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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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53話 戦争という名の行為

よろしくお願い致します。

 大きな声で、そう報告の言葉を告げる伝達兵。


「何だと! 一体、いつの間に……それにしても動きが早過ぎる。警備に当たっていた付近の駐屯兵はどうしたのだ?」


「はっ、それが……獣人達と奴らが率いる魔獣によって、おそらくは全滅した模様です!」


「ぐ、ぐぬっ……何という事だ!」


 ウィリアムが呻き声を上げながら、地面を睨み付ける。そして横の司祭システィナの方へと顔を向けた。


「システィナ様、私は直ちに王城へと戻ります。クライド殿に於いても、直ぐに神官戦士達に出陣の準備の程を!」


「承知致した」


 そう答えるクライドに頷きながら、ウィリアムは早々に神殿の大部屋から立ち去って行く。その後に続くさっきの伝達兵に向けて、俺は声を掛けた。


「そのミッドガ・ダルの軍勢の中に、黒の魔導士の姿は見受けられましたか?」


 俺の声にその兵士は足を止め、振り返りながら答える。


「はい、黒の魔導士アノニム。その者の姿の報告も受けております」




                   ◇◇◇




 ──舞い上がる砂塵と、響き渡る大地を蹴る馬蹄の音。


 先を急ぐティーシーズ教国軍と神官戦士の軍勢。その中に、漆黒の剣士、デュオ・エタニティと『守護する者』フォステリアの姿があった。


 目的はヨルダム城塞都市の防衛。その都市はその名の通り、巨大な城壁に覆い囲まれたこの大陸に於いて、最も難攻不落と名を轟かせている、強固な都市でもあったが、同時にそれは、そこを落とされれば、最早、聖都クラリティを守る手段がなくなり、すなわち、国の首都陥落を、ティーシーズ教国の滅亡を意味する。


 ヨルダム城塞都市。それはまさに教国にとって、最後の砦であった。



 ──────────



 これは戦争だ。攻める側、守る側、理由はどうあれ、人と人が殺し合う事に何ら変わりはない。その行為によって、生み出されるものは負の感情。ただそれだけ。他には何もない……しかも、その行為は人が感情というものを持つ限り、未来永劫なくなる事はないだろう。


 俺は手綱を握る手を離し、自身の背中にある魔剣に、そっと手を添える。


 今まで例え魔物といえど、数え切れない程の命をこの魔剣によって奪ってきた。そんな俺がこんな事言うのはエゴかも知れない。もしくは自身に対する言い訳か……だけど、できるのなら戦争という名の行為に、関わり合いを持ちたくはなかった。


「………」


 目を背けて逃げていただけかも知れない。もう諦めてしまってたのかも知れない。戦争というのはそういうものだって……多分、この思いは俺の中で今でも、そしてこれからも、ずっと続いて行くのだろう。


 だけど、今の俺は『力』を持っている! だから、俺のできる限りの精一杯の事をやってみせる! 今回の戦いに関しては、その答えは単純で明解だ。迅速かつ早急に、黒の魔導士アノニムを見つけ出し、奴を──


