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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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123話 王都バールに向けて

よろしくお願い致します。


 ─────


 仮面の男の敗走──それにより王国軍は総崩れとなり、戦いは我らの勝利となった。


 やがて、私の前に若い竜人(ドラゴニアン)の兵士が姿を現した。


「敵兵をひとり、捕虜としました。風貌からするに指揮官級の者かと……」


「分かった、会おう。ここに連れてきてくれ」


「──はっ!」


 しばらくの後、私の前にひとりの男が引き出されてきた。私の右側にヤオ、左側にはカマールが共に後ろで控えるように立っている。


 そんな中、両手を後ろに束縛された男が地面に膝を着いた。その者が纏っている鎧は、王国一般兵の物とは少し形状が異なり、施された立派な装飾なども見受けられる。


 ……成る程、あの若者の言う通り、王国軍指揮官のひとりなのだろう。


 地に両膝を着いた男が声を上げる。


「……私の今の立場は捕虜となっている。だが、その扱いは軍を持つ国同士で軍律として定められている……勿論、私の身も保証されるのであろうな?」


 少し強い語気で放たれる男の言葉に、私は答える。


「言っておくが、我々は国を保持している訳ではない。そもそも戦争を行う軍隊でもない……だが、己が身を案ずる必要はない。我らはそなたの命を奪うような事などしない──」


 私は男に向ける視線を、鋭いものへと変える。


「お前が知っている情報を全て我々に提供する──それを拒まぬ限りはな!」


 少し怒気のこもった声に、男の身体が一度、大きくビクンッと震えた。


「──あ、ああっ、勿論話す! 私が知る全てを話すともっ!!」


「それではそなたに三つ質問をする。それに答えられる内容に、私が得心を得られれば、そなたを解放すると約束しよう」


 私は三本の指を立てた。


「まずひとつ。そなた達ノースデイ王国軍が、何故あの仮面の男と行動を共にしていたのだ? その理由を知りたい」


「それは……我が王が奴らを傭兵として雇ったからだ。奴らは元々、敵対していたミッドガ・ダルの兵士だった。だが、奴らは自らが持つ異常な力に、味方から不審に感じられミッドガ・ダル軍から追放されたと聞いている。奴らは我が王の元を訪れ、傭兵になる事を志願した。それに対し、我が王が応じた……それだけの事だ」


 私は立てていた指の一本を折る。


「では次にふたつめ。そなた達も知ってようが、火の寺院の主、“クリスティーナ・ソレイユ”。()の者が消息を絶っている。その件について何か情報を知り得ぬか? 先程までそなた達が展開していた軍勢。それは、あの仮面の男の指示でその者の捜索をする為のものではなかったのか?」


「……我々の軍勢が出立した要因は主ら、寺院の竜人(ドラゴニアン)族に対応する為だ……それとお主の言う通り、クリスティーナ。その人物の捜索も我々に下された命令に含まれている。そして……その人物の行方は未だ不明のままだ」


 ……確かにこの者の言葉に偽りはないのだろう。実際、先程の王国軍勢にあの仮面の男の姿があったのだから──という事は、奴らもまた、見つけ出すまでには至ってないのだろう。


 私は続いてにほんめの指を折る。残るは後、一本。


「最後にひとつ。王国第一王子、アレン殿は無事か? そして無事ならば、何故未だに処刑が執行されないのだ?……何かあるのではないのか、王都で何が起こっている?」


 その質問に対してだけは、男はバツが悪そうに顔をうつ向けながら答える。


「……アレン王子はまだ無事だ。処刑が行われない理由は──私は……知らないっ、知らんのだ!……さあ全部話した。もういいだろう、解放してくれ! これ以上は無駄だ!」


 そう声を荒らげながら、束縛された男は立ち上がった。


「……お主はどう思う、ヤオ」


 私はヤオに向け、問い掛ける。


「そうですな……偽りを申しているのか、ひとつ試してみますかな」


 ヤオは左側に立つカマールに目配せをしながら声を上げた。


「カマール。ぬしの出番だ」


 その言葉を受け、カマールの厚化粧の顔が、不気味と感じるニヤッとした笑みを浮かべた。


「あらん、ヤオ様。あたしで宜しいのかしら?」


「構わぬ。どうせぬしの得意分野であろうが」


「あはん、よくご存知で──うふふふふふ……」


 そしてカマールが先程の執事姿の従者を引き連れ、束縛された兵士の男の前に進んで行く。


「……な、何だ、お前は……?」


「あたしの名前はカマール・ダンディーノ。この名の通り火の一族の中で一番ダンディー、かつ可憐な淑女よ──今から貴方に今までに感じた事のない絶頂を感じさせて、あ・げ・る……うふふふふ」


 カマール、その男は顔を紅潮させ、両手で自身を抱き、身体をクネクネと揺らしながら、一言喘ぐように呟いた。


「ああんっ!──エクスタシーいぃんっ……」


 そんな奴の声に、私の額に青筋が浮かび上がるのを感じる……沸々と沸き上がってくる衝動。


 ──やはり、こやつにグロリアスをぶっ刺してやりたい!!


