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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
1章 魔犬士パグゾウの奮闘記
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3話 魔剣の力

よろしくお願い致します。

 

 ───


 ──ウオォォォーーン!


 続いて、左前方からも。

 

 その雄叫びの声に、三匹のコボルト達が反応する。


 迅速じんそくにそれぞれ自らの武器を手にし、剣を構えた黒毛。クロトを先頭に、三匹のコボルト達が早急に駆け出して行く。


 ───


 何だ? さっきの雄叫び、あれは多分コボルトの咆哮だ。これから何か始まるのか?


 そう疑問を感じながら、俺もその後を追う。


 やがて森林を抜けた先に、開けた平原が広がっていた。


 よく確認してみると、複数のコボルト達がそれぞれ姿を隠すように地面に身を伏せている。それに合わせるようにクロト、クリボー、シロナの三匹も地面に伏せ、その身を隠す。


 続けて地面に伏せているクロトが、頭だけを俺の方へと向け、あごをしゃくった。


 ───


 ……俺にも身を隠せという事か。


 それに従い、俺も地面に伏せて身体を隠した。


 そのままの状態で、しばらくの沈黙の時間が過ぎる。



 ─────



 やがて平原にある変化が生じた。


 何者かが姿を現したのだ。俺達、複数のコボルトが身を隠して視線を送る。


 その目線の先には──


 小邪鬼(ゴブリン)と呼ばれる緑色の肌を持つ、醜悪な姿の小鬼の集団だった。


 奴らも俺の今の身体、コボルトと同種の亜人(デミヒューマン)に分類される魔物の一種だ。


 えーっと、数えて1、2、3、4、5……って、ええい、まどろっこしい! まあ、ざっと60から70といったところかな。

 そしておそらく、奴らは俺達の存在に気付いていない。


 成る程、待ち伏せって訳か? という事は、俺が所属しているコボルト達とこいつらゴブリンの集団は、今から戦闘を始めるんだな。


 コボルトとゴブリン。魔物の種族間の争いか……。


 ───


 ──アウオオォォォーン!


 伏せている俺達に聞こえてくる、ゴブリンの集団を挟んで、中央前方からのコボルトの雄叫び。


 どうやらこのゴブリンの集団を、コボルト達が完全に包囲しているらしい。その遠吠えを耳にしたゴブリンの集団が、あわてて戦闘の準備をし始める。


 ───


 これから戦闘が始まるのか──



 ──ザワッ──



 何かを感じて、思わず右手にある魔剣に目を向ける。


「!?」


 それを目にした瞬間、黒い刀身から発する鈍い紅い光が、剣全体を包み込むようにその紅い光の輝きを強ませ、発光させていた。


 まるでこれから始まるその行為を待ち望み、喜ぶかのように──


 やがてその光は元の鈍い光へと、本来の姿に戻す。


 ………。


 この剣、俺の自身の本体なんだけど、やっぱり得体が知れない。そしてすっごく不気味だ……こ、こんなのが俺だなんて、全く、未だに信じられない。


 はああああぁぁ~~、何となく憂鬱だな……ったく、もう!─って、今はそんなことを考えてる場合じゃないか。


「──おしっ!」


 気持ちを切り替えて身を伏せたまま、前方のゴブリンの集団に目をやる。


 戦闘態勢を立てようと、一匹のリーダーらしきゴブリンが、他のゴブリン達に何やら指示を出している様子だ。


 仕掛けてくる気配はまだない。


 一方、その周りを囲んでいるであろう、こちらコボルト達の方も、何かを警戒して動き出せずにいるといったところか?


 ゴブリンの伏兵が潜んでいるのを、警戒しているのか。


 よし、それじゃ、今の内にこれまでの状況を把握しておこう。



 ─────



 俺は多分、異なる世界からの来訪者で、今は“剣”。こうなる前は、やたらと人間に執着してる自覚があるので、おそらくは人間だったんだろう。

 それで何故か、森の湖畔辺りの地面に突き刺さっていた剣である俺を、戦闘の為に移動中だったコボルト達の一匹によって引き抜かれた。

 次にそいつの身体を俺が憑りつき、乗っ取った事によって魔剣士コボルト、パグゾウのご誕生。


 そして今、コボルトとゴブリン、二種族間の戦闘に巻き込まれそうになっている。


 まあ、こんなところかな?



