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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
146/216

144話 風の麗人と火の男の娘と──

よろしくお願い致します。


                   ◇◇◇


 ───


「クリス!!」


「クリスさん!!」


 火の守護竜エクスハティオの呪縛から解き放たれ、本来の自身を取り戻し、無事な姿を皆の前に見せたクリスに、早速ふたりが駆け寄ってくる。


 ノースデイの王となったアレンとコリィ。


 駆け寄り様、クリスに飛び付く様にふたりして抱き締めた。


「クリス……元に戻って、帰ってきてくれて、本当に良かった」


「クリスさぁん……ぐすっ、本当に……ううっ……」


「アレン、コリィ心配掛けてもてホンマごめん。そやけど、僕はもう大丈夫やで」


 抱き付くふたりに、クリスは穏やかな声で話し掛ける。


「デュオ姉の……いや、皆のおかげで僕は、エクスハティオみたいな化け物にならずに済んだんや……ホンマにありがとう」


「……クリス」


「……クリスさん」


 クリスはふたりの身体をそっと離してから、ニッコリと微笑んだ。


「そうや。コリィが結成したアレンを救出する為の僕ら、“小さな王子の小さな反乱(クーデター)”は、これを以て大達成やっ! しかもアレンとコリィがふたり同時にノースデイ王襲名と、僕に施された呪縛の消滅のオマケ付きやでっ!」


 そしてクリスは自分の利き腕である左手を前へと突き出した。


「僕達それぞれの目的は達成する事ができた! 今からせなあかん事はてんこ盛りやけど──取りあえずは、勝ち鬨を上げるどっ! さあ、いくでっ!!」


 その声に、アレンとコリィが突き出したクリスの左手に自らの利き腕の手を重ねる。


「デュオ姉! デュオ姉もどないっしょんねん。はよこっちき~やっ! デュオ姉も一緒にやるんやで!?」


「え!……俺、じゃなくて、私もするのか?」


 てっきり兄弟と幼馴染み。そんな強い絆で結ばれた三人だけで行われると思っていた光景を眺めている俺に、クリスが不意に大声で呼び掛けてきた。


「そんなん当たり前や! そもそもデュオ姉がおったからこそ成し遂げる事ができたんやからな。さあ、はよこっちき~~っ!!」


「……えーーっ! 本気(マジ)でか!?」


『ふふっ、こうなったらもう仕方ないよ、アル。ほらほらっ、もう観念して行くの。さあさあさあ!──くすっ』


 俺がこういうの、苦手なのを知ってるノエルが、悪戯っぽく笑いながら言う。


 ……仕方ないのかぁ~、是非もなし。覚悟を決めるか……。


 ──ぐふっ


 ───


 俺は三人の元に向かい、そして中央で重ね合わせられた三人の手に、自分の右手を突き出し重ね合わせた。


 それと同時に、クリスが声を上げる。


「ここに僕ら。いや、この場所に居合わせた皆、全員の希望ある未来なる前途を祈願すると共に、我ら目的となるものを達成できた事を祝する! いくでっ!!──えい! えい!──」


