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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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148話 凱旋

よろしくお願い致します。

 ───


「デュオ!」


「デュオ姉っ!」


 フォリーとクリスのふたりが声を上げ、俺の所に駆け寄ってくる。


「ああ、ふたり共大丈夫だった? 他の怪物二体は?」


 俺の問い掛けにふたりは顔を見合わせ、クスリと笑う。そして次にふたりして俺に手のひらを差し出してきた。


「無論、討伐完了だ。とはいっても倒したのは、ほぼお前みたいなものだがな」


「まあ、そういうこっちゃ。さすがデュオ姉やで!」


 ………??


 何の事を言ってるのか、良く要領を得なかったが、とにかくふたりが無事で、かつ笑顔でいるという事は、すなわち今回に於ける戦いは、大事に至る事なく無事に済んだという事なのだろう。


 ──パァッン! パァッン!


「うっしゃーっ!」


「うむ!」


『やりぃ、だねっ!』


「やったどっ!」


 俺はふたりの手のひらに自分の手のひらを、応じる様に音を立て打ち合わせた。



 ──応! 応! 応おぉぉーーうっ!!──



 そんな俺達の姿に、呼応するかの様に、周囲から沸き上がる(とき)の声。


「デュオさん──」


 俺と向き合っているフォリーとクリスとは、違う方向から聞こえてくる声に、俺は振り返る。


 それはコリィだった。


 嬉しそうな満面の笑みを浮かべながら、こちらとくる彼の直ぐ後ろには、アレンの姿が──


「デュオ・エタニティ殿」


 彼らの後ろには更に、あれは隊長クラスなのだろうか?


 付き従う様にひとりの若い女騎手と、もうひとり、槍斧(ハルバード)を手にした巨漢の騎手の姿も確認できた。


 俺は早速ふたりに対して胸に手を当て、いわゆる騎士の礼をとる。


「コリィ……いや、コリィ王、そしてアレン王。遂に為し遂げましたね。取りあえずの自らの『目的』を──」


 そんな俺の様子にコリィは、あわわっと両手を突き出して、慌てた様に手を振った。


「そ、そんな。止めて下さいよっ、デュオさん! いつものようにコリィって呼んで欲しいですっ!」


「私……いや、僕もですデュオ殿、改め“デュオ”──」


 コリィの懇願と、アレンが敢えてデュオの名を強調して呼び捨てにする声に、俺は軽く笑いながらふたりに答えた。


「ははっ、じゃあ遠慮なくそうさせて貰う。私はデュオ・エタニティ。改めてよろしくな? コリィ、アレン。そして──ふたり共、ホントに良くやり遂げたよ!」


「ありがとうございます! だけど、これはデュオさんが、クリスさんが……レオンさんにキリアさん……ううん。それだけじゃない! お亡くなりになってしまった父上を含め、ここにおられる親衛隊の方々、ノースデイ国皆さんの力によって、やり遂げる事ができたのです!」


 少し涙目になって、俺に訴え掛ける様にして声を上げるコリィの肩に、ポンッとアレンが手を乗せた。


「そう。まさに我が弟、コリィの言う通りだ。私は……僕は、一時期全てを失った。自らの人生の目的。己が生きている『証』でさえも……もう魂の脱け殻となっていた僕は、日々、自身の運命を呪い、後はただ自らの死を望むだけの虚ろな存在だった……だけど、ある時。名も語らないひとりの衛兵の男が諭してくれたんだ。何も知らなかった無知な僕に──」


 アレンは拳を握り締め、静かに目を閉じる。


「人は皆、“大切と思える者”の為に、“大切と思ってくれる者”の為に──人はそれがあるからこそ、如何に苦しくても、如何な絶望に苛まれようと、生きて行こうと努力する事ができる存在なのだと──」


「お兄ちゃん……」


 コリィの小さな呟きの声に反応する様に、アレンは閉じた目を開き、拳を握り締めたまま、強い眼差しで周囲の者達を、一度ぐるりと見回した。


「僕の為に命を散らした我が実父ロベルト公。それに付き従い、命運を共にした者達。僕が反逆者に問われ、捕らえられ様としていた時、それを遮って命を落とした者達。また、かつての師匠キース先生。そして今ここにいるイザベラやガリレオ。()の者が率いる親衛隊……最後に、僕にノースデイを……王としての役割を託して逝ったラウリィ公──」