 ─────



 俺はもう一度、右手の魔剣に目をやった。このコボルトの視線からそれを見ているが、元々、この剣自体が俺なんだよな……? 


 そう考えながら、伏せた体勢のまま、ズブリと剣先を地面に突き刺してみる。


「──!!」


 やっぱりだ! 地面の中、つまり地中の感触がじかに伝わってくる。


 どうも剣を持っているという実感があまりなかったのは、こういう事か。すなわち、乗っ取った身体と剣とは同体、つまりは肉体の一部。


 まあ、早い話が異常に長い右腕を持っているようなもんだ。俺がもし左利きで、剣を左手に持ったのなら、左腕が長い感じになるんだろな……。


 そんなくだらない事を考えていると、もうひとつ、今までになかった感覚に気付く。


 まるで自分の身体の部分が増えたようなこの感覚。俺はこの感覚に対し、頭の中で指示を出す。


 そう、自身の手足を動かすように──


 その指示に従い、やがて俺の顔の前に、それは姿を現せた。


 複数の黒い触手が──


 うねうねとうごめくそれは鉄の鎖、または昆虫の百足ムカデを思わせる形状をしている。そしてそれらは、どうやら剣のつかの部分から伸びているようだ。


 それがまるで自身の手足を動かすように、自在に自分の意思で動かすことができるのだ。


 俺のコボルトの身体と剣とを繋ぐ三本の触手とは、また別の存在か……。


 ……な、何か、もう色々と思考が追い付いてこないけど、これだけは、はっきりと言える!


 “俺”っていう存在がメチャクチャで、もう何が何だか訳が分かんねええええぇぇーーっ!!


 地面に伏せながら、心の中で絶叫する俺。そんな時。


 ───


 ──ワオオオオオォォォーーンッ!!


 一際大きいコボルトの咆哮が後方から聞こえた。


 どうやら突撃の合図らしい。しびれを切らしたのか? 


 その雄叫びを口火に、茂みに突っ伏していたコボルト達が集団となって、一斉にゴブリンの集団に襲い掛かった。


 ───


 それじゃ、俺も行くか!


 今の俺が何をすべきなのか? その目的となるものは、まだ見出だしてはいないが、まずは──


「この魔剣の力で、取りあえずはこの戦いを生き抜く! さあ、行くぞ、魔剣!─って、こっちは俺の本体だから、この場合は……えーっと、行くぞ! パグゾウ!!」


 ゴブリンの集団に対して四方から突撃し、戦闘を始めるコボルト達。


 見ればその中に、手にした剣や長槍を振りかざし奮闘しているクロトとクリボーの姿、それにその後方で、弓の弦を引き絞るシロナの姿も見受けられる。


 そして俺に襲い掛かかろうと迫ってくる一匹のゴブリン!──ショートソードの攻撃をかわし、手に持つ魔剣でその胸を突く!


 ヅブリという音と共に魔剣の先端が背中まで貫通し、剣を含めての俺の右腕に血肉の感触が伝わってくる。

 ただ、驚くべきはその切れ味。まるで紙切れを突き刺すような──そんな軽い感触。


 一体、何なんだこの剣は?


 ゴブリンの身体を貫いた魔剣の放つ紅い光が、一瞬強くなり、“何か”を吸収し始める。次いでくる俺の身体に注ぎ込まれる身体全体にみなぎるような力。


 ──今までに感じた事のない不思議なこの感覚。


 なるほど、これが『吸収する』『強化する』─ってやつなのか。


 続けざまにこちらに向かい、突っ込んでくる複数のゴブリンに俺は魔剣をたくみに操る。


 袈裟斬りからの横薙ぎ! 急所への正確無比な突き!


