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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
8章 地の精霊編 彷徨のマリオネット
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194話 マリオネットの帰還

よろしくお願い致します。




                   ◇◇◇



            

 ────


 ───


 ──


 ……暗……い……。


 ───


 まず、“それ”はそうとだけ感じた。


 辺りはただ暗いだけの空間。


 そこに“自分”という意識──“自我”以外は何もない。


 漏れる思考の声。


 ……暗い……暗い……。


 すると、ひとつの変化が生じた。


 ──??


 “それ”は、“それ”に感じられる闇以外の感覚。


 そして“それ”は、徐々に広がっていき、光となっていく。


 やがて“それ”は、“それ”が過去何度も繰り返し感じ続けてきた感覚と光景。


 記憶となって蓄積された情報となるものを──


 今もまた、前回と同様にして感じ取っていた。



 ─────



 青く澄んだ空。


 たわむれている様にも感じる爽やかな風。


 清らかな清流、その先の癒しとなる壮大な水溜まり。


 山から躍動やくどうする活気溢れる炎。そして──


 荘厳そうごんにして暖かな母なる大地。


 ───


 ──地の大精霊(ママ)──



 ─────



 ──テラ・マテリアル。初めまして。わたくしは(テラ)


 貴女のママよ。


 そして今から貴女がわたくしを『まもる者』──


 ───


 巨大な身体を持つ黄金の竜。


 ──ほう。テラ・マテリアルとな? “大地の源”か……ふむぅ、如何にもあの方が考えそうな名じゃわい。そうじゃの。

 そんな堅苦しい名より、いっそ“テラマテル”という感じにせんかの? ふはははっ、どうじゃ? 可愛らしい響きになったじゃろうて──


 ───


 現世を支配する人間達との出会い。


 ───


 ──“テラマテル”──


 あなたって──


 お前は──


 君ってさ──


 ───


 ──愛想がないよね。


 ──無表情だな。


 ──何を考えてるのか分からないよ。


 ──冷徹? とにかくなんか冷たそう。


 ──ちょっと不気味っていうかさ。


 ──顔は可愛らしいのに。なんかこう血が(かよ)ってないっていうか。


 ──あっ、そうそう、まるで。


 ──“人形”──


 みたいなんだよねぇ──


 ───


 繰り返し行った“断罪”。


 ──俺を殺しにきたんだろ? もういい。殺せよ! 俺はただ親父を利用して、ゴミのように殺した奴らが許せなかっただけなんだ!!


 ──あいつを殺してって、そうお願いしたのは私。だから、あの人は悪くない。お願い! お願いよう! 彼を殺さないで!

 私を……私を殺して!!


 ──もう、どうだっていい。どうだっていいのさ。あいつらがいないんじゃよ……仇は討った。思い残す事は何ひとつない。充分にやったさ……さあ、早く殺してくれ……。


 ───


 ──「うん。分かった」


 「“執行する”」──


 ───


 やがて、逢うべくして逢った邂逅かいこうする特別な存在。


 ──そっかーっ、私達って、お互いにないものを持っいて、それを何となくだけど求めているのかもね? だから、気になっているっていうか、かれ合ってるのかな~。ふふっ、だけど、ふたつでひとつ。なんか心地いい……ねぇ、テラちゃんだっけ? 私達、友達にならない?


 ──「トモダチ?」


 ──そう、友達。


 私はイオ。イオ・ジョーヌ。これからよろしくね。テラちゃん──



 ─────



 自身という存在に、あり得る筈のない温かく穏やかなものが、感覚となって感じ取れる様になった。


 ──これが最初だった。


 “それ”。即ち、“感情のない思考”は、自らが生じてから今に至るまで様々な知識を得、そして色々な体験してきた。


 それにより学習、進化する人が創った“思考”。


 その過程の中。知識と経験を以て着実につちかっていった“それ”は、徐々に、そして確実に“人”に近付いていったのだ。


 つまりは“感情”の発生であり、“人格”の誕生であった。


 そう、“それ”はその時。限りなく“人間”に近しい存在となったのだ。


 だがしかし、“それ”は()狂傲きょうごうの魔導士と呼ばれる者が招いた災厄によって、自身の唯一の友人。イオ・ジョーヌを失い、自身が温かいと感じた感覚をも同時に失う事となった。


 学習して形成された“人格”は残ったが、“それ”は再び感情──“(こころ)”をなくしたのだ。


 いや、感じ方が分からなくなったというべきか──



 ─────



 これは何?