 アレンは再び静かに目を閉じ、そして寂し気な表情でそっと囁く。


「僕が首を刎ねた、あの歪んだ存在である銀髪の少女でさえも……」


 ───


 俺も含め、ここにいる皆一同は、アレンの発する言葉に聞き入っていた。


 彼は目をゆっくりと見開くと、真っ直ぐに俺に向かって言う。


「自らの“命”や“存在”は、己の為だけの物ではない! それを想う皆の存在が在ればこそ、成り立つ事ができる存在が人なのだと……それを私に認識させてくれた全ての存在、それと全ての経緯に感謝致します──そしてデュオ。貴女方は、あの強大な、おそらくはこの世界を滅ぼさんが為の存在。そんな者達を相手に見事打ち破ってみせてくれた」


 アレンは隣にいるコリィに視線を合わせ、緩やかに微笑む。


 それに合わせて、ニコッと笑顔で大きく頷くコリィ。


「──うんっ!!」


「そんな存在。貴女方──“デュオ・エタニティ”が、私達ノースデイ……いや、この世界と関わりを持てた事、繋がり合えた幸運に、今はただ、心より嬉しく感じます。本当にありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 俺に対し、礼の言葉を言いながら深く頭を下げるアレンに合わせる様、コリィもそれに負けない勢いで頭を下げた。


「──わわっ! 止めてくれよ! 俺っ─じゃなくて、私、そういうの苦手なんだからさっ!!」


 周りにたくさんの皆がいる目前でふたりの王となる者に、深々と頭を下げてくる姿に、自分の置かれている今の状況が急に恥ずかしくなり、俺はカーッと顔を赤面させ、バタバタと両手を突き出して慌てふためくのだった。


「くすっ……わはっ! デュオ姉がトマトの様に真っ赤になってはるで! さすがは“メイデン・オブ(トマトの)・トマト(乙女)”のふたつ名の異名を持つ、デュオ姉だけの事はあるわっ!」


「な、なんだそれっ! 俺って、そ、そんな風に呼ばれてんだ……って、いや、そんなの初耳だぞっ!─っていうか、嫌過ぎるふたつ名なんですけど!?」


クリスを睨み付け、片手を上げながら、更に顔を赤くさせる俺に……。


『何それ? メッチャ最高の通り名“やんっ”!? 』


 ………。


『……へぇ~、最高なんだ……?─ってか、ノエル! お前、訛り移ってんぞ!?』


『いや、別に移ってなんてない“やん”?』


『いや、移ってる“やん”!─って……おいっ、俺も移ってしまってんじゃねーかっ!!』


『……ぷっ、くすっ──あはははははっ!』


 ……ちくしょ~……ノエルの奴笑ってやがる。こいつ、完全に俺の事をからかってやがんな……。


 そんなやり取りをしていると、次に隣のフォリーが──


「ふむ。確かにメイデン・オブ(トマトの)・トマト(乙女)も悪くはないが、どうせ同じトマトを語るならば、『運命を屠るトマト』──“フェイト・スレイヤー・オブ・トマト”何ていうのはどうだ?」


 ──その発言に、ピシッと皆一同、一瞬凍り付いた。


 ───


 ……そ、それは冗談で言ってるのかっ?……い、いや、さすがに冗談だよね??


「うむっ!──“運命(さだめ)を食い破る紅い果実(トマト)”! 我ながら良い名を思い付いたものだ!」


 両腕を組み、ひとり鼻息荒く、うんうんっと満足気に頷いているフォリー。


 ………。


 だーーっ! 予測はしていたが、本人は至って真面目でしたーーっ!!


 ……さ、さすがフォリー。─ってか、疲れるわ……だは~っ……。


 ───


「おおっ! 決められた運命、(ことわり)を食らい尽くし、打ち破るトマトやなっ!? さすがにフォス姉やで! “厨二くさくって”、←(めちゃくちゃ小声)最高にカッコええやんっ!!」←(多分、悪気タップリ)


『ホント、さすがにフォリーさんだね! メチャクチャカッコいい通り名“やん”!!』←(こっちはただ単純)


 興奮するクリスとノエルの声……。


 ───


 ……ノエル。お前、また訛ってんぞ?


 ……それにクリス。お前はお前で、しれっと小声でディスってたよな?


