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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
6章 水の精霊編 猛る猛獣と麗しき花嫁
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45話 軋轢

よろしくお願い致します。

 ギイィィン、ギイィィン、と剣が打ち合わさる音が鳴り響き、同時に馬も大きく嘶きの声を上げる。


 傾いた馬車の手前、今、この場所ではふたりの神官戦士と、赤髮の女剣士が、激しい戦闘を馬上で繰り広げていた。

 女の両手に持つ二本のショートソード、その二刀流の激しい攻撃に、ふたりの神官戦士はジリジリと押されている。


 ───



       挿絵(By みてみん)




「中々の腕前だが、手間取っている暇はない。もう遊びは終わりだ!」


 そう言い放った赤髮の女剣士ソニアは、自身の馬上に立ち上がり、そのままそこから高く跳躍した。そして右と左、それぞれの手に持つショートソードを振りかざし、護衛の神官戦士ひとりに、空中から襲い掛かった。


「──うぐっ!!」


 神官戦士の胸に、ソニアが持つショートソードが深々と突き立てられる。そして続けてもう一本!


「ニコライ!!」


 それを見たもうひとりの神官戦士が、悲痛の声を上げる。


 ソニアは、崩れ落ちる神官戦士の乗る馬上で立ち上がり、再び跳んで自分の馬の上へと戻った。


「この邪悪な獣人が! よくもニコライを!!」


 残ったもうひとりの神官戦士が、激昂してソニアに斬り掛かっていく。


「何だと! 本当に邪悪なのは貴様ら、人間の方だ!!」


 怒りの雄叫びを上げながら、ソニアもその神官戦士に向かっていく。


 お互い突進し、そして交差する。


「──がはっ! ぐっ、ユーリィ……後は頼んだ……」


 吐血しながら、馬上から転落する神官戦士。


「………」


 ソニアはその姿に軽く一瞥の視線を向けると、馬車の方へと馬を走らせる。やはり、車軸が破壊されて馬車は大きく傾いていた。


 ソニアに一抹の不安が過る。


(馬車には絶対に手を出すな。そう暗示を掛けていた筈、所詮は魔獣もただの獣か……姫様は無事なのか?)


 ソニアは馬から降りると、傾いた馬車へと近付いて行く。


 やがて傾いた馬車の中から、白い巫女服を纏った少女を抱き抱えた若い神官戦士が、外へと出てきた。


 彼は地面に倒れているふたりの神官戦士の姿を見て、声を上げる。


「ニコライさん……ゴルドーさん。どうして、どうしてこんな……」


「うっ、い、痛っ……」


 若者の腕に抱き抱えられた水色の髮をした少女が、軽く呻く声を漏らした。


「!? セシル、やっぱり脚が痛むんだな? 早く手当てをしないと……」


 少女はその言葉に、彼の腕の中で小さく頭を振る


「ユーリィ、私は大丈夫。それよりも早く、この場所から逃げないと……その為に皆、懸命になってくれてるのだから……」


 そう小さい声で言いながら、セシルと呼ばれた少女が悲しそうな表情を浮かべて、彼の胸にその顔を埋めた。


「……確かに君の言う通りだ。とにかく、ここから離れよう」


 そう答えながらユーリィと呼ばれた若い神官戦士が、彼女を腕に抱き抱えたまま馬車から地面へと降りる。

それと同時に背後に人の気配を感じた。そして首に何か、冷たい物を押し当てられる。


「動くな! 動けば、この剣をお前の首に突き立てる!」


 背後から聞こえてくる若い女の声。どうやら、ニコライとゴルドーを倒した敵に待ち伏せされていたらしい──ユーリィはそう考えた。


「そのまま後ろを振り向かず、その御方を地面へと降ろせ!」


 後ろの女が続けて言う。


「駄目だ! それはできない。セシルは、彼女は脚に怪我を負ってるんだっ!」


 そうユーリィが大声で答える。


「!?……」


 少しの沈黙の後、やがて女は手に持つショートソードをユーリィに向けたまま、ふたりの前に姿を現す。

 長い赤髮を束ねた女、ソニアはユーリィに抱かれたセシルの姿を確認すると、突然、畏まって地に片膝をついた。


「……姫様、王の御命によりお迎えに上がりました。どうぞこちらへ、私と共に参りましょう」


「……え?」


 その言葉を受けた当のセシルも、彼女の事を抱いているユーリィも、その女が何の事を言っているのか、全く理解できず、軽く混乱する。


「……あなたは誰? 王って何? 私、あなたが何を言ってるのかが、良く分からない……」


 セシルが困惑する声でそう呟いた。


「私は白狼(はくろう)のソニア。貴女様とは直接、面識は御座いませんが……そう、覚えてらっしゃらないのか。やはり王が仰せの通り、記憶を失われておられるようだ。ならば、力ずくでお連れするまでの事──」


