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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
7章 火の精霊編 小さな王子の小さなクーデター
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99話 デュ雄とクリス子

よろしくお願い致します。

 ─────


 もうっ、クリス君。一体、何処に行ったのよ!


 帽子のつばを少し上げ、視界を広げる。それからしばらくの間、辺りを動き回りながらその人物を探す事にする。


 ノエル。もといデュオ、改め『デュ()』と言う名の私は、今、見失った仲間のクリスティーナ、改め『クリス()』を探す状況に陥っている。


 まあ、そもそもその原因を作ったのは、私なんだけど……。



 ─────



 少し用を足したくなった私は、クリス君に声を掛けた。


「クリス子……ちょっといい?」


「ん? 何や、デュオ姉?」


「デュオ姉じゃないだろ。それに後、言葉使いも!」


「うっ! ううっ、そうでしたわね……それで何ですの、『デュ雄』……」


 何か心なしか、クリス君の声が震えているような……まあ、いいか。気にしない気にしない。今は“それどころ”ではない!


 私は何も言わず、前方にある食堂を指差した。


「……何ですの、デュ雄──昼飯はさっき食ったばっかりやろ。もうお腹減ったんか、デュオ姉?」


「うっきゃーーっ!! 違う! 名前っ、それと言葉使い!!」


「……そ、そうでしたわね。おーほっほっほっほっ……うえぇ……」


「オレ達は、今、変装中だって事を忘れないでくれ」


「はいはい。分かってるちゅーねん」


「……クリス子」


「あ!……わ、分かってますわ……」 


 ほんとに大丈夫なのかな? 頼みますよ─ったく。


 私は小さな声で彼に言う。


「ちょっと用を足しにそこの食堂に行ってくる。クリス子は悪いけど、少しの間ここで待っていてくれ」


 そんな私の言葉を聞き、クリス君はキョトンとして、今は金髪となった頭を斜めに傾げた。


「……なんや、オ○ッコかいな。ええで行ってき、僕はここで待ってるさかい」


「……こ、言葉にして言うなっ! 後、一人称! それと言葉使い!!」


「……そうでしたわね。おーほっほっほっ……」


「それじゃ、行ってくるから。待っててよ、絶対に!」


「了解ですわ。おーほっほっほっ……」


 私は目的の為に店に向かった。そして店の中へと入る。


「……うえぇ……ホンマにこれ、一体何の罰ゲームやねん!」


 店の扉を閉める私に、そんなクリス君の声が届いてくるのだった。



 ─────

 

 ……うーむ。任務を達成するのに、思いの外時間が掛かってしまった……。


 ちなみに女子用に入るべきか男子用に入るべきか、しばらくその両方の入り口の前で悩んでいた事は内緒である。


 勿論、女子用に入ったけどねっ! えっへん!!


 ──ヒョォォォウ─


 寒っ!! 風が冷たいっ、何故!? 食堂の中なのに──


 ─っていうか、いつも思うんだけど、この(くだり)っている??


「……何か疲れた」


 ……さて、クリス君。ちゃんと待っててくれてるかな?


 私は食堂の主人にお礼を言ってから、扉を開き、外へと出た。


 ─────


 だが、ここで待っていてくれ。私は彼にそう言った筈なのに、その“ここ”にクリス君の姿が見当たらない。


 そういった事情で今、私は見失ったクリス君を探す羽目となっている。


 でも本当に何処へ行ったんだろ。一声掛けてくれても良かったのに……


 私は辺りをキョロキョロと見回しながら、心の中でブツブツと不満の言葉を呟いてみる。


 そ、それは急にトイレに行きたくなった私も悪いっていうのは分かるよ。でも、私だって、一応は花も恥じらう乙女……うん? 間違ってはない筈だよね? その乙女にだって、生理現象というものは発生し得るのだ! それは仕方のない事なのですよ!


 私は口元をキュッと引き締めながら、力強く拳を天に掲げた!


「………」


 ……何やってんだか。は、恥ずかしい……。


 そして私は誰かに見られなかったか。それを確かめる為に、もう一度周囲を伺った。


 すると、前方から近付いてくるふたりの人の姿に、私は咄嗟に帽子のつばを手で下げ、目元を隠した。


 やがて、そのふたりが声を掛けてきた。どうやら男のようだ。


「そこの帽子の子。ちょっといいかな?」


「………」


「なんで顔隠してんの? せっかく可愛い顔してんのにさ」


「………」


「ひとりならさ、俺達と今からどっかで遊ばない? 楽しまさせてあげるよ~」


 ……これってもしかして、難破……じゃなくて、え~っと“ナンパ”ってやつ……?


