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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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104話 張られた蜘蛛の罠

よろしくお願い致します。


 その古井戸には下に降りれるように、傍にロープが隠されてあった。クリス君がそれを見付け、下へとロープを垂らす。 


 私達三人は古井戸から降りて、途中。その横から続く横穴へと入り込み、先へと進む。

 クリス君が先頭。その後を右手に黒い小型の剣、左手にコリィ君の手を繋いだ私が続いた。


 大人ひとりが充分に動ける広さを持つ石造りの通路。目的の建物と直結している秘密の通路なのだそうだ。武器を持つ者が通る事を配慮してからこその、この広さなのだろう。

 周囲は薄暗く、私達の進む行く先だけがクリス君が呼び出した白の精霊……ウィルオ・ウィスプって言ってたっけ。それによって、明るく照らし出されていた。


 ベットリとまとわり付く湿気を感じながら、その先を進んで行く。


 やがて、白の精霊により上方へと伸びる長梯子のある空間が照らし出され、確認する事ができた。


 クリス君が私達の方へと振り返る。


「これを登ったら建物の地下室へと辿り着く……何べんも言うけど、これは十中八九、敵の罠や。そやから、デュオ姉とコリィはここで待っとってくれへんやろか? 僕、ちょっと行ってくるさかい……」


 そんな事を言う彼のお尻を、私は後ろからパーンっとひっぱたいた。


「わわっ、痛いやん! 何すんねんっ、デュオ姉!」


「何ひとりで行こうとしてんのよっ!」


 私の口からイラッとした口調の言葉が漏れる。


「……あーっ、大丈夫や。僕メッチャ強いやん? そやから、心配せんでもええで」


 ……ええっ、何かイラッとするのですよ。ひとりで背負い(しょい)込もうとする君のその態度が……私達はもう、友達で仲間でしょっ!


「少し前にエルフの女の子が言ってた言葉なんだけど……“待って何もしないで後悔するよりは、行って、できる何かをやってから後悔した方が余程いい” そう言ったんだよね。私もこの意見には大いに賛同している訳で……」


「……かんにん。でも……」


「いーえっ、かんにんもかーちゃんもありません! 私もただの普通の人間じゃないってのは知ってるよね? 少なくともコリィ君と君の背中くらいは守ってみせるよ。まあ、泥船……じゃない。小舟に乗ったつもりで任せてよっ! えっへん!!」


 私はそう言い放ち、腰に両手を当て──って、塞がってるじゃない!……仕方ない。胸だけでも張ってみせよう……。


 いつものお決まりのポーズを取る。


 ……うん。全然決まってないっ! 全くの誤爆だねっ……ぐっすん。


「小舟って……コリィひとりで沈みそうやな。何やそれ……しかも言い直して間違ってるで。それを言うなら大船や─ったく、デュオ姉らしいわ。ふふっ……」


 クリス君が苦笑いを浮かべる。


「……あうう……と、とにかく、私も一緒に行くからねっ」


「はいはい。よろしく頼むわ。コリィもそれでええな? 大丈夫。ちゃんと守ったるさかい」


「はい。僕もキース先生の所へ行きたいです!」


 コリィ君も大きな声でそれに答える。その姿を確認したクリス君は小さく頷き、そして魔法の詠唱を始めた。


「──光の(ライティング)防御壁(・ウォール)


 彼の手にした長杖の先に白い魔法陣が現れ、そして消えていく。それと同時に私達三人の身体に光の壁が包み込むように出現し、それも揺らめきながら姿を消した。


「よっしゃ! コリィ。僕とデュオ姉から絶対に離れるんやないでっ!」


「はい!」


「気合い入れて、でも無理はせんように。危ななったら直ぐにこの場からとんずらやっ!」


「了解です。クリス君!」


「その時はキースも含めて四人でやけどな。ほな、ボチボチ行くでっ!」


「はい!」


「うん。行こう!」


 ─────


 長い梯子を登り、狭い地下室へと辿り着く。そこから階段を使い、更に上へ──目的地の侵入に成功した私達は、部屋を出て廊下を進んで行った。

 強くなる何か嫌な雰囲気と、これは……血の匂い……?


