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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
5章 風の精霊編 放たれた黒き尖兵
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35話 滅びの時の尖兵

よろしくお願い致します。



 ───


 ミオは祭壇の裏側に向かって歩き出す。


 その後に俺とミナが続いた。


 やがて見えてくる祭壇の入り口らしき石造りの大きな扉。そしてそれは、案の定開く事はできなかった。


 ミナとミオは、扉の前で呆然としながら声を上げる。


「どどど、どうしよう、これ、押しても引いてもびくともしないっ! ちょ、ちょっとデュオ、あんたもボサッと見てないで、手伝ってよっ!!」


「ダメだよミナ、そんな力任せにやっても……これは、何かの魔法でも掛かっているのかな?」


「えーーっ!! そ、そんなあああぁぁ……」

 

 ………。


「ふたり共、少し下がっててくれ」


 俺はふたりを後ろに下がらせて、扉の前に立った。


「ちょっと、デュオ。あんた、一体どうするつもり?」


 俺は背中の魔剣に、手をポンポンっと添えながら、振り向き、ふたりに対して片目を閉じ、得意気に答える。


「こういう場合は、困った時の神頼み……ならぬ、『剣』頼みっ──なんてなっ!」


 ───


『……アル、それも、あんまりカッコ良くない……』


 ──ぐ、ぐふっ!


 ……い、いや、何となくそう突っ込まれる覚悟はしてたさっ!……やっぱ、やめときゃよかった─って、今はそんなの考えている場合じゃない! 


 俺は背の魔剣を手に取り力を込めた。


 ──それに呼応するかのように、刀身を包む紅い光が、より鮮烈にその輝きを増してくる。


「はあああああぁぁーーっ!!」


 大きく宙に跳び上がり、石の扉に向けて、魔剣の渾身の一撃を叩き込む。


 ──その瞬間、雷が轟くような轟音が辺りに鳴り響いた。


 次に、俺達三人の目の前で、真っ二つに両断される石の分厚い扉。そしてそれはふたつに分かれ、音を立てながら地面に倒れた。


 その様子をエルフの姉弟は、驚愕の表情で見入っている。


「……う、嘘……石の扉を、剣で真っ二つだなんて……」


「デュオさん、その力。あなたは本当に人間? それとも……一体、何者なんですか?」


 ───


 なんたって、俺は──



     挿絵(By みてみん)



 ……ふっ、やれやれ、またカッコいい台詞を思い付いてしまったじゃないか。


「なんたって、私は……」


「「私は?」」


 双子の声が重なる。


「なんたって、私は……」


『“わ・た・し・は”?』


 ………。


「私は……ご想像にお任せ致します……」


 ───


 ……もうこれ以上、自分に対して、精神的苦痛を与える事になるのはやめておこう。どうせ、突っ込まれる事になるのは目に見えている……。


 ──ぐふっ!


『ん? 何か言ったアル?』


「いいや、何も言ってないよ……さあ、行くぞ、ミナ、ミオ!」


「「??」」


 ふたりとも少し呆けたようにしていたが、俺のその声に慌てて付いて来た。


 そして俺を先頭に祭壇の中へと入って行く。直ぐに下へと続く階段が見付かったが、その先は真っ暗闇だ。


 ……さて、どうする?


「僕に任せて下さい!」


 ミオがそう言って、魔法の詠唱を始める。


「出でよっ、白の精霊ウィルオー・ウィプス!」


 その声に応じ、目の前に強烈な閃光を放つ光球が出現した。


「白の精霊、僕達の行く道の先を照らして!」


 宙に浮く光り輝く丸い球が、俺達を先導するように前へと進んで行く──それにより、周囲が明るく照らし出された。


「さすがミオ、ありがとう」


「い、いいえ、とんでもないですっ」


 俺の礼の言葉に、ミオが照れて顔を赤らめる。


 照らし出されたその先は──地下に向かって、螺旋状に階段が続いているのが確認できた。


 ───


「私が先に行く。ふたり共、離れずに後から付いて来てくれ」


 白の精霊によって照らし出された階段を、ゆっくりと降りて行く。


 気のせいか、空気がどんどん重苦しくなって……よどんでいってる。そんな気がする……。


 そんな気配を感じながらも、ゆっくりと降り進んで行く。だが、何かが近付いて来るとか、襲ってくるという気配は今のところ、感じ取る事はなかった。


 階段の先は未だ見えない──


「……何か、嫌な予感がする……」


 ──ミナが小声で呟いた。




 ─────




 やがて、階段が終わり、少し広めの空間に出た。


 ───


 ……あれは……何だ?


