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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
152/217

150話 輪廻

よろしくお願い致します。



                   ◇◇◇



 ───



「あのな、デュオ姉に是非受け取って欲しいもんがあるねん。僕からのプレゼントや」


 ───


 ここは、皆が未だ凱旋ムードで互いに労いの言葉を掛け合い、盛り上がっている場所から少し離れた雑木林の中。


 そこに連れてこられた俺は、まず唐突にクリスからそう言われた。


「こんな所にまで連れてきて、改まってプレゼントだなんて……一体どうしたんだ?」


『うんうん』


 その問い掛けに、クリスは少し頬を染めながら、ニコッと目を細めて満面の笑みを浮かべる。


 ───


 ぐふっ……こいつって、ホントに男とは思えないくらいに可愛いよな……?


 ─って、いかんいかん! いくら可愛いたってクリスは男だぞっ! あーーっ、あの“例の件”を思い出しちゃうじゃんかよっ!


『……アル??』


 ──!!


『い、いや何でもないよ。ノエル』


 キョトンと小首を傾げるノエルの顔が頭に思い浮かぶ。


 ……ふぅ~、やばいやばい。


 ───


 クリスは両手を後ろに回し、何かを隠し持ってる様子だった。


「あのな、デュオ姉。両手を広げて差し出してくれへん?」


「へ?……あ、ああ……」


 俺は言われた通りにクリスの前に両手を広げてみる。


「そんじゃ、これが僕からの……正確に言えば、僕の(あるじ)からの贈り物や」


 そう言ってクリスは広げられた俺の両手の平に、ある物をヒョイッといった感じで乗せてきた。


「こ、これは──」


『うっわ~、綺麗……』


 俺の手に乗せられた物。それは──


 赤く煌めく光を、緩やかに放っている小さな赤い水晶の欠片だった。


 おそらくそれは、俺の目的のひとつである火の精霊石の欠片。


「主である火の大精霊からなんやけど、僕からデュオ姉への感謝の気持ちも含まれてるねんで。受け取って、デュオ姉。婚約指輪のつもりで──くすっ」


 クリスが少しおどけて笑った。


「ああ、ありがとう」


『ありがとう。クリス君』


 そしてそれは前回同様、俺の手のひらの中へと沈み込む様に消えていく。


 ───


「それはな、僕が心臓をあの黒の魔導士に握り潰された時。同時に封印の媒体となって心臓と一体化していた火の精霊石が砕けた瞬間に、僕の主から受け取っててたんや……そしてデュオ姉に託す様にと──」


 クリスはそこまで話終えると、先程の笑顔は消え失せ、神妙な面持ちとなって、少し涙を滲ませた真剣な眼差しを俺の方へと向けてきた。


「クリス?」


『クリス君……』


「デュオ姉、四つの精霊石の欠片を託されるって事の意味、知ってるん?」


「ああ」


「そっか……ほんなら『罪枷の審器』の事や『審判の決戦』の事も知ってんねや……」


「ああ、勿論知ってるよ。フォリーから聞いた」


 するとクリスは急にうつ向き、頭をコツンと俺の腕に押し当ててきた。


「ごめん、デュオ姉。ホンマゆうたらこんなもん、デュオ姉に渡したくなかった……せやけど、僕はこれでも火の大精霊を『守護する者』──主の指示は絶対なんや。堪忍やで……」


 クリスがうつ向きながら、俺の腕元で悲し気な声で言う。


「僕が心臓を握り潰されて、最早火竜エクスハティオとなってしまいよった時。デュオ姉が僕の心臓に剣を突き立てたやろ?」


「ああ……」


 クリスはうつ向いたまま言葉を続ける。


「あの時な? 僕はただ真っ暗な空間の中でただひとり、巨大な炎に呑み込まれ様としよった……覚えてんのはその事だけやけど、それと同時にな。それとは別に、僕自身も強大な“何か”に吸い込まれそうな感覚に陥ってもて……ああ、もう消えてしまうんやなって、そう思うてしもて……メチャクチャ怖かった……」


