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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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127話 目覚め

よろしくお願い致します。


 ──ハッと意識が戻る。深い眠りから目が覚めたのだと自覚する。


 ─────


 昨夜あの後、気持ちのわだかまりも消え去り、互いに微睡みに恵まれる事になった俺達は、寝床へと帰った。

 寝床となる壁の大穴の前で炊かれた焚き火──レオンはまだその傍らに座り込んでいた。そして前と同じく、自らの剣を研ぐ作業を黙々と続けている。


 ──シャッシャッシャッ─


 ……もしかして、ずっとやり続けていたのだろうか……?


 よく見ると、彼の足元に磨り減った白い砥石が三個程転がっていた。


 ……レオンって──い、いや、取りあえず今夜はもう眠ろう。すっごく眠い……。


 そして俺はレオンに一言帰った事を告げ、再びコリィと同じ毛布に入って、そのままひたすらに眠ったのだった。


 ─────


 長く眠ったような気がする。そして今は寝転んだ状態で、まだ目を閉じたままその余韻に浸っている……。


 そんな時、直ぐ近くで聞いた事のない声が聞こえてきた。


「キリア姉、聞いて欲しい事があるんやけど……」


「はい。何でしょうか? クリスさん」


「──僕のタマゴを産んでくれへんやろか……?」


 へっ……?? 何だコレ……夢? 俺はまだ眠っているのだろうか……?


 そう考えている俺の頭の中で、ノエルの声が聞こえてくる。


『あ~あ、またやってる……クリス君も懲りないな……』


 ノエル、起きてたのか……。


『ノエル、おはよう』


『おはよっ、アル』


 彼女と朝の挨拶を済ませた俺は、目を開きムクリと上半身を起こした。そして先程の声がしていた方へと目を向ける。


 そこには美しい顔をした女の子……もとい、男の子クリスティーナが、キリアに対して真剣な眼差しを向けていた。

 ふたり共に座り込み、その互いの距離は近い……見つめ合っているようにも見える。


 ……このふたり、一体何やってんだ?──そう考える俺にキリアの声が届いてくる。


「ありがとうございます。クリスさんのその気持ち。とっても嬉しく思います……だけど、私は既に夫がある身──それを受け取る事はできません。ごめんなさい」


「そうなんや、残念。でも気にせんとって、これって僕の口癖みたいなもんやさかい」


 そう言いながら、クリスティーナはニコッとキリアに対して笑ってみせていた。


『えっ……嘘っ、クリス君のあの口説き文句が、まともに通用してるなんて……そんな……信じられない……』


 ふたりの様子を俺と同じく目にしていたノエルがそう呟く。


 俺はただ──???──だった。


 やがてクリスティーナが俺に気付き、目を輝かせながら駆け寄ってきた。


「──デュオ姉っ!!」


 クリスティーナの大きな声に応じ、俺は何も言わず、微笑みながら手を上げて答える。


「デュオ姉もどないもなかったんやなっ! 僕がこうやって生きとれてんのもホンマ、デュオ姉のおかげや!!──って……あ、あれ……?」


 傍にきていたクリスティーナの俺に対して向けられる視線が、疑惑のものと変わっていく。そして怪訝そうな表情で呟くように言った。


「……あんた誰やねん……?」


 俺は浮かべていた笑みをひきつらせてしまう。


「……なんや今までの僕が知っとるデュオ姉と雰囲気……いや、メッチャ凄い気配や! まるでちゃう……別人みたいや……」


 何か癖のある変な言葉使いだが、彼も『守護する者』──その洞察力はやっぱりさすがだ。思わずクリスティーナの事を賞賛した。


「デュオ姉はそんな凛々しくて、精悍な顔付きなんてしてへん! 頭のアホ毛もいつもは前に垂れ下がってんのに、今はなんやっ、後ろに反り返るようにおっ立ってるやん!……ちゃう……こんなんちゃう……デュオ姉はもっとこう、のほほんとしとって、お気楽ちゅうか……とにかく天然キャラやった筈や!!──デュオ姉は何処っ? 僕のカワイイデュオ姉は、何処にいってしもたんやーーっ!!」 


 ……前言撤回だ……。


「お前それって、最早気配とか関係ないじゃん! 見た目だけで言ってるだろっ!!」


『うぐぐっ、確かに……クリス君、私に対して、かなり失礼な事を言っているよねっ!!』


 俺とノエルが反論の声を上げる。


「へ?……な、なんや、急にどないしたん?」


 ……ああっ、もう面倒だ!


