第3話 guild ~ギルド~
前回の内容
ギルドになんとか登録を終えた雪弥。この世界のことを知らなさすぎるため、また、旅をするため、図書館で知識を蓄えようとする。
また、初依頼をギルドで受けようとするが……
「何だかんだ言ってもよく眠れたな。案外、神経が図太いんだろうな、俺は。」
そう言いながら雪弥は着替えを済ませ、外の井戸で顔を洗いに行く。現在の時刻はおそらく6:00くらいであろう。まだ、日が出ておらず、昨日見たような賑やかな街も、今は閑散としている。
うっすらと空気中に靄がかかっており、雪弥の吐く息は白い。
「向こうも冬だったけど、こっちの世界も冬なのか。そもそも季節が存在しているのか?まだわからないことだらけだな。リーシェに図書館の場所でも聞いてみるか。」
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雪弥は、宿で出される朝食を平らげ、リーシェが来るのを部屋で待つことにした。今日は、おそらくギルドの初仕事だ。早く金を自分で稼げるようにならないと、リーシェのヒモになってしまう。
そんなことを考えていると、扉を叩く音が聞こえた。
「すいませーん。ユキヤ様のお部屋で間違い無いでしょうか?」
「あぁ。そうだ。入ってくれて構わないぞ。」
「では、遠慮なく。お邪魔します。」
「あと、リーシェ。外では様付けはやめてくれ。仮にもお前は貴族なんだろ。貴族様に様付けで呼ばれるなんて面倒ごとを引き寄せる予感しかしない。」
「すいません。小さい頃からの癖なんです。これから気をつけます。ユキヤ…さん。」
「ユキヤで構わないぞ。」
そういうと、リーシェの頬が赤みを帯びる。
「いえ、そんな。夫婦じゃないんですから…。」
「夫婦じゃなくても下の名前で呼んだりするだろう。ウブだな。」
「いや!そんなんじゃありません!」
リーシェは懸命に否定しようとしているが、雪弥にはあまり効果がないようだ。
「そんな大声で言わなくてもいいぞ。ちゃんと俺はわかってるからな。」
「何をですか?」
「リーシェがウブな女の子ってことを。」
「もうっ。おちょくらないでください。話が進みません。」
リーシェはそう言うと、拗ねたように顔を背ける。それを見た雪弥は、イジリ終えたので満足そうにする。
「今日はなにをするんだ。」
「今日は、私と一緒にギルドに依頼を受けてもらおうと思っています。ユキヤさんの実力も知りたいですし、あとは冒険者の心得も教えたいと思ってます。」
「ありがとな。」
またもや、リーシェの顔は朱に染まる。
「なっ…なんですか急に。まぁ、いいです。ギルドから依頼を受けるには、ギルド内部にある依頼ボードに掲載されている依頼しか受けられません。詳しくは、ギルドに行ってみましょうか。」
「そうだな。準備するから少し待っていてくれ。」
そうして2人はギルドへ向かった。
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「しかし、改めて見てもギルドってでかいんだなぁ。」
「ル・ボアのギルドですからね。大きい規模なだけあって、依頼の種類も量も豊富です。」
そうやって入り口付近でリーシェと話していると、聞いたことのある声が聞こえる。
「ユキヤさん。昨日はご迷惑をおかけしました。」
そう声をかけてきたのは、白く透き通った肌のエルフである、受付嬢のサラである。昨日と同様髪を後ろで束ねていて、とても可愛らしい。
「どうも。こちらも喧嘩を買ってしまったのが悪いんだよ。お互い様だ。」
「そう言ってただけると、ありがたいです。ところでそちらのお連れなさっているお嬢様はトゥールーズ家のご令嬢ですよね。もしかして、お知り合いですか?」
「あぁ。そうだよ。と言っても昨日あったばかりだけどな。リーシェ。この人は昨日手続きをしてくれた、サラさんだ。」
そうするとリーシェはすぐに姿勢を正し、挨拶をする。
「リーシェです。トゥールーズ家のものですが、今はギルドに所属しているので、家名のない、ただのリーシェとして扱ってください。ユキヤをよろしくお願いします。。」
「俺をよろしくって。お前は俺の母親じゃないだろ。」
「ですが、なぜかユキヤを見ていると、反抗期の息子を持つ母親の気持ちがよくわかる気がして…。」
「誰が反抗期だバカ!」
すると、サラが、クスリと笑う。その動作、一つ一つが美しく、ギルド内の冒険者の中には見惚れてしまっている人もいる。
「2人は、仲がよろしいんですね。」
「まぁな。悪いよりはいいだろう。」