 感情の感じ方は失いながらも、“それ”の残された人格が再びそう感じた。


 これは──


 ──これは“テラ”の記憶。


 そう、認識した“それ”。即ちテラマテルの“意識”が戻るのと共に、彼女の“精神”となるものが発光を始め、その輝きを強めると、徐々に翡翠色のツインテールの少女の姿を象っていく。


 ……そうだ。“自分”はテラ。


 ──テラマテル。


 ツインテールの少女は半透明の身体から、まばゆいばかりの光を発しながら、再び暗闇となった空間を飛翔し、突っ切って行く。


 やがて、彼女の視覚の先に、朧気おぼろげな光が確認できた。


 なんの躊躇ちゅうちょもせず、テラマテルをかたどった精神体は真っ直ぐにそれに向かって飛翔する


 そして到達した。


 それは暗闇の中、見た事もない様々な器具によっておおわれ、複数の線の様な物によって繋がれた、彼女、テラマテルと全く同じ容姿を持つ少女だった。


 テラの精神体は迷う事なく、その自分をかたどった少女へと溶け込む様に身体を重ねる。


 瞬間、辺りは閃光に包まれ真っ白となった──


 ────


 ───


 ──




                   ◇◇◇




 ───


 次にテラが自分という意識を自覚すると、そこは木造の部屋の中だった。


 彼女の覚醒したばかりの目がうっすらと開く。


 ───


「おおっ、テラや。気が付いたかの?」


 テラの視界に、茶色の法衣(ローブ)まとった小柄な老婆の姿が映った。


「……オーサ?」


「おお、そうじゃそうじゃ、わしじゃ、オーサ婆じゃよ。テラや、今回の代替え身体(スペアボディー)の調子はどうじゃの?」


 オーサと呼んだその老婆の言葉に、テラは自身に繋がれた無数の線を手で引きちぎる。


 次に自分の身体を包み込み、部屋の片隅に立て掛ける様に備え付けられていた機器からくぐり出た。


 そして老婆に歩み寄る。


 身体は裸だったのが、機器から出ると同時。既にいつもの簡素なワンピースをまとい、膝まである編み状のサンダル姿となっていた。


「感度、反応速度共に良好。特に異状は見受けられない」


「そうかそうか。それはなによりじゃて」


 オーサと呼ばれた老婆はくしゃくしゃとなって笑顔みを浮かべた。


「オーサ……あ──!」


 老婆に答えようと言葉を発したテラが、急に途中で言葉を途切り、まるで固まる様に動きを停止させた。


「テラや。どうしたのじゃ?」


地の大精霊(ママ)、ママが感じられない──」


 動きを止め、微動だにしないテラマテル。その口だけが小さく動き、言葉がつぶやかれた。


「……テラや……」


「ママ、ママ。こちらテラマテル。早急かつ迅速じんそくに応答願う。ママ?──ママ?──」


 そんな様子に、オーサはテラの肩にそっと手を乗せた。


「テラ。そうじゃったな……お主が“いない”間に起こった事。それを話す所から始めるとするかの?」


 その声に、テラは無表情のままで瞳だけをオーサへと動かした。


「オーサ?──了解。テラ肯定こうてい


 老婆オーサと目が合う。


 すると、突然何かを思い出したかの様に、テラが急に早口となって問い掛けの言葉を発し始めた。


「そうだ。イオは?──オーサ、イオは無事? 食事はどうだった? 今どこにいる? 状態に異常はない? 今から会いに行ってもいい?」


 ひとつの会話に複数の質問をする。これは彼女、テラマテルがその対象にどれだけ関心があるか? その基準みたいなものになっている事をオーサは知っている。


 ───


(まさか自身の創造主でもあり、『守護する者』の(あるじ)たる地の大精霊様よりも、たったひとりの人間の少女。しかも頭を半分失っている者の方が優先度が高いとは……さてさて。わし、オーサはテラにとって何番めくらいかの?)