「……クリス」


『……クリス君』


 ノエルからも寂し気な声が漏れてくる。


「やけど……そやけど、あの時。デュオ姉が僕に声を投げ掛けてくれたから……やさしく抱き締めてくれたから……僕のお願いを聞いてくれたから……だから、今の僕があるんや……」


 クリスはもう俺の腕にしがみ付きながら、涙をぼろぼろと流してしまっていた。


「………」


『……クリス君……ぐすっ』



「それにデュオ姉はメチャクチャに強い魔人や……『審判の決戦』、例えそんなもんが起こったとしても、デュオ姉がおらへん事になってしまうなんて絶対にあらへん……」


「クリス……」


『ぐすっ……クリス君……』


 クリスはまだうつ向いて泣いていた。


「デュオ姉に、この世界の(ことわり)なんて、絶対に、絶対に通用せえへん……僕、信じてるから……」


 クリスはギュッと俺の腕にしがみ付きながら、顔を押し付けてくる。


 ───



    挿絵(By みてみん)



「デュオ姉、“ふたり”の事。信じてるから──」





 ─────





 あれから大分時間が経った。


 今はノースデイの王なったアレンの元に、王都バールから離れていた軍勢が続々と帰還している最中だ。


 火の一族やクリス達も合流し、この激しい戦闘が行われた場から移動を始めた。


 レオンとキリアとは、いくらかの労いの言葉を交わし合った後、先に向かったのか、既に見当たらなかった。


 一緒にその様子を眺めていた隣のフォリーが、俺に声を掛けてくる。


「それでは私達もそろそろ行くとするか」


「ん?……うん」


 そして歩き出すフォリーの後を、少し離れて歩き始める。


 その時に何か、人の声の様なものが聞こえた様な気がして、俺は何となく振り返った。


 そんな俺の視界に入ってきたのは、一本の地面に突き刺さった剣。


 おそらくはアレンと死闘を演じた、あの少女の姿をした化け物が使っていた大剣クレイモア。


 何故かそれに呼ばれた様な気がして、俺はその元に向かった。


 ───


『アル?』


『ああ、ノエル。ちょっと……な?』


 ───



 地面に突き刺さったクレイモアの前に立つ──



 ──“キンッ“──



「!!──痛うっ!」


『アル、どうかしたの?』


 一瞬だけ、突き抜ける様な激しい頭痛に襲われた。


「い、いや……大丈夫。何でもない」


『アル?』


 訝しがるノエルの声に、生返事を言葉で返してしまう。



 ──“ピキンッ”──



「──ぐっ! つ、痛ぅっ!!」


『アル!!』


 ──痛っ!!


『アルっ!?』


 ……くっ



 ──アル!?



 ──アル──



 ──ア──ル──



 ……ア……



 ……ル……



 ─────


 ───


 ──“ピキンッ”──


 遠退く意識と、暗くなる視界。


 そんな中。再び何かが割れる様な、そんな渇いた音だけが、ただ響いてくる。


 そして真っ暗だった視界に、不意に視覚として捉えられる物。


 それは緑、青、赤──煌めく水晶の欠片(かけら)だった。


 ───


 ……これは、もしかして俺の……デュオの身体に存在している精霊石の欠片(けっぺん)なの……か?


 ───


 やがて三色の異なる輝きを放つそれら三つは、互いに引き寄せられる様にひとつとなった。




 ──“ピキイィィィィィィン”──




 真っ暗な空間から、一転、強烈な閃光を伴う真っ白な空間になる。



 ……こ、これは!?