「ユキヤはひねくれていますね。やっぱり反抗期なんですね。」
リーシェは昨日いじられた分、今日は雪弥をいじってやろうと考えているようだ。
「だから、反抗期なんかじゃ…。もういい。話が進まん。とりあえず、話を進めようか、リーシェ。」
「はい。そうですね。それでは、サラさん。私たちはこれから依頼を探してくるので、すいませんが、ここら辺で失礼させていただきます。」
そうすると、思い出したような顔を一瞬したサラは、急にポケットから紙らしきものを取り出す。
「そういえば、ユキヤさん。ギルドマスターから指名依頼が入っていますよ。指名依頼と言っても難しいものではありませんから、安心してくださいね。」
「えぇ!ユキヤ。ギルドマスターとも知り合いなんですか?」
リーシェがびっくりして大きな声を上げて聞いてくる。周辺にいた何人かの冒険者は、気になるのか、チラチラこっちを見ている。
「知り合いというより、昨日少し話しただけだよ。そういうんじゃないよ、アレは。」
「でも、指名依頼が入っているんですよね?」
「たしかに。なんで俺なんかに、指名依頼が入っているんだ。まだ登録したてのDランクなんかに。」
そうすると、サラが一瞬戸惑ったような顔になったが、すぐに笑顔に戻った。
「おそらく、昨日のレイナとの戦闘を見られていたからでしょうね。ギルドマスターもあなたに関心があるように見えましたから。おそらく、それで指名依頼を出したのでしょう。」
「ただ、よけていただけなんだがな。」
「えっ?ユキヤが、あのレイナさんと戦ったんですか?怪我はしていませんか?」
リーシェが明らかに動揺した顔つきで聞いてくること自体、雪弥はどうしてそんなに動揺しているのかがわからないでいた。
「別に焦るほどでもないだろう。現に怪我はしてないわけだし。」
「焦りますよ。戦った相手の方って、Aランクのレイナさんですよね。Aランクの人の攻撃を避けれるって相当な技量の持ち主しか出来ない芸当ですよ。ユキヤは、もしかして何かやっていたんでしょうか?」
「たまたまだよ。それよりも、サラさん。今日は依頼を受けに来たんだ。その、ギルドマスターからの指名依頼の内容を詳しく聞きたいんだけど。」
「はい。わかりました。では、ユキヤさん指名依頼の内容は機密事項が絡むことが多いので、別室にて詳細を話します。なお、詳細を聞いた後は、これもまた機密保持のため、依頼を断ることはできなくなりますが、よろしいですか?」
「どうする、リーシェ?受けてみるか?」
雪弥は、一応リーシェの意思を確認する。
「別に大丈夫ですよ。ランクの高くない依頼でしょうし、指名依頼と言っても、色々な難易度がありますから。」
「というわけだ。サラさん。受けることにするよ。依頼の内容を聞こうか。」
「わかりました。では、別室に来ていただきます。ついて来てください。」
雪弥たちは、サラについて行くとき、ギルド中から視線を浴びていた。美しい容姿の、サラと話しているという嫉妬心もあるだろうが、何より、その内容が問題であった。ギルドマスターから認められ、指名依頼をDランクにして受けるという異例の事にギルドの中にいた人々から関心を寄せられていた。
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雪弥たちは、ギルドの内部の一室へと案内される。
「少々、ここで待っていてください。椅子にお掛けになっていて構いませんので。担当のものを呼んできます。」
そういうと、サラは部屋から出て行った。
「一体どんな依頼なんでしょうね。だいたい、ランクの低い指名依頼は、城の内部にある倉庫の在庫の確認とかが多いんですけど。」
「まぁ、そんなもんだろ。1回城の中に入って見たいと思っていたんだ。それよりも、その依頼の報奨金は今日貰えるのか。」
「おそらく、貰えると思いますよ。普通のDランクの依頼よりは高いと思いますけど。口止め料も含まれているんでしょうね。」
そうして、リーシェと話していると扉をノックする音が聞こえる。
「すまないが、入っていいだろうか?」
聞いたことない声を聞いて雪弥たちは戸惑う。
「はい。どうぞ。」
そうして、部屋に入ってきたのは、結構歳を食っていそうな老人と、ギルドマスターの2人であった。
老人は、白髪で、ボロボロのマントを羽織っており、いかにも魔導師風の帽子を被っている。
