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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
5章 風の精霊編 放たれた黒き尖兵
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29話 正と負、それは零

よろしくお願い致します。


 ───


 ──リオス王が、静かに語り始める。


「──まだこの世界そのものがなかった時、無の空間。そこに地・火・風・水、4つの属性を司る四大精霊と、創造と破壊を司る白の精霊、別名、『(れい)の精霊』が現れたとされています。それら四大精霊は、それぞれ豊穣ほうじょうなる大地を、炎という活力を、悠久の風からなる大気を、癒しの水となる大海を……それにより、まずこの世界が創造されました」


 そこまで話してリオス王は一息つく。銀縁の眼鏡を指で押し上げ、そして続ける。


「──次に白の精霊が生命を創り出す事となります。動物、植物、竜や妖精といったあらゆる生命体……そして最後にそれらを導く存在として人、『人間』を創り出し、それに『自我』を与えました。同時にその時、四大精霊もまた、自我を得たとされています。自我を与えた白の精霊自体は、自我を持たない無の存在と伝えられていますが……」


「………」


 零の精霊か、それは知らなかったな。確か、白が黒に変わるとか何とか、そんなの何処かで聞いたような……。


 そこでリオス王はニコリと笑った。


「まあ、以上がこの大陸に伝えられている大まかな四大精霊の伝承です。それでこの伝承にはこの後、まだ続きがあるのですが……あまり良い内容ではありません。それもお話ししましょうか?」


「勿論、是非お願い致します!」


 俺は大きく頷く。


 リオス王はそれに答え、表情を引き締め、話し始めた。


「先程も言いましたが、白の精霊は生命を持つ者の代表者として、人間に自我を与えました。それはすなわち『感情を持つ』という事になります。自分で考え、行動する……正しい事も、悪となる事も……」


「………」


「白の精霊は自我はなく、本来はただ、古きものを破壊し、新しいものを創り出す存在です。ですが、人間のある行為によって、白となる色がどんどんよどんでいき、ついには黒くその色を染め上げ、やがてそれは生と死を司る『黒の精霊』と呼ばれる存在へと変化する事になります……そして──」


「……そして?」


 俺は思わず、聞き返すように呟く。


「そして黒の精霊となった存在が『滅ぼす者』となる者を創り、生み出し、それがこの世界の全ての生命ある者を、いや、世界そのものに死を与え、全てを滅ぼし、元の何もない無の空間に帰すると、『滅びの時』……伝承ではそう言い伝えられています」


 !?……滅ぼす者。


「……その人間のある行為とは?」


 俺の問い掛けに、リオス王は一度ゆっくりと目を閉じ、大きく息を吐く──そしてまた話し始めた。


「人の感情は大きくふたつに分かれます。慈愛、希望、勇気、思いやり、などの『正の感情』、そして、憎悪、絶望、怒り、嫉妬などのいわゆる『負の感情』、それらふたつの感情が具合良く均衡を保っていれば、白の精霊は黒のそれに変化を遂げる事はありません。ですが……」


「均衡が崩れる。負の感情に傾くと……ですか……」


 俺は答えるように呟いた。


「ええ、その通りです。黒の精霊に変えてしまうという人の行為は、負の感情が生じる行為。戦争、略奪、復讐など……例を挙げれば、切りがないですが」


「……悲しい事ですね」


 ポツリとそう声が漏れる。


「確かに、そして恐ろしい事です。ですが、あくまでも言い伝えられた遠い昔の伝承話です。真実かどうかは分かりません……ただ──」


「──今、私達は生きている」


 俺はリオス王を見つめながら言った。


「はい。その事で今までの話がただの伝説に過ぎないのか、または僕達の知らない所で、知らない誰かが『それ』を阻止しているのか……ですが、どちらにせよ、ひとつだけ予測できる事があります」


