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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
8章 地の精霊編 彷徨のマリオネット
199/216

197話 喪失の爪痕

よろしくお願い致します。

 

 ───


 そして俺達四人は、村落ロロルとおぼしき場所に到着する。


「ふむ……しかし、これは……」


 レオンかられる声。


「確かに……ここはおそらくロロルとなる村だろうが、人の気配が全くないな……まるで廃村はいそんのようだが……」


 それに応じるフォリー。


 ───


 確かにふたりの言うように、この農村と思われる地は最早荒れ果て、人の気配も全く感じられない光景の場所だった。


 大きく伸びた雑草だらけの田畑。


 所々に点在する半壊した民家や建物。


 辺りは静寂に包まれ、生活感の欠片かけらもなかった。


 ………。


『アル……これってどういう事なのかしら?』


『……さあ、俺も何がなんだか……まあ、とにかくだ──』


 俺は念話でノエルにそう答えながら、レオンに声を掛けた。


「レオン。今のこの状況がよく分からないけど、ここがロロル村なら、地の大精霊が言っていたように、何処かにテラマテルが住んでた家がある筈だ。取りあえず、まずはそれを探してみよう」


「そうだな」


 俺の言葉に、レオンはフォリーとクリスにも視線を向け、声を発した。


「聞いての通りだ。俺もデュオの提案が最もだと思う。まずはテラマテルが住んでいる家とやらを捜索するとしよう」


「ああ、了解したよ」


「うん。分かったわ」


 フォリーとクリスがそれぞれ返事を返してくると同時に、レオンは馬上から自身の右手のひらを突き出し、それで周囲を一度ぐるりと見渡すようにした。


「見るに、幸いにもこの集落となる地はかなりの広さのようだが、平坦へいたんだ。何か異常があったとしても迅速じんそくに連絡が取り合える事ができるだろう。ならば、ここは我々それぞれ四方に別れ、個別となって探索するとしよう」


 そう言ってレオンは馬のきびすを返し、早速駆け出した。


「分かった!」


「了解した!」


「分かったで!」


 俺達三人はそれに短く、それでも力強く答え、互いに別方向へと馬の足を進めて行く。


「では後程合流しよう──」



 ─────



 そして俺達は単独でこの集落を探索する事となった。


 いくらか馬の足を進めてみるが、民家などの建物の姿はほとんど見当たらず、相変わらず目に入ってくるのは大きく伸びた雑草によって、最早小さな森とでも思えるような荒れた田畑ばかりだった。


 そんな中で建物を三度見掛け、そのたびに内部を調べたが、中は無人で荒れ放題。既に何年間も使われてない空き家のようだった。


 それにしても広大な耕作地だ。


 そしてまるで何年も放置していたかのような荒れ地。


 ───


『……こんな所に本当にテラちゃんは住んでいるのかな?』


 ノエルの念話の声に。


『さあ、どうだろうな。だけど、地の大精霊はテラはロロル村に住んでいると確かに言っていた。もしもここが本当にロロルなら、絶対にその場所がある筈だ』


『うん、そうだね。だったらがんばって探さなくっちゃね?』


『おう!』


 そして俺達デュオは、更に先へと進んで行った。


 すると、見渡す光景にある明確な違和感を感じた。


 それは──


『アル……これって……』


『ああ、そうだな……』


 ───


 荒れ果てた広大な田畑。それが急に途切れ、辺りには綺麗に手入れされた耕作地が広がっていた。


 そんな田畑には豊かに実る黄金色の麦穂むぎほの姿が──


「……これは?」


 漠然ばくぜんとする俺にノエルの念話が響いた。


『あっ、アル。あれを見て!』


 その声に俺は辺りを観察すると、豊かに実った麦の田畑の中で、ちらほらと何人かのかがんだ人影が確認できる。


 どうやら作業中の人がいるようだ。


 俺は迷わずその人達に向かい声を上げた。


「あのーーっ! すみませーーん!」


 俺の声に気付いた人達が顔を上げ、その中のひとりがこちらへと返事を返してくる。


「おーー! 何だーーっ!」


 そして作業をめ、立ち上がりこちらへと身体を向けるのだった。


 俺達はそんな人達の所へと馬の足を進めて行った。



 ─────



「ほうほう、そうですかい。確かにここはロロルという農村だよ。まあ、かつてのだがね」


 ───


 俺達デュオは今、作業を中断し、集まって来た五人の作業者の元に行き、馬から降りて彼らから話を聞いていた。


「かつてって……今はそうじゃないんですか? それに、ここは凄く手の行き届いた綺麗な田畑なのに、私がここに来るまでに見てきた田畑は、まるで荒れ地のようでしたが……?」


 俺のその言葉に、おそらくはこの作業者の上長であろうと思われる、先程のそこそこの年配者が答える。


「ああ、ここはロロル村とは言ってもそう呼ばれていただけで、実情はロッズ・デイクの評議会組織が保有する大規模な国の穀倉地帯なのさ。まあ、今となってはあんたが見てきた通りの荒れ地となれ果ててしまったがね……」