「すまんな、坊主。指名依頼でしか頼めないくらい、重要なことなのでな。突然だが、お前にはこの国の王に謁見してもらうこととなった。謁見といっても、公式なものではなく、非公式に行われるものだが。だから、礼儀など気にしなくても良いだろう。とりあえず、今からこの老いぼれじーさんの言うことを聞いてくれ。一応この国の宰相をやっているくらいだから、何か役にたつだろうと思う。」
そう言って、ギルドマスターは素早く出て行ってしまった。
何を話していいのか迷っていると、目の前の宰相と言われた男が話しかけてきた。
「今日な指名依頼で申し訳ない。君たちにはある事をやってもらいたいんじゃ。この国の近くに新たな遺跡が、先日、発見されてのぉ。そこの調査に行ってもらいたいんじゃ。」
「その前に一言いいか?」
そう言ったのは雪弥である。
「なにかの?」
「なんで俺たちなんだ?他にも腕利きの冒険者が沢山この国にはいるだろう。そいつらに頼めばいいじゃないか。わざわざ、身元がまだしっかりしていない俺らよりも、そういう人たちの方がマシなんじゃないか?」
雪弥の疑問は最も普通のことである。だが、喧嘩その言葉遣いは、言外に、この国の国力は貧しいと暗に批判していると捉えられてもおかしくないものだ。
「そうなんじゃが、今の国は少々緊張状態なのじゃ。いつ他国が戦争を仕掛けてくるのかもわからんわい。もし、戦争を他国が仕掛けてきたら、それに対抗する勢力を温存しておかねばならん。有名な冒険者を派遣したいところなんじゃが、それが出来ないんじゃよ。」
「そうか、一応理解はした。それで肝心な依頼内容のことなんだが、遺跡の調査とはどんなことをやればいいんだ?」
「そう難しいことではない。ただ調査をして、何か見たことのないものや、重要なものがあれば持ち帰ってくるか報告してくれるだけで良い。幸い、その遺跡付近は危険な魔獣もおらん。最初の依頼にはピッタリじゃと思うんじゃが。」
「そうだな。あまり危険すぎる依頼ではないから受けようと思う。それでいいかリーシェ?」
「は…はい。大丈夫ですよ。」
今まで空気だったリーシェは、いきなり話を振られて少し戸惑いながら返答する。
「おぉ。これは、トゥールーズ家のご息女ではないですか。お久しぶりですな。お元気でしたかの。」
「はい。おかげさまで。いつも父がお世話になっております。」
「なんだ、リーシェ、このじーさんと知り合いだったのか。たしかに、リーシェは貴族だからな。そういう事もあるか。」
「はい。私の父が城に勤めているので、その時にお会いすることがあるのです。しかも、リゼル様は私の父の上司にあたりますので。」
「このじーさんはリゼルっていう名前なのか。しかも宰相殿とはな。名前も名乗らずにいたから、とんだ変人かなと思ってしまったよ。」
雪弥はそうわざとらしく言うと、宰相は妖しい笑みを浮かべる。
しかし、リーシェは雪弥の発言にびっくりして言葉を発することを忘れている。おそらく、不敬にあたると思っているのだろう。
「すみませんな。こちらも仕事がいっぱいありますので、疲れていたんでしょうな。はっはっは。 では、名乗らせていただきましょう。リゼル・コルベールと申す。ル・ボアでは、宰相をやらせてもらっております。ユキヤ・センドウ殿、今回の依頼のことはよろしく頼むぞ。」
「あぁ。わかっている。だが、その依頼が終わったらいくら貰えるんだ。こっちは、カツカツの生活をしているんでね。」
「報奨金はギルドと話すんじゃな。おそらく、持って帰ってきた情報が良ければ多く出すじゃろう。まぁ、最低でも、宿に1ヶ月泊まれるくらいの金額は貰えるじゃろうな。」
「そんな貰えるのか?」
「当たり前じゃろう。未知のところに行くのじゃ。常に危険が付き纏う。そんなところに、普通の金額で行く奴なんぞおらんわい。」
「確かにそうだな。爺さん。ところで、国王との謁見があるとギルマスのジジイがさっき言っていたが、どういうことだ?」
「それはの、一応、この依頼は国からの指名依頼じゃ。じゃから、為人を見る必要があるのじゃよ。まぁ、リーシェ嬢が認めているだけで、怪しい者ではないと証明されているのじゃがの。建前というヤツじゃな。後は、国王様が興味があるという事もあるかも知れんがの。」
「そうか。なら、そんなに気張らずにいていいか。後、一つ聞いておきたいことがあるんだが。この国には、魔法の事について書かれている本は存在するか?少し調べておきたいことがあってな。」
「ある事にはあるのじゃが。もし、話せる内容なら、ワシに聞いてみてはどうかね。ワシも魔術研究者の端くれじゃ。何か聞きたいことでもあるのかの?」
またもや、リゼルの目が怪しく光る。
