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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
8章 地の精霊編 彷徨のマリオネット
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169話 妖精の執行者

よろしくお願い致します。


 ───


 死神の少女。リーザが口元を歪め、ニタリとした笑みを浮かべながら、自由を奪ったテラマテルを真っ赤な瞳で見下ろしていた。


 そしてその笑みは、まるで途切れる様に、サーッと消え失せていく──


 ───


「──」


 『守護する者』テラマテルは、今の自身の置かれている状況を頭の中で分析する。


 自分自身の今の現状。


 こんな状況に陥っても眉ひとつピクリともせず、無表情なままで見上げる彼女のその目に映るのは──


 ───


 ──魔物に取り憑かれたリーザに馬乗りにとされ、両腕を鷲掴みにされて地面に力任せに押さえ付けられていた。 


 テラマテルの両腕を両手で押さえ付けている為。彼女の“人間”としての両の手が塞がってしまっている。


 そんな“人間の少女リーザ”の姿に、著しい変化が生じていた。


 彼女の紅い瞳の目は焦点が合ってなく、まるで生気のない死者の様な目。


 口元から少しのよだれを垂らし、その顔はダランと少し斜め上向きに傾いていた。


 ───


『ふふふっ、どうやら貴様の検討違いの様だったな? 我が黒の御君がお創りになられた独眼鬼サイクロプスの生命力を侮って貰っては困る。奴らは『黒の兵士』──特別な存在なのだ!』


 そう声を発するのは少女リーザではなく、馬乗りになった彼女の半分傾いた上半身の背中から、突き出る様に飛び出た、ユラユラと揺らめく黒い鎧を纏った騎士の上半身だった。


『これで貴様は身動き取れまい……さあ、終わりだ! 死ね!!──狂犬テラマテル!』


 勝利の宣告と共に、騎士は大鎌サイスを振り上げる。


 まるで実体のない幻影の様に、揺らめき続ける黒騎士の上半身。


 だが、その身体に─“頭”─はなかった。


「──」


 この様な状況下に於いても微動だにせず虚ろではあるが、澄んだ瞳の目でジッと観察する様に、その姿に見入るテラマテル。


 そんな少女の口が声を発せずに小さく動く。


 ───


 「“標的(ターゲット)”に憑依していた魔物を識別、認識完了。ママの予測通り、首なし騎士(デュラハン)と確信、判明。これより“標的(ターゲット)”の“障害物”を排除する──」


 ───


『──“滅”っせよ!!』


 今、まさに振り下ろされようとする大鎌(サイス)


 ───


 ……ズ……ズズッ


 ──ヒュンッ


『!?──ぐぬおっ!』


 だが、しかし──


『な……何だとっ! 両腕を封じたというのに……まさか、そ、その様な手段があったのかっ!? ましてや実体の持たぬ霊体である我が身体に触れる事ができ様とは……き、貴様っ!……貴様は一体っ……!?』


 ───


 ギリギリと金属が軋む音を立てる。


 今の光景──


 それは、両腕を塞がれ自由を奪われた少女に、馬乗りになった少女。リーザの背中から生えた首なし騎士(デュラハン)が、振り下ろそうとしていた大鎌サイスごと、まるで大地を伝うつたのように、テラマテル──


