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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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122話 『守護する者』──その名に懸けて

よろしくお願い致します。


 カマールと仮面の男が対峙している場所に割り込んだ私が、そう声を上げた。


 発せられた声に反応し、カマールはピタリと動きを止める。そして私に向かって振り返った。


 その厚化粧の顔は──頬を赤く染め、歓喜の心に満ち溢れた表情を浮かべていた。


 ──ゾクッ─


 私の身体に違う意味合いの戦慄が走る……。



 ──気色悪っ!!



「いやんっ、嬉しい! フォステリアお姉様……お姉様にあたしの名をお呼びになって頂けるなんて……あはん、このカマール。と~っても幸せですうぅぅ~っ!!」


「………むぐっ!」


「あっは~ん──エクスタシーぃん……!!」


 ……こやつにグロリアスをぶっ刺してやりたい……!


「──誰が“お姉様”だ!! というか、お前と私は今日が初対面だ!!」


 余りの見苦しさに、思わず大声を上げてしまう……いや、カマール。お前のそのド変態過ぎる言葉使いと態度のおかげで、私の方がどうにかなってしまいそうだ……。


 ──コホン。


 軽く咳払いをし、何とか冷静さを取り繕う。


「カマール。お前には悪いが、ここは一度下がってくれ。仮面の黒い鎧の男……奴に私は、雪辱という借りがある。それに自惚れのつもりはないが、この中で奴の相手が務まるのは、おそらくは私だけだろう」


「……お姉様?」


「すまぬが退いてくれ──奴の相手は私がする!」


 その私の声に、カマールは仮面の男へと軽く視線を送る。


「……どうやらそのようですわね。悔しいですが……ここはお姉様にお任せ致しますわ。どうか、充分にお気を付けて下さいまし……」


「ああ、すまぬ……それと何度も言うが、お前にお姉様などと呼ばれる筋合いはない!」


 ……はあ~、疲れる。


 そしてカマールは執事姿の部下と共に後方へと下がる。それに入れ代わるようにして、私は前に馬を進めた。


 余計な心労を受けてしまったが、さて──


 私は精霊の刺突剣、グロリアスを構えた。


 それに対応し、ゆっくりと長槍を構える仮面の男。


 私と仮面の男は、敵味方入り交じった兵士達に囲まれた空間の中で対峙する形となった。


 私は仮面の男を睨み付ける──


 ……レオンハルト。あいつは私に、“仮面の男には敵わぬから絶対に相手をするな”──そう助言した。


 だが、私も『守護する者』、それに選び出された者だ。自身の持つ力、侮って貰う訳にはいかぬ──それに、何より自らの目的の為、今が我が力を示すその時!


 手に持つグロリアスが、再び青白い輝きを放ち始める。


「待たせたな。仮面の男──いや、我らが敵『滅ぼす者』、今度は全力でかからせて貰う!!」


「いいだろう──かかってこい!!」


 声を放ち、自身の乗る馬を突出させた私は、仮面の男と激しくぶつかり合った。


 手にあるグロリアスが、青白い光の尾を引きながらの連続の突きを繰り出す!


 それに対し、仮面の男も手に持つ長槍で素早い突きを放ってくる!


 ──ギイィィン、ギイィィン、ガアイィィン─


 激しくぶつかり合う金属音が、手に持つグロリアスの振動と共に感じ取れる。


 しばらくの間、互いに持つ武器の打ち合いは続いた。


 ……私と奴、両者の持つ武技の力は今の所は均衡している……いや、力では少し圧されているか……?


 ──ならば!


 私は奴が繰り出す槍の一撃を、グロリアスで払う事を止め、身を捻ってかわす。不意となった行動の隙を突き、次に馬上へと立った──そして宙へと高く跳躍する!


 頂点でくるりと宙返りをし、下方に見える仮面の男に向けて、グロリアスを持たない左手のひらを突き出した。

 ──手のひらの先に浮かぶ緑色の魔法陣。


「受けろっ、疾風の暴風雨──螺旋の矢(スパイラル・アロー)!」


 下方に放たれる無数の風の矢、それがひとつの巨大な渦巻き状となって仮面の男に向かい、迫っていく!


 その渦巻き状の風の矢によって視界が悪くなり、私の目から仮面の男が消える。そんな中、宙から舞い降りながら、私はもうひとつ、精霊魔法の詠唱を始めた。


「──悠久なる風の王、ジン。我が呼び掛けに応じよ! そして己が持つ強大な爆風の力を我に示せ!」


 詠唱を終えた私は地面に着地する。


『──呼び掛けに応じ、主の元、我、罷り越すもの也──』


 音のような声を発した者が、私の右後方に姿を現した。


 揺らめく半透明の緑色の体色をした細身の巨人──そんな姿の者が、両腕を組ながら宙に浮いている。


 風の上位精霊、風の王(ジン)だ。


 私は前方で風の矢の渦によって攻撃を受けている仮面の男を注視する。


 やがて放った魔法の力が弱まり、男の姿が明確に捉えられるようになった。


 仮面の男──奴は槍を持つ両手を交差させ、以前と変わらぬ姿で馬上にいた。その身体の周囲に、何か黒い光を放つ多数の壁のような物が、男を守るように囲っているのが確認できる。