 俺は地面に置いてあった自身と繋がっている魔剣を手に取り、クリスティーナの前へと突き出す。


「見ろ、この黒い剣。それと私の右目を!」


 その声にクリスティーナは剣、そして俺の紅い瞳の右目を順に、確認するように視線を送っていく。


「そうなんや……デュオ姉、やっと剣とごっつい力。取り戻しよったんやな……」


 そう呟くクリスティーナに、俺は手を差し出した。


「ほんじゃ改めて──私の名前は、デュオ・エタニティ。君の事はもうひとりの私から色々と聞いている。君が知ってるデュオが世話になった。礼を言うよ、ありがとう。これからもよろしくなっ、クリス!」


 そして歯を見せて、ニカッと笑ってみせた。


「……な、なんやねん。その爽やかなイケメンスマイルは……なんや色々とようさん納得でけへん事だらけやけど……取りあえずはええわ」


 俺とクリスはガシッと握手を交わし合った。


 ─────


『アル、あのね……ゴニョゴニョ──』


『ああ、了解』


 ─────


「クリス。もうひとりの私が、“お互い無事で良かったね。これからもよろしくね、()()()()。”──だってさ、心配すんなよ。私達は好きな時にいつだって入れ替わる事ができる。その内、また会わせてやるよ」


 手を握り合ったまま、クリスが答える。


「うん、よう分かった……前のデュオ姉にも聞こえてんのやな……僕の方こそ改めてよろしくや!」


 そして握り合う力を強くする。


『ねえ、アル。もう一回いい? あのね……ゴニョゴニョゴニョ──』


『……へ?』


『だから……ゴニョゴニョゴニョ──』


『……何だソレ。そう言えばいいのか?』


『うん、そうだよ』


 ……何か全く意味が分かんないんだけど……


 そう考えながらも、俺はノエルに言われた通りの事を実行する。手を握り締めたまま、クリスの顔を真剣な眼差しで見つめた。そして──


「クリス。私に例の口説き文句を言ってくれ……」


「へっ、な、なんでなん?」


 急に狼狽え、目を泳がすクリス。


「いいから言ってくれっ」


 すると、クリスも真剣な面持ちと変え、俺の目を見返すように見つめてくる。やがて発せられるその言葉──


「……デュオ姉。僕の……僕のタマゴを産んでくれへんやろか?……いや、産んでくれ──!」


 ……???……。


 ……俺が……こいつの……タマゴ?……産む……?


 ……タマゴ……?


 全く訳が分からなかった……ただひとつ、俺はその言葉に変な想像をしてしまっていた……。


 ─────


 黒い剣である俺が、夜の砂浜で一生懸命に力を込めている……下品な例えだが、それこそ大きい方の用を足す時のように──やがて剣の柄の方からコロンと音を立て、黒い色の可愛らしい小さなタマゴが産み落とされた。

 そして勿論、出る訳がないのだが、黒い剣の目にあたる紅い宝石部分から、流れる一筋の涙──剣である俺は、触手で砂浜を掘り起こし、その中に産み落としたタマゴを隠して、再び触手で上から砂をかけ、我が分身となるタマゴが完全に隠れるまで、そんな作業をずっと続けていた──今生の別れを悲しむ涙を流しながら……。


