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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
5章 風の精霊編 放たれた黒き尖兵
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36話 掲げた目的

よろしくお願い致します。

 

 ───


 またも額に感じる、じっとりとした冷たい汗の感触。


 ──身体に戦慄が走る。


 ───


「私の名前はデュオ・エタニティ。漆黒の魔剣、その使い手だ……そして私の『目的』は……」


 俺は魔剣を構えながら、横目でフォリー達、三人の様子を伺った。

 気を失い、地面に伏せているフォリーに、ミナとミオが必死で治癒魔法を施している。


 次に脳裏に思い浮かぶ、千年樹トレントやリオス王の言葉──


 俺が探している、この世界で生きる為の自身の目的……彼らはそれが、この世界の脅威となるものに関わりを持つ事を望む。


 そのような事を言っていたけれど──


 今はその事が、ただの伝説なのか、実際に起こりうる真実なのか。未だに明確ではない……が、今、俺は目の前で『滅ぼす者』、その尖兵と称している者とこうやって現に対峙している。


 そしてそんな存在と対峙している俺は、強力な力を持つ『魔剣』! 


 俺のこの世界での『存在意義』はきっと、この為にある!


 ……それなら……だったら!!


 そうだ! 俺の探している目的が、『滅ぼす者』、『滅びの時』、そのものと関わりを持つように望むんじゃない! 


 俺の方から関わりを持つ為に向かって行けばいいんだ!


 それを達成する事によって、この世界が消滅するという事を阻止できるのなら──


 ……いや、そうじゃない。そんな、大層なもんじゃないだろ? 


 俺の、本当の思いは……。


 俺は……気付いてから出会った、様々な者達の存在。そして今、俺と一緒にいてくれているノエルと言う名の女の子。


 ただ、単純に俺は……俺は、それを失いたくないだけなんだっ!!



 ─────



 今、心の中で決めた、この世界での自分自身の目的。それは俺にとって、不相応で、かなりの困難を要する事となるだろう。むしろ達成させる事が可能かどうかさえ、やってみなければ分からない。だけど、せっかく目的を持つなら──


 どうせなら、とっびきりでかいほうがいいっ!


 はははっ、そうだ。大きな『目的』を自分の中に掲げる! 


 ──それが『冒険者』ってやつだ!


 ───


 俺は右手に持つ魔剣で、黒い巨人を差しながら、声を上げて宣言する!


「私の……俺の『目的』は、『滅びの時』を止める事! そしてお前ら、『滅ぼす者』を討ち滅ぼす事だっ!!」


 ───


 ──ミシッ、ミシッ──


 黒い巨人の真っ赤な目が、大きく見開かれる。


『カハッ、承知! 汝が目的、確かに我がうけたまわった! なれば、その決意。己が力にて、示してみせよ! 見事、我を止めてみせよ!』


 黒い巨人は雄叫びの声を上げながら、ゆっくりと手にした得物をそれぞれ構える。


 黒い異形の巨人が放つ膨大な圧。


 その強大な重圧に、身体に再び戦慄が走る──またも、額から頬へと伝う冷や汗。


『……アル、いつものように、カッコつけた台詞は言わないの?』


 ノエルの少し強張った声が頭の中に響いてくる。彼女も緊張しているようだ。


『悪いな、ノエル。今回はさすがにそんな余裕はない……』


 俺は苦笑を浮かべながら、それに答えた。


 すると、ノエルは無理に作り出したような元気な声で、明るく言う。


『大丈夫だよ、アルなら絶対に大丈夫……だって、あなたは今まで求めていた自分の『目的』を、さっき見付けたじゃない。そして真っ直ぐなあなたは、きっとその目的に向かって、ひたすらに突き進む……だから、絶対に──私、信じてるから……』


 ………。


 俺は魔剣を持つ手に、ギュッと力を込めて握り締める。


『そうだな、そうだった……さすが俺の頼りになる相棒。ありがとう、ノエル』


『い~え、どういたしまして。えっへん!!……そうだ、だったらアル、お礼に今夜、何か美味しい物、食べようよ。勿論フォリーさん達、三人と一緒で!』


『それって、確かにナイスアイディアだな……だけど、気になる点がひとつ……』


『ふふっ、心配しなくていいよ。トマトはしばらくの間、禁止なんでしょ?』


『へへっ、了解! だったら、もう迷いはないっ!!』


 魔剣を構え、再び巨人へと意識を集中させる……これから俺は、この黒い巨人と激闘を繰り広げる事になるだろう。


 だが、絶対に負けはしない。必ず、打ち破ってやる!