 心なしにか、何故か悲し気に感じたその声に、俺は再度問い返した。


「なれ果てたって……一体何があったのです?」


 その問い掛けに、男は周りの作業者達に目を向けると、互いに無言で頷き合った。


 そして答える。


「あれは何年前だったかな? ここロロル村と呼ばれる穀倉地帯で、狂傲(きょうごう)の魔導士と呼ばれた邪悪な者が田畑を焼き払い、たくさんの労働者を無差別に虐殺したんだ……」


『──え! それって、まさか……』


 頭に響くノエルの声。


 ………。


「それはもう悲惨だったよ……わしは幸運にも近くに古井戸があったおかげで助かったがね。そしてこの穀倉地帯へと新たに居を構えた大農家のひとり娘。そう……確か、“イオ” って名だったか。そのが人質とされて、それを助けに()の者が姿を現した──」


 俺は男の目を見据える。


「そう。“殲滅のテラマテル”がな……」


『──あっ……』


 ………。


「やがて繰り広げられた激しい戦いにより、豊かに実った辺りの穀倉地帯は付近の森林をも巻き込み、何も残さず一瞬にして一面焼け野原となってしまった……わし以外誰ひとり残らず、何もかも無くなっちまったんだ……そう、死んだように動かなくなった人質のを抱き上げたテラマテルという少女以外は、な……」


 ………。


『イオって子が頭の一部……いや、“精神”を無くした時の事か……』


『……テラちゃん』


 男は続ける。


「そしてこのロロル村という国の穀倉地帯は不毛の地となってしまった。何でも悪しき魔導士が息絶える時に放った呪詛じゅそ瘴気(しょうき)となって、土地を汚染したとなってるらしいがな。まあ、事実、作物が全く育たない地となってしまった訳だ……」


 ………。


 ……ん? 待てよ。だったら、なんでここはこんなに麦って作物が豊富に育ってんだ?


「え~と、だったら何故ここは、こんなにも作物が育ってるのですか?」


 その問いに男は、ははっと笑った。


「なに、単純な事だ。ここは被害が及ばなかった土地。つまりは、ただそれだけの事さ」


『……ア、アル~っ……』


 頭に響くノエルの呆れ声。


 ……な、成る程。俺っておバカさん……。


 ──ぐふっ!


「それにな、このロロルの地。その土壌は特殊で、余程地の大精霊様に気に入られた土地らしい。ここでしか育たぬ上質の麦。その名も“ロロル麦”。それが唯一育つ土地なんだ。惨事が起こった忌々しき地として、国の評議会組織からは手を離れる事となったが、特上の麦。特産“ロロル麦”。そう容易たやすく諦めるのは勿体ないというもんだろ。なあ? ははははっ!」


 ───


 つまりは過去の事件によって、不毛の地となってしまった“ロロル村”。そう呼ばれた国の穀倉地帯。


 そこで栽培できる上質な麦が諦め切れずに、この男が経営している農産業社が今も細々と麦作を続けてるという事だった。


 ───


 それはさておき、ようやくこの地で人と会えた訳だ。


 だったら──


 俺は改めて目の前の男に問い掛ける。


「それではひとつ聞きたい事があります! このロロル村と呼ばれる地に、地の大精霊を『守護する者』、テラマテルっていう少女の住んでいる家を、あなた方は知りませんか?」


 俺が不意にかしこまって発した問いに、男は無言で振り返り、腕を上げ奥を指差した。


「『守護する者』、テラマテルがいるかどうか。それをわしは知らんが、地の大精霊様を大層信仰しているドワーフの婆さん。確かオーサとかいう名だったかな? それが住んでる家ならあるぞ。ほら、この先だ──」




 ─────




 そして今、レオンとフォリー、クリス。俺達五人は合流し、その男が差し示した方へと馬を走らせていた。


 俺が何故それを知ったか?