 ─────



 ──幸せを願っている──



 不意に真っ白なだけの空間に、声にならない言葉が響いてくる。



 ─────



 ──どうか、俺を……俺を許してくれ……せめて、お前達だけは……



 ──ごめんね? お母さん、あなた達と一緒にいられなくなっちゃって……本当にごめんなさい。だけど、大丈夫。ずっと見守ってるから……



 ──お母ちゃん……お父ちゃん……あたし、もう眠くって仕方ないの。だから……眠っちゃうね?……どうか、ふたりは元気で、いつまでも笑っていて……お休みなさい。それと……ごめんね……



 ──ははっ、俺はこんなになっちまったが、親父、姉貴……お袋の事。頼んだぜ……どうか三人元気で、生きてくれや……



 ──こんな事態になり、誠に申し訳ございません。ですが、父上。決して私の事などに気をお病みになさらぬ様……ご自身をお大事になされませ。決して無謀なる事は慎まれる様。どうか……どうか……



 ──我が息子よ! この様な結末……ふっ、お前ならば、決して許してはくれぬだろうな? だが、俺はこれで満足なのだ。ひとりたる我が子を失い、この腐り果てた世界になんの未練があろうか? 残された一族には充分の蓄えを残してある。さあ、共に逝こうぞ……



 ─────



 俺に、無数の者から発せられる言葉を感じられる。


 ───


 ……何の声?── 一体誰の言葉なんだ?


 ───



 ──シャリー……



 ──!!



 一際強く感じられる、初めての固有名詞の言葉。



 ──シャリー。すまん、お前とあれ程約束したのに……“お前の難病を治す為、俺がその治療費を稼ぎに王都に兵として志願する”、そしてシャリー。お前の病が治ったのなら、シャリーの望み通り、兄妹の関係など隔たりなく、生涯お前の傍にずっと在り続けると……だが、すまんシャリー。俺は……俺は……



 感じる言葉が小さくなっていく。



 ──すまん。こんな事になってしまった兄ちゃんだけど……シャリー……どうか、どうか、お前だけは、幸せと感じれる様になってくれ……



 ── 一緒にいられなくなって……



 そして言葉は、途切れようとする。



 ──すまん……シャリー。



 ──できれば、ずっと一緒にいたかった……



 ──愛してる──



 ─────



 頭がぼーっとする……


 真っ白な空間の中。そして何も感じなくなった。


 ただ、先程の者が訴え掛ける様に発していた、固有名詞だけが頭に過る。



 ──すまん。シャリー


 ───


 ……ア……ル……


 ───


 ──シャリー……


 ───


 ──アル


 ───


 ──……シャ……リー……ィ



 ─────



 ──アルっ!!



 ……ノエルの俺の事を呼ぶ声が聞こえる。


 ああ、これで俺はこの白い空間から抜け出し、現実に戻るんだな……。


 そんな風に考えがぼんやりと思い浮かび、実際、目の前が再び眩いばかりの閃光に包まれる。


 ──ジジジッと視界が歪んでいく。


 その瞬間──




 ───ゲイツお兄ちゃん。私も“ここにいる”よ──



 ─────



 ──!?