「………」


 口を閉ざしたまま、足早にどんどん先へと進んで行くクリス君。

 ふと気になり、私は後ろを振り向く。

 私の左手に引かれ、必死になって後を付いてくる男の子の姿が目に入ってくる。私の視線を感じたコリィ君が不安気な眼差しを向けてきた。

 それに対し、私は少し微笑みながら力強く頷いてみせる。


 がんばれ……。


 コリィ君は無理矢理笑顔を作り、私に頷き返してきた。私は……震えている小さな彼の手をキュッと握り締める。


 濃くなる嫌な雰囲気と辺りを漂う血の匂い。


 やがて、ひとつの大きな部屋に辿り着く。


 ──地面に倒れている複数の人影。むせかえるような血の匂い。そしてそれらに囲まれて、両手を後ろに回し、椅子に腰掛けているひとりの男の人。


 その人物は両手足を縛られ、椅子に括り付けられていた。頭は力なく垂れ下がり、それでも僅かながら胸は上下に動いている。


「キース!」


「キース先生!」


 私以外のふたりが声を上げ、クリス君がその元へと駆け寄って行く。それに続こうとするコリィ君──君はまだ行っちゃダメ! 私は繋いだ手を引っ張り、それを止めた。


 ──ピィキィィーーン─


 何かが割れる……そんな音が聞こえた気がした。


 そして次に周囲に倒れていた物言わぬ者達が、ゆっくりと(うごめ)き出す─って……う、嘘……。


「!?──しもた! これは不死者創造(アニメイト・デッド)。あかん、やっぱり罠かっ!!」


 クリス君が声を上げる。その声に反応するかのように、死者達は次々と動き始め……立ち上がった。


「──ひぃぃ~! お、お化け─って、うぐぐっ!」


 ……何て言ってる場合じゃないっ! 不死者(アンデット)は前に散々見てきたでしょっ! 今さら怖がっててどうすんのっ!?


 私は咄嗟に言葉を呑み込む一方で、剣を握る力を強くした。そして少し前に出たコリィ君を引き寄せ、私の後方へと下がらせた。


 そんな私達の前に、守るようにして立つクリス君。


 そしてジリジリと迫りくる五体の動く死体。


 ──グチャ……グパァッ!


 嫌な音と共に、動く死体達の胸や頭が突然裂けた。


 ……グチャリ……


 裂けた所から蜘蛛のような尖った足が飛び出してくる。


「こ、これは……ただの不死者(アンデット)ちゅう訳やなさそうやな……」


 前に立つクリス君から声が漏れる。


「──グッ、グルガァァァーーッ!」


 異形と化したアンデットの一体が、奇声を上げながら飛び掛かってきた。

 

 鋭く尖った蜘蛛の足の一撃! それをクリス君は手に持つ長杖で薙ぎ払う!


 ──ギイィィーーン─


 金属がぶつかり合う激しい音が鳴り響いた。


 攻撃を放ったアンデットは機敏な動きで着地する。前に見たアンデット達と同じ者とは、到底思えない俊敏なその動作……。


 ……これは一体、何?


「こいつはちょっと、得体が分からんな……」


 クリス君は呟きながら長杖を自身の前に掲げた──先端に赤い魔法陣が浮かび上がる。


「こんな狭いとこで、ぶっ放すちゅう事でけへんから──武器(ウエポン)魔法付与(・エンチャント)


 長杖の穂先に視線を向けるクリス君。


青い業火(ヘル・フレイム)!」


 手に持つ長杖の両先端に燃え盛る青い炎が伸びた。その炎を目の当たりにして、一瞬怯んだアンデット達は、いきり立つように一斉に襲い掛かってきた!


「グルッグウアァァーーッ!」


 クリス君は最初の一体の攻撃をかわし、振り向き様、その背に青い炎の刃を突き立てる!


 刺し貫かれたアンデットは、自身を青い炎の塊と変え、燃え盛らせた。そして彼は次に迫ってくるアンデットの胸に炎の刃を──

 そこで私は向けられたひとつの気配を感じ取った。


 蜘蛛の足を振り上げ、私の所へと向かってくる一体のアンデット! 


 私はコリィ君を引き寄せ、守るようにして身体に密着させる。そして次に敵の姿を──


 “視る!”


 アンデットの動きを完全に見切った私は、繰り出された攻撃を捻ってかわす。攻撃をかわされ、振り返ったアンデットの胸に向かって剣を突き立てた!


 剣を通じて肉を突き破る嫌な感触が伝わってくる……しかし、そこは私の考えが浅はかだったと思い知る。相手は不死者、アンデット。これ位ではその動きを止める事はできなかった。


 アンデットの両手が私の肩へと伸びてくる! それを振り払うように試みるが、アンデットの身体に突き立てている剣を持つ右手と、身体にくっ付けるようにコリィ君を抱き支える左手が自由にできず、思うように身動きが取れない。

 気付くとアンデットからの蜘蛛の足が身体に絡まり、全く身動きができなくなっていた。


「!?──し、しまった!」


 逃れようと身をよじってみるが、恐ろしく強い力で押さえ付けられ、動く事ができない。


 アンデットが異形となった不気味な顔を近付けてくる。やがて、パックリと開いた歪な胸から新たな蜘蛛の足が伸び、その尖った先端が私に向かって振り下ろされた──


 ギシッギシッと現れた光の壁と、尖った蜘蛛の足がせめぎ合い、軋む音を立てる。


 ……ギシッギシッと私の耳に届いてくる。


 そんな音が徐々に小さくなっていき……今はただ、身体にコリィ君の温かさだけが感じられた。


 ──コリィ君。大丈夫だろうか? 私が守ってあげなきゃ……。


 ──クリス君。無事だろうか? 私が力になってあげなきゃ……。


 ──私にはまだ、する事がある……死ねない。死にたくない!