 その事情は既に説明してある。


 ちなみに俺以外のメンバーは、別れての探索は全くの空振りとなったようだった。


 特にクリスがその事に不満で、しばらくブツブツ愚痴をつぶやいてた。


「……あ~あ、これがホンマの骨折り損のくたびれ儲けちゅうやっちゃで……もうボッキボキのすっからかんのすってんてんやわ……うっへ~~っ……」


 ─ったく、クリスらしいな……。


 ───


「何でもその人によると、穀倉地帯の最北、コロッコ山のふもととなる樹海に接した一際大きな木造館らしい。屋根と壁が橙色だいだいいろで、良く目立つって言ってた」


「ふむ。樹海に接しているのか」


 レオンの相づちに俺は答える。


「うん。だから、普段は気味悪がって誰も近付かなかったらしいって……」


「──樹海に接する……成る程。ならば、それが迷いの森。即ち桃源郷(ザナドゥ)になり得た可能性が最も高かった訳だ。おそらく間違いないな」


 そしてフォリーがそれに応じた。



 ─────



 静寂な時の中。後は馬の駆けるひずめの音だけが響き、やがてある変化が生じた。


「これは──」


「ふむ。霧だな」


 俺のつぶやきに、先頭を走るレオンがそう答える。


 気付くと、辺りは濃い霧に包まれ、視界がかなり悪くなっていた。


 そんな時、ヒヒンッといななく声と共に、レオンの馬が足を止めた。


 そして後ろに振り返り、目で皆に前方を見るよううながした。


「──あ!!」


 ───


 俺達の少し前方にある物。


 濃い霧によってかなり分かりにくくなってはいるが、目立つ橙色だいだいいろによって、それは明確に確認できた。


 ──樹海を背後に建つ大きな木造の館。


 橙色だいだいいろの屋根や壁が霧による(もや)に包まれ、その目立つ色がかえって奇妙さを際立たせていた。


 ───


「レオ兄ぃ! あれは──」


「うむ。あれがテラマテルが住んでいる場所だな?」


 指差すクリスにレオンが答える。


 ……これがテラがいる場所──


 俺はもう一度目の前の奇妙な館に目を向ける。


 大きな木造の館。その背後にある樹海は、最早霧によってさえぎられ、時おりまるで生きている物のように(うごめ)く木々の姿が、蜃気楼しんきろうのように揺らめいていた。


 見入るようにしていた俺は、そこから逃れるように視線を外す。


 ………?


 ふと気付き、横に顔を向けると、レオンがあごに手を当て、真剣な面持ちで何やら思案をしていた。


「………」


「レオン。どうかした?」


「……ああ、もしかすれば我々は出遅れたかも知れん。デュオ、あそこを見てみろ」


 レオンはそう言いながら腕を突き出し、館のある箇所を差し示した。


!!──あ、あれは──


「レオン!」


「ああ……」


 そこは目の前の館。そのある部屋の窓が破壊され、またその壁となる場所も突き破られるように、横に大きく破損していた。


 レオンは鋭い目で俺に言う。


「どうやら既に侵入者がいたようだな。そして今は動きがない。おそらくは侵入者はもうあそこにはいないだろう。目的を達したか、あるいは逃したか──」


「それは……ま、まさかアノニム!!」


 俺のその声に、レオンは今一度前方の館を見据えていた。


 館の背後にある(もや)が掛かった樹海は、更に妖しくうごめき、全体的に紫色のかすかな光を帯び始めていた。

 その光景はまるでフォリーが言っていた“魔性の森”。それを連想れんそうさせた──


「……むう。もしもアノニムならば、あやういな──」


「うむ、アノニム。黒の魔導士は“黒の使者”──今、あの館の背後にあるのは間違いなく“魔性の森”に相違そういない。ならば、奴ならば立ち入る事は容易な筈だ。レオン、急がないと!」


 レオンにフォリーが進言する。


「ああ、あれがアノニム。もしくは奴の騎士となったオルデガの仕業であるにしろ、奴らの目的は“地の『守護竜』確保”だ。それだけは絶対に阻止せねばならない。テラマテルは復活を果たしたかは定かではないが、こうなった以上、とにかく館の背後の樹海へと急ぐべきだ。だが、“魔性の森”に侵入する(すべ)が今の我々にはない」


「じゃあ、どうするのさっ!」


 思わず声をあららげてしまった俺に、レオンは俺達に向かって言った。


「そうだな。デュオとフォリー。クリスは、今から速急にあの揺らめく樹海へと向かえ。そして辺りの探索とテラマテルの捜索。そして侵入する方法をできるだけ模索もさくしてみてくれ」


「分かった。それでレオンは?」


「俺はあの館に向かってみる。背後の樹海にあるであろう“魔性の森”に立ち入る(すべ)。もしくはテラマテルに関する手掛かりが、何か見付かるかも知れんからな。それに妙な胸騒ぎを感じるのだ」


 俺の問いにレオンはそう答えた。


 そして俺はまた問い返す。


「分かった。だけど、ひとりで大丈夫? それに胸騒ぎって……」


 そんな俺の言葉に、レオンは黙って馬の歩を進める。


 そして後ろを振り返らず、手を上げた。


「何、心配は要らんよ。それに“魔性の森”は精霊界に近しき者。『守護する者』がふたりいた方が何かと都合がいいだろう。それにデュオ。お前はこの世界の(ことわり)など、全く関さない唯一の存在だ。お前ならば“魔性の森”もどうにかなるのではないか?」


 そしてレオンは館に向けて馬の足を早めた。


「事が済めばぐに俺も向かう。ではな──」


「レオン! 気を付けて!」


 小さくなっていくレオンの後ろ姿に、俺は大声を上げるのだった。


 ───


 さて──


「それじゃ、私達はテラマテルを探しながら、樹海の方へ向かおう! フォリー、クリス。付いてきてくれ」


「ああ、了解だ。デュオ!」


「うん、行こう。デュオ姉!」


 ───


『行くぞノエル!』


『うん。アル!』


 ───


 そして俺達四人は、妖しく紫色に揺らめく樹海の方へと、それぞれ向かって行った。



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