雪弥は、このジジイは厄介だなと思う。もしここで、話せなかったら、おそらく、探りを入れてくる可能性がある。まだ、この国にとって、雪弥が有益か害があるかの判断が出来ていないのだろう。
「そうだな、では記憶改竄魔法と転移魔法についてだな。」
「ほほぅ。なぜその2つなのじゃ?」
「あぁ、実は記憶が混濁していてな。そこで、何処から自分が来たのかも覚えていないんだ。それで、転移させられたと思ったんだよ。だから、自分が掛けられたかもしれない魔法の事は詳しく知っておきたくてね。」
そう雪弥は誤魔化した。転移魔法だけ尋ねると異世界から転移したことがバレる可能性があるからだ。そして、ある程度、自分のことも明らかにしておかないと、あとで探りを入れられても困る。
「そうじゃのー。そこら辺の分野はワシの専門ではないからの。王立図書館にでも行けば、何かしらの文献は見つかると思うんじゃが。行って見んことには、わからんの。」
「そこは何処にあるんだ?」
「城の近くじゃよ。リーシェ嬢に案内して貰えば良かろう。後は、聞きたいことはもうないかね?」
「あぁ。大丈夫だ。リーシェも何かあるか?」
雪弥はリーシェの方を向き、問いかける。
「いえ、大丈夫です。それよりも、宰相様、ユキヤの無礼な態度をお許しください。まだ、この国に馴染めていない者ですので、どうか不敬罪だけは。」
リーシェが何も発言できなかったのは、宰相という高い立場の人間が場にいるときは、許可されない限り口を開いてはいけない、という暗黙のルールがあるからだ。
「いいんじゃよ。非公式の場じゃ。そんな畏まらんでも良い。」
「そう言っていただけてありがとうございます。」
「そうだぞ、リーシェ。こんなじーさんに敬意を払う必要なんかないぞ。いきなり押しかけて、名前も言わずに話を進めるジジイなんかにな。」
そう、雪弥がいうとリーシェは顔を青ざめさせる。
「ユキヤはもっとしっかりしてください。宰相様だったからいいものの、もし他の貴族だった場合、どうなっていたか分かりませんよ。今度から、他の貴族様のいる前では私が対応します。口は出さないで下さい!」
リーシェは雪弥に対して、初めて怒ったが、当の雪弥本人はというと、全く気にしていない様子であった。なんと神経の図太いことか。
「まぁまぁ。リーシェ嬢。彼には何を言っても、おそらく無駄じゃろうて。礼儀はなっておらんが、一本芯が通った性格のようじゃしのぉ。それに、おそらく、ワシが確かめたかったことにも気づいておるようじゃしな。」
「確かめたかったことですか?依頼の説明以外にも何かあったのでしょうか?」
「おっほっほ。分からんのならば、後でコイツに教えて貰えばよかろう。そうじゃろう?ユキヤとやらよ。」
「さぁ?なんの事やら。それよりも終わりか?早く昼飯が食べたいんだが。」
「おぉ。そうであったな。では、国王様との謁見の日時は、明日、追って知らせる。明日、ギルドへ足を運んでもらうことになる。」
「あぁ。わかったよ。じゃあな。リーシェ飯食いに行くぞ。じゃあな爺さん。また会おう。」
「うむ。」
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リーシェと雪弥はギルドの外へ出る。そこには、ギルドに入った時よりも街には活気があった。もう正午だろうなと思えるほどに、日は昇っていた。
「結構な時間、ギルドで話していたんだな。仕方ない、腹減ってるから、近場で外食するか。」
「そうですね。ここら辺ですと、冒険者の方が多いので、安くて美味しいものが沢山ありますよ。」
「そうか。リーシェのオススメのお店で構わないぞ。」
「でしたら、セブンスターズというお店がおススメです。この国の、英雄たちの総称を冠するお店ですので、一度行ってみることをオススメします。海産物などの料理も豊富にあるので、人気のお店ですよ。」
「そうか、最近肉ばっかりだったからな。魚も食わないと健康に悪いな。そこにしようか。」
そう言い、雪弥たちは、セブンスターズに昼飯を食べるべく、向かっていった。
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セブンスターズでは、雪弥は海鮮定食を頼み、リーシェは日替り定食を頼んだ。
おそらく、赤身のある魚はマグロだろうなと思いながら、雪弥は海鮮定食を平らげる。案の定、地球の魚と似たような味がした。おそらく、食べられているものはほとんど同じであろうことを確信して、安心する。