 そんな俺の頭に、不意によぎるミナ、ミオ達、三人の姿……。


 ───


 ……駄目だ。今のままじゃミナ、ミオ達、フォリー、三人が戦闘の邪魔になる。


 俺は黒い巨人と向き合った状態で、後方のミオに向かい、声を上げた。


「ミオ、頼む! ミナと協力して、フォリーさんと共に、どうにか、この部屋の入り口の扉の所まで移動してくれっ! もう、ここは安全じゃなくなる!」


 ミオとミナは頷くと、フォリーをふたり掛りで担いで、少しずつ移動を始める。俺は魔剣を構え、黒い巨人を見据えながら、それをじっと待つ。


 やがて──


「デュオ、大丈夫! 三人共、無事に部屋の入り口まで辿り着いたよ!」


 ミナの大きく叫ぶ声が、聞こえてくる。


 ほっ……取りあえずは、これでひと安心。


「分かった! いつでも逃げ出せれるよう心掛けながら、フォリーさんの回復作業の方、頼んだ!」


 ───


 よし、これで完全に後顧の憂いは絶った! 後は全力の力を以て、立ち向かうのみ!!


 再び魔剣の握る手に力を込め、黒い巨人、イニティウムに対して構えた。


『汝が迷いとなる雑念は滅したか?──なれば、存分に推して参れ!』


 黒い巨人、イニティウムが吠える。


 ……成る程、わざわざ待っててくれてたって訳かよ。


 奴の身体からは、変わらず重圧な気のようなものを発し続けている。そしてそれが俺の手に持つ魔剣の発する紅い光と交じり合い、辺りが異常な空気に包まれる。


 互いに動かず、無言の対峙が続く……。


 ───


 ……何も考えなしで、奴に突っ込んで行くのは、さすがにやばいか……?


 それなら──


 俺は巨人に対し、魔剣を持たない左手のひらを前へと突き出した。


「──火球(ファイアボール)!」


 赤く浮かび上がる魔法陣と共に、巨人に向かって灼熱の火炎弾が音を立てて飛んでいく。更に俺はその放った魔法の後を追うように、奴に向かって、魔剣の触手を鋭く打ち伸ばした。


 まず、巨人は向かってきた火球を、事も無げに手にした大剣で打ち払う。


『!!』


 そこへ追撃となる黒い触手の鋭い尖端が、巨人に向かってのたうつように伸び、襲い掛かる!


 ギィィィン──と響く金属音。


 ……しかし、その触手の攻撃も奴には届かず、もう一組の腕に持つ槍で、薙ぎ払われてしまう。


「……ちっ!」


 舌を鳴らしながら、既に触手の後を追って駆け出していた俺は、大きく跳び上がり、巨人に向けて魔剣を振り下ろした。


 だめ押しの三撃目、これなら、どうだっ!!


 ──ギイィン!


 !?──


「……くっ!」 


 だが、放った魔剣の斬撃は、振り下ろされる事なく、その途中で巨人の持つ長い尻尾の強固な尖端によって、弾かれる事になってしまった。


 地面へと着地し、俺は再び魔剣を構え直す。


「……さすがに隙がないな……」


 黒い巨人、イニティウムの赤い目が、妖しく光る。


『汝の連撃、実に見事也! なれば、次に(われ)が攻めによって、それに応じよう。見事、凌いでみせよ!』


 咆哮の声と共に突進して来る巨人。


 次にその二組の腕から、繰り出される異なるふたつの武器の攻撃。


 巨大な身体から放たれるそれは、どれもが変則的で速く、そして予想以上に重かった。


 俺は必死でその攻撃を次々に魔剣で受け流す。そんな中、不意に足元に目掛けて突き立てられる、巨人のしなやかな尻尾の尖端。


「!!……ちっ、くそっ!」


 それを紙一重で身体を捻ってかわす。その直後、またも迫ってくる、巨人の巨大な剣と槍による連続攻撃。


 俺はただひたすらに、それを魔剣で弾き受け流す。


 想像以上の巨人の脅威的な猛攻……俺は最早、剣で防ぐのが精一杯だった。


「……くっ、くそっ!」


 ずっと鳴り響き続ける、打ち合う剣撃音……しかし、やがてその律動が徐々に変化を生じ始める。


 ……ま、まずいっ、防ぎ切れない!!


 黒い巨人、イニティウムの放つ圧倒的な攻撃に押され、防御のタイミングが少しずつ狂い始めてきた。


 俺は一度、体勢を仕切り直す為に、後方へと大きく跳び離れる。


 するとそれに反応するかのように、巨人の四つある内のひとつの手に、黒い魔法陣が浮かび上がった。


 俺の着地を狙い、イニティウムが魔法を放つ。


『カハッ──追え! 暗黒の(ダークネス)重力弾(・グラビティー)!』


 巨人の黒い指先から発生した漆黒の球体が、異音を発生させながら、空中にいる俺へと向かって来た。


「──しまった!」


 これはかわせないっ!!