「それは?」


「……それは、もしもそれが真実ならば、少なくとも今の白の精霊の白とされているその色は、限りなく黒のそれに近い色へと変貌を遂げている事でしょう」


 ………。


『アル、何だか少し怖いね……』


『ノエル、大丈夫、心配すんな。俺が付いてんだろ? 繋がってるから離れられないしさ、まあ、剣だけど』


『ふふっ、そうだったね、ありがと』


 うぅ、やっぱ、こういうの、何か恥ずかしい……。


 ───


 それにしても『滅ぼす者』、『滅びの時』か……確か、孤島で戦った(ドラゴン)吸血鬼王(ヴァンパイア・ロード)のロゼッタも同じ言葉を口にしていた。という事は……。


 考えている俺に、リオス王が問い掛けてくる。


「そういえば今回の廃城の件ですが、報告では首謀者はこの国の征服を企てる死霊使い(ネクロマンサー)だったと聞いています。これらの事で『滅ぼす者』に関して、何か感じた事はありませんでしたか?」


「……いいえ、特には」


 その返事にリオス王は一瞬、見透かすような視線を俺に対して送ってきた。


「そうですか……それでは、それも今回はそういう事にしておきましょうか」


 やっぱりこの人、何か、色々と鋭い。


 ───


「さて、それでは次に、この大陸に於ける四大精霊があるとされている、その場所なのですが……」


 おっと、これからが一番肝心な、俺が最も欲している情報だ──


「白を含め、五つの大精霊の『所在』場所ですが、明確なのは火と水のふたつのみです。火の大精霊は我がアストレイアの姉妹国、僕の叔父となる人物が治めているノースデイ王国にある火の一族の寺院に。そして、水の大精霊はティーシーズ教国に崇拝される女神として、その首都にある神殿に。それぞれ精霊石として、その姿を確認する事ができます」


「火と水……他の三つの場所は?」


「後、三つのものは不明確となりますね。まず、地の大精霊ですが、今はロッズ・デイク自治国領内の何処かにある桃源郷にあるとされています。まあ、桃源郷というところからして、既にいぶかしいのですがね。次に白、もしくは黒、すなわち、零の精霊の場所ですが、これに至ってはほぼ不明です……ただ、この大陸最北の地にその精霊があるとだけ、伝承に於いてそのように伝わっております。今、その地には近年、ミッドガ・ダル戦国と称する新生国家が誕生し、何やら暗躍あんやくをしている様子ですが……」


 リオス王は話しを続ける。だが、その表情を今度は少し困惑したものへと変えた。


「最後に風の大精霊の場所ですが……実は我が国、アストレイア領内にあるのです。ですが、申し訳ない。その正確な場所は分かりません。()の精霊は悠久の風の名の通り、一箇所の場所にその身を留める事はない。ただ、我が国に昔に使われていたであろう精霊の祭壇らしきものが、複数確認されています。おそらくは今も尚、そこを転々となされておられるのでしょう」


 ───


 うーん。となると、取りあえずはやはり、所在が明確な火か水の大精霊を目指すのが妥当か……でも、俺達は今、アストレイアにいる。


 ──悠久の風


 風の大精霊……気になる。


「まあ、こんなところでしょうか、僕があなたに与えて上げられる情報は。あまり頼りにならなくて申し訳ないですが……」


 俺はその言葉に、頭をぶんぶんと激しく横に振って答える。


「そ、そんな、とんでもないっ! 充分です! 非常に有益な情報、誠にありがとうございます!」


「ははっ、そう言って頂ければ、僕としても嬉しいです」


 そして少しだけ間が空く──しばらくして、リオス王が俺に問い掛けてきた。


「それではデュオさん、今度は僕から質問です。あなたの目的は何でしょうか? 四、いや、五つの大精霊を求めて、あなたは何をしようとしているのです?」


 ………。


 それに対して、俺は一度、深い深呼吸。


 ──すぅーーっはーーっ


 さて──


「今の私に目的はありません。ただ、その大精霊達と関わりを持つ事で、自分がこの場所に存在する意味と、その目的を探そうと考えています。そう、私がこの世界で生きて行く為の目的を。『何もなし』で生きるというのは結構しんどいですから──そうですね、敢えて言うのなら、私は『自分』という存在そのものを探そうとしているのかも知れない……」


