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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
144/216

142話 ──Resurrection kiss──

よろしくお願い致します。


 ───


「──!?」


 俺の右手に持つ魔剣の鈍い紅い光が、目映いばかりの青白い閃光へと変わっていく。


 ──キイィィィィン


 そして耳に届いてくる甲高い無機質な音。


 ───


 ……この光、この音。おそらくは今の魔剣は、あのユーリィの時と同じ状態。


 ──そうか、魔剣(こいつ)! 俺の呼び掛けに応じてくれたかっ!


 駆けながらそう考える俺の視界に、近付いてくる宙に浮いたクリスの姿。


「グルルウゥゥゥ……!──グガアアァァァァーーッ!!」


 虚ろな目で宙に浮かびながら吠えるクリスに、四方からその身体を取り込もうかのように、実体化したいくつもの筋肉の細い筋が、うねるように伸びてきていた。


 そんなクリスの胸から飛び出る心臓は、既に人の物ではなく、形も異形で、更に雷の閃光を浴びて肥大化していっている。


 ……どうする? この前は致命傷となった傷口に、この状態の剣を宛がったが、今回は……!?


 ──応えてくれっ!!



─────



 ──Please pierce “Dragon heart”─My master──

  

 ──【竜となる心臓を突き刺すのです】─私のマスター ──



 ─────



 ──えっ!?


 ほ、本気でか!……だが、今まで俺は、魔剣(こいつ)のおかげで、ここまで色々な事を成し遂げてきた!


 そしてこれからも──だから……。


 俺は魔剣(俺自身)を信じる!!


 ───


 吹き荒ぶ暴風に対し、地面に突き立てた魔剣の触手を手繰る事によって、突っ切っり、伸びてくる筋肉の筋を斬り払いながら、俺はようやくクリスの元へと辿り着いた。


「グガアァッ! グアルルウゥゥゥ──」


 虚ろな目で、狂ったように唸り声を上げ続けるクリス。


 その胸から飛び出て、異形と化し、周囲から伸びる筋肉の筋が、触手のようになり絡まって宙に浮かぶ最早、“竜の心臓”となってしまった物体に、俺は──


 ──キイィィィィン


 青白い閃光を放つ剣となった魔剣を突き立てた!



 ──ズシュッ─



 ───


『え?……ア、アル……!』


「ノエル! 信じろっ、俺を! 魔剣()を!!」


 突然の俺のとった行動に、困惑の声を漏らすノエルに、俺は自身にも言い聞かせるように大声を上げて答えた。


『うん! 分かった。私はいつも魔剣(アル)を信じてる!!』


 ───


「グガアァァッ! グルガァァァァァーーッ!!」


 自身の目の前で自らの心臓を貫かれたクリスが、虚ろな目を見開き、獣のような咆哮を上げる。


 ──キイィィィィン


 心臓を貫き、突き刺さった魔剣は甲高い音と共に、更に鮮烈な青白い光を放つ。


 ───


『──!?……ぬうっ!』


 クリスの背後を包み込むようにそびえ立った、長い二本の角を持つ凶悪な赤い竜の幻影が、一瞬怯んだ。


 クリスの身体を取り込もうとしていた、具現化した複数の筋肉の帯も、それと同時に動きを止める。


 だが──


『フッ、グヌハハハハハハハッ!──忌々しき()の者の憎き産物よ! うぬが今の所業が何を成すかは知らぬが、無駄な足掻きというものぞ! 既に封印は解かれた! 何人(なんぴと)、否! どの様な存在を以てしても、最早、我が復活は絶対に止められはせぬ!!』


 凄まじい地響きと共に、 劫火竜エクスハティオの巨大な幻影が吠えた。


 それに合わせ、再び動き始める奴の実体化した筋肉の帯達。


 また、クリスを包み込もうと──



 ──キイィィィィン!



