184話 個性溢れる麗人達
よろしくお願い致します。
◇◇◇
四度アースティアが構築され、世界は再び新たな模索に向かって活動を始める──
やがて、時を待たずして四守護竜の内の一体。即ち、野心を抱き乱心し、邪竜と化した水の守護竜コーリエンテ。彼の存在の討伐に向かう事となった風の守護竜インテリペリ。
それにより、まず二体の守護竜が、アースティアの表舞台から姿を消した。
その事態に伴い、続け様早々と行動を起こし、四大精霊達は、一番の脅威だった火の守護竜エクスハティオの封印に成功する。
封印の媒体となったのは、火の精霊石と火の一族である竜人族の族長。彼の者の活動を続ける生きた心臓。
そして残る一体。地の守護竜ウィル・ダモスは、地の大精霊が持ち出した前世界アースティアの遺産である巨大な機器によって繋がれ、それによりその強大な力を、大量のエネルギーを供給する者として利用され、今回は事なきを得たのだった。
そして例によって、『守護竜』に代わり、新たに『守護する者』たる存在が選出される事となる。
風は風の護人。水は獣人族。火は竜人族──
各大精霊達に対応する種族は、例に漏れず同様となる種だったが、地の大精霊だけが、いつもの鉄と技巧の民、ドワーフから選出せず、新たに彼女自身と瓜二つの少女を提示した。
その種族名を不明として──
他の大精霊からは、何者かと問われたが、彼女は新たなる可能性。
──“新人類”──
そうとだけ答えたのだった。
他の三体は納得した訳ではないようだったが、それ以上深くは追及してはこなかった。
やがて、地の大精霊は『守護する者』テラマテルを、守護する任となる行為以外にも積極的に利用した。
主となる内容は、目には目を、歯には歯を、死には死を──そう、断罪の執行。その代理だ。
そして幾つかの歳月が経ち……。
──地が最初に、いつもとは違う違和感を感じたのは、その時の事だった。
自身の同一の容姿を持った、最早自らの分身ともいえる自分を『守護する者』。テラマテルが、ある時。信じられない言葉を発してきたのだった。
──ママ。テラにトモダチができた──
その言葉に大いに驚きながらも、地の大精霊は考える。
人工知能である存在に“感情”は発生し得るのか?
取りあえず、彼女はテラマテルの言った“トモダチ”なる人物を検索した。
──イオ・ジョーヌ。11歳、女性。
かなりの良家となる大農家のひとり娘のようだ。
だが、イオと言う少女は、ひとつの大きな問題を抱えていた。
それは顔の筋肉が収縮して全く動かないという、治療不可となる奇病。
それによりイオ。彼女は感情は豊かだが、嬉しい時も悲しい時も、感じる感情を表情として全く顔に表す事ができず、やがて周りから孤立していった。
悲しみと寂しさ。そして不条理に苛まれながら、イオは毎日を過ごして行く。
そんな時。感情を感じるが、表す事ができない少女イオと、表情を変える事ができるが、感情を持たない機械仕掛けの少女テラマテルが、運命的に出会う事となった。
──互いにない物を持つ者同士が惹かれ合ったのか?
どちらにせよ、人工知能であるテラマテルから、まさか“トモダチ”ができた。なんていう言葉が発っせられるなどと……。
──“感情”は誕生し得るのか?
もしもそれが成せたのならば、“人”は自ら、独自の力のみで“心”を創り出した事実となる。
これは最も重視すべき要観察事項となるものだ。
地の大精霊はそう自身の心に、確かに刻み込むのだった。
─────
そして場所は変わり、今。地の大精霊は、常世、幽世でもある精霊界にいた。
───
視界に広がるのは、床や壁。そして天井もなく、いや、線や点もない。ただ白いだけの一次元となる空間──
そこは精霊界に於いても、“始まりの間”と呼ばれる特別な空間だった。
そして。
──この場に於いて四つの大精霊は、今だかつて無い程に驚愕する事態を体験する事となる──
───
今、現在の地の大精霊は──
彼女は定期的に行われる、四大精霊達の報告。及び立案会に参加する為に、広くて白い空間にポツリとひとつだけ置かれたテーブル。それに設けられている椅子に腰掛けていた。
自身の手元には湯気が立つ入れ立ての紅茶と、クッキーが用意されてあるのが確認できる。
テーブルには椅子が彼女が既に腰掛けているのを含めて、計四つ設けてあり、他の三つには、それぞれ既に他の人物が着席していた。
地の大精霊。彼女の正面には、燃え上がる炎の様に真っ赤な髪を逆立たせた目付きの鋭い女性が、如何にも機嫌が悪そうに、テーブル上を人差し指でせわしなくコツッコツッと小突いていた。
ちなみに彼女の身体は、真っ黒なゴスロリ姿だ。
右側には、少しウェーブがかった濃い青い色の髪を、背中くらいまで伸ばしている。
物静かな。かつ、やさしそうな雰囲気を醸し出した女性が、さも美味しそうにクッキーを頬張っていた。そして余程美味しかったのか、急に驚いたような表情を浮かべると頬を赤らめて、きゃあっと、声を漏らし、その口元を悪びれる気配もなく、うふふっと手で押さえている様子が伺えた。
彼女は白の地に、青となる模様が編み込まれた法衣姿だった。
そして左側、黄緑色の髪をひとつは編み込んだお下げに、それ以外は全て後ろへと自然に流していた。
ぼーーっとした表情で、眠そうに目を何度もしばかせたり、両手を上に突き上げての伸びを繰り返している。
時おり椅子の上で、バク宙を織り混ぜていると感じるのは……さて、目の錯覚なのだろうか?