「俺達、この街の事は、かなり詳しいし……」


 ナンパ──面識がない者に対して会話や遊びに誘う行為。なんでこの人達は、見ず知らずの女の子を誘うって事ができるのよっ! 全く、下心見え見え何だってば!


「きっと、君も満足できると思うよ~。だからさ、ちょっと付き合ってよ」


 ……私の事何も知らないくせに……自分さえ良ければ、他の人の事なんて知ろうともしないくせに……あーーっ、何か、むしゃくしゃするっ!


 私は感情のない声でボソッと呟いた。


「……オレ、男なんだけど」


 その私の言葉に、ふたりの男は一瞬呆然とする。


「え……? ぷっ、ははははっ! いやいやいや、それはないでしょ!」


「大体、君。胸あるじゃん」


 ……う、うぐっ! しまった。さすがにそこまで気が回らなかった……サラシでも巻いとくんだった。しかし、今となっては最早、致し方なし……あ~あ。


 っていうか、やっぱり、そんなやらしい目でしか私の事、見てなかったんじゃないっ!


「それって男の格好のつもりなんだ? いや、それはそれでとっても可愛くていいよ。だからさ──」


 しつこい!……何か、段々腹が立ってきた。もういい! こんなの放っておいて、早くクリス君を探さなきゃ……。


 私は無言で男達の間を通り抜け、立ち去ろうと歩き出す。しかし、そんな私の左手首を、男のひとりが行かせまいとガッチリと掴んで、手元に引き寄せようとした。


 私はその力に対して、微動だにする事なく男の手を振りほどき、逆に男の手首を掴んだ。


 何を勘違いしたのか、男は野卑た声を上げる。


「へへっ、へぇ~、以外に積極的……ふふふ」


 しかし、その男の声は、これから驚きの声、そして苦痛に耐える声に変わっていく事になる。


 私は男の手首を握る力を強め、ギリギリと絞め上げていった。


「ううっ!……ちょっ、な、何を!」


 徐々に強く……


「!! い、痛いっ! や、やめて! 痛いってば!!」


 ギリギリと……


「ぎいやあぁぁーーっ! やめてぇぇーーっ!!」


 余りの突然の出来事に、呆気にとられていたもうひとりの男が、私の肩を掴む。


「やめろ! このアマ、一体何をしてるんだ! その手を離せ!」


 私は黙って肩を掴まれた男の手首を、空いている左手で掴んだ。そして今、右手で絞め上げている男と同様に、その男の手首も絞め上げる。


「えっ! なんで俺まで……や、やめろ! 痛いっ、離してくれ! い、痛い!──やだぁーーっ、痛あぁぁーーいっ!!」


「………」


 私は手首を掴んでいた両手を広げた。


 音を立てながら、ガクッと膝から地面に崩れ落ちるふたりの男。呻き声をそれぞれの口から漏らしながら、手首を押さえ、苦しそうに悶えている。


 やがて、そのふたりは何とか立ち上がり、ヨロヨロとよろめくようにしてこの場所から立ち去って行く。


「ひえぇぇーーっ、た、助けてくれっ!!」


「怖い怖い怖い怖いいぃぃーっ! し、死ぬーーっ!!」


 そんな男達を冷めた目で見る私……。


 ……うん。前言撤回! 私ってば、もう、花も恥じらうような、そんな乙女じゃなかったよ。えっへん!!


 ……ぐすん……。


 ─────


 ──ザワザワ……


「何なの……あの子」


「うおっ、すっげ!」


 何か、たくさんの視線を感じるんだけど……。


 私は帽子のつばに手を当てながら、視界を広げ辺りを確認する。


 あっちゃ~、やっちゃった。あの人達、あんなに大きな声出すから……。


 たくさんの人が集まり、私に対して好奇心の眼差しを向けていた。


 クリス君が言ってたけど、さすがこの国で三番目に大きい街って言われているだけはある。いくら大通りとはいえ、これじゃ呈のいい見せ物だ。


 うわっ、やっば!!


 私は向けられるたくさんの視線から、逃れるようにして全力で駆け出した。そして人の多い大通りから、人の姿が少ない裏路地へと──


 いくらか走り進んだ所で後ろへと振り向く。


 うん。大丈夫だ。誰も追いてきてない。さあ、クリス君を見つけないと……見つけて、それから──


 ──アルを探し出すんだ!


 再び帽子のつばを上に押し上げ、私はキッとした視線で前方を見据えるのだった。



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