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一心同体の魔人 ─魔剣と少女、Duoが奏でる冒険譚─  作者: Ayuwan
2章 蜥蜴の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)
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8話 ファーストコミュニケーション

よろしくお願い致します。


 ───


「……と、取りあえずだ……」


 蜥蜴人(リザードマン)となってしまった俺は、辺りを見回し、次に自分の物となった新しい身体を観察する。


 ───


 コボルトと比べてもの凄く目線が高い。まるで巨人にでもなったかのような感じだ。そばに生え、そびえ立っている木からして、2メートルは軽く超えている気がする。


 そして丸太のように太くてたくましい筋肉の盛り上がった腕、その表面にはびっしりと赤黒い鱗が並ぶように生えていた。


 右手には、触手によって繋がれた見慣れた例の漆黒の魔剣?……いや、その形状は、大きな変化を遂げていた。


 刀身の湾曲が緩やかになって、このリザードマンの巨躯きょくに対応するかのように、全長をより長く伸ばしている。

 そして持ち手中央上部には、今までには無かった紅い色の宝石のような物が出現していた。それはまるで紅く光る目のようだ。


 左手にも何かを持っている感触がある。リザードマンの背丈をも超える巨大な戦斧(ハルバード)。それを手にしていた。

 身体にも何やら金属製の局部鎧(ブレストアーマー)で、その身を固めている。


 ───


「……物々しいな。やる気満々かよ」


 俺の今の存在が、このリザードマンになってしまったのは理解した。


 だけど、こいつは何者なんだ? こんな場所、しかも川の水の中で──


 一体、どういう状況だったんだ?


 え~っと──


 ───


 腹が減ったんで川底に潜り、獲物を探していた。


 そんな時。コボルトだった俺が、川のほとり辿だどっていたのをたまたま見付けたので、水中から飛び出しそのままガブリ!


 まあ、多分こんなところだな。間違いない。


 何故なら少し前までコボルトだった俺が感じていた空腹感が、今じゃこの満腹感! 


 そしてこの満腹感を得ている今の俺の胃袋に収まっているのは、おそらくはあの愛嬌のあるコボルト、パグゾウ……。


 そのことを考えると、何とも複雑な気持ちになる……。


 ただひとつ言えるのは。


 かわいそうなパグゾウ。しかし、それよりも──


 ──弱肉強食って、ホントに怖ええええええぇぇっ!!