 茶色の法衣(ローブ)姿の小さな老婆はそう思い、ひとり可笑おかしく感じるのだった。


 ───


「イオならばいつもの部屋じゃて。食事も大層気に入った様でな。たくさん摂った(あと)、今はグッスリ眠っておるわい」


 その言葉に、テラは何も言わず、小走りにイオがいる隣の部屋に向かって行く。


 オーサが少し遅れて入ると、歪な形状をした頭部全体を白い包帯でぐるぐる巻きにされ、ベッドの上で仰向けに寝かされている者の姿があった。


「スゥーーッスゥーーッスゥーーッ」


 部屋に静かに聞こえくる穏やかな呼吸音。


 華奢で小さい身体には白のワンピース。


 それにより、この者が少女である事がかろうじて見受けられる。


「イオ、無事。テラ安心──」


 そしてベッドの上のイオ見つめるテラが、凍り付いたかの様な無表情で、そうつぶやく姿があったのだった。



 ─────



 やがて、オーサは今の“状況”。それを知らないテラに説明する為。先程いた部屋に戻り、テーブルにあるふたつの椅子、ひとつに腰掛ける。


 ───


「今から地の大精霊様より、テラに伝えるよう言付かった言伝(ことづて)を説明するでな……さあ、テラもお掛け」


「テラ、肯定こうてい


 一言そう言うと、テラはもうひとつの椅子に腰掛けた。


「さて、テラや。心して聞くのじゃ、地の大精霊様のおっしゃった事をな──」


 オーサが説明を始め様とした時──


 ガシャンと部屋の窓ガラスが割れる音が、突然鳴り響いた。


 その異常事態に──


 オーサは立ち上がり、テラは素早く後方に跳び退く。


 どうやらこちらと反対側の窓が破れたらしい。


「テラ。用心せよ」


「了解」


 そしてテラは、自らの右腕を突き出しながら、異常があった窓へと近付いて行く。


「右腕擬態化──」


 言葉を発し右腕を武器に変型させ様とする──


「キュイ、ギュルル……」


 壊れた窓の下。そこから、不意に何かの生き物の様な鳴き声。そんなものがテラの聴覚に届いた。


「──??」


 テラは腕の武器具現化を一旦中止し、更に声がする方へと近付いて行く。


「ギュルル……ガウッガウッ!」


 獰猛どうもうそうだが、甲高く小さな吠える声


 それは──


「これは何?」


 仔犬くらいの大きさの、全体的に丸みを帯びた黄色いトカゲの様だった。


「ほう。これは(ドラゴン)の幼体じゃな?……身体が黄色い。とすると、成る程。これが地の大精霊様がおっしゃっていた者じゃな?」


 後から近付いてきたオーサが、そう言葉を発した。


「黄色い(ドラゴン)の幼体?」


「そうじゃな、テラや。そのちっこいやつの瞳に、見覚えはないかの?」


「瞳──」


 テラはかがみ込んで小さな(ドラゴン)の瞳を除き見た。


「ギュルル……フゥーッ、フゥーッ…… 」


 金色に輝く瞳孔が細い瞳。


(この瞳は──)


「──ウィル」


 テラは(ドラゴン)の幼体を、自分の腕の中へと力いっぱいに抱き締めるのだった。


 ───


「ガウッ、ガウッ……ギュルル……」


 嫌がる(ドラゴン)の幼体を構わず、抱き締め続けるツインテールの少女。


「むう。やはり地の大精霊様がおっしゃった事は(まこと)であったか? “『守護竜』をテラマテルの元に送り届ける”。如何なる者の作為さいによって成されたかは、大精霊様もご存じではなかったようじゃがの」