 白の精霊によって、照らし出された石垣の部屋の片隅……そこに、一頭の薄い青色の体毛を持つ大きな獣が、血を流して横たわっている姿が確認できた。


「!! あ、あれは……ま、まさかっ!」


 ミナとミオが、倒れている獣の所へと走り出す。


「ああぁ、そ、そんな……カイ!!」


「ううっ、な、なんで……なんで、こんな……」


 ふたりはカイと呼んだ獣に、抱き付きながら泣き出した。


「うぅっ……うぇっ、うあっ、うあああぁっ!!」


「ううっ、ひっく、うええぇっ!……ひっく……」


「………」


『ミナ、ミオ……』


 俺達はふたりが泣き止むのをずっと待った……。


 そして──


「ミオ、これは?」


 ミオが俺の声に気付き、振り返る。その目は泣き腫らして赤くなっていた。


「ご、ごめんなさい……この大きな獣は神狼(フェンリル)で、名前をカイと言います……フォリー様の幼い頃からの親友なんです」


「………」


「カイが雄で、そのつがいのもう一頭の雌がイルマって言います。彼らはフォリー様と共に、この祭壇の中へと入って行った筈なんですが……な、何故、こんな事に……」


 ミナはぼろぼろと涙を溢しながら、繰り返すように呟き続けている。


「カイ……なんで、なんで……こんな酷い。嫌だ……怖い、怖いよ……フォリー様……」


 ……ミナ。


「……フォリーお母さん……」


 …………。


 ふたり共、倒れているフェンリルに抱き付きたまま、動こうとはしない。


『ミナ……アル、先を急ごう! フォリーさん、どうか、無事でいてっ!』


 ノエルが俺をうながした。


「ああ……ミナ、ミオ。お前達の『目的』は何だ? フォリーさんを助け出す事だろう。こんな所で立ち止まってていいのか?」


 俺はうずくまっているふたりの背後から、そう声を掛けた。


「……そ、そんな訳ないじゃないっ!」


「……そうだっ、僕達は先に進まないと!」


 ふたりとも立ち上がり、俺の方へと振り返った。その表情は涙の跡こそまだ残ってはいたが、決意を決めたようにキュッと、引き締まったものへと変わっていた。


「ごめんね、カイ。必ず後で迎えに来るから……それまで待っててね……」 


 ミナが振り返り、事切れたフェンリルにそっと呟く。それを最後に、俺達はこの場を離れ、先へと進んで行った。




 ─────




 俺が先頭を、ミナとミオがその後に続いて進む。


 広い廊下のような空間が、一直線にずっと続いている。白の精霊によって照らし出されているその先は未だ、見えないままだった。


 俺達はその中を無言のまま、ただ歩き進める。


 ………。


 重苦しく感じていた空気が、より一層強いものとなっているように感じられる。


 ──ミシッ、ミシッと、まるで、空気が軋めいているような気が……。


「何だか、凄く息苦しい……」


 ミオが小さく声を漏らす。


 ………。


  確かに今までに感じた事のない、この重苦しい異様な雰囲気……この先にフォリーという人物以外の『何か』がいるのは、最早間違いない!


 俺の、デュオの額に流れる冷たい汗の感触……。


 ……もしかして、『滅ぼす者』……なのか?


 ──俺は魔剣を握る右手にギュッと力を込めた。




 ─────




 やがて俺達の視界の先に、扉らしき物が小さく見えてきた……だが、それはすでに開いているようだった。


「待って! デュオ、何か聞こえるっ!!」


 ミナが突然立ち止まり、大声で叫んだ。


 ──!?


 俺達三人は動きを止め、視線の先の開いている扉の様子を伺う。


「……!! 聞こえる、確かに聞こえるっ! これは……」 


 先の開いた扉の奥から、微かに漏れてくる、激しく打ち合うような金属音。


 それと、これは──女の人の声……?


 ───


「フォリー様っ!!」


 不意にミナが、開いている扉に向かって駆け出した。


「フォリー様、待ってて! 今直ぐに行くから!!」


「バカッ! ミナ、先走るなって言っただろうがっ!!」


「ミナっ、駄目だ!!」


 俺とミオが、慌ててその後を追う。


 開いている扉に近付くにつれ、打ち合う打撃音が大きくなってくる。


 フォリーさんが戦っているのか? 


 という事は、まだ無事なんだな。良かった、取りあえずは何とか間に合ったか!


