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死にたくない

――サツキは方向転換し、オークが隠れる茂みに向かって全力疾走する。オークは自分の身に危険が迫っている事に気付き、慌てて茂みから出て逃げ出す。オークは三体、三オークいる。全身鎧の他のオークより一回り大きいオークと弓矢のオーク、剣のオーク。


逃がすかよッ! 

オークを追って駆けるサツキと、サツキとオークを追う大トカゲ。それぞれの距離は縮まっていく。オークの中で一体だけ他二体より若干遅いのがいる。鎧のオークだ。全身鎧って何十キロもあって重いから当然だろう。


本人、というか本オーク? も気付いているみたいで、両手を伸ばし、前を走る二体のオークの肩を掴み、後ろへと思いっきり引きずりおろす。


え? そんなことしちゃうの。まあ、俺としては助かるけど、仲間じゃないの? 仲間の足を引っ張ってまで、自分が助かればそれでいいって? 死にたくない気持ちはわかるけどさ、それは、人として、オークとしてどうなの? 


二体のオークが地面を転がり、鎧オークは先に行く。サツキは転がるオークを跳び越し、踏み越えて鎧オークの後を追う。


倒れている二オークに大トカゲが追いつき、止まらずに一オークを地面ごとその口に収める。そこにオークがいた痕跡はなく、地面が盛大に抉られている。もう一オークは腰が抜けたみたいに這いずって逃げていたが、逃げられるわけもなく、その体を口が捕まえる。


くわえられたオークは引っ張られるのに抵抗して、生えている草を両手で握りしめるが、呆気なくちぎれ上へと運ばれていく。


顔を上げた大トカゲはオークを離す。勿論、食べるのをやめたわけではない。空へと上がったオークはやがて重力に引かれて、大口を開ける大トカゲの元に落ちていく。悲痛な叫びを上げていたオークは大トカゲの中へと消えていった。


二オーク丸呑みにして満足してくれたらいいけど、まあ現実って、そんなに甘くないよな。大トカゲは走るサツキと鎧オークの追走を再開する。ほらな。こいつでかいし、五オークくらい平気で平らげそうじゃん。


二オークの尊い犠牲により、大トカゲとの距離は離れたが、まだ十分ではない。もう一オーク生贄にしたら、逃げきれるんじゃないか!? オークは仲間じゃないし、むしろ敵だからいいよな? よし、すぐに実行だ。


鎧オークとの距離は縮み、もう手を伸ばせばその背中に届くところまできている。鎧オークの肩に手を伸ばしていたら、裏拳が飛んできた。


「――――ッ!」

 横に跳んで何とか回避するが、まさか俺の行動を読んで? いや最初にやったのは鎧オークだから、次は俺を餌にするつもりで攻撃してきたのか。鎧オークは拳を外して、忌々しそうな顔で睨んでくる。オークの表情なんてよくわからないが、そんな感じがする。


回避したために、少し遅れたがまだ大丈夫だ。追いついてもう一度手を伸ばしたが、空をきる。前を走っていたオークの姿が突然消えたのだ。咄嗟に腕を上げたのは僥倖だった。斜め後ろからの鎧オークの拳を何とか防げた。


何で後ろに!? と思うが答えは単純だ。前を走っていた鎧オークが止まったことで、追い抜かしたのだ。奇襲は失敗し、サツキは前に出られた。これで、あとは全力で走れば鎧オークは追いつけない。


鎧オークは続けて二撃目を放ってきたので腕で防いだが、これが失敗だった。拳ではなかった。手を広げて腕を掴まれた。振り解こうと腕を力任せに振るが、がっしりと掴まれて外れない。


サツキは拳を鎧オークの顔面に叩き込み、怯ませて拘束を解こうとする。鎧オークは掴んだサツキの腕を引っ張り、拳を放ち転倒させようとする。サツキも鎧オークも走りながら殴り合っているので、力が乗らずなかなか決着がつかない。