 コ、コホン、それはさておき、この武装を見るに、このリザードマンにも何らかの目的があった筈だ。


 ………。


「そうだ、こいつ、何か所持品を持ってないかな?」


 身体をまさぐってみる。


 すると、腰の辺りにぶら下げられた小さな皮製の袋を見付けた。その中から出てきたのは、木彫りの何だかよく分からないお守りのような物と。


「──こ、これは!?」


 そう、それは今一番俺が欲していた物──地図だった。


 期待に胸を踊らせながら、広げてみる。


「??……なんじゃ、こりゃ……」


 水に濡れても大丈夫なように皮でできているそれに、何か、特殊な塗料で書かれていた地図。その内容は──


 子供の落書き程度のものだった。


 あぁ~~あ、がっかりだよ……。


 大きな川の絵に、赤丸がふたつ記されただけの簡素な地図。


「んん?」


 よく見ると、ちょっとした事に気付く。


 真っ直ぐな川に、一箇所だけ左側に枝分かれしている場所がある。そのぐ先にひとつ目の赤丸が記されていた。


 実際に川の先を見てみると、大分離れた前方で、左側に枝分かれしているように見える箇所が確認できる。

 取りあえずはそこに向かおうと、俺は歩き出した。だが──


「……何か、来たな」


 ───


 俺の行く手をさえぎるように、大きな魔物が姿を現す。


 それは巨大な熊の姿をした魔物、鎧熊(グリズリー)だった。


 しかもその数、三頭。


 前回、コボルトの姿で戦った時は一頭だった。にも関わらず、それなりに苦戦を強いられる事となった。

 それほどにこのグリズリーという魔物は強力なのだ。


 しかし、あれから随分戦闘の吸収によって魔剣も強力になってるし、何しろ、今の俺の身体はこの巨躯きょくのリザードマンだ。全く負ける気がしない。


 そうだ、せっかくだからこの新しい身体。試してみよう。


 ───


 相手のグリズリー三頭も、俺に負けず劣らずの巨体。


 向こうは威嚇して動き出さないので、こちらから仕掛ける。


 まずは右手の魔剣ではなく、左手のハルバードの一撃を、一頭のグリズリーに対して叩き込んだ。


 ガァイィィン、と響く打撃音。


 その一撃を受けたグリズリーがたまらず、後ろによろめく。


 どうやら、相手の鎧と呼ばれている甲殻部分に直撃したらしい。


 鎧熊(グリズリー)はその名前の通り、手足の甲や胸、額の辺りに鉄の鎧のように頑強な甲殻を持つ厄介な魔物だ。

 俺のハルバードを受けたグリズリーの胸部の甲殻には、深くえぐられたような傷が生じていた。


 だが、それを片手のひと薙ぎだけでこの威力。やはりこのリザードマン、ただ者じゃない。歴戦の強者といったところだな。


 まあ、新しい身体の力もだいたいは分かったことだし、俺も早く目的地に向かいたいので──


「行くぞ、魔剣!」


 ハルバードを地面に突き立て、魔剣を手にした俺は、そのままグリズリーに向かって走り出した。


 始めに出くわしたグリズリー、敢えてわざと頑強な胸の鎧部分に、魔剣を剣先から突き立てる。


 何の抵抗も感じず、魔剣を通して肉を軽く突き抜く感触だけが伝わってくる。


 そしてそのまま魔剣が貫通し、黒い切っ先を貫いた背中から覗かせながら、紅い光を発光させ、その力を吸収する。


 次に仲間を倒され、怒り狂った二頭が次に同時に突っ込んできた。


 一頭の振り下ろす腕の攻撃をかわしざま、その首を魔剣で上方に切り飛ばし、返す刀でもう一頭を頭から下へと両断した。


 鮮血に染まった魔剣の漆黒の刀身が、鈍く、そして紅く発光する──


「……相変わらず怖いな。こいつ……」


 その様子を見た俺の口から、小さな声で思わず、つぶやききの声が漏れた。


 ───


『わお、すっごいなああぁぁ~! あのグリズリー、しかも三頭を、あんな一瞬でやっつけちゃうなんてっ!』


「!?」


 ──え? 何だって! こ、言葉?……言葉を聞くなんて、どれくらいぶりだ。いや、気が付いてから初めてなんじゃないか?


 い、一体誰が!?


 頭が混乱して、何がなんだか分からなくなりながらも、慌てて辺りを見回す。


 ──が、誰もいない。


『あはははっ、ここ、ここだよ!』


 もう一度、見回してみるが、声が聞こえてくるだけで、やはり誰もいない。


『だ・か・ら、ここ! ここだってば!!』


「いや、だから何処だよっ!?」


『えーーっ! なんで分かってくれないの? もう、むうぅ~~』


 そういえば何となく俺の今の身体、リザードマンの鼻先に、小さな何かの姿が見えるような気がしないでもない。


 う~~~。んんんんっ??


 よく目を凝らしてみると、リザードマンとしての俺の長く離れた鼻の所に、小さな女の子の姿をした小人がふわふわと宙に浮いていた。


 俺の視線に気付いた小さな女の子が、スタンと音を立てるようにして俺の鼻の上へと着地する。


『初めまして、トカゲの勇者様。私は樹木の精霊(ドライアド)で、名前をロッティって言います。(しゅ)様から、勇者様の道案内を仰せ付けられました。どうぞよろしくお願いしますね』


 小さな女の子は、そう言ってニッコリと微笑んだ。




      挿絵(By みてみん)





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