「テラの所に?」


 嫌がる小さな(ドラゴン)を抱いたテラが、無自覚ながらもキョトンとした雰囲気をかもし出す。


 そんなテラにオーサは言った。


「取りあえずは、そのちっこいのが壊した窓は雨戸でもしといておくれ。それからまた椅子に座ってから話の続きをするとしようかの」


「了解。テラ肯定こうてい


 ───


 そして再びテーブルのふたつの椅子にふたり。


 暴れる小さな(ドラゴン)を太ももの上に乗せ、両腕で無理矢理大人しくさせて腰掛けるテラと、冷たくなったお茶で喉を湿らすオーサ。


 そしてオーサは、“テラがいない間に起こった事”の話しを続ける。




 ─────




 テラマテルの今の身体。


 その前の身体が破損する事態となったロッズ・デイクの首都インテラルラ。オーラント商工会前で起こった首なし騎士(デュラハン)による騒乱事件。


 それが一時的に地の大精霊から『守護する者』テラマテルを引き離し、桃源郷(ザナドゥ)から遠ざける陽動作戦だった事。


 そしてその隙を突き、黒の使者。黒の魔導士と呼ばれるアノニムが桃源郷(ザナドゥ)に侵入し、()の地を護り囲っていた“迷いの森”が禍々しい“魔性の森”へと変貌を遂げてしまった事。


 アノニムの目的。


 最早、衰弱すいじゃく仕切った『守護竜』ウィル・ダモスが何者かの力によって、その姿を変え、テラマテルの元に逃がされる事になった。それによりアノニムのもくろみが一時的に阻止できた事態となった事。


 最後に。


 黒の魔導士アノニムの手によって、地の精霊石が破壊。即ち、実質地の大精霊がアースティアから姿を消失された事──




 ─────




「──ママが消えた?」


 ───


 ギャアギャアと騒がしい(ドラゴン)の幼体を両手で押さえ付けながら、テラはそう声を漏らした。


「そうじゃ。残念な事じゃが、地の大精霊様はこのアースティアからお姿を消す事態となってしまった……」


「ママが消失、消失、消えた──了解。テラ、肯定こうてい──肯定こうてい、した──」


 変わらずの虚ろな表情で、返事を返すテラ。


「……テラ……」


 しばらくの間、小さな(ドラゴン)の騒ぐ声以外は何も聞こえない沈黙の時間が流れた。


 やがて竜を抱き、うつ向いたテラマテルが、ポツリと言葉を漏らし始める──


 ───


「──テラ。もうママと話す事できない?」


「ああ、そうじゃ」


「──テラ。もうママと会えない?」


「ああ……」


「──テラ。もうママの姿、見る事ができない?」


「………」


 繰り返される淡々とした抑揚よくようのない声。


 オーサはもう相づちさえ打つ事ができなかった。


「ママ。ママは──」


 テラマテルは、うつ向かせていた顔をバッと上げる。


 悲愴ひそう感溢れるその顔の目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が──


「──ままは、ままはずっと一緒にいてくれるってあたしに言った……また今度いっぱい甘えさせてくれるって言ってくれた……それなのに、それなのに、ままがいなくなっちゃうなんて……」


「──!?」


 何かテラの“様子がおかしい” 。まずオーサはそう感じた。


「まま……やだ! いなくなっちゃやだあああああぁ~~っ!! まま、まま、まま、まま、ままああぁぁ~~、うっ……ううっうぇ──」


(テラ……これは一体どうした事じゃ……!!)


 テラマテルの口から放たれる絶対にあり得ない言葉と様子に、オーサはただ驚愕きょうがくした。


「びええええええぇぇぇーーーんっ!!!」


 ──テラマテルが泣く。




 ─────




 ──まま、まま。おいてかないで。


 まま、まま。レイを、“レイ”をひとりにしないでよう──




 ─────



 ──レイ?


 “レイ”。キミは誰?──


 ───


 自分の意識の中に、自分とは違う“誰かがいる”。


 そうテラマテルは自覚したのだった。




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