これでは最早、見る者によっては退屈で眠いだけなのか、即興を講じているのか、よく分からないのではないか。
そんな彼女の服装は、フリル付きの薄い緑色のワンピースだ。
そして各三名の成人女性の容姿は、どれもとても美しい。
『……はぁ~……』
それを、第三者として見ている者が小さく嘆息の息を吐いた。
そんな人物。地の大精霊。
椅子に座っていると、先端となる部分を始め、そのほとんどが真っ白な床となる部分に着いてしまっている程の長いツインテールの髪。
色は翡翠色だが、蠢く様な黄金の光を纏っていた。
まだ幼い少女だが、その姿、形は他の三名にも劣らない程に整い、美しいと感じる容姿をしていた。
そして、少しジットリとした目を三名にひとしきり順追って向けると、今度は深い嘆息の吐息を吐くのだった。
『……はああぁぁ~っ……』
最後に、テーブルの後方には大きく透明な、まるで水晶の様な一際大きな物体が、白い空間に突き刺さる様に立っている様子が伺えた。
即ち、これこそが零の精霊であった。
───
ゴオォォーーンッ
何処かで鐘の音が響く。
───
『やれやれ、やっと定刻の時間だぜ。ささっ、皆の衆。とっととおっ始めよーぜっ! ちゃっちゃっと終わらせて、あたしは早く帰りたいんだよ!』
人差し指で、絶え間なくテーブルを小突いていた赤髪の女性が、待ってましたとばかりに大声を張り上げた。
『あらあら、あんたはいっつもそうよね~~っ。今回の世界では、ずーっと怒ってるか、イライラしてばっかりなんじゃないのぉ~~?』
今ままで、ぼーーっとして覇気がなかった黄緑色の髪の女性が、突然楽しい物を見付けたかのように目を輝かせる。
『黙れ! この無自覚不思議ちゃんがっ! おめぇはさっきまで寝てたんじゃねーのかよっ!』
『あらあら、しっつれいね~~っ、火。私は寝そうだったのを、背伸びやスクワット。時には宙返りも混ぜて、必死でそれに耐えてたのよぉ~~?』
『前言撤回。風よ。やっぱ、おめぇはただの変態だ……』
『だ・か・ら・しっつれいねぇ~~……いや、それを実践しながら、その間、確かに瞬間的には寝たけれども──』
『──って、寝てたんかいっ!! ってか、それでどうやったら寝れんだよっ! やっぱ、てめーは不思議ちゃんだわっ!!』
やいやいと、見ようによっては楽しそうにはしゃぎ合っているようにも見えるふたりに、クッキーを全て平らげ、紅茶を飲み干した女性が、パンパンと二度手を打ち鳴らす。
それは、濃い青色の髪をした女性だった。
彼女は物静かな口調で、ふたりを嗜める。
『はいはい。おふたり共、言い争うのはそれくらいにして、そろそろ始める事と致しましょう』
『うっわあぁぁ~~! 水。私達そんな風に見られてるのぉ~~? やだな~、風さんは至極健全なノーマル仕様だよぉ~~』
『─ったく、水。おめぇってやつはよっ!……それに思ってる事と言葉にしてる事が逆だっつーーのっ!!』
突っ込むふたりに、水は上目使いで立てた人差し指を口に押し当てた。
『あらら、ごめん遊ばせ。だけど、ご安心を──私にもそういった嗜好はございませんので……』
『知らんわっ!』
『知らないわよぉ~っ!』
そんな騒がしい三名の様子に、ツインテールの少女は三度目となるため息を漏らすのだった。
『……はああああああぁぁ~~っ……』
───
『で、今回の進行役は誰がやるんだ?─って、決まってるか。やっぱいつも通り、こういうのは地が適任だろ?』
そう、ニヤけた表情で言う火に、ツインテールの少女、地はジットリとした視線を
彼女に向ける。
『……はあぁ~~、いいですか? 皆さん。わたくしはまだ子供なのですよ。毎回毎回いい加減にして下さいな。貴女達はもっと成人である事を自覚すべきです。大体、大の大人が、子供にそんな役を押し付ける事自体恥ずかしい事だとは思いませんか?』
そんな地の抗議の声に──
『別に何とも思わねーよ。あたしは早く終わったらどうだっていいんだよ』
『そうねぇ~、な~んか私がやると、急に眠くなっちゃうんだよねぇ~~っ、やっぱそういうの向いてないんだよな~~』
『すみません。地。貴女に任せっきりで……私は、少しトロくて皆のペースに付いていけなくて……って、だからって、別に天然っていう訳じゃないですよ?』
『『だから、知らないって!』』
そんな様子に、地は目を閉じ、もう一度ダメ押しとなるため息を吐くのだった。
『……はああああああああぁぁぁ~~~っ!!』
───
『……それによ、地。例え見た目はそうでもよ。お前の“中身”は、もうとっくに“子供”じゃねーだろ?』
『……まあ、そうだねぇ~』
『……ですね』
そんな皆の様子に、地は──
『……はあぁ~~、だけど……まあ、確かにそうでしたね……』
そしてガタッと音を鳴らし、椅子から立ち上がった。
───
『それではただ今より、零の精霊立ち会いの元、四大精霊による定期報告。及び立案会を始めます──』