「「「おおうっ!!」」」


 ───



 ──“オオォォォォォーーッ!!!”──



 ───


 俺達が重ね合わせた手をそれぞれ振り上げ、鬨の声を上げるのと同じく、俺達四人を囲んだ周囲からも、一斉に盛大な鬨の声が放たれた。


 続いて──


 ──パチッ……


 ──パチッ、パチッ……パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ──



 周囲からの喝采の拍手に変わった。


 それを受け、クリスが得意顔で(うそぶ)く。


「へへんっ! どやっ、この雰囲気っ! メチャクチャええ感じやん? 今はここにいる僕らが主役やでっ!! ほらっ──ぶいっ! ぶいっ!」


 そう興奮気味に頬をを紅潮させながら、周囲に向けて二本指を立て、あちらこちらにブイサインを繰り返すクリス。


 そんな姿に──


「そうだ、僕達はやり遂げた! そしてこれからもやり遂げなければならない! 新しい未来を、皆と力を合わせて共に築いて行くんだ!」


「うん、そうだね。兄上!」



 ──“ウオォォォォォーーッ! アレン王万歳! コリィ王万歳! 守護者たるクリスィーナ万歳!──ノースデイに栄光と繁栄あれ!!”──



 ──パチッ、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ──


「皆さ~んっ! 毎度おおきに~! ちなみに僕の事はクリスティーナやのうて、クリスって呼んでや~。ここ最重要事項なんで、そこんとこヨロシクやで~~っ!!」



 更に沸き上がる拍手喝采の中。俺とノエルは、勿論感動する気持ちもあったが、それよりも最早──


『……あ~あ、先程までの儚げでいじらしい印象はどこに行ったのやら……まっ、アレの方がクリスらしいったらクリスらしいけどな。はははっ、こりゃクリスの奴、完全に復活だな』


『ぷっ、あははははっ!──そうだね。あれでこそ、本来の“無自覚男の娘”、クリスティーナの本領発揮って感じっ!』


 俺とノエルは、半ば呆れ返るのだった。


 ───


 やがて周囲を囲む人混みを掻き分けて、三人の人物が俺達に近付いてきた。


 風に(なび)く美しい金色の髪──フォリーだった。


 少し離れて並んで付いてくるのは、レオンとキリア。


 やがて、フォリーは小走りになってこちらに向かってきた。


「──クリス!!」


「ん?……フォス姉??」


 嬉しそうな表情を浮かべながらも、フォリーがこっちに駆けて寄ってくる様子に、少し不思議そうに小首を傾げるクリス。


そんなクリスは、直ぐにその元に辿り着いた彼女の腕の中に、抱き締められる事となる。


 ───


「クリス……よく無事でいてくれた」


 抱き締められ、今はフォリーの胸に押し当てられる様に、彼女の両腕によって包まれているクリスが、それに答えた。


「うん。ありがとう、おおきに。皆やフォス姉のおかげや……」


 そんなクリスの言葉に、フォリーは苦し気な口調で謝罪となる言葉を発する。


「すまない……お前が黒の魔導士によって心臓を抉られたのを目撃した時。アノニムの手の中にある脈打つお前の心臓を見た時。昔にお前と交わした約束事──果たす事は、やはり私には不可能だった……」


「……フォス姉……」


 フォリーはクリスをギュッと抱き締めたまま話し続ける。


「お前に施された呪われた封印を解く──“活動を続ける心臓を握り潰す”─その行為が成される前に、お前の命を断つ! 一時は弓に矢をつがえてお前の心臓を定めた私であったが──」


「フォス姉……」


 フォリーは抱き締める力を強くする。


「すまない……私、己自身にとって、“大切と思える者”──その様な存在の命を奪う事など、私には到底敵わなかった……本当にすまなかった。やはり私は『守護する者』、失格だな……」


 そんな言葉を悲し気に言うフォリーの言葉に、クリスは彼女の胸の中で声を上げた。


「そんな事あらへんっ! 確かに約束は守ってくれへんかったけど、僕の事を大切に感じててくれてたからこそ、そんな風に思うてくれてたからこそ、今の僕があるんやでっ!──謝るのは僕の方や。昔、あの時にあんなムチャな約束事、お願いしてもてごめんな。フォス姉?」


「クリス……」


「ホンマにごめんな。代わりに言わせて、あの時。僕を殺さないでくれて──ありがとう──」


「クリスっ──!!」


「ちょっ──ちょっとだけ苦しいわ。フォス姉!……」


「本当にすまない……」


「そやから、もうええって……」


 ───


 しばらく無言で抱き合うふたり。やがてクリスがフォリーの腕の中で顔を上げた。


「……そやったらな、ひとつだけ僕のお願い事、聞いてくれへん?」


 瞳を潤ませ、頬をほんのり紅潮させたクリスが、まるで乙女と思わせる風貌でフォリーに懇願する。


「何だ? 私にできる事ならなんだってしてやるぞ? お前の願い事、今ならなんだって叶えてやる」


 フォリーのその言葉に、クリスは彼女を見上げたまま、そっと呟いた。


「あのな……デュオ姉みたいにな……僕と……キスって……いや、あの……フォス姉も僕と……チューして欲しいねん……」


「……クリス……」


 そしてクリスは頬を染めながら、そっと目を閉じて、フォリーに口を突き出す。その様は、最早どう見ても恋する乙女が、口づけをねだる美少女の姿そのものだ。


 そして──


             挿絵(By みてみん)

 

 …………。


 ………。


 ……。


 ──ガチッコーーッン!!