 あらゆる剣術を用いて、それらを次々に打ち倒していく。


 そのたびに『吸収』『強化』──どんどん力がみなぎり、俺。今はパグゾウと言う名の身体が、確実に強化されていくのが実感できる。


 ………。


 不思議と心は落ち着いていた。特別、これといった高揚感も感じない。ただ、例えゴブリンという魔物とはいえど、命を奪うその行為に、あまりいい感情は抱けなかった。


 ともあれ、剣はかなり使いこなせるみたいだし、こういう戦闘の場でも、ある程度の冷静さも保っている。


 こうなる前の俺は剣士か戦士、または戦場にいた兵士だったのかな? 兵士といえば戦争。大量の人間の命を奪う行為が戦争……もし兵士だったのなら嫌だな。そうだな、やっぱり俺は──


 ──“冒険者”がいい!


 そう考えてる間にも、見る間に包囲網は狭まり、ゴブリンの集団はその数を減らしていく。


 明らかに一方的だった。


 ………。


 ……何か怪しいな。


 ───


 ──プゥアァ~~。


 突如、包囲網を張っていたコボルト達の外側から、角笛らしき音が響き渡った。その音に呼応するように森林から次々に姿を現す多数のゴブリン。


 ───


 ………。


 やはりな、真ん中のこいつらは囮で他に伏兵がいたか。これは逆に囲まれているな。


 その姿を確認した俺達が囲んでいるリーダーらしきゴブリンが、不気味な声を発した。


 ──ギャアアエェェッ!


 それを合図に新手のゴブリン達が、一斉に俺達に向かい突撃を開始する。


 こりゃあ、一気に形勢逆転だな。まあ、ここからが踏ん張りどころ。


 ──よしっ!!


 気合いを入れ直し、魔剣を力強く握り締める。


 こいつらは挟み撃ちを企んでるんだろうけど、そうはさせない!


 ───


 俺はまず、中央のリーダーらしきゴブリンの首を魔剣でねた。


 首をなくし、血を吹き出しながら倒れるそのゴブリン。それを確認した俺は、そのまま周りのゴブリン達に向かい、魔剣を振るった。


 一匹、また一匹と、その命を確実に奪う。


 速急に、より迅速じんそくに、迫ってくる新手のゴブリン達がここに辿たどり着く──その前までに中央にいるこのゴブリンの集団を全滅させる為に──


 ───


 俺は新たに加わった身体の部位、即ち、触手にも自らの手足に指示を出す感覚で使用してみる。


 その指示に即座に反応を示し、複数の黒い触手がゴブリンに向かってうねるように伸びていく。そして鋭く尖った先端部で、ゴブリン達の胸や頭部を次々に刺し貫いていった。


 そのさまは、まるでそれ自身が意思を持つ者のように、自ら獲物を求めて空中をのたうつように駆け巡る黒い百足ムカデ──


 そんな連想れんそうを抱かされる、異様な光景だった。そしてそれらを、俺自身が自由自在に操ることができるのだ。


 魔剣でゴブリン達を次々に切り伏せ、同時に触手での攻撃も繰り出す。


 それにより、魔剣の『吸収する』力によって俺、パグゾウ自身がどんどん強化されていく──


 ………。


 ……ホントに一体、何なんだ、この剣は?


 気が付けば、中央にいたゴブリンの集団はその数を大幅に減らし、残りは後僅か。クロト達、三匹も無事で奮闘しているようだ。


 やがて最後の一匹の首をね、中央のゴブリンを全滅させた俺は、そのまま振り返り、後方から迫ってくる新手のゴブリンの集団に突っ込んで行った。



 ─────



 自分の視界に入ってくるゴブリンに向かって、漆黒の魔剣を何度も振るい、触手の攻撃を繰り返す。


 その度に命の断末魔と飛び散る鮮血をこの身に浴びる。


 ──何度も! 何度も!