 彼女から伸びる翡翠色の美しい髪によって、がんじがらめとなって絡み付けられ、ギシギシッと締め付けられている姿だった。


 ───


『……ば、馬鹿な……髪をこんな……風に……き、貴様……貴様っ……!!』


 ギリギリと締め上げられ、首なし騎士(デュラハン)が苦しむ様を、ボーッと抑揚のない無表情で見上げ続けるテラマテル。


「別に攻撃手段を封じられた訳じゃない。テラの手足は副武器、オマケの様なもの。むしろ、この髪がテラの主戦武器」


『……な……何だとっ!?』


 テラマテルから伸びる翡翠色の髪は、まるでそれが生きている生命体の様に、今も尚、首なし騎士(デュラハン)の方へと伸び続け、更にがんじがらめとなって絡み付く。


「それに検討違いをしてたのはキミの方。テラは今のこの状態を狙ってた──」


 そして更にギリギリと締め上げる。


『……なっ……何……だと……?……そ、それは……どういう……事……だ……』


 その言葉にテラマテルはこう答えた。


「それは──」


 ──ズズッ


『……な……に……?』


 ズポッと音を立て、テラマテルの髪によってがんじがらめにされた首なし騎士(デュラハン)の身体が、少女リーザの背中から引き剥がされ、ふたつに分断された。


そして(あらわ)になった頭がない黒騎士。その下半身にも翡翠色の髪は及び、騎士は、身体全体を締め付けられたまま、宙に吊し上げられる。


「──つまりはこういうコト──」


 ───


『……なっ……我の身体を、宿主から引き離すのが……目的で……あったか……ふ、不覚……』


 身体が分断された事によって、少女リーザの赤い瞳が、本来のエメラルドグリーンの色に戻り、鎧も黒い異形状ではなく、元の革製の軽装備となっていた。


 そして在るべき姿に戻った少女リーザは、フッと気を失う様にその場に前のめりとなって崩れ込んだ。


 そんな彼女を腕で乱雑に払いのけ、テラマテルは髪で首なし騎士(デュラハン)を締め上げたまま、ゆっくりと立ち上がる。


 いつの間にかその両腕は、元の人としての形に戻っていた。


 ───


「キミ、首なし騎士(デュラハン)という存在は、通常は霊体であって実体がない。だけど、今回はママの力でキミの存在を、“実体がある者”に固定させて貰った」


『馬鹿……な……そ……そんな事が……できる……な……んて……』


 ギリギリと締め付けられた首なし騎士(デュラハン)の身体は、更に宙高くへと吊し上げられる。


「それにキミ。検討違いがもうひとつある」


『……な……』


 テラマテルは下から無表情な顔で、首のない騎士を見上げた。


「それは、テラの標的ターゲット──ママに言われて、ここに着くまではキミ達、ママの障害物“黒い者の殲滅”だったケド、今は違う」


『……な……ん……だと……』


「テラがここに到着した時、テラの標的ターゲットに少し変更が生じた。ただ、それだけのコト──」


 テラマテルはそう言うと、足元に崩れ倒れている少女リーザに一度だけ軽く一瞥を向けた。


 そして再び見上げる。


「だけど、それはまた後のコト。今はテラの、ママの障害物を全て排除、殲滅する──」


 ──ビュンッ!


 風を切るような音と共に、テラマテルの翡翠色の髪によってがんじがらめに吊るされていた首なし騎士(デュラハン)の身体が、驚く事に彼女の髪だけの力によって勢いよく投げ出され、近くの壁に激突させられる。


 ドガッガララッ!──と音が響き、打ち付けられた首なし騎士(デュラハン)が苦悶の声を上げた。


『──ぐっ、ぐあぁっ!!』


 その元へと無表情な顔で、静かに歩み寄って行くテラマテル。




 ─────




「──ああっ! リーザあぁっ!! リーザああぁぁーーっ!!」


「おっと、慌てなさんな、アンナ奥さんよ。対丈夫、リーザ嬢ちゃんならきっと無事だ!」


「アンナ様! わたくしめも参ります! リーザお嬢様っ!」




 ─────




 途中、倒れている少女リーザの元に向かう彼女の母親、アンナ・ラチェットの一行とすれ違う。


「──」


 そんな姿に、虚ろな横目を流しながら通り過ぎるテラマテル。


 ───


『……ふふっ……ふははははははっ! さすがに見事だ! 四大精霊。それを『守護する者』──その中に於いて、最も至強にして謎と噂される者だけの事はある……それに……くくっ、我が黒の御君の御要望に、我は応える事が叶った……くくっ、はははっ、あはははははははっ!!』


 テラマテルはゆっくりと歩き近づきながら、虚ろな目を首なし騎士(デュラハン)へと向けた。


「何が面白い? キミ。ナゼ笑う?」


 その問い掛けの言葉に、ぼろぼろに傷付いた首なし騎士(デュラハン)が答える。


『──満たされたからだ! 嬉しいからだ! 愉快だからだ! 我が黒の御君にお応えする事が叶ったのだからな』


「そう、どんな頼まれコト?」


『さあな、我もそれが何を意味成すかまでは知らぬわ。まあ、所詮。滅びゆく者が知る由もなし!……さあ、我が望みは叶った──早々に“亡き者”とすればいい……ふふっ、あはははははははっ!』