 それを否定するかの様な、更なる音を高める無機質音と、鮮烈な輝きを強める青白い閃光。


 心臓に突き立てられた魔剣が、絶対的に“劫火竜エクスハティオ”を否定する。


『──な?……如何っ!!』


 巨大な幻影の頭が、疑念の声を上げる。


 それと共に、ピタリと動きを止める具現化された、エクスハティオの身体の一部達。


『ば、馬鹿な! 我が身体が具現化をせぬ!!……何故にだ……これは──』


 エクスハティオの凶悪な金色の目が、驚愕に見開かれる。



 ──キイィィィィン!


 魔剣は青白い輝きを放ち続けながら、甲高い音を変わらず発していた。


『──我が力が! 身体が! なくなろうと……否!──も、もしや、まさか!!』


 ───


 エクスハティオの幻影が、疑惑となる言葉の雄叫びを上げる。


 そんな時──


「──グガアァァッ!!……グルガッ!……ガッ………………デ──デュ……オ……ねえ……」


 変わらず瞳に光はなく虚ろ気だか、クリスの口から確かに、そんな言葉が漏れた。


「クリスっ!!」


『クリス君っ!!』


 俺達はそんなクリスの声を耳にし、両手に持った魔剣から手を離して、クリスの背中にそっと身体を支える様にして手を添えた。


「……デュ……オ……姉……」


「クリスっ!!」『クリス君っ!!』


 俺達が同時に発する呼び掛けに、今度は僅かながら、金色の美しい瞳に意識の色が伺えた。


「『クリス(君)!!』」


 ───


 ──ゴゴゴゴゴゴゴッ


 大地が、エクスハティオの疑惑の怒りに呼応し、激震する。


『──吸い取られておるとでもいうかああぁぁぁーーっ!!』


 ───


「……デュオ……姉──」


 はっきりと俺達の名を呼ぶ声に、俺はクリスの肩に両手を置いた。


「クリス! 俺が分かるのかっ!?」


『クリス君っ!!』


 そんな俺達の声に、クリスは本来の目の輝きを取り戻した。


「デュオ姉──」


 しかし──


 ───


 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!



 再び揺れる大地。


 猛る巨大な赤い影。


『……グヌヌゥゥゥ!──グルガアアァァァァァーッ!! 認めぬ! その様な力の存在などっ!』



 ──ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!



『我は認めぬ! 我こそが四守護竜を以てして最も強大、強靭なる者にて、最も憎悪に身を焦がす者(なり)! この世界にあり得ぬ否定すべきその力。我が力でねじ伏せてくれるわ!!』



 ──グルグガアアアァァァァァァー-ッ!!!



 俺達の周囲を覆う様にして、巨大な赤い竜、エクスハティオの幻影が両腕を振り上げ、猛った雄叫びを上げた。


 ───


「……デュオね……え……っ──ああっ! ああああああぁぁぁーーっ!!」


 巨大な竜が上げる咆哮と同時に、俺の両手にクリスの激しく震える身体の振動が直に伝わってくる。


「クリス! しっかりしろっ!!」


『ク、クリス君っ!!』


「──ああああああああぁぁぁぁーーっ!!!」


 肩に乗せた両手で押さえ付けようとするが、クリスの激しい震えは止まらない。


 そして──


「ああああああぁぁーーっ!──あ……あ、あ…………」


 クリスの瞳にまた光が失われようとする。


 ───



 ──グゥルガアアァァァァァァーーッ!!


 ──キイィィィィン!



