣人化もできずに私のされるがまま犯され、そして私の手によって殺され死んでいったよ……さあ、幕だ! 去らば、かつての我が戦友、獣人の王よ!」


 その声が終わるのと共に、一斉に我らに向け、攻撃が始まった!


 騎馬兵士が長槍を突き出しながら突撃を、弓兵が城壁の上から、降る雨のような数多くの矢を放つ!


 私はその身に数本の矢を受けながら、前方の複数の騎馬兵目掛けて、手に持つ大剣を大きく横に薙ぎ払った!

そのひと薙ぎで数体の騎馬兵が馬ごと分断され、血飛沫を上げながら宙を舞う!


 身に受け続ける矢を無視しながら、ひたすらにその大剣を振るい続けた!


 切断された兵士の身体や、馬の首など、振るう大剣によって、破壊された有りとあらゆる物が、飛び散る鮮血と共に周囲に撒き散らされる!


 そして声を大にして叫んだ!


「我が一族よ! もう一度、その力、私に貸してくれ! 目の前の邪悪な者どもを殲滅し、討ち滅ぼす! その為に!!」


 私は再び咆哮の声を上げた!


 ──グゥルルル、ガアァァァウッ!! 


 その雄叫びを身に受け、満身創痍で奮闘していた一族が、最後の力を振り絞り、再びその姿を獣人へと変えた。

 皆、その目は怒りと復讐に狂ったような光を宿している。そして我が身を省みぬ無慈悲な、己が身を削っての殺戮が始まった!


 我が一族の者達は、視界に入る全ての敵をひたすらに殺し続けていた。数体の獣人達はその驚異的な脚力を以て、弓兵が群れる城壁の上へと一気に駆け上がる。近接攻撃の手段を持たない弓兵に対して、獣人達の一方的な逆襲となる殺戮が、城壁の上でも行われる。


 やがて、残りの敵は僅かな数の兵に守られた奴の姿、その一点に絞られた。


 私は物言わぬ姫の亡骸を、腕の中へと抱え込み、城壁の上へと跳躍する。


 ──奴の命を断つ! その行為を、せめてその手で共に……そう、願ったからだ。


 そして奴に近付く。


「……くくっ」


 僅かな兵に守られた狂気の王──奴は笑っていた。そして


「はははははっ! さすがだ。まさか、精霊石の欠片の力を以てしても倒せぬとは……だが、もういい。この精霊石の欠片は失う事になるが、倒せぬのならば、この欠片の最後の力を以て、貴様らを次元の狭間へと封じるのみ!」


 そう声を放つと、奴の持つ精霊石の欠片が、音を立てる事もなくバラバラに砕け散った!


 次に我らの上空の空気が歪む、ピシッピシッという音と共に、空中に黒い空間へと続く穴が出現する。

 それを目に確認したその時には、その黒い空間へと引きずり込まれる、姫の亡骸を抱き抱えた自分がいた。


「──ぐ、ぐおおお!」


 見れば私を含め、この場にいる生き残った全ての我ら獣人の一族達が、その中へと引きずり込まれていた。


「今度こそ、本当のお別れだ。獣人の王よ! 封印された世界で、私が作り上げる最高の国を、精々疎ましく見ているがいい。はははははっ!!」


 その力に必死に抗いながら、最後に憎しみの言葉を奴に対して吠える!


「おのれ! たとえこの身、我が一族、封印されようとも、いずれの時にいつかこの世界に舞い戻り、貴様が作った国、そしてその血族、ひとつ残らず全て討ち滅ぼしてくれる!! 必ず、必ずだ!!」


 ─────


 そしてその声を最後に、我ら一族を呑み込んだ次元の狭間の黒い空間の入り口は閉じ、上空からその姿を消した──




                   ◇◇◇




「──これが私の意識の中にある獣人の王としての記憶だ。そして、ティーシーズ教国と獣人の一族との因果関係の真実でもある」 


 エリゴルが語る思いもよらぬその全容に、この場に居合わせた全ての者達は、言葉なく沈黙の状態に陥る。そんな中──


「嘘、偽りを申すな! それこそ我らを惑わす虚言というもの。そんな戯れ言、誰が信じるというのだ!!」


 静寂を打ち破り、突如として神官戦士長クライドが声を上げる。それに対して反論の言葉を発する人物がいた。


 それは、この水の最高権威者でもある司祭システィナだった。彼女は口を開き静かに声を発した。


「……いいえ、彼が語る事は事実です。私は過去に巫女として精霊降ろしの儀にて、女神アクアヴィテ様よりその啓示となるお言葉を賜っております」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 壮絶な話でした!!!!! [一言] 出番のない二人のトーク。 おもろいです♪
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