留学した時に、食べ物が合わず苦労した経験がある雪弥は、食べ物に関して、少しだけ心配していた。食べられず、栄養失調で死亡なんぞ、そんな死に方は誰だってしたくないであろう。
「美味かったな。魚料理は久しぶりに食べたよ。しかも安いな。頻繁に通うことになりそうだな。」
「気に入ってもらえてよかったです。お口に合わなかったらどうしようかと思いましたよ。これからどうしますか。」
「俺は、さっき聞いた王立図書館とやらにでも行ってみようと思う。付いてくるか?」
「はい。一応、案内させてください。利用の手続きなどもありますから。」
「わかった。頼んだぞ」
雪弥たちは、会計を済ませてセブンスターズをでる。そのまま、図書館に向かうこととなった。
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しばらく、雪弥たちは雑談しながら王立の図書館に向かって行く。途中、雪弥は気になるお店もあったが、明日も、謁見の後には来れるだろうと思い、やめにした。
城壁に近づくと、遠くからでも見える高さの城は、さらに迫力を増して、聳え立っていることがわかる。
某千葉県にあるお城よりも高度な建築技術を用いているため、その分、大きさも半端ない。
さらに、敷地の面積が広く、城門だけでさえも、手間暇がかかっている事が伺える。城の周りには堀があり、そこには水が貯められている。しかも、その水は濁っていなく、地面まで見えるほど透き通っている。魔法で水の浄化を行なっているので、濁っていないのだ。
「まさか、城がこれほど立派な建物だとは思わなかった。それで、肝心な図書館なんだが、何処にあるんだ?」
「すぐ近くにありますよ。魔法学院の真横に建てられています。学院は城につながっているので、学院生が利用しやすいようにと、そのすぐ近くに図書館が建てられたのです。」
「あそこか?またしても、城に引けを取らないほど豪華な建物だな。」
「はい。貴族の方が利用される事が多いので、必然的に豪華な外装や内装になってしまうのですよ。その分、国の財政は厳しくなりますね。まぁ、それも国民のために仕事を増やすのが貴族の役目ですからね。仕方ないといえば仕方ないのですが。」
「そうか、まともな政治をやっているんだな。」
「はい。現在の王は善政を敷いていると言われています。国民からの信頼も厚いですね。ただ、三代ほど前のル・ボア国王は暴政だったようですけどね。おかげで、この国が壊滅する寸前だったらしいですけど。」
「まぁ、何処の国にも暴君の時代はあるだろう。それは、仕方のない事なのかもな。」
「ですねぇ。あ…あと、図書館を利用するにしても、許可証がいります。ただ、ギルドカードを持っているのでそれを代用として、使う事ができます。」
「便利なんだな。ギルドカードって。支払いにも、身分証がわりにも、使えるんだろう。しかし、盗まれたら大変だよな。」
「それは大丈夫ですよ。本人の魔力系統や、形態をギルドカードが認識して本人かどうかを判断しているので、他人に悪用されることはありません。」
どうやら、魔力にも指紋やDNAなどの、個人を識別するためのものがあるらしい。
「発展してるなぁ。」
「えぇ。特に、この技術は、セブンスターズのうちの1人が発見し、技術開発したものなんですよ。」
「セブンスターズってやつか。」
「そうです。一説によると、そのセブンスターズのメンバーには異世界人だという噂がある人もいます。まぁ、おそらくデマでしょうがね。」
雪弥は、額に汗を浮かべる。まさか、定食屋の名前の由来になった人に、自分と同じ境遇の奴がいるとは夢にも思わなかったのだ。
雪弥は、焦っていることがバレないように気持ちを落ち着ける。
「しかし、異世界人なんて本当にいるのか?」
「うーん。詳しいことはまだあまり分かっていないんですけれど、異世界人は存在するという説を唱える人もいますね。宰相様もその1人ですね。そういえば、先程、宰相様は何をユキヤから教えて貰えと言っていたのでしょうか。」
「あぁ。それはな、おそらくだが、俺のことを他国の間諜だと、疑っていたらしい。それで、敢えて最初、名乗らなかったんだろうな。そうして、話していくうちに、俺があの爺さんの名前を聞いたから、その疑いを消したんだろう。」
「しかし、なぜそれだけで納得していただけたのでしょうか?」
「おそらくリーシェは、俺が記憶喪失であることを誰かに話したんじゃないか?それで、あの爺さんのもとに伝わった。もし、この国の人間でも間諜でもなければ、自分の名前や顔を知らないと踏んだんだろう。宰相の顔を知らない人間なんて、そんな人は、この国にはいないはずだからな。」