 まるで強力な力に魅了されるかのように──


「─っ!?」


 不意に俺に向かい、赤い炎に包まれたつぶてが飛んできた。


 それを上方へと跳躍ちょうやくしてかわす。


 軽く跳んだつもりだったが、自分の予想外の跳躍力ちょうやくりょくに驚く。


 魔剣の吸収する力により、俺自身のコボルトの身体能力は飛躍的に強化されているのだと、改めて実感する。


 跳躍ちょうやくして空中から、その攻撃が飛んできた方向に目をやると、杖を手にした複数のゴブリン達が確認できた。


 杖を持つゴブリン──いわゆるゴブリンメイジってやつか? 


 魔法か……あれはまずいな。速急に接近して始末してしまいたいが、今の俺とは、かなり距離が離れている。


 さて、どうする?


 ──そうだ! ひとつ試してみるか。


 ある妙案を思い付き、俺は魔剣の触手を、空中から目的であるゴブリンメイジ達がいる地点に対して伸ばし、地面に突き立てた。


 次に触手を手繰るように引き寄せる。


 その引き寄せる引力によって、俺の身体は、瞬時に目的であるゴブリンメイジ達の上空へ移動する事となった。


 よし! 上手い具合にいった。こういう使い方もありだな。


 ─ったく、なんてすげぇ剣なんだよ、この魔剣は──!


 さて、それじゃ……。


 いくぞ!!


 ───

 

 俺は魔剣を振りかざしながら、触手の引き寄せる力を乗せ、そのまま上方からゴブリンメイジ達に襲い掛かった。


 いわゆる空中からの急襲だ。


 地面に足を着くより先に魔剣で、数匹のゴブリンを切り裂く! 即座に着地し、速やかに全てのゴブリンメイジの命を魔剣によって断った。


 そして吸収する──


「!?……」


 自分の身体に注ぎ込まれてくる力の中に、今までに感じた事のない何か、別の力を感じた。


 次に俺の頭の中に、何やら魔法の詠唱文字が思い浮かんでくる。


 ふと周囲を見回すと、少し離れた場所でゴブリン達の集団が、次の突撃準備の為に集結しているのを確認できた。


 俺はその場所を狙い、魔剣の切っ先を向ける。


 そして先程思い浮かんだ詠唱文字を、二種続けて頭の中で復唱した。


 最後に魔法の名称を叫ぶ。


「──火球(ファイアーボール)!──電撃(ライトニング)!」


 俺が立て続けに発する声に反応し、魔剣の剣先に赤と緑、ふたつの魔法陣が浮かび上がる。そして魔法陣が浮かび上がったその瞬間。

 魔剣の先から、同時に二種類の属性の魔法が放たれた。


 直線に突き進む火球と、それの周りをうねるように追従する電撃の渦。それが交わり、一弾となってゴブリンの集団に直撃し、大爆発を発生させる。


 ───


「す、すごい。魔法まで吸収して使えるようになるのか! ホントに何なんだよ、この剣は!?」


 激しい爆発音と共に、舞い上がる砂塵と、何か肉の焦げるような嫌な臭いが辺りに広がった。


 漂う煙と臭いの中、気付けば、俺の近くにいた味方のコボルト、敵であるゴブリン。共に驚愕きょうがくしたように俺の方へと目を向けている。


「─ったく、俺が一番びっくりしてるっつーの! 一体、この剣はどれ程の力を持ってるんだ? もうメチャクチャだ!」


 そんな中。俺の周囲にいたゴブリン達が、次から次へと逃げ出して行く。


 どうやらさっきの爆発で怖じ気付いたんだろう。まあ、無理もない。だって、普通の魔法ならあり得ないもんな、あんな大爆発。


 取りあえずはこれで一息つけるかな? あっ! そういえばクロト達、三匹は大丈夫なのか?