 ─────


 そうなのだ。海亀の感動的なあの産卵の情景を、黒い剣の姿をした俺と置き換えてしまったのだった……その結果──


「──ぶっ! あはっ、あはははははっ!!」


『──くすっ……あはっ、あはははははっ!!』


 俺は堪らず、大爆笑の声を上げてしまった。何故かノエルも俺の中で笑い声を上げているようだった。


 そんな様子に、クリスが両頬を膨らませ、ジットリとした目で拗ねたように言う。


「あ"ーーっ、やっぱ笑いおった……通用せえへん。はぁ~、ホンマ自信なくすわ。もう嫌やこの人……でも、そやな……今ので分かったわ。あんたもやっぱりデュオ姉やわ」


「あはははははっ!」


『あはははっ! あ~あ、ホントいつ聞いても可笑しい!』


 俺達、ふたりはまだ笑い続けていた。そんな笑い声の大きさに、ビックリしたように飛び起きたコリィが、隣で唖然とした表情を向けている。

 一方のキリアは、笑顔で微笑ましそうに俺達三人の姿を眺めていた。


 そしてレオンはというと──


 ──シャッシャッシャッ─


 燻る焚き火の傍に座り込み、未だ彼はその作業を続けていた──足元に転がる磨り減った白い砥石。その数もかなりの量だ。


 ……この人って……もしかして……。


 不意にレオンは手を止め、長剣を天に掲げる。


 キラリと輝く白銀の刀身──“真刀ハバキリ”、確か、キリアがそう言ってたな。


 レオンは手にした長剣の刀身に、下から上へと真剣な眼差しを向けていた。


「ふむ、いいだろう。こんなものか……」


 彼の呟く声が聞こえてくる。


「得心した。実に充実した時だった……」


 ……げげっ、レオンって、やっぱり……間違いない極度の愛剣武器嗜好家(フェティシズム)だ……そ、そんなっ、このメンバーで、唯一まともな人物だと思っていたのに!


 ──あっ、勿論、俺も変わり者ね? だって剣だもん。


 俺に気付き、声を掛けてくるレオン。


「デュオか。どうだ、昨夜は良く眠れたか?」


「私は良く眠ったけど、レオンは?……もしかして、あれからもずっとやってたの?」


「眠ってはいないが、今の俺は心身共に充実感で満たされている……すこぶる好調だ」


「……そ、そうなんスか……」


 俺は呆れるように呟いた。


 そんな中、壁穴から外へ、クリス。キリア。コリィの三人が揃って出てきていた。


 俺はそんなメンバー達を見回しながら考える──


 ミッドガ・ダル戦国、元国王であるレオンハルト。その配下で、自称妻の“粉砕皇女”の異名を持つキリア。


 火の一族の長であり、『守護する者』クリス。


 そして小さい子供ながらも勇敢なこのノースデイ王国の王子であるコリィ。


 ……確かにそうそうたるメンバーだな。だが……俺は知っている。


 ─────


 レオンハルト──その実、一晩中さも当たり前の如く、平然と自身の剣を研ぎ続ける程の『愛剣フェチ』──


 キリア──言葉使いも丁寧で、やさしく美しい淑女なのだが、レオンをして『人間族最強』と言わしめる程の力を有している女騎士の一面も持っている──


 クリスティーナ──こいつに至っては先程の事で良く理解した。凄く女好きな、それでいて美しい少女の容姿を持っている言葉の訛りが酷い『無自覚男の娘』──


 そして少し食い意地の張っている、元気で明るい『天然系女の子』、ノエル──そんな彼女と身体を一体化している最早、人間ですらない無機物の『漆黒の剣』である、俺──


 ……まともなのって、コリィだけじゃないか──


 ─────


「……変わり者ばっかだな……」


『えっ、何か言った? さっき何となく少しバカにされたような気がするんですけどっ!!』


 おっと、いけない声に出してしまっていたか……でも、そうだな……。


『ふふっ、いや、この小さな反乱軍だっけ? 凄いっていうか、個性的なメンバーだなっ! ヤバい、俺、何かワクワクしてきた!──いざ行かん! 新しい未知なる冒険へ!!』


『はぁ~、別にいいけど、アルってホント好きだね。その台詞──』


 ……しまった! 流れで今回は普通に言ってしまった……。


 だが、ノエルは突っ込んではこない──ので、良しとしよう……うん。


『で……言った事に、後悔はしてないんだね?』


 ……ぐふっ……。



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