 あぁ……っていうか、もう好きにして……。


 ───


「ふふんっ! だろ? そう思うだろう? 私も今回は、我ながら良い名が思い付いたと思ってはいたのだっ!──ぬっふーーんっ!」


 胸の前で両腕を組んでいたフォリーが、右手を広げて、ちっちっちっと、舌打ちを打つ様に、自分の人差し指を立てて振ってみせていた。


 コクンコクンと軽く目を閉じたフォリーが、得意気に何度も頷いている。


 ──が、突然はっと何かを思い出したかの様に顔を上げる。そしてクリスへと視線をやった。


「ところでクリス。お前、先程の“厨二くさい”っていうのは、どういった様相の意味合いなのだ? 何故だか無性に悪意を感じるのだが……?」


 すごい冷徹なジットリとした目を、クリスに送り付けるフォリー。


 ─っていうかさ……。


「「『──遅っ!!』」」


 ───


 という感じで騒いでいると──


「……この、バカクリスウゥゥ~~っ!!」


「あわわわっ……だから、ゴメンやって! もう堪忍し

て~なっ!! フォス姉……」


 ───


『説明しなくていい事まで、律儀に説明しちゃうクリス君! 後でトンでもないお返しが待ってるのにねっ?』


『……ああ、まさにソレ……』


 ───


 ジリジリと迫るフォリーに気圧されて、後退りするクリス。


 そんな彼の身体を、何者かが後ろから抱き締めた。


「おおっ、若!! よくぞご無事で! (じい)は今、感激しておりますぞ!」


 それは、ひとりの魔導士の様な格好をした老人だった。


「おうっ、ヤオ爺やん! 僕は大丈夫や。前と何ら変わっとらん、正真正銘のクリスやでっ!!」


 感極まったヤオと呼ばれた老人が、ボロボロと泣き出す。


「──若ああぁぁーーっ!!」


 続いて──


「「クリス“ティーナ”様っ!!」」


 老人の後方から同時に発せられる、何故だかクリスティーナの『ティーナ』の部分を、意図的に強調させたふたりの若い声。


「おーーっ、ダートにローランやん? ふたりにはホンマに迷惑掛けてもたな。どや、元気にしとったか?」


「「はい、ありがとうございます! クリス“ティーナ”様こそ、お元気そうで何よりです!!」」


 クリスの問い掛けに、再び綺麗に揃う声。またも“ティーナ”の部分は、強められたままだ。


 ダートとローランと呼ばれたのは、革製の鎧を付けた屈強そうな若い戦士ふたりだった。


 クリスはその返事に、ヤオ老人に抱き付かれたままの状態で、ジットリとした目でふたりの事を睨み付ける。


「お前達……僕、昔からずっと、そう呼ばれるんが嫌やってゆうの知ってるやんな?」


「「はい! クリス“ティーナ”様!!」」


 またもビシッと、綺麗に揃う声。無論“ティーナ”の部分は、強調されたままだ。


「……そない呼ばれるんが嫌やって、“ず~~っと!” ゆうてるやんな!?」


「「はい! クリス“ティーナ”様!!」」


 “ティーナ”それを彼らは、絶対に弱める事を止めない。


「……お前らおもろ過ぎっ……」


「「はい! クリス“ティーナ”様!!」」


 ずっと強調され続ける“ティーナ”様


「え~っと──大爆発(エクスプロード)いっとく??」


「「ごめんなさい! “クリス”様!!」」


そして最終的に三人でケラケラ笑い合う。


 ───


『……な、何やってんだろな? こいつら……?』


『……さ、さあ? 私に聞かれましても……』


 ───


 訳の分からないやり取りに、唖然とする俺とノエル。


 そんな時。


 一際巨大な人影が、今度はクリスの所ではなく、フォリーの元へと近付いてくる。


「──フォステリアお姉たまあぁぁーーっ!!」


 フォリーへと雄叫びの様な喜声を発し、迫る異様な雰囲気を醸し出した巨躯の偉丈夫。


 筋骨隆々の身体に、ピッチリとしたボンテージアーマーを身に付けた毛むくじゃらの胸毛を顕に、ごつい顔に短髪、そしてひげの剃り後を青々とさせた厚化粧のおそらくは……っていうか、確実に男性ではあるが特殊な感性の男だった。


「ふおぉーーっ!! ふおおすてえりいぃああぁぁおねええぇ──すあぁまあぁぁぁーーーっ!!!」


 ──ズドドドドドッ


 まるで巨大な暴れ牛が突進するが如く、両手を大きく広げながら、フォリー目掛けて突っ込んでくる。


 そして今にも接し様かと思われた瞬間──


 ──ヒョイッ


 まさに、ひょいっと音が聞こえてきそうな感じで、必要最小限の横跳びでかわすフォリー。


 ズドドドドドッ──ズッッシャアアァァァーーッ!!