 俺達三人は、開いた扉の先の、金属音が鳴り響いていた部屋の中へ。


 その場所に──



 ─────



 ──ミシッ、ミシッ─と、空気が、きしむ。


 そこに『黒い異形の巨人』がいた。


 大きな顎を持つ、竜のような形状の頭。隆々と盛り上がった大胸筋を持つ赤黒い色の上半身。その背中から前へと伸びるように生えているもう一組の腕、計四本の腕によって、それぞれ剣と槍のような得物を手にしている。

 強靭そうな下半身の足のその形状は、猛禽類の鋭い爪を彷彿とさせた。


 今までに目にした事のない。いや、その知識すら一切ない、未知なる怪物──


 もしも、この世界の架空の存在である『悪魔』を、具現化させたのならば、きっと、このような姿になるのだろう。そんな連想を抱かされる程に、その姿は凶悪な禍々しさを醸し出していた。


 ───


「……こいつは、一体……何なんだ──」


 思わず唾を飲み込む、俺がいた。


 ふと俺の視界の中に、その巨人と少し離れた場所で、うずくまっている金色(こんじき)の長い髪の女性の姿が──


 あれが、フォリーさん?


 ───


「!?──フォリー様ああぁっ!!」


「ああっ、フォ、フォリー様!!」


 俺は彼女の元へと駆け出そうとしたふたりを、それぞれ腕で抱え込み、無理矢理に止めに入る。


「ちょっと、デュオ! お願いっ、離してっ!!」


「僕達をフォリー様の所に行かせて下さいっ!!」


「………」


 俺は無言でミナとミオの身体を、左右の腕でそれぞれ抱き抱えた。そしてそのまま天上に向かって跳び上がる。

 身体を捻って反転し、足で天上を蹴り上げ、その反動を使って、フォリーがうずくまっている地点へと着地した。

 それにより上手い具合に、黒い巨人とフォリーの間に割って入った形となる。


 俺は両脇にふたりの身体を抱え込んだ状態のまま、地面に前のめりにうずくまっている、フォリーへと声を上げた。


「フォリーさん! 聞こえてます? 無事ですかっ!」


 その声に反応して、フォリーの身体が僅かながら、ピクリと動いた。


「……ぐっ、ううっ……」


 そしてその口から漏れる小さな声。


「「フォリー様!!」」


 俺の腕の中で、ミナとミオが大声で同時に叫ぶ。


 ……良かった。何とか、意識はあるみたいだ。


 俺はミオに声を掛ける。


「ミオ、癒しの魔法は使える?」


「はいっ、勿論!」


「癒しの魔法はあたしも大得意! だから、早くっ!!」


 ふたり共、早く降ろせと言わんばかりに、手足をバタバタとさせる。俺はふたりを地面に降ろしながら言った。


「じゃあ、ふたり共、全力でフォリーさんの回復の方、頼む!」


「そんな事、あんたに言われるまでもない! フォリー様っ!!」


 ミナが早速、フォリーの所に向かう。


「はいっ、デュオさん。回復の方は僕達に任せて下さいっ!」


 ミオがペコリと頭を下げ、ミナの後に続く。


 フォリーがそれに気付き、僅かに顔を上げた。


「……ミナ、ミオ……ど、どう……して……?」


 ふたりは、治癒魔法の詠唱を始めながら、フォリーにそっと声を掛ける。


「フォリー様、僕達が癒しの魔法を施します……少し、お休みになって下さい。きっと、大丈夫。デュオさんは強い……」


「うん、ちょっと悔しいけど、デュオなら必ず──」


「……デュ……オ?……」


 そう呟きながら、フォリーは虚ろな目をそっと閉じた。


「!?」


 その様子に驚くミナ。


「大丈夫、心配しないで、ミナ。フォリー様、眠られたみたい……」


「……うん、ぐすっ……良かった」


「さあ、僕達は治癒魔法に集中しよう」


「うんっ!!」


 ───


 そのやり取りを耳にしながら、魔剣を構えた俺は、黒い巨人とずっと睨み合ったまま、対峙していた。


 ジリジリとフォリー達、三人との距離を取るように誘導するよう試みる。


 そんな時、突然そいつは大きな顎を開き、言葉を発した。


 ───


(われ)の名は『イニティウム(始まりの一番手)』、黒き精霊によって創り出され、『滅ぼす者』として遣わされた『滅びの時』の尖兵(なり)!』


 ──ミシッ、ミシッ──


 再び、空気が軋む。


 黒い巨人の発する強大な圧が、この空間の空気と共鳴し、低く唸る地鳴りとなって、共振の音と変化する。


『我の目的は、風の大精霊の消滅。それのみ! その我の使命の邪魔を企てる、汝は何者だ! その目的とは何か! 我の問いに応えてみせよ!!』


 ──ミシッ、ミシッ──


 空気が悲鳴の声を上げ続ける。


 ───


 俺の……。


 俺の『目的』は──!!


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