「なるほど。それは気づきませんでした。たしかに、お父様に話しましたね。それで宰相様も知っていたわけですか。なら、納得ですね。」
こうして2人は図書館に入る。
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2人は、5時間近く図書館にこもり、もう日が暮れようとしていた。
「本は読んでいると時間が分からなくなるな。しかし、いろいろな事がわかった。」
「よかったです。おそらく、記憶は、魔法で消去された場合戻らないですけど、前に進む事ができてよかったですね。それでは、明日謁見があるので早めに別れましょうか?」
「あぁ、そうだな。付き合ってくれてありがとう。また明日な。おやすみ。」
「はい。お休みなさい。」
そう言って、雪弥とリーシェは別れる。その時は、すでに昼間のお店は居酒屋みたいになっていた。冒険者たちが騒いでいる声が夜空に響く。
雪弥は宿に戻った後、今日調べてわかったことをまとめたノートを見返していた。
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・地球から転移してきた異世界人もいる。中には、日本人もいる。
・人間以外にもエルフやドワーフなど多種多様な人が存在する。
・国はル・ボアを含め7つあり、人間以外の種族が治める国もある。
・転移魔法も存在するが詳しいことはわかっていない。なお、異なる世界をまたいでの転移は可能か、すらわからない。
・人間、魔族の他にも神なるものが存在するが、詳細は不明。
・セブンスターズの異世界人は、かなり年代が前なので、文献があまりなく、生きていることはない。
・地球と同じ球状になっているが、気候は全く違う。なので、緯度や経度はあてにならない。
・空の先には宇宙ではなく、水が満たされた空間が広がっている。そこには、凶悪な魔物が棲息している。これは、セブンスターズによってもたらされた情報。
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「異世界人がいる事と転移魔法があることが分かっただけ前進かもな。全く右も左もわからず、知識もない状態で旅をするなんて無能のやる事だ。せめて、ル・ボアに居る間だけでも図書館に通っていたいが、依頼もあるしなぁ。」
異世界に来て2日目。雪弥は、様々な問題を抱えながら、なんとか今日生き延びたことに感謝する。
「神さままで居るとは。ファンタジー過ぎるにも程があんだろ。いるなら見てみたいよ。はぁ…。明日も早いし、悩んでいても前に進まない。また、寝るしかないか。」
独り言をブツブツ呟きながら、雪弥は布団に入る。昨日程にではないにしろ、今日も新しいことを雪弥は経験した。その疲れが溜まっていたのであろう。
「明日も平和な一日でありますように。」
雪弥はそう呟くと、すぐに寝息を立て始めた。
宿の外は風が強く吹き荒れ、明日、起こる事を暗示してるようであった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。テンポが遅く、申し訳ありません。なるべく早く書き上げようと思っていますが中々出来ません。
しばらくは、まだグダグダするので、もし、気になるのであればブクマよろしくお願いします。
以下、プロットからの抜粋です。
・リゼル [家名:コルベール 種族:人間]
ル・ボアの宰相。主に国王の右腕として重宝されていて、政と魔法の研究が生きがい。魔術研究家。ル・ボア魔法学院の教授兼学院長もやっている。
《セブンスターズ》
ル・ボアのギルドの近くにある、居酒屋兼定食屋。安いことで有名。ル・ボアの英雄の総称にちなんで名前が付けられており、毎日冒険者で溢れかえっている。豊富なメニューで、海産物もある。
《魔法学院》
ル・ボアの王立の学院。王族も通うことがあるため、白の真横に建てられた、魔法を学ぶところ。高校生や大学生ほどの年齢の貴族が多数在籍していて、教授から毎日講義を受けている。教授は、講義の傍、自分の研究を行うことができ、生徒に手伝わせることもある。ル・ボアの魔法学院は世界でも優秀で他国からも、留学生として学びに来ることが多数ある。
《王立図書館》
魔法学院のとなりにあるル・ボア最大の図書館。この国に流通している全ての本がここに収蔵されている。雑誌から学問、魔術の専門書までなんでもある。