  

 ……やはりこの程度では倒せぬか……。


 私は周囲に向かい、大声を上げた。


「この場にいる者、敵味方は問わん! 即座にこの場所から離れろっ、場合によってはこの付近一帯が焦土となるやも知れん! 急げ!!」


 その声を受け、戸惑いながらも離れる竜人(ドラゴニアン)族達。そして恐怖の対象から逃れるようにして、慌てて離れ出す王国兵士達。


 誰も周囲付近にいなくなったのを確認した私は、ジンに向かい命令する。


「ジン、放て──爆風!」


『──御意─』


 風の上位精霊、ジンの突き出した手から竜巻が発生する。それが縦から横倒しと形状を変え、速度を上げながら仮面の男へ向かい、伸びていった!


 透かさずそれに合わせ、私も男に向かって駆け出す!


 仮面の男は手を伸ばし、黒い魔法陣を出現させる。そして再び奴の身体を囲むようにして現れる黒い壁。


 ……やはり何か防御系の魔法か──だが


「──これならどうだ!」


 私は男の手前で宙高くへと跳躍する!──宙に浮く私の身体。その真下にジンの放った竜巻の帯が通り過ぎ、仮面の男に直撃した!


 それを受け、ミシッミシッと男を守る黒い壁が軋む音を立てる。そして次に──


 上空から私が、手に持つグロリアスの連撃を放つ!


 上方からの連続攻撃、そして後方から尚も放たれ続けるジンの魔法。その両方の攻撃を受け続け──


 ──パリン─


 僅かな音を立てて、黒い壁のひとつにヒビが走った。


「──ぬっ?」


 私の連続突きを受け払っていた男の槍の動きに、微かな隙が生じる。


「そこだ──!」


「──!?」


 黒い壁を突き破った刺突剣グロリアスが、仮面の男の右肩に深く突き立てられた!──ズブリと私の手にその感触が伝わる。だが──


 男は肩から血を流しながらも、グロリアスを左手で掴み、抜きながら、それを手に持つ私ごと打ち捨てるように横へと投げ飛ばした!


「ぬんっ!」


 男の発する気合いの声を耳にしながら、私は体勢を建て直し、地面に着地する。


 そんな様子の私に、仮面の男は淡々とした口調で声を発した。


「やはりさすがだな……『守護する者』、その名を冠するのは伊達ではないといった所か」


 男の放つ気配に変化が感じられる。


「“殻を破る”──その行為は敵わぬが、今の“俺”が持つ力。その全てを以てお前と当たる事としよう」


 そして手に持つ長槍で私の方を差した。


 ……そうか、やはりお前は全力ではなかったのだな……ならば! 私も──


 突き出した私の左手のひらに現れる緑色の魔法陣。


「──華麗なる風の戦乙女エアリアル! 我が呼び掛け応じ、汝再び我が前へとその姿を現せ!」


 そして舞い上がる複数のつむじ風と共に姿を現す、白銀の鎧を纏う麗しい乙女。


『──召集に応じ参上致しました。我が主─』


 もうひとつの風の上位精霊である風の戦乙女(エアリアル)──先の獣王バルバトスとの戦闘に於いて失い、新たに再契約を完了させた者だ。


 私は手に持つグロリアスを、払うように斜め下へと振り下ろした。


 ──ヒュンッ─


 そして構える──それに呼応し、青白い輝きを強める精霊の刺突剣グロリアス。


 私の背後には、並ぶ対を成す存在である風の上位精霊、ジンとエアリアルの揺らめく姿が──


「ならば『守護する者』──その名に懸けて私、フォステリアも持てる全ての力でそれに応えよう!」


 ────


 互いに只ならぬ力の気配を発しながら、睨み合い、相手の出方に全神経を集中させる。


 そんな最中──


「!?──ぐっ、ぐうおぉぉっ!!」


 突然仮面の男が、呻き声を上げ、胸に手を当てながら苦悶の状態となった。


「……右翼、殻を破ったのか?……しかもなき者とされるとは──ぐっ、ぐうあぁぁっ!!」


 男は馬上で更に苦しみ出し、遂には自らの頭を両手で抱える。カランッと音を立て、手に持っていた長槍が地面に落ちる。


「……ぐっ、ぐぬぬ……左翼。まさかお前までもか……」


 仮面の男は何かの言葉を呻きながら、苦しそうに身体を小刻みに震わせ続けていた。


「……『異端の力』、少し侮っていたか……ぐう……こうなってしまえば最早、是非もなし……」


 不意に馬を踵を返し、この場から離脱する仮面の男。駆け離れていくその姿は、胸に手を押し当てながら苦しそうに肩で息をし続けていた。


 そんな男の姿に、私はただ立ち尽くしていた。


 ─────


 ……いくら騎乗しているとはいえ、追おうとすれば容易に追い付く事ができるだろう。そして弱っているあの状態ならば、止めを刺す事も可能だったかも知れない。だが──


 いくら敵といえど、人の格好をした苦しくもがくあの姿が、その昔、旅先の戦場跡で目にした、戦争に巻き込まれ苦しんでいる民草とだぶり、身体を動かす事ができなかったのだった。




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