1話 起動
Ayuwanと申します。初めてのファンタジー小説となります。
どうぞよろしくお願い致します。
【魔剣と少女──つがいとなったふたり組、Duoが奏でる冒険ストーリー】
──Welcome、nice to meet you……My master──
◆◆◆
──燃え盛る木々の中。屈強そうな男達に囲まれて、茶褐色の髪をしたひとりの少年が立っていた。
その右手には手から外れないようにする為なのか、一本のロングソードが布のような物でぐるぐる巻きにされている様子が伺える。
そう、彼はこれから戦おうとしているのだ。
自らに掲げた目的。それを達成させる為に──
◇◇◇
───
──『自分の力量を見誤るな、勇気と無謀とは違う!』──
───
笑っちゃうくらい絵に描いたような、師匠の決まり文句。
──分かってるよ。そんなことくらい、分かっちゃいるけど……。
───
最初は見て見ぬ振りをして、そのまま素通りするつもりだった。
勿論、罪悪感だって感じてるよ。だけど、俺だってまだまだ生きてやりたい事が山ほどあるんだ。だから、あんた達を助けてやる事はできない。
……ごめん。
───
そう思って、その場所から離れるつもりだったのに。
ある事を切っ掛けに、俺の身体は自然と男達の方へと歩み寄っていた。
男達の足元には死体となって転がっている男と、ひとりの女性がふたりの少女を腕の中で抱き締めて、うずくまりながら震えている姿が確認できる。
やがて男達の中のひとりが、近付く俺の事に気付いた。
「あん? なんだてめぇは! このガキ、どこから湧いてきやがった!」
この状況からして、おそらくは戦争の略奪行為。ということはこの男達は闘い慣れた“兵士”、言わば戦闘の熟練者。
だけど、俺だって剣の腕は師匠に鍛えられてそれなりの自負はある。
まあ、簡単に言ってしまえば、まだ子供だったんだろうな。
何とかなると自分に言い聞かせて、がんばってみる事にしたんだ──
───
「突然で悪いんですけど、この中で一番強い人って誰ですか? それでその人と勝負して俺が勝ったら、その人達の事を解放して貰えます?」
「ああ!? 何だと、もう一度言ってみろっ、このクソガキ!」
「だから、あんた達の中で一番強い人に俺が勝てたら、その人達の事を助けろって言ってんだよ」
「はあ? どういう状況か、分かってんのか? そんなてめぇの都合良くっ──!?」
そこで男の言葉が一旦途切れた。そして後方へと振り返る。それに併せてこの場に居合わせている全員がその方向へと目を向けた。
───
「貴様ら、ここで一体何をやっている。『戦闘中の略奪行為を禁ずる』──俺は確か、そう言った筈だが?」
そう言葉を発しながら、ひとつの騎馬が姿を現した。その馬上には漆黒の鎧を纏った黒い長髪の美丈夫が確認できる。
先程の発言の内容からして、おそらくこの男達の上官なのだろう。
「あの団長。こ、これは違うんですよ。たまたま逃げようとしている家族らしき者達に声を掛けたら、その男が急に剣を振りかざしてきたもんで、そいで、つい殺してしまった次第で……あっ、女どもの方は今から直ぐに解放しますっ、はい!」
男の言葉を受け、団長と呼ばれた男が男達の足元に転がっている男の死体に目をやる。次に抱き締め合いうずくまっている女達。そして俺の方へと──
切れ長の鋭い視線に見据えられ、一瞬身体が強張る。
その目はまるで猛禽類を連想させる鋭い眼光を放っていた。
「いや、もうその必要はない。それと貴様は俺の軍団の中で定めた規律を乱した。その責により、貴様はこの場で──」
「!? ひいっ!」
「──死ね」
男が発する短い悲鳴の声と、団長と呼ばれた男の放つ声。それと同時に一瞬、目の前で銀色に輝く揺らめきが弧を描いた。
血飛沫を上げながら男の首が飛ぶ。
その様を目前にし、この場に居合わせた全員が恐怖で身体を震え上がらせた。
「俺の軍団にもまだ腐った奴はいるのだな。後はこの事に関わった貴様ら、全員の処分だが……その前に、この中で一番腕の立つ奴はどいつだ?」
「そ、それなら、俺の隣にいるダルトン。こいつがこの中では一番の猛者と思われますが……」
そう声を上げる男の隣には巨大なバスタードソードを背負った巨漢の姿が見受けられた。その男が俺のことを荒々しく睨み付ける。
団長と呼ばれた男はその男を一瞥すると、今度は俺の方へと視線を向けてきた。
「ふん……少年、という事だそうだ。そこでだ、ひとつお前に聞きたい。お前が助けようとしているその者達はお前にとって親族か、もしくは近しい者なのか?」
「いえ、初めて見た人達です」
俺の答えに、団長と呼ばれた男は少し口元を歪めた。
「いいだろう。少年、お前の言うその条件を呑んでやろう。このダルトンと言う男にお前が勝つ事ができれば、この者達を解放する事を約束してやる」
「えぇっ! 団長、何もそんな面倒な事しなくても……」
男のひとりが不満の声を上げる。その男に対し、鋭い視線を向ける団長と呼ばれる男。
「ほう、貴様、俺に意見するのか?」
「ひ、ひいいぃ!……い、いいえ」
恐怖ですくむ男を尻目に、団長と呼ばれる男は、俺に対してもう一度問い掛けの言葉を発してくる。
「聞いての通りだ。少年、お前が自分に立てたその目的。それを達成させる為に足掻く姿を、精々俺に見せてみろ」
「ありがとうございます。ついでに俺の命も助けて貰えれば嬉しいんですけど、まだ死にたくはない。俺はこの世界に対して、まだ未練いっぱいなんで」
「それはお前自身が掴み取るのだな。その事も自身が立てた己の目的の中に含めればよいだけの事。人間という存在は、必ずしも自らの中に何らかの目的を掲げている。そして、それこそが生きているという証……さあ、少年。お前のその“生きている証”を、今からここで俺に存分に見せ付けてみせろ」
………。
確かにこの男の言う通りだ。俺は生きている。そして今はそこでうずくまっている人達のことを助けたい。俺自身も助かりたい。これこそが、今の俺の目的。
その目的達成の為に。
俺は──
───
前方を確認すると、ダルトンと呼ばれた巨漢が、自身の身の丈を超すほどのバスタードソードを身構えながら、威嚇する視線で俺の事を睨み付けている。
あの巨体から繰り出される剣の威力は、おそらく俺が想像している以上に強力だろう。受け流すことを見誤れば、もしかすれば俺の持つ剣が吹き飛ばされる事になるかも知れない。
そう考えた俺は、腰に取り付けている小型のバッグから布切れを取り出す。
それを裂いて、自らの利き手である右手に掴んだロングソードの持ち手ごと外れないように、ぐるぐる巻きにして固定した。
よし、後は!
俺は目を閉じて自分の手にある、今は亡き恩師の形見である剣に心の中で語り掛ける。
───
師匠、言い付けられた約束事、破ってしまってごめん。でも、今は俺に力を貸してくれ、生きる。その目的を達成させる為に!
───
目を見開いた俺は剣を構えながら、ダルトンという相手に歩み寄る。
その時。団長と呼ばれる男が、再び俺に声を掛けてきた。
「少年、お前の名は?」
漆黒の鎧を纏った長い黒髪の剣士。その端整な顔から放たれる切れ長の鋭い眼光が、再び俺の事を捉えた。
「俺の名前は──」
…………。
俺の名前は──
………。
名前? 俺の、名前……?
……。
あれ?
……何だっけ?