 肩透かしを食らった男は、空振りとなった両腕の勢いも相まって、地面へと盛大にスライディングをかましている状況となっていた。


 ───


『……な、何なんだ? あいつ……?』


『……さ、さあ?……だから、私に聞かれましても……』


 ───


 やがてしばらくの後、突然ムクリと男が上半身を起こし、長い付けまつ毛と濃いアイシャドウを施した目に、涙を滲ませながら、切な気な表情をフォリーへと向けた。


「ひ、ひょんな……ひ、酷いっ! フォステリアお姉た……ま……」


「黙れ、カマールっ!! 貴様にお姉様などと呼ばれる呼ばれる筋合いなどない! 何度も同じ事を言わすなっ!!」


 フォリーは地面に両膝を着いて物欲しそうな、つぶらな目を装っていると見えなくもない厚化粧の男を、物凄い形相で睨み付けながら指差した。


「そ、そんな……ひ、ひどいわっ! お姉様! わたくし、獅子奮迅を以て黒い者達に対し、『フォステリアお姉様に代わってお仕置きよっ!』の定義の元、孤立奮闘参ってたですのよっ! いくらお姉様でも、その言い様。あんまりですわっ!!」


 その抗議の声に、フォリーはピキッと青筋を立て、更に声を荒らげる。


「黙れと言ってるだろうが!!──確かに、今回の戦いに於けるお前の働きは称賛に値する物だ……だが、それとこれとは話は別だっ! それに何だ。“お仕置きよ?” そんな軽率な台詞、私がいつなん時にほざいたかっ!? もう一度言う──私の事を“お姉様”と呼ぶなっ!!」


「うっ…………あ……あっ~は~~んっ!──」


 そのフォリーの罵倒となる言葉が終わる前に、カマールと呼ばれていた男が、不意に奇声を発したかと思うと、次に顔をうつ向かせ、両腕で自らの両肩を抱くと、急に身体をワナワナと震わさせ始めた。


 男の恍惚とした顔が、不気味に天を仰ぐ。


「──いいっ!! いいわぁ~っ! いいのよぉぉーーっ!! フォステリア様のその無慈悲な虐げのお言葉!!──はぁんっ、被虐の心に苛まれるっ!……堕ちていくのよっ!!──ああぁんっ!」


 カマールは立ち上がり、顔を紅潮させながら身体をくねらせた。


「あっは~~んっ!!──絶倫!! クライマックスオルガスうぅぅ~~ムっっっ──!!!」


 ………。


 ……な、なんじゃ、この生きもんは……??


 ───


「──う、うぇっぷっ……」


『……う、うっへぇぇ~~っ』


 ───


 俺が思わず嘔吐き、ノエルが嫌悪感たっぷりの嘆息の息を漏らす。


 そんな時、隣から感じる身の毛もよだつ圧迫感──



 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ──!!



「……ふふっ──」


 直ぐ横から聞こえてくる静かな微笑みの声に、俺は悪い予感を感じながらも、恐る恐る横を振り向いた。


 ───


「──ひっ、ひいぃぃーーっ!!」


『──ひゃっ、ひゃあぁぁーーっ!!』


 ───


 俺達の絶叫が響く。


──それは、形容するなら、まさに緑の“魔人”だった。


 怒りの頂点に達したフォリーが、唇の端をゆがめて歪な笑みを溢している。心なしか美しい金色の髪も、逆立っている様な錯覚さえ覚えた。


 若葉色の瞳からは黄色。身体全体からは溢れ出る様に緑色に輝く、波動の様な光に包まれていた。


 右手に持つ精霊の刺突剣グロリアスからは、狂わんばかりの青白い閃光──


 そんな存在から、静かだが重圧感を感じる声が発せられる。


「カマール! 私はエルフであって、基本菜食主義ではあったのだが、『守護する者』となってからは、外界と接触する機会も増え、嗜好もそれに伴って変化したものだ……そこでお前に問おう。私が、今一番の嗜好としている食事は何だ? 見事答えてみせよ!!」