 そう言葉を放ったソニアは立ち上がり、セシルを抱き抱えるユーリィに向かって、両手にそれぞれショートソードを構えた。


「ユーリィ……」


「セシル! くっ、こんな状態の時に!」


 セシルの怯えた様子に、ユーリィが苦悶の声を上げる。その時──


 ソニアの立つ足元に向かって、何か黒いものがのたうつようにして伸びてきた。


「──な、何っ!?」


 そしてそれは、地面を抉るように大地に突き刺さる。


 ソニアはそれを後方に跳んでかわす。


 着地した彼女が前方に目をやった時、その突き立てられた黒いものを手繰るようにして、空中から飛翔してくる黒い影。


 それはセシルを抱き抱えるユーリィとソニアの間に着地した。


 ─────


「ふぅ──何とか間に合ったみたいだな」


 飛来してきた者が、黒いマントを翻しながら立ち上がる。

 右手に漆黒の長い異形の剣、紅い光を放つ右目を持つ妖眼、オッドアイの少女。


 ──魔人デュオ・エタニティ。




 ──────────




「お前は黒い剣士!」


 地面に着地した俺の姿を見て、ソニアが驚きの声を上げる。そしてその表情は怒りのものへと変わった。 


「お前がここにいるという事は……ま、まさかっ!!」


 彼女は後ろへと振り返る。

 かなり離れているので分かり辛いが、カレンが地面に仰向けに倒れている姿が確認できた。そしてそれは、ぐったりとして微動だにしない。見ようによっては死んでいるように見えなくもない。


 ─────


「うああああああーーっ!! 貴様、よくもカレンを殺したなっ! 絶対に許さんっ! 八つ裂きして、ズタズタに引き裂いてやるっ!!!」


 怒りに震えるソニアの身体が、カレンの時と同じように変化し始めた。ひとつに束ねた長い赤髮がほどけ、白い長髪となって振り乱れる。端正に整った人間の女性の顔が歪に歪み、狼という名の形のものに変形していく。


 ──アオォォォォーーンッ!


 そしてソニアもカレンと同じ、白い狼の獣人へと変化を遂げた。


 獣人と化したソニアは、二本のショートソードを構えながら、俺に向かい疾走してくる!


「グゥルルル──ガアアァッ!!」


 ソニアは低く獣の唸り声を発しながら、まるで狂ったかのような攻撃を繰り出してきた!


 その二本のショートソードから放たれる斬撃も、速くて強力だ。人の域を遥かに凌駕した強大な力!


 だが──


「よくも! よくも! 貴様だけはあぁぁっ!!」


 俺はソニアの繰り出す連続の攻撃を、カレンの時と同様に魔剣を一切使用せず、その全てを身体を捻ってかわす!


「カレンを返せっ! カレンを返せえぇっ! がああぁぁーーっ!!」


「………」


 俺は彼女の悲痛の声を耳にしながら、無言でただ、彼女の攻撃をかわし続けた。


「カレン! カレン! うわああああ!!──カレンっ!!」


 …………。


『……アル?』


『ノエル、これって、一体何なんだろな……』


『え? どういう事?』


『……何か違う。こんなのってどっかおかしい。何故だか分かんないけど、俺はそう思う……だーーっ! 何かもう、ムシャクシャするっ!!』


『アル……』


 ─────


 俺は、怒り狂ってひたすらに攻撃し続けるカレンに対し、問い掛ける。


「お前のその怒りは良く分かる。だけど、お前もふたりの人を殺しているだろ? 多分、そこの残された若い戦士も、お前と同じような気持ちを抱いてる筈だ。一体、何が違うって言うんだ?」


「うるさいっ! 黙れ! 貴様ら(よこしま)な人間の思いなど知った事か!! 邪悪な存在の人間など滅ぼされて当然だ! その報いを受けるべきなのだっ!!」


 ………。


 俺は次に繰り出されたソニアの攻撃を、かわすのを止めて、魔剣で受け止めた!