 ──私は生きてあなたと一緒に……ずっと、一心同体でいたいんだ!!


「──アル……」


 私の口からそう声が漏れた。


 その瞬間、アンデットに突き立てられたままの黒い剣が、突然強烈な閃光を放った。それと同時に私を束縛していたアンデットの身体が──


 ──弾けた。


 弾けて液状となったアンデットの身体が飛び散り、ビチャビチャと音を立てて地面に打ち付けられる。その音に私は覚醒し、コリィ君に声を掛けた。


「コリィ君、大丈夫っ!?」


 小さな男の子は私の足にしがみついたまま答える。


「大丈夫です。嬉しかった……守ってくれて……ありがとうございます。ぐすっ……」


 私はコリィ君の頭を撫でた。


「怖かったね……ごめんね」


「……ぐすんっ……」


 ─────


 打ち合う金属音が響いてくる。


 その方向に目をやると、クリス君が二体のアンデットと激しい戦闘を繰り広げていた。その足元には青い炎に包まれた塊がふたつ。という事は今、彼が戦っている二体が残りのふたつ。


 クリス君が戦っている“それ”は最早、人としての形を成していない。二体共に蜘蛛の足を全身に生やした異形の怪物だった。

 そんな怪物の激しい攻撃に、クリス君の動きが少し鈍くなっているように感じられた。


 クリス君を助けないと……。


「ごめん。私、クリス君の所に行ってくる。コリィ君は危険だから、あの物影にでも隠れててくれる? 大丈夫。あの二体で怪物は最後だから……」


 そう言いながら、私は部屋の隅にある大きな本棚を指差した。コリィ君が隠れるには充分だろう。


「………」


 返事がないので、足にしがみついたままのコリィ君の顔に視線を送る。彼は涙をいっぱいに貯めた目で、すがるような表情で、イヤイヤと駄々っ子のように首を振り、より一層力を強めて足にしがみついてきた。


「……やれやれ。しょうがないな」


 私は左腕ひとつで、その男の子の小さな身体を引き寄せ、抱きかかえた。


「ちゃんと掴まっててね。後、揺れるかも知れないけど、我慢してね?」


「……うん。ぐすっ」


 ─────


 そして私はクリス君を助ける為に駆け出した。


 左腕でコリィ君を抱いたまま、右手に持つ剣を怪物に向けて振り下ろす! 不意討ちを食らった怪物の蜘蛛の複数の手足が吹き飛んだ。

 それに驚き、振り向く怪物。


 その隙を突き、クリス君の青い炎の刃が怪物の身体を深々と貫く! 


 青い炎に包まれ崩れ落ちる怪物……後、一体。


「──デュオ姉っ!!」


 大きく叫ぶクリス君の声に顔を上げた。そんな私に向けて、残る一体の放った蜘蛛の足が迫っていた!


 それをじっと視る……うん、見切った。そしてかわす。うん、ちゃんとかわせたよ!


 体勢を崩した怪物の背中に向けて、クリス君が炎の刃を突き立て──られず、後ろを振り返らずに出された怪物の手によって、その穂先を受け止められていた。


 青い炎で燃え上がる怪物の腕。怪物は平然と自らのその腕を蜘蛛の足で切り落とす。そして残ったもう片方の腕でクリス君の首を掴んだ。


「!?──ぐあっ」


 怪物の自らの腕を切り落とす。その事を淡々とやってこなす奇妙な行動に目を奪われ、彼は油断していたのかも知れない。

 怪物はクリス君の首を掴んだまま、その身体を持ち上げた。


「やめてっ! クリス君を離せ!!」


 私は必死で怪物の背中に剣を突き立てた! 剣は簡単に怪物の身体を刺し貫き、貫通した剣の切っ先が胸から姿を覗かせる。

 それでも怪物の動きは止まらない。こうしている間にもギリギリとクリス君の首が締め上げられる。


「ぐっ……ぐうぅ……あ……」


「やめろっ! お願いっ、やめてっ!!」


 クリス君を助けたい! 大切なものを失いたくない! 自分が生きてきた証明である記憶。その中にある存在をなくしたくはない!

 その為に力を……強くなりたい。私も漆黒の魔剣のように、アルのように強くなりたいんだ!! だから、もう一度──


「力を──アル!!」


 私は怪物に突き立てた右手に持つ黒い剣に、ありったけの思いをぶつけた。


 それに呼応するように怪物を刺し貫いた剣が、再び強烈な紅い光を放つ!


 ──パァンッ─


 瞬間、怪物の身体がまた同じように液状となって周囲に弾け飛んだ──



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