 そう考えた俺は、三匹の姿を探し、辺りを見回しながら走り出した。


 向かってくるゴブリンを斬り倒しながら、捜索して行き、やがてやっとその姿を見つけ出す。


 三匹共に無事だった。今は互いを守るように背を向け合い、手に持つ武器を振るっている。


 俺はぐにその場に駆け付け、即座に周囲のゴブリン達を一掃した。


 ───


「無事で良かった。三人共、怪我とかしてないか?」


「グゥル、ガウッ、ガウッ!」


「キャン、キャン、クゥゥ~ン」


「……バウッ……キャイン……クウゥゥン……」


「……い、いや、もういい。やっぱ訳分かんないや。ただ、そうだな。クリボー、なんかお前、元気なくない?」


 そう言いながら、クリボーの身体を観察してみる。


 ……ほら、やっぱりだ、こいつ、肩に矢傷を受けてるじゃないか。


「おい、クロト。お前、クリボーを連れて直ぐにこの場所から離れろ。後、シロナも連れてけ」


「ガウッ、ガウッ、グゥァル?」


「いいから、クリボーとシロナを連れて、離れてくれ!」


「グゥル、ガウッ、ガウッ!」


「言葉は分かんねぇけど、言いたい事は何となく分かるよ。クロト、お前はまだまだ戦えるって、そう言いたいんだろ? だけど、クリボーは怪我してんだ。それにシロナだって、見た感じかなりキツそうだ。俺はお前達とはどういった関係だか分からないけど、あの時。四人でいたということは、少なくともパーティーを組んでいた同じ仲間同士だったって事だけは分かる。だから、お前達には死んで欲しくないんだ」


「ガウ……グゥァル?」


「だから、連れて離れてくれ。頼むっ!」


「ガウゥゥン……ガウッ、ガウッ!」


 そして何とか俺の言わんとした事を理解してくれたのか、俺に対して背筋を伸ばし、ビシッと敬礼を決めるクロトくん。

 次にクリボーとシロナが、順に俺に対し頭を下げてくる。


 ───


 やがてクロトの肩を借りたクリボーと、その後ろに付いて行くシロナの姿を見届けた俺は、まだ残る敵の姿を求めて走り出した。


 走りながら、戦いの今の状況を確認する。


 敵であるゴブリン達の一部は敗走し始めてるも、まだ踏みとどまって、戦闘を続けている箇所も見受けられた。


 やがて目に入ってくる、戦闘を繰り広げている場所へと、近付いて行く弓を装備したゴブリンの集団の姿が。


 ──あれも、すごく危険だ!


 それに向かい、俺はかさず走り出す。


 向かう途中、襲ってくる多数のゴブリンは全て魔剣で斬り倒した。


 それにより、ますます俺のコボルトの身体、パグゾウは、よりその力を強力なものとしていく。


 やがて敵の視界に入り、俺の存在に気付いたゴブリンの弓隊が、俺に対し矢を放ってきた。


 それを以前と同じく上方への跳躍ちょうやくでかわし、弓隊の真ん中の地面へと、魔剣の触手を突き立てる。


 そしてそれを引き寄せ、そのまま前回同様、空中からの強襲攻撃。


 地面に足が着く前から、魔剣の斬撃を放つ。


 剣の斬撃! 一撃! 二撃! 三撃! 四撃! 五撃! ──っ!! 


 ──そのたびに複数のゴブリンの首や身体が、吹き飛んでいく。


 地面に足が着く頃には、ほとんどのゴブリンの弓兵は全滅していた。


 着地した俺は、ゴブリンの弓隊が向かおうとしていた戦場へと駆け出そうとする。


 ───


 ──プゥアアァ~~



 ここで例の角笛が鳴り響く。


 ゴブリン達の統率者が、ようやく撤退の命令を下してくれたようだ。


 その音に反応して、ゴブリン達が散り散りになって逃げ出していく。


 そんな様子を、疲れたように棒立ちになって眺めているコボルト、または肩を抱き合って勝利の遠吠えを上げているコボルト、多数の味方のコボルト達の姿を見て、俺は改めて実感する。


 なんとか俺、新生パグゾウの初陣は、めでたく勝利を収める事となったらしい。



 ─────



 やがて全てのゴブリンの集団が撤退するのを、見届けていた味方であるコボルト達も、ようやく撤退を始めた。

 俺は撤退する場所、すなわちコボルト達が帰る場所が、もちろん分からなかったので、はぐれないようその後を追いかける為に、歩き出そうとする。


 そんな時、俺の後方で何かの気配を感じた。


 俺の事だけを、じっくりと見据える鋭い視線……そんな感覚。


 俺はその気配を確認するため、後ろに振り返る。そこには──


 少し離れた場所に、狼のような魔獣に騎乗し、重装備(フルプレート)に身を固めた一匹のゴブリンの姿があった。


 フルフェイスの僅かな隙間から覗く、黄色く光る鋭い眼光。


 その異様な姿に、少しの戦慄を感じる。


 ───


 あれは多分ゴブリンだろうけど、何か特別な力を感じる。あいつも俺と同じく強力な力を持つ、ゴブリンの中の“異様な存在”なのか……?