 ──ゴゴゴゴゴゴッ


 フォリーの様相は変わらない。

 ただ怒りを抑えた静かな声だけが、凜と辺りに轟く。


 ───


『─って、一体何なんだ。コレ……大分話が反れてきたぞ?』


『……だね……番外編??』


『こらっ、番外編とか言うな!』


 ───


「……姉様のお好きな食べ物?? ……さて、一体何なのかしら?……海大蛇(シーサーペント)の白子の湯引き? それとも狂猪(ベルセルクボア)の睾丸のお刺身かしら?」


 ──ビキッ


「──ひいぃぃっ!!」


 短く漏れるカマールの悲鳴。


 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


「私の今の最も好む嗜好品はな? 新鮮な“オサカナ”の串焼きなのだ! 前にもお前に言ったのだがなっ!!」


「ひ、ひいっ!!」


「さあ、調理を始めるとしようか──?」


「──ひいいぃぃぃーーっっ!!!」


 青白い光を頂点にさせたグロリアスを右手に、フォリーが妖しく、ふふふっと笑う。


「──さあ、“オカマ”の串焼きの調理開始だ! とびっきり新鮮で活きのいい“オカマ”のなぁっ!!」


「ひいぃぃぃーーっ!! どうか、お助けを……──あら、あそこで可愛らしい小動物が戯れているわ! セバッチャン、早速愛でに参りましょっ!!」


「──はっ、カマ様、お供致します! いえ、是非共そうさせて頂きますっっ!!」


 突然怯えて怯むカマールの背後に、何処から沸いてきたのか、ひとりのおよそこの戦場とはそぐわない紳士服を着用した執事の様な者が姿を現し、それに答える。


 そしてまさに、バビュンッという音を連想させる勢いで、脱兎の如くこの場から消え去って行ったのだった。


 ───


『あっ、あいつ逃げやがったっ!』


『うん。逃げちゃったね……』


 ───


 俺とノエルが念話による応答をしていると──


「カマール! あいつ逃げてしまいよったやん! い、一体ど、どないっすんねんっ!!」


「カマール、あやつめ……フォ……フォステリア様??」


 クリスがカマールが消え去った方向に目をやって、憎々し気に呟き、ヤオと呼ばれた老魔導士が、神妙な面持ちでフォリーの方へと視線を送る。


 そんな細心の注意を他所に、フォリーはゆっくりと俺達の方へと振り返った。


 ───


『……あ、あれ?』


『ん? フォリーさん……』


 ───


 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴッ


「デュオ、クリス、ヤオ。今日は誠に良い気候だな…………あーっあーっ、本日は晴天なり……たが、非常に気分は宜しくない……」


「──ひっ!!」


『──ひゃーーっ!!』


「どっひゃーーっ!! ……こ、こりゃ、あかんわ……」


「フォ、フォステリア様~~っ!!」


 振り向いたフォリーの表情は、満面の笑みを浮かべていた。


 逆にそれが怖い!


 ほら、ピクピクと浮きだった何本かの青筋と、プルプルと微かに震えている身体が、彼女の心情を物語っているじゃないか!?


 そしてフォリーは明らかに偽りの美しい笑顔で、皆にボソッと呪詛の様に問い掛けてくる。


「……ところで……この怒り。私は一体、何処に向けたら良いと思う──??」



 ──“ごめんなさいっっ!!!”──


 

 その彼女の問い掛けに、俺達四人は、ほとんど絶叫となる言葉を同時に発するのだった。



 ─────



 何はともあれ、予想外の騒動が起こったが、取りあえずは──


 ───


『終わったな、ノエル』


『うん、お疲れ様。アル』


 ───


 俺とノエルは頭の中でお互いの労を労う。


 辺りを見回すと、ある者は肩を組み合って勝利を讃え合ったり、またある者は万歳をしながら、何やら歌を歌っている様子も伺える。


 皆、歓喜の空間に包まれていた。


 ふと俺の視界に、この騒がしくも穏やかな集団とは離れて、白銀のメイスを立て掛けて佇んでいるキリアの姿が確認できた。


 彼女は菫色の髪を手で掬いながら、こちらの様子を穏やかな笑顔を向けている。


 どうやらその場所でずっと見守ってる様だった。


 その直ぐ後ろにはレオンの姿が。


 彼の方は視線はこちらに向けているが、表情は相変わらずの憮然とした表情だった。


 ───


 ……ふっ、レオンらしいな……。


 そんな事を考えていると──


 ───


「デュオ姉、ちょっとだけええ? 僕、まだデュオ姉に言っとかなあかん事があるんやけど──」






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