 束縛された男は唖然として固まっている。


「そうねぇ……あれは昨夜の事だったわ。あたしの愛用していた(ドラゴン)の皮製の抱き枕が、音を立てて破裂しちゃったの……パアッンって。ねえ、セバッスチャン?」


「はい、カマ様。あれは物凄い破裂音でした。まさしく──パアッン!!─でした。カマ様、少し強く抱き締め過ぎなのではございませんか?」


 カマールの後ろで控える執事姿の男がそう答える。


「う~ん、そうなのかしら……でも、そうねぇ、そこに縛られている男。何か立派なそうな鎧を付けて硬そうだし、取りあえずの代用品に使えそうじゃない? 顔はあたしの好みじゃないけれど──ねぇ、そうは思わないかしら、セバッスチャン?」


「そうでございますね……カマ様の抱き枕としては、少し硬度が足りないように思われますが、どうせ仮の物なので、それで良いのではないのでしょうか?」


 セバッスチャンは言葉を続ける──とても残酷な一言を。


「まあ、どちらにせよカマ様の一度の抱擁で──パアッン!!─っと破裂でしょうが……」


「うふふふふ、じゃあ決まりね。せっかくだから、今から早速試してみようかしら?」


 カマールは満面の不気味な“いやらしい”笑みを浮かべ、自身の剥き出しの毛むくじゃらの太い両腕を突き出して、束縛された男へと迫って行った。


 恐怖に顔を歪めながら、それから必死で逃れようと足掻く、兵士の男──だが、そんな抵抗むなしく男の両肩をカマールの大きな手が、ガシッと捉えた。


 兵士の男の表情が、恐怖から絶望へと変わっていく。


「──ひいいぃぃーーっ!! 分かった! 話すっ、全部話すっ、だから助けてっ、誰か助けてええぇぇーーっ!!」


 男の絶叫が響き渡る。


 そんなやり取りを目にしていた私は、心の中で感嘆の声を上げていた。


 ──カマール・ダンディーノ。先程の戦闘といい、今の尋問の手際の良さといい、只者ではない。優秀な人材だ。ヤオもそうだが──クリス。あいつは実に良い部下に恵まれたものだ。まあ──


 “超ド級の変態”だが……。


 やがて、恐怖で顔をひきつらせた男の口から、堰を切るように言葉が発せられる。


 ─────


 その概要は──ノースデイ国王の実子である、第二王子コリィ・ジ・ノースデイが、数日前から行方不明になった事。

 実は我々に対応する為だけではなく、その捜索の為に王が王国軍を派遣した事。


 そしてコリィ王子が人質となるのを恐れて、迂闊に手が出せず、アレン王子の処刑が見合わされている事──


 ─────


「さあ、私の知っている事は全て話した……もういいだろう? 頼む、早く解放してくれっ!!」


 話終えた男が、怯えた目線をチラッとカマールに送りながら大声を上げる。


「ああ、分かった。解放しよう──カマール、その者の束縛を解いてやってくれ」


 そんな私の指示に少し不満そうな表情を浮かべるカマールは、男の両手に縛られた束縛を解く。


「あらん……残念ね。せっかく代わりの抱き枕が手に入ったと思ったのに……だけど、この次に再び貴方と巡り会える機会があったのなら……その時は思いっきり抱き締めてあげるわね──うふふふふふ」


 束縛された縄をほどかれ自由となった兵士の男は、全速力でこの場から逃げ出した──それこそ飛ぶような勢いで。


「──ひいえぇぇーーっ! お、お助けええぇぇーーっ!!」


「あらやだ。そんなに喜ばなくっても……カワイイわね」


「──いや、どう見たって喜んでないだろっ!!」


 ……私とした事が、思わず突っ込みを入れるという行為をしてしまう──恐るべし、さすが火の一族最強の“オカマ”──!!


 この場から遠ざかる捕虜だった男の背中から視線を外し、私は右側のヤオに顔を向ける。


「聞いての通りだ……第二王子、コリィがどういった経緯で行方が分からなくなったのか、そこが気に掛かるが……取りあえずはアレン王子はまだ無事のようだ。であるならば、我々は当初の予定通り、王都バールへと向かおうと考えているのだが……」


「確かにコリィ王子が行方不明となっている今が、その好機だと思われます……それに、コリィ王子が不明となっている件に、ひとつ心当たりがありますが……」


 それを聞いたヤオが、あごに手を当てながら思案顔でそう答える。


「……何だ?」


「はっ、実はクリスティーナ様の側近、名をキースと申す者が長期に渡り、間者として王都に潜り込んでおりまして……もしやすれば、()の者の手によっての事かも知れませぬ」


「……それはコリィ王子を人質として連れ出したという事か?」


「さて、それは私にも分かりかねます……どちらにせよ実態は我々にとって有利となっている。それは変わりますまい」


「確かに──その通りだ」


 そして私はこの場に集まった火の一族戦士達に向け、一度ぐるりと周囲の者、全員と目を合わせるように見渡した。


「皆、聞いてくれ。捕らえられているアレン王子はまだ無事との事だ! そしてその処刑が行われる事は、しばらくの間、絶対にないといえる。であるならば、このまま王都バールへと向かう事がクリスティーナと合流する最良の方策だと私は考える!」


 ──“応!”──


「クリスティーナを狙っていたと思われる最大の脅威であった仮面の男も、先程の戦闘に於いて敗走した。その後を追い、我々も王都へと向かう! もう一踏ん張りだ! クリスティーナを救い出す、その時は近いぞ!!」


 ──“おおおぉぉーーっ!!”──


 私の上げる激に対して、周囲から火の一族戦士達、奮起の声が一斉に上がった。



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