 俺は咄嗟に魔剣を身体の前へと突き出し、それを受け止めようと試みる。


 次にそれらが打ち合わさった瞬間、目の前で爆発が起こった。


「──が、がはっ!!」


 爆音と共に吹き飛ばされ、石の壁に激しく身体を打ち付けられる。


「ぐうあっ!!……ううっ……」


 俺の、デュオの口元から、一筋の鮮血が流れる。


『アルっ! 大丈夫!?』


 ノエルの訴えかけてくる声が、頭の中で響く。


「うっ……まあ……な、何とか……な……」


 周囲は爆発による煙や、舞い上がる粉塵で、ほとんどの視界が失われていた。


「!?」


 不意に前方に何かの気配を感じて、目を凝らす。


 ………。

 

 目の前に巨人、イニティウムがいた。そして大きな顎が、カッと開く……その喉元の奥に、ちらつく揺らめく青白い炎の姿が──


「……こ、これは炎の吐息(ファイアブレス)!!──やばいっ!」


 俺はふらつきながらも、以前の戦闘で不死の高神官から奪った魔法のひとつを発動させる。


「──光の(ライティング)防御壁(・ウォール)!」


 浮かび上がる白い魔法陣。そして俺の周りに光の壁が包み込むように出現する。その壁に包まれた俺の元へ、それごと押し潰すかのような、凄まじい勢いの灼熱の炎が降り注いできた。


 メキッメキッ、と音を立てる光の壁の中で、俺は何とかそれを耐え凌ぐ。


 ……くっ、まずいな。


 だが、やがて光の壁は限界に達し、音を立てて壊れた。


 それと同時に、俺は横へと跳び跳ねて、辛うじて難を逃れる。


 次の瞬間、炎のブレスが地面へと衝突し、再び起こる前よりも激しい大爆発。


 またもやそれに巻き込まる事となった俺の身体は、もう一度、凄まじい勢いで、壁に打ち付けられた。


「──があああぁっ!……ぐ、ぐああああっ!!」


 喉の奥から溢れ出る血を吐き出しながら、たまらず、前へとのめり込む……。


 ───


 ぐうっ……がはっ……ぐぐっ……まずい……これは、あばら、何本かいって……しまったか……頭も打ち……付けたよう……だな……相当な打撃を……受けてしまった……。


 ……こ、このまま……では──


 ──目の前の視界が……ぼやけていく──


『アルっ! アルっ! お願いっ、返事して!!』


 ……ノエルの必死の声が聞こえる──


 感じる血の味と激しい痛みの中、何とか意識を保とうと、足掻く……。


 だが……。


 ……うぅ、目の前が……く、くそっ……だ、駄目だ……ほんと……に……このま……まじゃ……。


 ───


 ───!!


 その時だった!……右手に力を感じた……そう、いつも感じ続けている、身近で強力な『力』!!


 その力の源が、魔剣であると認識した瞬間。ぼやけていた視界が、急に鮮明になり、意識もはっきりとしたものへと変わる。

 気付けば、口内の吐血も止まり、あれほど激しく感じていた激痛も、全く感じられなくなっていた。


 ──というよりも、むしろ、力がみなぎってくる気さえする……。


 ──キイイィィィン──


 いつか、何処かで聞いた低い音……。


 右手の魔剣へと目をやると、それは鈍い紅い光を、鮮烈な紅へと変化させながら、低い音を立てていた──


 こ、これは?


 ……やっぱりそうなのか。前からずっと感じてた事だけど、もうこれで確信した。絶対に間違いないっ!!


魔剣(こいつ)は俺の身体を回復……いや、これは『再生』してくれてるんだな!」


 俺の魔剣へと向けていた顔に、思わず笑みが溢れる。


 そうだ、俺は魔剣(こいつ)だ。そしてそれを持つデュオだ! だったら、何ひとつ絶望する事なんてない!


 そう──俺が諦めない限りは!


 ───


『すまん、ノエル、また心配かけちまった。これで何度目だっけ。ホント、ごめん』


『えっ? 何度目か、もう分かんないよ……でも、良かった……』


 ノエルが涙声でささやく。


 そして立ち上がった俺は、再び、黒い巨人、イニティウムへと魔剣を構えた。


 ───


『ふむう、まだ立ち上がるとは。汝、やはり、人では在らざる存在か?』


 黒い巨人の問い掛けに、俺は答える。


「ご明察──俺は魔人。『魔人デュオ』だっ!!」



            挿絵(By みてみん)



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