 竜の咆哮と魔剣の異音。


 ふたつの音が重なる──そんな中。


「クリス」 


『クリス君』 


 俺達はクリスを抱き締めた。


 そして激しく震える身体を無理矢理止めるように、ギュッと力を入れて抱き締める力を強める。


 やがて落ち着き、震えが止まるクリスの身体。


 今、こうやっている状態では、クリスの身体に心臓はないので、勿論鼓動は感じる事はできないが、息づく命の吐息は確かに感じ取れた。


 ───


「クリス、がんばれっ! お前には私達が、俺が付いている!!」


『勿論、私だっているよっ!!』


 そんな俺達の言葉に、クリスは僅かな生気の灯った目に涙を滲ませながら、上目使いになって呟いた。


「……ほなら……な……デュオ姉に……お願いが……ある……ねん……聞いて……貰える……?」


 息も絶え絶えに懸命で、そして健気なその姿に、俺も思わず胸を熱くする。


「願い事ってなんだ? 聞いてやる! 何だって叶えてやるぞっ!!」


 俺の叫ぶ言葉に、クリスは虚ろな目で微かに微笑んだ。


 その頬には下へと伝う涙が──


「……あのな……ぼ……く……ホンマゆうたら……キスも……した事ない……ねん……そやからな……お願い……最後に……デュオ……姉……と……」


 そのクリスの懇願に、俺が男でその行為が男同士になるとか、この身体がノエルの物で、それには彼女の了承が必要なのでは?─っていう事など、とにかく何も考えてる余地なんてなかった。


 だって、それでクリスが助かるのなら!


 俺の──俺の『存在意義』に意味を成す事ができるのなら!!


 

                   挿絵(By みてみん)


  ───


 俺は自然にクリスの唇に自分の口を重ねた。


『あっ!……ア、アル……』


 ノエルが何か言い掛けたが、途中で言葉をつぐむ。


 ───


 ──キイィィィィン!


 抱き締め合った俺とクリスの身体が、更に輝きを強めた魔剣の青白い光によって包まれた。


 ───


『──グヌオォォッ! グルガアアアァァァァーーッ!!』


 朧気な赤い竜の巨体が、大きく揺らぎなから、悶絶の声を上げる。


 抱き締め合った俺とクリスの直ぐ後ろには、宙に浮く巨大な竜の心臓と化した物を貫いている魔剣が、より一層無機質な音と青白い閃光を更に強めていた。


 そして徐々に心臓は、元の姿を象っていく。


『──グヌオオォォォォッ! 我が身体が、我が力が!……“吸収”されていく! ば、馬鹿な! この様な力など、この世界にあり得ぬ筈が──グオオォォォォォォーーッ!!』


 ──キイィィィィン!


『……おのれ、おのれ! おのれ!! 黒き剣の所持者よ! 汝は何者ぞ!? 否! どういった『存在意義』の者なのかっ!!』


 魔剣から目映いばかりの閃光が溢れ出し、周囲の視界を完全に遮る。


 そんな中、劫火竜エクスハティオの無念なる絶叫と、魔剣の放つ音だけが木霊する。


 ──キイィィィィン!


『我が……我が消滅する……おのれ!! おのれ!! おのれ!! おのれええぇぇぇぇーーっ!!!』


 ──キイィィィィン!


『我を己の我意で創造し、我から自由を奪い、忌々しき封印を施した憎き我が創造主どもよ!! 口惜しや──うぬらが主が創った創造物、世界、そしてうぬら全ての創造主を、我が灼熱の劫火で滅却する事、最早叶わず!!』


 ──キイィィィィン!


『なれど、永久、永遠なぞ絶対にあり得ぬもの。いずれ崩れなくなる運命! 是が非でもだ! いつの時か、我を遥かに超える“存在”が──グヌハハハハハハハッ!!』


 ──キイィィィィン!


『──いずれの時か、我が創造主の産物どもよ! うぬらも我と同じ運命を辿る事になろうぞ!──そして何もなき無の世界へ──!!』


 ──キイィィィィン!