 炸裂する打撃音。


 次に俺達が目にしたのは、フルフルと自らの頭を憮然とした表情で振るフォリーと、その足下で自身の頭を両手で覆いながら、苦痛に耐える様に屈み込んでいるクリスの姿が映るのだった。


『……まあ、フォリーなら当然そうなるよな?』


『……ですよねーーっ』


 少し何か思う事があったのか、再びノエルが俺に呟き掛ける。


『だけどあのクリス君の事だから、抱き締められている間、フォリーさんの胸の感触をずっと味わってたんじゃ……』


『……それもな。フォリーが装備する胸当て(ブレストアーマー)の鉄の固い感触しか感じてない筈。既に俺が立証済みだ……』


『あっ……で、ですよねーーっ』


 ───


「……痛ててっ──いっ痛あぁっーーいっ!! 頭を本気で頭突きなんて、やっぱ容赦あらへんな! フォス姉っ!!」


 そんな絶叫の声に、フォリーは憮然とした表情のまま、パンパンッと二回手を打ち叩いた。


 そして右手を突き出し、人差し指で地面を差しながら、クリスを睨み付ける。


「──Sit down(座れ)!!」


「ひゃーーっ!!」


 鋭い眼光にクリスは悲鳴を上げながら、即座に地面に両膝を着き、平伏する。


「黙れっ、クリス! 真面目に聞く私が愚かだった。全くお前という奴は……」


「ひ、酷いわっ!─っていうか、頭どつくんやったら、普通ゲンコツやん? それを敢えて頭突きって、そんなんあり得んやろ……フォス姉は痛ないんかっ!? どんだけ石頭やねんっ!!」


「黙れバカクリス! やはりお前は、一度完全なエクスハティオと転生を成してから、デュオの力によって元に戻して貰った方が良かった様だな……」


「ひ、酷いっ!! さすがはフォス姉。デュオ姉みたいに甘ないわ……っていうか、容赦なさ過ぎっ!!」


「黙れ! このバカ!!」


「むぅ……だから、バカ言わんとって!」


 ───


 普段と変わらないフォリーとクリスの姿。そして考えていた通りになったふたりのやり取りの顛末に、俺達は、いつもの日常が取り戻せたんだと改めて実感する事ができ、そんな光景を半ば何気なく楽しいと感じながら眺めていた。


 そしていくらかのフォリーの説教なるものが続く間、大人しく正座して聞き入っているようにしているクリス。


 ふと、俺と目が合ったクリスは、横目で悪戯っぽく笑いながら、べーっと舌を出している。


『……全然懲りてねぇな、アイツ……』


『ぷっ……あはっ、ですよねーーっ』


 やがて、説教する事に得心したのか、あるいは疲れたのか、正座しているクリスの所からフォリーが俺の方へとやってくる。


 そして俺の前に立ち止まり、目を合わせると、先程の不機嫌そうな表情が一転、ニコッと軽く微笑みの浮かべる顔へと変わった。


 次に今の俺、すなわちデュオよりも、フォリーはかなり長身なので急に屈み気味になると、突然俺の顔へと自身の顔を近付けてきた。そして──


 俺の……デュオの限りなく唇に近い頬に、フォリーは軽く自分の唇を押し当ててきた。


「なななななななななーーっ!!」


『なななななななななーーっ! わきゃーーっ!!』


 俺とノエルは訳が分からず、この絶世の美女であるフォリーに、突然キスに近い行為をされた事により、ふたりして奇声を上げながら、ただ顔を赤くさせた。


 そんな俺に、フォリーは艶やかな唇の端をゆがめて悪戯っぽい笑みを溢す。


「さっきのはクリスを救ってくれた。私の願いを汲んで叶えてくれた事の細やかな礼だ。仮にも親子だから、さすがに唇同士にという訳にはいかぬがな……ふふっ」


 彼女の美しい笑みと先程の行為に、俺達ふたりは、ただ困惑するのみだった。


「ううっ、今日は一体なんて日だっ!……ぐふっ」


『あう……あうううっ……』


 ───


「ああーーっ! なんでデュオ姉とフォス姉がキスしてんねんっ! しかも女同士で! そんなん禁断の愛や……って、ま、まあ悪い絵ではなかったな……って、ち、違うわっ! 不埒! 破廉恥じゃーーっ!!」