 ギイィィン、と金属音が響く。


「!?」


 不意にその衝撃を受けたソニアの狼の目が、俺の事を睨んだ。


「私はお互いの事情は知らない。でも、お前のその考え方は、随分と自分にとって都合の良い了見だな。何か、すっごく腹が立つ……」


 俺は打ち合わせていた魔剣に力を込め、下まで振り下ろす! それにより魔剣と合わさっていたソニアのショートソードが、激しい金属音と共にバラバラに破壊された。


「──ぐ、ぐあっ!!」


 彼女はその衝撃の痛みに堪えきれず、手首を押さえながら僅かに前屈みになった。


 そのソニアに向け、魔剣を突き差しながら、俺は言う。


「カレンはまだ生きてる。だから、ここから立ち去ってくれ」


「な、何だって……そんな事、信じられるか! 貴様ら邪悪な人間の言う事など……それに私には課せられた果たすべき任務がある。それだけは、我が命に代えてでも達成せねばならんのだ!」


 ─────


「──だぁぁーーーっ!! さっきからこっちが大人しくしてたら、好き勝手に言いたい放題に言いやがって!! だいたいさあ、お前らふたり共、言ってる事、支離滅裂し過ぎっ! あのカレンって奴は自分が死んででもソニア、お前の事を殺さないでって言ってくるし、お前はお前で、そんなにカレンの事を思ってるくせに、自分の命を捨てようとしてまで、その任務っていうのを果たそうとしてる……」


『ちょ、ちょっとアル、急にどうしたの?』


「ノエル、悪い、ちょっと黙っててくれ──とにかくだ、言ってる事が矛盾してるんだよっ!! 要はお前ら、ふたりは生きてまた会いたいんだろう!? だったら、もうそれでいいじゃねぇか、だから任務なんてもう放っておけよ! お前にとってカレンと任務、どっちが大切何だよっ!!」


「………しかし、我ら獣人の一族には、自らの命に代えてでも果たすべき『目的』がある。その目的の障害となる邪悪な人間の言う事など……」


 俺の感情の中に怒りという負の感情が増大していく。それに伴い、オッドアイの右目から溢れ出す紅い光を強く感じ取れる自分がいた。


 俺は怒りという名の、負の感情をグッと堪える。


「……もういい、正直、その一方的な物言いには、もううんざりだ。もう行けよ! カレンの所へ。彼女が待ってるから。さあ、早くっ! 私の……俺の気が変わらない内に──」


 俺のオッドアイの紅く光る目に見据えられ、一瞬、ビクッと、ソニアの身体が震えた。


 気付けば背後から大地を蹴る馬蹄の音が近付いてきた。

 振り向くと、それはフォリーだった。どうやら無事でこちらへと向かっているようだ。そういえば、ダンと呼ばれた男はどうなったのだろうか?


「ダンもやられたか、無念だが、今回はここまでのようだ……」


 その様子を確認していたソニアが、そう呟いて獣人化を解いた──長い白い髪が、赤毛の長髪へと変わる。

 人間の姿に戻った彼女は、自分の馬の元へと走って行った。そして馬に乗った彼女はカレンの倒れている場所へと向けて馬の踵を返す。

 

 去り際に、彼女は声を上げる。


「我ら獣人族の敵は邪悪な存在、人間だ! 貴様がどれだけ戯れ言をほざこうと、その事実だけは変わる事はない! 黒い剣士、今度、会う時があればその時は必ずその首、貰い受ける!」


 俺の事を睨み付けながら、そう言葉を掃き捨て、カレンの元へと走り去って行った。


 ─────


 それにしても、まだ言ってたな、人間が邪悪な存在だとか、何とか。


『ノエル……』


『ん? なあに、アル』


『人間って、いや、感情って奴は、ホントにすっげーややこしいもんだな。今回はさすがに疲れちまったよ。はぁ~~』


『確かにそうだね、でもそこが人間の良い所でもあるんだよ。何となくだけど、私はそう思うなぁ……』


『ふ~ん、そんなもんなのかね……何かややこし過ぎて、俺には良く分かんないや』


『それは私だって同じだよ。でもまあ、取りあえずはお疲れ様、アル!』


 俺はもうひとりのデュオ・エタニティでもある彼女に向けて、元気な声で返事を返した。


『おう!』


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