だが、意外と早く決着はついた。敗因は、前方不注意だ。それも当然だろう。お互いにろくに前も見ずに殴り合っていたのだ。


「――――ブギャ!?」

鎧オークが木に盛大にぶつかり倒れる。一瞬腕が引っ張られるが、掴んだ手を振り解けた。衝突の衝撃で拘束が緩んだのだろう。


「はっ、馬鹿――――が!?」

 馬鹿は俺もだった。勝ったと思ったら油断するもので、サツキも木にぶつかって崩れ落ちる。


派手にぶつかったので、痛いと思ったが意外と痛くない。それより、ぶつかった顔の左半分の感覚がない。まるで、潰れてなくなったみたいだ。いやそんなことはないけどね、ちゃんとある。他の打ちつけた所も似たような状態だ。


うまく身体が動かないけど、それでも起き上がって走り出そうとしたが、右足を引っ張られまた倒れる。自分の右足を見ると、倒れた鎧オークが足首を握っていた。鎧オークは笑っている。まるで、お前も道連れだと言っているようだ。


いつのまにか後ろから迫る轟音が止み、サツキと鎧オークの上に大きな影を落としている。

「……あっ、あ……、っ……」

見上げるほどの巨体を前にして恐怖のあまり言葉が意味を成さない。大きな口を開き近づいてくる。


「う、わああああああっ! 放せ! 放せッ! 放せよッ!」

叫びながら足を掴む鎧オークを蹴って蹴って蹴りまくるが、手がくっついてしまったように決して離れない。そうしている間にも迫り、遂に鎧オークをその口で捕まえる。そして、持ち上げられていき、サツキの身体も宙に浮く。


早くしないと俺も食べられる。顔は潰れて血塗れになっているのに、いくら蹴っても一向に離す気配はない。不意に鎧オークが背負っている剣に目がいく。サツキは身体を折り曲げて腕を精一杯伸ばし、その手に剣の柄を掴み取る。勢いよく引き、剣を構えると鎧オークの顔を突き刺す。


――浅いっ! 頭蓋骨に阻まれ、脳にまで刃が辿り着かない。しかし、力を込めようにもぶら下がった状態では力が入らず、それ以上刃を突き入れることができない。


鎧オークの手から逃れることはできず、時間切れだ。


――空に上がった。木々より遥かに高く上空にいる。

視界は一気に開け、夜空には青い満月に、色とりどりな宝石のような星々、地平線の向こうまで山脈が連なっている。上から見る景色はどこまでも山と森しかない。それでも、夜空から降り注ぐ光に照らされたその光景を、美しいと思った。そこには、オークや大トカゲなどの魔物がひしめく魔境だけど、今この一瞬だけはそう思えた。


そして、現実が戻ってくる。重力に引かれ落ちていく。闇のような深淵が口を開けて待っている。

空中ではどう足掻いても逃げることはできない。それでも、最後まで諦めず剣を逆手に持ち、握りしめる。鎧オークが口に到達し、飲み込まれていく。大トカゲの顔がギリギリまで近くなったこのタイミングで、剣を投擲する。


奇跡的に一直線に飛んだ剣は狙いを過たず、大トカゲの目に命中する。しかし、ガキィィンという音を響かせて弾かれてしまう。


もう無理だ。万策尽きた。あと一秒もしないで飲み込まれるだろう。まあ、女の子を守って死ぬとか、悪くない最後じゃないかな? 心残りはあるけど。アオイがこの過酷な世界で一人で生きていけるとは思えない。誰か他に生き残った人がいて、協力して生き抜いてほしい。


「――――――ッ!?」

サツキの身体はもの凄い衝撃を受けて吹き飛ばされる。いくつもの枝葉を叩き折りながら、地面に衝突しても勢いは止まらず転がり続け、茂みの中に突っ込んでやっと止まる。


霞む視界に頭を振っている大トカゲが入る。頭がぼんやりして、瞼が重い。寝ては駄目だとわかっていても、もう無理、限界だ。そこで、サツキの意識は途切れた。

やっと次回から戦闘ができる。

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