 ───


 しばらくの間。俺は奴の姿に目を奪われ、その場に立ち尽くしたまま、互いに睨み合いを続けていた。


 やがて不意に何者かに腕を掴まれ、我に返る。振り向くと、それは戦場から離れていたはずのシロナだった。


 ───


「キャン、キャン! クウゥゥ~ン?」


 シロナの声に周囲を見渡すと、すでに敵、味方、何者の姿も確認できない。


 どうやら置いてきぼりにされてしまっていたらしい。


「俺の事、迎えに来てくれたのか? ありがとう、シロナ」


「キャン! ハッハッ、クゥ~~ン」


 言葉は通じてないけど、嬉しそうに激しく尻尾を振るシロナ。


 まあ、でも来てくれて、ホント助かったよ。危うく迷子になるとこだった。


 そして俺の手を引くシロナに従い、歩き出した。


 ──はっ、そういえば奴は!? 


 そう思い出し、振り返ると、その先にあのゴブリンの姿はすでに消え去っていた。シロナに腕を掴まれたまま、俺はその場所を呆然と見つめる。


 ………。


 一体、あいつは何者だったんだ。


 この戦闘には参加してなかったようだが、何処かで戦況を観察していたのか? 


 それにしても得体の知れない奴だったな……。


「クゥン? キャンッ、キャンッ!」


「おっと、ごめんごめん。何でもないよ、さあ、帰ろう」


 シロナの声に俺は再び振り返り、歩き出した。


 ───


 それはそうと、この剣、ずっと手に持っとかなきゃいけないのか……すっげー邪魔なんですけど……。


 ──あっ、そうだ!


 いいことを思い付いた俺は、魔剣を自身の背中へとあてがう。それを触手によって身体に巻きつかせ、固定させた。


 我ながらナイスアイデア! それにしてもこの触手、何かと便利なもんだ。他にも色々と用途がありそうだ。


 俺は魔剣を背負って再び、歩き出した。


 ───


 ガリガリと剣先が地面に擦れる音が聞こえ、剣が地面を擦る感触が伝わってくるが、仕方がない。この魔剣の長さはパグゾーの身長を優に超えているのだ。


 多少の事は目を瞑ろうじゃないか……トホホ。


 ある程度歩き進んで行くと、例の湖畔こはん辿たどり着いた。シロナと共にその横を通り過ぎて行く。


 何気に湖に目を向けると、シロナの後に続き、鼻のひしゃげたブサイクカワイイ小型犬が、二足歩行で歩いている姿が映っている。


 その背中には、もりもりと地面を掘るように、剣先を地面に引きずられている漆黒の剣の姿が──


 ───


 ぷっ、くすっ、ははははっ! 何かすっごく滑稽こっけいだ。


 ……だが、ちょっと待てよ。と、いうことは……だ。


 ………。


「あああああああああああーーっ!」


「──キャインッ!」


 俺が上げる大声に、シロナが脅えて小さく吠える。


「今までの俺、パグゾーは、この姿でずっと戦っていたのかっ!……異形の漆黒の魔剣を振るい、無双するブサカワな小型犬!……シュールだ……シュール過ぎるっ! その姿、是非とも自分の肉眼で見てみたかったああああああああっ!!」


 俺の放つ無念の絶叫が、無人の湖畔に木霊する。


 そしてそれを最後に、今回の戦いの幕は閉じる事となった。


 得体の知れない物を見るようなシロナさんの視線が何気なく痛い……。


 ──ぐふっ。


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