「──殺す!」


 ─────


『……アル、何かひとりで色々と、思い詰めちゃってるみたいだけど……』


 不意に聞こえてきたノエルの声に対し、俺は念話を頭の中で返す。


『おっと、ひとりで考え事してたつもりだったんだけど、やっぱノエルには筒抜けだったか。大丈夫、無茶はしないよ。約束する』


『本当に約束だからね? もし約束破ったら、次の食事の時にさらにトマト三個追加しちゃうからっ、ふふっ』


 ノエルが少し笑いながらそう言う。


『─って事は、もしも今回約束破った場合、前のも合わせて合計トマト六個……俺のそん時の飯、それだけで腹一杯じゃんか! くっそっ~、それだけは絶対に回避してやる!』


『うんっ、その調子! がんばれーっ、アル!』


 このやり取りひとつで、俺は思わず笑みを溢してしまう。


『あはははっ、ノエルって、ホントに緊張ほぐすの上手いのなっ』


『いやいや、何のこれしき。アル殿、お褒めに預かり恐悦至極……くすっ』


『さんきゅーな……?』


『ん……えへっ』



 ─────



 先を急ぎ、進軍の速度を早めるティーシーズ教国の軍勢。やがて、視界の中に、遠く離れた巨大な城塞都市の姿が目に入ってきた。

 しかし、近付くに連れ、それは普通とは違う異常な様子を感じさせた。


「あれは煙?……まさか、都市が燃えている?」


 俺がそう呟くのと同時に、軍勢を率い、先頭を走っていたウィリアム軍団長の上げる声が響く。


「全軍止まれ! 一旦進軍を停止せよ!!」


 その命令の言葉に従い、全軍その場に動きを止める。

 辺りに漂う不穏な空気。やがて、それに耐えれない者達が漏らす疑念の声が、周囲に広がっていく。


「まさか、あの難攻不落のヨルダムが落とされたというのか!?」


「こんな僅かな時間でか? そんな、信じられん!」


「何があったというんだ、奴らは一体、どんな方法で……?」


 そんな中、前方の炎上する要塞都市ヨルダムの巨大な城壁。その城門から突然、城の外へと黒い鎧を纏った軍勢が姿を現した。


 それを目前にして最早、城塞都市ヨルダムが敵軍勢、ミッドガ・ダル軍によって、陥落されたのは間違いなかった。


 やがて、黒い軍勢はその数を増やしていき、城門前で展開を始め、陣形を整えていく。その中に遠目ながら、既に獣人と化した数体の獣人の姿と多数の魔獣の姿も確認できた。


 そしてティーシーズ教国軍勢とミッドガ・ダル軍勢が、互いに睨み合い、遠巻きに対峙し合う形となった。


 緊張が走る空気の中、フォリーが俺の隣へと馬の足を進めてくる。


「デュオ、どうするのだ?」


「黒の魔導士を探し出す。フォリー、付いてきて」


 その俺の言葉に彼女は無言で頷く。そして


「皆、見ての通り、最後の砦、ヨルダムが落とされた今、この戦いこそが我がティーシーズ教国の滅亡を懸けた決戦となる! 今こそ我ら一丸となり、必ず勝利し、我らが祖国を守るのだ!!」


 ウィリアム軍団長が檄の雄叫びを上げる。それに続いてクライド神官戦士長も声を上げた。


「我が勇敢なる神官戦士達よ! 今こそこの戦いに於いて、憎き獣人供を討ち滅ぼし、長きに渡る忌々しき過去の因縁に終止符を打つのだ! 何も恐れる事はない! 我らは常に女神アクアヴィテと共に在る!!」


「「全軍突撃せよ!!」」


 そのふたりが放つ号令の声に、突撃を開始する騎馬を先頭とするティーシーズ教国の兵士達。そしてそれに応じるように敵、ミッドガ・ダル軍勢も前進を始めた。


 敵の先鋒は、獣人の操る魔獣の集団。


 味方の神官戦士達が、突撃する自軍の軍勢に対して守りの魔法を施している。その姿を見た俺は、フォリーを含め、自身のできる限りの最大範囲で、周りの兵士達に守護魔法を施す。


光の(ライティング・)防衛壁(ウォール)!」


 俺の突き出した左手のひらから、次々に白い魔法陣が浮かび上がり、兵士達を守る光の壁となって、そして消えていく。


 ──足らない! もっと、もっとだっ!!


 俺はひたすらに守護魔法の詠唱を繰り返す!


 ふと見れば、フォリーも俺と同様に風の精霊(シルフ)を呼び出し、周囲の者に守護の力を与えていた。

 せめて、これで何人かの兵士が、命を落とすのを減らす事ができるかも知れない。微々たる数なんだろうが……そう分かっていても、やれずにはいられなかった。


 やがて、敵の先鋒の魔獣、鷲獅子(グリフォン)毒吐瀉鳥(コカトリス)などが迫ってきた。

 

 俺は魔剣を手に取り、誰よりも早くその中へと、突っ込んで行く!


 自分の視界に入る複数の魔獣コカトリス達を、右手の魔剣で切り崩し、上空を飛び交うグリフォンに対して、左手からの魔法で迎撃する!


「──暗黒の(ダークネス・)重力弾(グラビティ)!」


 上空に向けて突き出した左手ひらから、黒い魔法陣が浮かび上がり、それと同時に黒い球が出現し、グリフォンに向かって飛んで行く!


 それを受け、バラバラに身体を飛び散らせる一体のグリフォン。


「まだまだっ、こんなもんじゃない!!」


 突き出した俺の手のひらに、次々と折り重なるようにして浮かび上がる複数の黒い魔法陣。そしてそれを前方へと振りかざした!

 同時に数え切れない程の黒い球体が現れ、それは不気味な音と共に獲物を求める意思の持つ物のように、上空に浮かぶグリフォンに向かって、各々追尾していく!

 その圧倒的力に、バラバラに身体を破壊されていく魔獣グリフォン達。


 その間にも俺は、付近にいるコカトリス向け、魔剣を薙ぎ払う! そのひと薙ぎで複数の魔獣コカトリスが身体を切り裂かれ、辺りに飛び散った!


「何と凄まじい! 滅ぼす者を打ち倒す。成る程、その力で在れば、或いは……」


 俺の近くで剣を振るっていたクライドがそう呟く。


 やがて、敵先鋒の魔獣達が全滅し、次にそれに代わり、ミッドガ・ダルの黒い騎馬隊が突撃を開始する!

