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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
2章 蜥蜴の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)
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9話 トカゲと少女の心理戦

よろしくお願い致します。


 ───


 ロッティと名乗った小さな女の子は、俺の鼻の上に座り込む。


 ───


『え~っと、ここにいるっていう事は、あなたが選ばれた勇者様だって事でいいんだよね? お名前は何て言うの?』


 ………。


 言葉が話せるっていう事は、会話ができるって事だよな。という事は……。


『ねぇ、聞いてるの? ねぇってば!』


「──あ、あの、質問があるんですがっ!」


『はっ──はいいいぃぃぃ~~っ!?』


 思わず興奮して急に話し出した俺の大きな口の動きに合わせて、座り込んでいた女の子の小さな身体が、ポワンと上方に大きく弾む。


「ここはどういう世界なんですかっ!? ここは何処なんでしょう!? それと、人が住んでいる村か街へはどう向かったらいいんですかっ!? えーっと、後は──」


『えっ……あの、ちょ、ちょっと待って待って!』


「それと、えーっと、それからそれから……」


『だ・か・ら、ちょっと待っててばっ!!』


「──う、うぐっ」


 ………。


 あっちゃ~~っ、やってしまった。思わず会話ができるという事が、あまりに嬉し過ぎて!


 俺のバカちんめ──ぐ、ぐふっ。 


 改めて女の子の姿を見てみる。


 ───


 エメラルドグリーンのウェーブがかったロングヘアーに蒼玉色そうぎょくしょくの大きな瞳。心なしか耳の先端が少し尖っている。

 10歳くらいの可愛らしい女の子。白いワンピースを身にまとったその身体が、フワフワと宙に浮いていた。


 頭に思い浮かぶ通りの精霊像。


 ───


『あ~、びっくりした。あなたって、リザードマンなのに言葉が話せるのね。勇者って、なんでもアリなんだ』


「えっ、でも、それは君から話し掛けてきたから」


 ん?……俺は何を見当違いな事を言ってんだ。そうじゃないだろっ!


 精霊の女の子、ロッティはいぶかしげに首をかしげる。


『ん~……まあ、いいか。これはね、別に会話をしている訳じゃないんだよ』


「へ?……どういう事?」


『これは私が、あなたの心に直接語り掛けているの。つまり『念話』ってやつ。でも、あなたが言葉を話せるのなら、もうその必要もないわね』


「へぇ~、便利なもんがあるんだな。できたら、もっと早くに君と出会いたかったよ」


「えへへ~、それは光栄です、勇者様。ちなみにこれはもう、普通に喋ってるんだよ?」


 そう言うと彼女は空中でくるりと一回転し、俺の右肩の所まで飛んできて、そのままその場所に座り込んだ。


「まあ、いいわ。あなたにも何か事情があるみたいだし、私が分かる範囲でのことで良ければ、教えて上げる」


「本当っ?」


「えぇ、本当よ。ただし、後で私の質問にも答えて貰うわよ。あなた、何だか(しゅ)様からお聞きしているのと、大分様子が違うから」


 げげっ、この子なんかやっぱ鋭い。うーん、それにそれってどうだろう? まあ、その時はあくまでリザードマンとして、何とか誤魔化すか。


 俺は視線を右肩に座っているロッティに向け、質問を始める。


「それじゃ、まずこの世界は何処?」


 ロッティがまず怪訝けげんそうな表情をする。次に苦笑しながらそれに答えた。


「う~ん、そうね。この世界には四つの元素を司る大精霊様がいらっしゃるの。地・火・風・水、その主様達が世界を創造し、この“アースティア”っていう世界がある。あなたの言う何処っていう答えにはなってないけれど、それが今、私達がいる“ここ”。これでいい?」


「次にこの場所は? それと人が住んでいる所はどの辺りにあるんだ?」


 この質問に対しては彼女は、少し困ったような表情を浮かべる。


「その事に関しては、私も良く知らないんだよね~。だって、勇者様の案内役として、最近生み出されたばかりだから。でも……」


 ロッティは再び飛び上がり、今度は俺の目と鼻の中間辺りに座り込んだ。


「ここは人が住んでいる大陸から遥か彼方にある人がいない、言わば無人の孤島よ。誰がつけたか、人呼んで“最果ての孤島”……確か南方だっけ?」


「!!……」


 思わず絶句した。


 そして頭を鈍器で殴られる衝撃ってのは多分、こういうのだろう。何も知らず今まで這いずり回っていた、俺の数日間の努力は、一体何だったのか……トホホ。


「他に、何か聞きたい事は?」


 ………。


 何か他に聞きたい事が色々とあったような気もするが、激しく動揺していることも相まって、取りあえずは首を横に振る。


 するとロッティは無言で頷き、空中へと飛んで、そして浮かんだ。


 俺は自然に彼女を見上げる形になる。


「それじゃ、今度はこっちの番!」


 空中で俺のことを見下ろしながら、彼女はビシッとその人指し指を俺に突き立てた。


 おおっ、さまになって中々カッコいい!─って、そうじゃないそうじゃない!

 何かすっごく嫌な予感がする。


「あなた。勇者様じゃないでしょう? いや、そもそもリザードマンですらない。あなた、一体何者なの?」


 ………。


 さて、どうしようか……。


 ───


 ええい、ままよっ! こうなったら、一か八か、カマでもぶっかけてやるっ!


「何者も何も、見ての通りのリザードマンだよ。ただ、顔も身体も普通のそれとは規格外だけど」


 ジロリと空中のロッティをうかがいながら、俺は言葉を続ける。


「今までの質問はただ、生を受けた時から、俺がずっと疑問に思ってただけの事。一族には答えられる者がいなかったからな」


 彼女は無言でじーっと、こちらを見下ろしている。


「言葉が話せる事とか、人が何処に行けば会えるか、何てみたいな事を聞いてきたのも?」


「まあ、そんなところかな。こう見えても俺は勤勉家なんだよ」


 鼻を鳴らすようにうそぶく……自分で言いながら、何だか可笑しな気分になる。


「へーーっ、そんなんじゃなくて、ホントは人を食べてみたいとかじゃないの?」


 お、おい、サラリと怖い事を言うんだな、この子はっ!


「─って冗談よ。でも、本当は図星だったりして」


 ああーーっ、もう! でも、こっからが本番だ!


「もうそんな事はどうだっていいだろ。要は倒せばいいんだろう? 俺はその為にやって来た。さあ、ロッティ、案内してくれ」


 彼女はまだ納得したような感じではなかったが、やがて自分自身を納得させるように小さく頷いた。


「もういいわ。余計な詮索はやめとく。じゃあ、私に付いてきて」


 ロッティは前方を指差しながら、その方向に飛び出して行く。


 俺もその後を追って行った。


 ───


「そういえば、あなたの名前、まだ聞いてなかったわ」


「……勇者様でいいよ」


 俺の答えにロッティは飛びながら振り返り、呆れたような表情で俺を見つめている。


「もうひとつ、質問いいか?」


「なに?」


「俺って、何を倒せばよかったんだっけ?」


 ロッティは無言で正面に向き直り、飛ぶ速度を上げる。そしてその状態のまま、つぶやくように言った。


「命ある全ての生物の頂点に君臨する存在──」


 ……??


 ───


「──(ドラゴン)よ」



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