 最後に劫火竜エクスハティオが、嘲笑の嗤い声となるものを吠えた。


『──グヌハハハハハハハハハァァァーーッ!!!』




 ──────────




 そしてやがて、視界を遮る強烈な閃光と、それを浴び続けていた巨大な赤い竜の幻影はなくなった。


 その瞬間、そんな様を伺っていた黒の魔導士アノニムの姿が消えたのを、誰も知る由がなかったのだった。




 ──────────




 閃光が収まり、俺は抱き締めていたクリスの身体をゆっくりと離す。


 俺の目に映るクリス──


 白い法衣の胸の部分は裂けたままだったが、その傷口は完全に塞がっていた。


 そして今は自らの足で立ち、心なしか、少し恥ずかし気にうつ向いている。


「良かった。元に戻れて……本当に良かった」


 俺が呟くようにそう声を掛けると、不意に顔を上げ、クリスは赤く染めた頬で小さな声で答えた。


「おおきに……僕を助けてくれて。長年に渡る火の一族の呪われた呪縛から解放してくれて、ホンマおおきに……」


「いいよ、別に礼なんて。私達、仲間だろ?」


『………』


「……うん。そやけど、お礼が言いたいんや。ホンマにおおきに」


『………』


「だから、別にいいって」


 しつこく礼の言葉を繰り返すクリスに俺は答える。


 何故かこういう場面では、一番喜び、はしゃぐノエルが無言なのが、少し気にはなったのだが……。


「それにな……」


「ん?」


 顔を真っ赤にしたクリスが再びうつ向き、そして呟いた。


「……デュオ姉の唇。メッチャ柔らかかった……僕のファーストキスやねん……」


 ──!!?


 その言葉に、俺がしでかした先程の行為を思い出し、俺が男だとか、ノエルの意思を無視してやってしまったとか……って──いやいやいやいやいやいやっ!


 そもそも俺は、なんであんな事をしてしまったんだっ!


 雰囲気にのまれてかっ!? クリスが可哀想に思えたからかっ!?


 ……まあ、クリスは見た目は完全な美少女だからな……って、バカか俺はっ! そうじゃないだろっ!!


 ──ぐふっ


「まままま、まあ……あれだ。あまり深く考えないように。私もそうするからっ!……うん、是非そうしよう!」


「うん。くすっ……分かってるわ。デュオ姉には他に好きな人おるもんな?」


『え?──あ、あうう……』


 何故か恥ずかしがるノエル。


 ……??


 取りあえず、俺はクリスに声を掛ける。


「さあ、皆の所に行こう。お前の無事な姿を皆が待っている」


「うん、皆のとこへ行こう。デュオ姉──」


 そして俺達ふたりは、皆が待っている場所へと肩を並べて歩き出すのだった。



 ─────




 向かう途中。俺は念話でノエルに謝罪する。


『あの……悪かったな。勝手にあんなことして……』


 その言葉に、彼女はしばらく無言だったが、やがて──


『別に気にしてないよ。相手はいくら可愛いっていったって、クリス君は男の子だし、アルだって別に恋愛感情でした訳じゃないでしょ? それにしたのは私、“ノエル”じゃなくって、“デュオ”っていう存在の女の子だもんね』


 ……へ? こいつは一体何の事を言ってんだ?


『そんな事じゃなくて……何ていうか、あれってノエルにとって初めての事なんじゃないかなぁ~って、何となく気になってさ……』


 その言葉に、彼女は一瞬会話を途切らせた。そして小声で小さく笑う。


『くすっ……私、初めてじゃないよ。さっきのでニ回目かな?』


『えっ! そうなのか……?──って、そうか。確かノエルには、待っている大切な人がいたもんな……』


 何故か嫉妬の気持ちに苛まれ、自然と気分も暗くなる。


『……うん、そうだよ。私のファーストキスの相手はその人。だけど、その事に当の本人は絶対に気付いてないだろうけどね』


 そんなノエルの言葉に、俺は浮かない声で聞き返す。


『へ?……なんで?』


 彼女はまた小さく笑った。


『だって、昔に彼が眠ってる姿を見掛けた時に、我慢できなくて、私が勝手にキスしただけなんだもん。だから、彼はきっと気付いてない。私だけのファーストキスなの』


 ………。


 やっぱり面白くない俺は、思わず不機嫌な声で答えてしまう。


『あーーっ、それはようござんしたねっ! さぞかしその彼ってのは、眠っててすっげーっ残念だったろう~よっ!』


 俺が上げる明らかに不機嫌な念話の声に、ノエルはまるで、しょうがないな~っていう感じで答えてくる。


『ふふっ──ほらっ、やっぱり─“気付いてない”─じゃないっ!……くすっ……あはははははっ!』


『……はあ??』


 意味不明な事を言って、突然楽しそうな笑い声を上げるノエルに、俺は最早訳が分からず、ただ閉口するだけなのだった。



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