128話 小さな王子の大きな号令
今回は話の展開上、少し短い文字数となっております。
よろしくお願い致します。
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少し遅めの朝食、兼昼食を終えた俺達五人は、燻る煙を上げる焚き火の周りを囲うようにして立っていた。
離れた所にキリアの愛馬を含め、計四頭の佇む馬の姿が見て取れる。その内一頭は、リオス王から賜った俺の白馬の姿もあった。
あの馬達はこれからの旅に必要な物だとして、キリア自ら馬を駆り、前日王国軍との戦闘によって取り残され、さまよっていた馬を見付け出して集めた物だった。
ちなみに俺の愛馬である白馬(まだ名前はつけてない。ごめんよ)は、健気にも俺の事を探してここに戻ってきてくれた──この可愛い奴め。お~、よしよし。俺は凄く嬉しいぞ。
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「──という事でレオンさんとキリアさんに、僕達、反乱軍に加わって貰おうと思っているのですけど」
「そんなん勿論大歓迎や、こっちからもお願いするわ──ようこそ、僕らの小さな反乱軍へ!」
コリィの問い掛けに、大きく明朗な声で返事を返すクリス。
それを受けて、無言で小さく頷くレオンと、ニコリと微笑むキリア。
すると、ふとクリスはあごに手を当てて顔をうつ向かせる。何かを思案しているようだ。
……補足でいうと、レオンとキリアの正体は隠して、腕の立つ手練れの傭兵として紹介している。
「……そやな。せっかくやし、ふたりにも何か役職を考えなあかんな……う~ん、そやっ、レオン兄は副リーダー! キリア姉は特攻隊長なんてどないや? さすが僕、見事な人事や!」
ドヤ顔で嬉々として声を上げるクリス。それにふたりが答える。
「異論はない。よろしく頼む」
「私の方もそれで結構です──ガンガン特攻致しますので、期待していて下さいね……ふふっ」
キリアさん……貴女の場合はシャレにならないから、ちょっとその発言は怖いんですけど……。
「………」
……そういえば──
ふと俺はひとつ疑問に感じた事を、クリスに向かって問い掛けた。
「なあ、クリス。私は何の役職だったんだ……?」
その俺の声に、クリスはニヤッとした視線を向けてくる。
「嫌やな~、忘れんといてや─って、ああそうか、今のデュオ姉は知らんのやったな。ほんじゃ、もう一回言うで、我が軍の力の源、食事を一手に担うその総料理長やったやろ──これはデュオ姉が最も適任やん。なあ、今のデュオ姉もそう思うやろ?」
「……成る程、察し……見事な人選、まさにピッタリの役職。クリス、見事な采配だ!」
俺はクリスにニヤリと笑みを返した。
『──なんでやねんっ! アル、そこ納得したらあかん!!』
………。
『……ノエル。訛り移ってるぞ……』
『……む、むきゃ……』
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そして俺達は出発の準備を始める。終えた者から順に、それぞれ宛がわれれた馬に搭乗していった。コリィはキリアと同じ馬に、前に包まれるように乗っている。そんな中──
「デュオ姉、ちょっとだけええ?」
馬に乗ったクリスが、小声でそう言いながら俺の所へと近付いてきた。そして俺にだけ聞こえるように、小さな声で問い掛けてくる。
「今のデュオ姉って、女? 男? どっちなん……?」
そんなクリスの質問の言葉に、俺は一瞬戸惑った。
……今の俺は剣だしな……一応男としての自覚はあるんだが……でも待てよ、俺には剣になる前の記憶が一切ない。って事は、実は男勝りの女でした──っていう事がないとは言いきれなくもない。
……さて、どう答えようか……?
「クリス。お前は私が男か女、どっちだったらいいんだ?」
俺の質問に返す質問に、クリスは目を丸くする。
「そりゃ女の方がええに決まっとるやろ」
「だったら、もうそれでいいじゃん」
「へ……?」
再び目を丸くするクリス──俺は言葉を続ける。
「クリスが女の方がいいって思うんだったら、私は言葉使いの悪い男勝りの女の子──それでいいじゃないか……まあ、単純に私自身、それが明確に分かってないって事だけなんだけど……」
その俺の答えに、クリスはうつ向き、何やらブツブツと独り言を言い始める。
「……確かにそうや。そうさせて貰うわ……ホンワカとした癒し系も好みやけど、僕、実は勝ち気でガサツな姉御肌もメッチャ好きやねん──ふっふっふっ……見といてや。絶対に僕の事、惚れさせてデュオ姉にはタマゴ産んで貰うさかい……ふっふっふっふっ……」
…………?
美しい少女のようなクリスの顔が歪にゆがむ……。
『……あ~あ、やっちゃった。アル、何かクリス君の変なスイッチ入れちゃったね……』
『……ぐ、ぐふっ……』
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やがてクリスが、キリアの前方でその腕の中で一緒に騎乗しているコリィに対して声を上げた。
「ほなリーダー、行くで! 出発の号令バシッと決めてやっ!!」
「──ええ!?……は、はいっ! え、え~っと……」
コリィはうつ向き、モジモジとし出す。
「……ぼ、僕達……小さな反乱軍……何だっけ……え~っと……」
「コリィ、メモ書きしとったやろ? 見てええで」
そんなクリスの言葉に、コリィは顔を赤らめながら懐から一枚の紙切れを取り出した。
コホンとひとつ咳払いをし、真剣な面持ちとなる。そして──
「僕達、小さな反乱軍はこれよりアレン王子奪還作戦を開始する! 目指す目的地は王都バール、皆の健闘を期待する!──いざ出陣!!
小さな王子の大きな号令──
それに対してメンバーが、それぞれそれに応じる言葉を同時に発した。
「──了承した」
「了解致しました。粉骨砕身で参りましょう!」
「ようがんばった。コリィ、ほな行くでっ!」
「よしっ、私達も行くぞ!」
『うん、そうだね。アル!』
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コリィを乗せたキリアの馬が先頭に、俺達はその後に続いて馬を駆る。
──そして始まる。小さな王子の小さな反乱が──
…………。
「──いざ行かん! 新しい未知なる冒険へ!!」
『……アル、今回、それ二度め……』
……ぐふっ……っていうか、別にいいじゃんよ……。
『でも、まあ今回は馬の蹄の音で誰も聞こえなかったみたいだよ~、良かったねアル、恥ずかしい思いをしなくて済んで──うんうん、本当に良かった……くすっ』
『ノ、ノエル……てめぇ……』
しかし何も言い返せない俺であった──ぐすん。