 舞い上がる砂塵と轟く蹄の音、それに対し、ティーシーズ教国の騎馬隊がぶつかり合った!


 砂埃と血飛沫が辺りに飛び散り、同時に怒号と絶叫の声、そして鉄と鉄が激しくぶつかる金属音が、辺りに響き渡る!


 遂に始まってしまった。目の前で起こる人間の最も忌まわしい行為──『戦争』


 ─────


「くそっ、一体、黒の魔導士は何処だっ!」


 行われる忌々しき行為を一時も早く終らせる為に、俺は血眼になって奴の姿を探した。


 そんな俺の前にもミッドガ・ダルの黒い兵士達が迫ってくる!


 俺は事前に考えていた戦法を実行する為に、その兵士達に向けて複数の触手を伸ばし、攻撃する!


 その鋭い尖端を受け、ある者は手に持つ武器を弾き飛ばされ、また、ある者は手の甲を刺し貫かれる。そして俺自身も敵兵の武器を持つ手を狙い、次々と魔剣を振るった。時には兵士の身体を拳で殴り飛ばし、乗っている騎馬自体も蹴り飛ばしていく。


 そんな間にも俺は、必死になって黒の魔導士アノニムの姿を探した。


 そして戦場を駆け回り、その行為をひたすらに繰り返した。


 ─────


 俺としては敵の命までも奪ってない筈だ。いや、そのつもりでがんばってるんだ! 例え、敵となるミッドガ・ダルの兵士達も死んで欲しくはない。だから──


 ─────


 俺が駆け抜けるその場所は、魔剣から伸びる複数の触手が、まるで意思の持つ者のようにミッドガ・ダル軍勢兵士達の手や足を狙い、刺し貫きながら宙を駆け、のたうつように巡り回る。


 その姿は正体不明の黒い百足か、大蛇のような存在が辺りを蹂躙している。そんな不気味な光景を彷彿とさせた。


 周囲には戦闘不能に陥ったミッドガ・ダルの兵士達が、手から血を流しながら逃げ惑う姿や、足に傷を受け、地面を転がりながら逃げて行く姿が見受けられた。


 俺が振るう尋常ではないその力に、周囲を取り囲んでいた敵の兵士達が後退を始める。


 音に聞こえた勇猛なるさすがのミッドガ・ダル軍の黒い兵士達も、恐怖を覚え、散り散りになって敗走をし始めたようだった。


「ちくしょう! 本当に、奴は何処にいるんだよっ!」


 俺はまだ残って立ち塞がる敵兵を、手で殴り蹴散らしながら、大声で叫んだ。


 ─────


「──待ていっ! そこの漆黒の剣を持つ剣士!」


 不意に前方から、男の野太い声の怒号が響いてくる。


 そして後退を続ける黒い兵士達を掻き分けて、黒い重鎧(フルプレート)姿の巨漢の男が姿を現した。

 その男は馬上で手に持つ巨大な槍斧(ハルバード)を風車のように振り回し、それをピタッと止め、俺へと突き付けた。


「勇猛なる我が軍勢が、貴様ひとりのおかげで台無しだ!……むぅ、貴様、女か? しかも、まだ子供ではないか?」


 俺の姿を見たその巨漢の男が、驚きの声を上げる。


 朱色の髪を逆立てたその男の姿は、他の兵士達とは違う異なった形状の漆黒の鎧。その雄々しい姿から察するに、指揮官級といった所か?


「それがどうしたってんだよ、女子供でも強けりゃいいのさ」


 その俺の言葉に、男はニヤッと笑みを浮かべ、そして笑い声を上げた。


「がははははっ! 成る程違いない! 俺はミッドガ・ダル戦国の三将軍がひとり、そして此度の戦、その副官を務める名を、エドガーと言う!」


 エドガーと名乗った男は、俺へと巨大なハルバードを振り上げながら、馬を走らせてきた!


 ギイィィン、と音が鳴り響き、男が振り下ろしたハルバードの一撃を、俺が魔剣で受け止める! 次に攻防となる互いの振るう武器を何合か打ち合わせた!


 成る程、さすがにミッドガ・ダルの将軍っていうだけあって、相当の手練れ、そして強力な力の持ち主だ。


 ─────


「このエドガー。レオンハルト王の右腕となる者の名を懸けて、貴様に一騎討ちを申し込む! いざ尋常に勝負せよ!!」


 そのエドガーと言う男の言葉を耳にした俺は、馬の踵を返し、一度、奴との距離を取る。


 そして静かに馬上で魔剣を構えた。


「一騎討ちには応じる。だけど、先を急いでいるから──」


 俺は馬の横腹に蹴りを入れ、走らせた。


「── 一瞬で終らせる!」




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