 再度感じられる先程のとは、また違う語調の言葉。




 ──お兄ちゃん。私の方こそごめんね。ごめんなさい……



 ──私、元気になろうって、病気と一生懸命に戦ったんだけど、駄目だったの……せっかくお兄ちゃんがお薬代がんばって稼いでくれてたのに……



 ──先にいなくなっちゃって、本当にごめんなさい。



 ──だけど、これで一緒にいられるね……



 ──私も愛してる──



『──アルっ!!』



 ─────



 俺はノエルの声を明確に感じ、ハッと意識を覚醒させた。





 ──“私はここにいる。ずっと一緒だよ。お兄ちゃん”──



 ─────



『──アルっ! アルってばっ!!』


 気が付くと、目の前には例の地面に突き刺さったクレイモア。


 俺はそれにそっと手を添えてみる。


 剣からは何も聞こえてこないし、感じる事もできなかった。


 地面に突き刺さった剣をじっと見つめたまま、俺はノエルに答える。


「……ノエル」


『アルっ!!──もうっ、どうしちゃったのよっ! さっきからずっと呼んでたんだよ!?』


 何だか堪らなくなった俺は、クレイモアから目を離さず、思わず彼女に問い掛ける。


「ノエル。俺って、“ここに存在(いる)よな”……?」


『アル……ホントにどうしちゃったの?』


「答えてくれ!……俺は“ここにいる”……よなっ!?」


 ───


 少し間が空いてからノエル。彼女から静かで、だけど、やさしいと感じる声が帰ってくる。


『大丈夫。アルはちゃんと、“ここに存在(いる)”よ』


「……ノエル」


 俺と一体となった彼女の、やさし気に微笑む笑顔が脳裏に浮かんでくる。




 ──『“あなた(アル)”は、ずっとここにいるから──』──




 ──そうだ。俺は……アル()はここにいる!──





 ──────────





 ──ヴオォンッ



 ──if you want Do you want to transfer? My Master

   【お望みならば空間転送致しましょうか? マイマスター】


 ……ああ、頼む。


 ──OK. Now start the transfer

   【了解致しました。それではこれより転送を開始します】


 ──Open transfer system──

   【転送システム起動】



  ーーーーーー



 ───


 ──Confirmed the transfer was completed. My master

   【転送の完了を確認しました。マイマスター】



 ヴウゥンッ──






                   ◇◇◇






 ここはノースデイ王国より遠く東に離れた場所に位置する、名もあまり知られる事のない、小さな農村となる集落。


 そんな村の境となる山の麓にある、おそらくは村の墓地となる場所。


 その片隅に最近埋葬されたと思われる墓石もない、札が打ち付けられただけの簡素な墓。


 札には『シャリー・ニコル。享年16歳』と書かれていた。


 そして先程、何処からか突然、それが空中から現れ、その隣に自らの存在を誇示する様にして突き立てられてている物の姿があった。


 巨大な大剣クレイモア。


 かつて、この墓の中に眠っている名をシャリー・ニコルと名付けられた少女の兄、ゲイツ・ニコルが所持し、愛用していた物だ。


 今その剣は天からの光を浴び、刀身をきらびやかに輝かせている。


 すると、不意に剣の突き刺さった地面から、大、小の二匹の光り輝くつがいの蝶が現れ、そしてそれらは交差する様に舞い上がる。


 やがてクレイモアの束に止まったつがいの蝶は、互いを慈しむ様に戯れるのだった。



 ─────



 ──ヴオォンッ



 聞き慣れない空気が歪む様な音と共に、ひとりの女性を象った者の姿が、そのクレイモアが突き刺さった墓の遥か上空に姿を現す。


 黒い艶やかな長髪に、美しく整った顔。


 だが、その表情は、まるで感情がない様に無表情だ。


 妖しくも綺麗な紅い瞳。


 身体にはこの世界に、およそあり得ない形状と思われる肩が突き出たデザインの、制服の雰囲気を漂わせる服装。


 半透明に透けた様な、おぼろ気で神秘的な雰囲気を醸し出した女性は、宙に浮いた状態で自らの足下にある剣の束の上で戯れるつがいの蝶に視線を向けていた。


 ───


 ──Present a gift on behalf of the master

   【マスターに代わり、贈り物を贈呈します】


 ──Open transfer system──

   【転送システム起動】



 ヴウゥンッ──



 ─────


 そして宙に浮かんでいた神秘的な女性の姿は、再び音と共に消えていく


 ──────



 未だクレイモアの束の元で戯れている二匹の光の蝶。


 その刺さっている墓には、先程まではなかった咲き誇るたくさんの青い花の姿が──



        挿絵(By みてみん)



 ──ブルーベル。“いつどんな時も一緒に”──



 ─────


 やがてつがいの光の蝶は、天に向かい昇華していくのだった。






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