───


『ノエル……正座した男の娘が、何かほざいてるけど──』


『──取りあえず、放っておきましょ。アル』


 ───


 次にフォリーは呆然としている俺の肩に手を乗せてきた。


「ところで話は変わるのだが、ちょっといいか。デュオ?」


 急に真剣な面持ちと声色になったフォリーに、俺は変な声を上げてしまう。


「ひゃいっ! な、なんでしょう!?」


「実は気になる事が発覚してな──」


 そう言いながら、フォリーは自身の目の先を追う様に、目で合図をする。


 それに応じ、俺はその視線の先を追うと、目に映ったのは並んで立つレオンとキリアだった。


 ふたりは俺の視線に気付いたのか、レオンは軽く目で返事を返してき、キリアは笑みを浮かべながら会釈してくる。それに答え、俺も手を上げて応じた。


 ───


「先程もレオンとキリア殿と考察していたのだが、どうやら事態は芳しくないようだ」


 思いがけないフォリーの言葉に、俺は驚き問い掛ける。


「え? それって、どういう……そういえば、レオンが対峙していた例の仮面の男はどうしたんだ?」


 フォリーは、その問い掛けにひとつ軽くため息となるものを吐いた。


「ふぅ~、その事で事態の……黒の魔導士アノニムが、“今、何を成そうとしているか”、その答えとなるやも知れぬ考察の結論に、私達三人は至った」


「そ、それは?」


 何故か焦りを感じた俺は、先を急かすようにフォリーに短く問い掛ける。


「それは、“劫火竜エクスハティオの存在は消滅した訳ではない”──」


「何だって!!」


 思いもよらない答えに、俺は思わず声を上げてしまう。


 フォリーは続ける。


「その疑念なるものを最初に抱いたのが、レオンだそうだ」


 そんなフォリーの言葉に、俺はレオンの方へと視線を向けた。


 彼は、俺達が今何の話をしているのかを認知しているのか、軽く頷いている。


 再び視線を戻したのを確認して、フォリーはまた話し始める。


「レオン。彼が例の黒い鎧の男と対峙していた時だったそうだ。()の者はやはり、ただならぬ力を持つ人外者……おそらくは『滅ぼす者』の尖兵。あの歴戦の王、レオンハルトの力を以てしても、奴の持つ強大な力に持て余していたらしい」


「あのオルデガって奴か……」


 フォリーはそれに軽く頷き、更に続ける。


「デュオ。最早劫火竜と化したクリスの心臓に、お前が漆黒の剣を突き立てた時。それと同時にその尖兵なる者が、それまでレオンと激しく打ち合っていたにも関わらず、彼の目の前から、突如として夢幻の如く消え失せた……」


 フォリーのその言葉に俺は気付く。


 あの時。クリスを救うという行為だけ考え、他の事は一切頭になかった事に……。


 ──そうだ! 確か奴は、黒の魔導士アノニムは、クリスの心臓を握り潰すという行為の(のち)、まるでクリスが劫火竜エクスハティオの姿に変化するのを上から傍観する様に、自らの身体を浮遊させ空中に奴の姿があった筈だ。


 そういえば、奴は……アノニムは、一体いつからいなくなったんだ?……もしかして、俺が心臓に魔剣を突き立てた時からか!?


「それって……まさか!?」


 フォリー。彼女は力強く頷く。


「そうだ。おそらくはお前の持つ魔剣の力で、劫火竜エクスハティオの力を弱体化させる──それが奴の狙いだったのだろう。そして現にそれは成された」


「……という事は今、アノニムの奴は一体どこにいるんだ? なんでそんなに劫火竜に固執するんだ?」


 すると、フォリーは俺の肩に静かに手を乗せた。


「それを今からお前に説明する」


 そしてフォリーの口から語られる、四大精霊を守護する竜、四守護竜の存在と五つ目の精霊、白と黒、零の精霊には守護竜たる存在が、“今はない”事。そして黒の魔導士アノニムが行おうとしている目的への推測となる考察を───



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