『……アル』


 ノエルが、頭の中でそっと呟く。


 リオス王は目を閉じ、静かに何かを考えている様子だった。そして──


「いや、良く分かりました。何か深い事情があなたにはあるっていう事が……やはり、あなたは非常に興味深い。異なる世界からの来訪者……僕は、デュオさん、あなたにはこの言葉が良く当てはまる。そんな気がします」


「………」


 リオス王が俺へと向ける目を見つめ返す。


 鋭く光る眼光。彼のその瞳に、何もかも見透かされているような、そんな感覚に陥る。


 リオス王。成る程、どうやらこの人は、ただの切れ者っていうだけの人物じゃなさそうだな。


 リオス王は急に笑顔で笑いながら、声を高らかに上げる。


「さあ、それでは、お互い堅苦しい話しはこれでお開きとしましょう! この後、ささやかではありますが、宴となる場をご用意しています。是非楽しんで下さい。では、準備を致しますので、デュオさんはしばし別室にておくつろぎ下さい──デュオ・エタニティさんを、賓客の間にご案内してあげて」


 その言葉を受けて部屋の奥から、ひとりの女官が姿を現した。


「それではデュオ・エタニティ様、どうぞこちらに──」


 女官の後に付いていく為、俺は立ち上がる。


 その時、ディアスと再び目があったので軽く会釈をした。しかし彼は、また慌てたようにその視線を逸らす。


 ……一体、どうしたってんだ? 訳が分からん。




 ─────




 そして俺達は用意された部屋の中にいた。メイドが紅茶と焼き菓子を運んでくる。置かれているソファーもフカフカだ。


『ふぅ~、まあ、何とか必要な情報も手に入れたし、取りあえずはやれやれだな、ノエル』


『ん?……あっ……え~っと、私、今度はがんばって起きてたからね?……ちょっと途中でまた寝てしまいそうだったけど、ちゃんと聞いてたから大丈夫!』


『……って、何の話しをしてんだよっ─っていうか、どうしたんだ? ボーッとした感じだけど』 


 何か心ここにあらずといった感じの様子だけど、ノエル。一体、急にどうしたんだ?


 ─────


『……アル! ちょっといいかな!?』


 次に頭の中に響いてくる彼女の真面目な声。まるで決死の覚悟をするような──


『……アル、私、あなた言いたい事があるの……』


 俺の頭の中に、瞳を潤わせた真剣な面持ちのノエルの姿が思い浮かんだ。


 ……って、何だ。これ……?


『……う、うん』


 ……これって、もしかして。


『……あのね、アル、私──』



           挿絵(By みてみん)



 ──うっ!……あううっ……。


 ……だけど、だけどさ……。


 俺って剣なんだぞっ! 一体どうすりゃいいんだよ!!


 ……………。


 …………。


 ………。


 ───


『あのね、私、すっごくそこの焼き菓子気になるの。だから、食べてくれないかな?』


 ……はい?


『できたら後、紅茶も!』


 ノ、ノエルさん……ったく、あなたって、お人は……。


『まあ、宴会の前だけど、少しくらいならいいよね。だってその焼き菓子、とっても美味しそうなんだもん』


 結局、ノエルって女の子は、どこまでもノエルって女の子なのでした……まあ、つまりはそういう事です。


 ──それにしても……ああ、ホント、ビックリした!


 ───


 なんやかんやで、俺達が焼き菓子と紅茶を味わっていると、この部屋に複数のメイド達が押し掛けてきた。


「あの、デュオ様。お召しのドレスのご用意が整いました。どうぞ、こちらへ」


 メイドの発する声に、思わず唖然とする俺達。


「へっ?」


『どういう事?』


 メイドのひとりが、ニコリと微笑みながらお辞儀をする。


「王様から宴用のドレスをデュオ様にご用意するよう、仰せ付かっております。お着替えの準備ができましたのでお伺いに参りました。勿論の事、私達が全身全霊を以てそのお手伝いをさせて頂きます」


「『ええええええええぇぇぇーーっ!!』」


 俺の発する声と頭の中のノエルの声が、久しぶりに重なるのだった。


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