 そして倒れ込んだ首なし騎士(デュラハン)の前に辿り着き、立ち止まるテラマテル。


「ま、どうでもいい」


『………』 


 上から虚ろな目で見下ろすテラマテルの様子に、何故か不審を感じた首なし騎士(デュラハン)が、ふと彼女の顔をもう一度観察した。


『──!?』


 やはりその少女の顔は、いつもの無表情と感じる顔だ。


 虚ろだが、澄んだ黄緑色の瞳。


 だが──


 それが、こちらをずっと見てはいるが、何故だか心ここにあらずといった感じで、まるで誰かと意思疏通を図っている様にも感じた。


 ───


『我は黒の御君より創り出されし、“黒の兵士”なる首なし騎士(デュラハン)。与えられた名は道化者(ジョクラトル)と言う……さあ、もうよいだろう。早々に滅してくれ』


 何故か語るつもりの筈でなかった己の名を語ってしまう。首がない騎士のジョクラトルだった。


「──ママ、了解した」


『……?』


 視線をこちらに向け、表情に一切の変化をもたらさない少女の突然の呟きに、ジョクラトルは少し驚いた。


 そして──


「それもどうでもいい」


『ふっ……そうか、ならば早く滅せよ! 我が“定義”の役目は終わった……』


 テラマテルはそれに答える。


「テラのママは黒い者が大嫌い。凄く怒り、そして憎んでる」


『ふんっ……まあ、そうだろう』


「嫌い。怒り。憎む──キミはさっき笑った。満たされたと言った。嬉しいと言った。愉快だと言った。これらは『ココロ』というもの?」


 突然の質問に、少し戸惑うジョクラトル。


『ああ、そうだ……もしかして貴様。感情がないのか?』


 テラマテルは無表情のまま答える。


「ママやキミが羨ましい。テラは楽しいと感じた事がない。悲しいと感じた事がない。怒りを感じた事がない。そもそも“感じ方”が分からない。だから──」



 ─────



 ──テラ。『ココロ』が欲しい──


 ──よ──



 ─────



『──!!』


 一瞬、頭の中に響く様な幻聴を感じ、ジョクラトルはハッと現実に戻る。


 そんなジョクラトルの目に、ゆっくりと自身の左腕を前に付き出すテラマテルの姿が映った。


「ママはすごくキミ達、黒い者の事が嫌い。酷く憎悪している。だから、さっきの黒の御君がどうのっていう話に、今はすごく怒っている」


 そして自身の左腕の形状を再び変化させる。


「左腕擬態化──魔弾連続射出銃マナ・ガトリング


 突然の行為に驚愕するジョクラトル。


『……なっ!?』


「だから、キミを楽に消滅させるコトできない。ママがさっき言った方法で、最大限にもがき、苦しみながら滅んで貰う」


 無表情の顔から冷酷な言葉が発せられる。


「最大装填──白の属性魔弾『光の(ライティング・)(エッジ)』」


 そして屈み込んだ首なし騎士(デュラハン)。ジョクラトルへと、銃となった自身の左腕の先端を向けた。


「ママの指示により、これから処刑を執行する──装填を確認」


『──!!』


「一斉掃射──」


 ──カコンッ


 !DO──GAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGA!!!


 ───


 “黒い兵”。即ちは最大の弱点である白の属性。その魔法である『光の(ライティング・)(エッジ)』を込められた魔弾の一斉射撃を受け、首なし騎士(デュラハン)ジョクラトルは苦痛の声さえ発する事もできず、ただひたすらに激痛を伴う弾丸の雨を浴びなから、その身体を穴だらけにされていく。


 !──GAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGA!!!


 ──TARARARA─


 やがて銃声は止み、最早存在してるかどうかさえ分からないジョクラトルに向けて、テラマテルは呟いた。


「最後、キミ自身の武器でキミ。完全に消滅──」


 そして右腕を斜め上に振り上げる。


「右腕擬態化──大鎌サイス


 彼女の振り上げた腕が縦に六つに割れる。そして輝きを放ちながら、それらは形を変化させ、元の彼女の右腕となった。


 テラマテルは右腕となった自身の大鎌サイスを振り上げる。


 そして──


 ──ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンッ、ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン──ヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッヒュッ!!


 ───


 風車の様にサイスを回転させ、右腕を斜めバツの字に交差させながら、翡翠色の長いツインテールを左右に揺らし、少女が黒い騎士を切り刻む。


 ビチャビチャと音を立てながら、辺り一面に飛び散る体液と細かくなった肉片。


 ───


 全ての“黒い兵士”──そして。


 それを率いた最後の一体、首なし騎士(デュラハン)。ジョクラトルという存在が、今ここで“消滅”したのだった。


 やがて、両腕を再び人の形に戻した少女テラマテルは、ゆっくりと振り返った。


「了解、ママ」


 ───


「障害物全ての殲滅を確認。これより“任務を遂行”する──」




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