18話 美味しいご飯を求めて
よろしくお願い致します。
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「……はあぁ~~」
必然的に俺の口から、ため息が漏れる事になる。
『アル、これからどうするの?』
まあ、やってしまった事を、いつまで悔やんでても前には進まない。
「うん、取りあえず何か仕事を見繕ってもらおう。今の俺達にはとにかく金が必要だ。多分、さっきの騒動で冒険者、デュオとしての力は、分かって貰えた筈だし……」
そうノエルに答えて、俺は受付嬢のいるカウンターへと向かった。
───
「あの~、すみません」
「………」
俺が声を掛けたその受付嬢は、口をあんぐりと開き、目の焦点も合っていない。未だに呆けている様子だった。
「あの、ちょっといいですか?」
「………」
「わんっ!」
反応がないので、一度、犬の声を真似て、ひと吠え吠えてみる。
「はっ!……え?……は、はいっ。な、何でしょうかっ?」
ほっ、やっと気付いてくれた。
「俺……いや、私、デュオ・エタニティって言います。冒険者です。多少、危険な物でもいいので、何か、適当に仕事を見繕ってくれませんか? え~っと、できれば即、報酬金が受け取れるような物をお願いしたいのですが……」
俺の問い掛けに、受付嬢は慌てて返事を返してくる。
「あ、はい。えーっと、デュオ、エタ・ニティさん─って、おっしゃいましたっけ……?」
「は? ああ、デュオでいいですよ─って、どうかしました?」
その受付嬢は、何故か俺の事をじっと凝視していた。
「あ、あの、ごめんなさい。私、オッドアイの方、初めて目にしたもので……」
……ああ、何だそれでか。
「綺麗……とても素敵です……」
「……あ、ありがとう」
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何故だかとても嬉しかった。
自分っていうのを自覚してから、“俺”──今はデュオっていうその存在が、初めて認められたような気がして──
───
「あ、そうだ、お仕事の件でしたね。デュオさんは、こちらのギルドは初めてですか?」
「はい、そうですが。やっぱり登録は必要ですか?」
受付嬢は少し思案している様子だった。そして──
「いえ、もしも登録なされるのに、何かご不都合がおありならば、その条件に見合ったお仕事であればご提供する事ができますが?」
どうやら俺に気を使ってくれたらしい。
「是非、それでお願いします」
「承知致しました。それでは、しばらくお待ち下さい」
そう言うと、その受付嬢は手元の書類を探り出した。
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「何とか、食事にありつけそうだな、ノエル」
『うん、よかった~。これでカエルとヘビは回避されそうだね?』
───
「えっ、今、何かおっしゃいました?」
見ると怪訝そうな表情で、受付嬢が俺の事を見上げている。
「い、いいえ、何でもありませんっ!」
この状況に俺達は小声で呟く。
「危なっ、下手に話せないな……」
『……だね』
───
「すみません。デュオさん、お待たせ致しました」
待ってましたっ!!
「ギルドに未登録という事なので、ご提供できる案件は、かなり危険で保障も出ませんが、それでも構わないでしょうか? デュオさんの実力の程は、先程の騒動で充分に承知致しておりますが、一応、確認という形で……」
俺はカウンターに、前のめりになって言う。
「ええ、全然、それで結構ですっ!」
「それでは、こんなのはどうでしょう?」
受付嬢が一枚の書類を差し出してくる。
俺はそれを受け取った──この街、オルライナ自衛団からの依頼だった。
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え~っと、内容は──
街の東側にある森に、一頭の狂暴な魔物、鎧熊の目撃報告在り。被害が出る前に、その迅速な討伐を願う。
──か、その報酬金は……金貨三枚っと……。
……え? な、何だって! 金貨三枚! たった一頭のグリズリーを退治するだけで、金貨三枚いいぃぃーーっ!!
「どうされますか?」
受付嬢が俺に聞き返してくる。
「はいはいはいっ、はーーいっ!! この仕事、俺に下さいっ! 是非とも下さいっ! 即、早急に下さーーいっ!!」
俺は右手を上げ、大声で叫びながら受付嬢へと迫った!
───
「──ひっ……は、はいいいいいっ!!」
◇◇◇
あれから直ぐオルライナの街の東にある森へと向かって進む、デュオの姿が──
即ち、俺とノエルのふたりだ。
───
「うん、中々良い滑り出しだ。今日は美味い食事とふかふかのベッドが待っているぞ~~、ノエルさんっ!」
『うん、すっごい楽しみ~!─って、アル、その『ぐりずなんとか』っていう魔物は手強いの?』
……ぐりずなんとかって……おいっ!
「いや、デュオにしてみたら全然、大した事のない相手だよ。多分、ノエルにだって勝つ事ができると思う。なんなら俺と入れ替わって一度、試しに戦ってみる?」
『いいえ! 丁重にご遠慮させて頂きますっっ!!』
───
できたらなるべく手早く済ませたいな。装備品とかも見に行きたいし。
そう、今のこのデュオの外套衣の下は、ノエルが例の娼婦舘から逃げ出した時の部屋着のままなのだ。そして足も底の薄い革靴しか履いていなかった。
まあ、グリズリー程度の相手なら、このままでも大丈夫な自信はあるけど、これから先、どんな強敵と遭遇する事になるかも知れない。
その為の準備は充分にしておかないとな。
よし!──
「さあ、パパっと終わらせて、早く美味しい物食べに行こうぜっ、ノエル!」
『おおーーっ! 出発進行っ!! ご飯っ、ご飯っ♪』
───
俺達は意気揚々として、東の森の中へと入って行くのであった。