第2話 voyage ~始まり~
入国審査や国籍の登録など、いろいろ事務的なことに雪弥は追われていた。
「管理がちゃんとしてるなぁ。地球よりも厳しいんじゃないか?」
そうため息をつきながら独り言を漏らす。
「ふぅー…今日中には終わららんだろうなぁ。」
「いえ、あと少しで終わりますよ。」
そう言って、雪弥の独り言に返事をしたのは、手伝ってくれている事務の人である。さっきまで、別にところにいたのに、いつのまにか戻ってきていたようだ。
「ならいいんですけど。しかし、不思議なんですよね。今日、色々なことがあったのに、疲れていないんですよね。疲れが一周回って無くなったんですかね。」
「私も多忙過ぎると、疲れを感じなくなる時もありますよ。でも、後から来るんですよね。何倍にもなって一気にね。」
「うわー。怖いなぁ。」
事務員さんと世間話をかわしながら、最後の作業に取り掛かる。
「しかし、ユキヤ様。あの、トゥールーズ家の御令嬢と知古があるなんて凄い方なんですね。」
「全然そんなことないですよ。たまたま助けてもらえただけですし。」
「いや、トゥールーズ家の御令嬢に助けていただけるなんて大変名誉なことではないですか。自慢できますよ。」
「そうなんですか?」
「そうですよ。なんてたって、このル・ボアで最も権力のある家の1つですからね。聞くところによると、国のトップに物言いができるとか。相当ですよね。」
「そんなに凄かったんですか。」
「凄すぎます。ですが、それを知らないってことは、この国の出身ではないんですね?」
「そうですね。一応旅をしているので。」
雪弥は、疑われないように、予め、自分の境遇のストーリーは作ってきている。
「旅ですか〜。自分も、休暇がとれたら家族といってみたいものですねぇ〜。」
世間話をいくつかしながら、最後の手続きも終えて、やっと外に出ることができた。
「おぉー!終わったぁぁ〜!!娑婆は最高だなぁ〜。」
そうして、やっとル・ボアに入国することができた。
門を出ると、そこにはまるでお祭りのような煩さを持ちながらも、不快感のない雰囲気が漂っていた。
一本の道の両側に、長屋が立っていて、そこでは様々な露店が軒を連ねている。フルーツ専門のお店もあれば、焼き鳥らしきものを売っているお店もある。
そこで働いてる人は皆笑顔に溢れていた。この国は裕福であることが容易に伺えた。
定年らしき人が店の前に集まって談笑していたり、店の主人に対して値切っている女性がいたりと生活感が溢れていた。
「どうですか。ル・ボアもいいところでしょ?」
そう後ろからきこえたので、振り返ってみると、リーシェがいた。
「あぁ。すごいな。俺の故郷も凄かったが、こっちもまた別の違った凄さがある。温かいところだな。」
雪弥は、一瞬地球のことを思い出したが、すぐに思い出すのをやめた。
「ユキヤ様の故郷についても今度聞かせていただきたいです。」
「あぁ、今の生活が落ち着いたら話してあげるよ。」
「はい。楽しみにしています。」
リーシェの眩しい笑顔にやられそうになる。
「しかし、これからどうすっかなぁ。金ねーし。どっか働けるところを斡旋してるところってあるの?」
「一応ありますけど、でもそう言う話は私の自宅でもよろしいですか?」
「了解。でもリーシェの家に行ってもいいのか?知らない奴を招き入れるんだろ?両親とかが心配するんじゃない?」
「おそらく大丈夫だと思います。両親も私のこと信用してくれていますから。」
「そうなのか。随分と自信があるんだな。」
「はい。一応………。」
気まずい空気になる。雪弥はすぐに、触れてはいけない話題であったと判断し、話題の転換を図る。
「まぁ、いいか。それよりも、腹減ったんだが、なんか食うところないか?」
我ながら、もっといい言葉はなかったのかと思いながら、話題の転換をする。
「そうですね! ここの近くですと、やはりあそこですかね。」
嬉しそうにリーシェは歩き出す。
「お嬢様なのに食い意地は張ってんだな。」
雪弥がボソっと言うと、急にリーシェが振り返る。
「何か言いましたか?」
「いや、何も言ってないよ。空耳だな。」
「それならいいんですけどっ!」
リーシェは再び歩き出し、目的地に向かうようだ。
『あぁ。可愛い面してとんでもないバケモンを腹に飼ってるなこのお嬢様。出来るだけ、失言は避けるか……。』
雪弥はそう決心しリーシェの後についていく。
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「着きましたよ。」
リーシェが嬉しそうに報告してくる。
そこには、年季の入った、ラーメン店みたいな建物が目の前にあった。
東京にはよくあるような、換気扇が黒くなっていて、そこから美味しそうな匂いを漂わせてくるお店みたいだ。
汚いが美味い。いや、汚いからこそ、美味い。そう言えるようなお店が地球にはあったが、まさにこの店はそのような店であった。
「なんの店なんだ?」
「ここは定食屋です。安くて美味しいんですよ。」
「何が食べれるんだ?」
「それは入ってからのお楽しみですよ。」
異世界の食べ物は自分の口に合うのだろうか、という不安があったが、背中とお腹がくっつきそうであった雪弥は、なんでもいいから食べようと思い、中に入るのであった。
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「いらっしゃっいませ。何名様ですか?」
聞き慣れた言葉だ。
ただ、その店員には猫耳らしきものが付いている。
雪弥は最初秋葉原にあるような、オムライスがやたらと高い喫茶店を思い出す。
だが、それは見当違いであった。耳がヒクヒクと動いているのだ。
「二人です。」
リーシェがそう応えると、猫耳の子はすぐに案内してくれた。
「ごゆっくりどうぞ。」
そういうと、猫耳の子は去って行ってしまった。
「なぁ、リーシェ。恥を忍んで尋ねるけど、あの猫耳の娘はなんの種族なんだ?獣人か?」
そうすると、リーシェは慌てて、雪弥の口を抑える。
「ユキヤ様。魔族のことを見た目で言ってはいけません。差別にあたってしまいます。ユキヤ様が常識はずれなことを忘れていました。」
「いや、こちらこそすまない。だがなんでだ?魔族には見えないんだが。角とか生えてないじゃないか。」
「ユキヤ様は相当世間から孤立してところで生活なさっていたんですね。」
「まぁな。」
「まず獣人というのは存在しません。獣と人では交配ができないですから。しかし、魔獣は、人やエルフ、ドワーフとは交配できます。ですから、魔族に分類されているのです。」
「そういうことか。なら、なぜ魔獣人とは呼ばれないのか?」
「いや、そう呼んでも構いませんが、一般的に魔族に分類されてきた歴史が長く、ほぼ魔族として浸透してます。」
「そうか、ややこしいな。」
「慣れると特に何も感じなくなるんですけどね。さぁ、まずは何を食べるかを決めてから詳しい話をしましょう。」
「あぁ。そうだな。」
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「お待たせしました。リカルド牛のヒレステーキの特製ソース和えとコンソメスープのセット。フレイムペッパーで仕上げたトマトパスタと黒トリュフで味をつけたハンバーグでございます。。」
そう言いながら店員が、食事を運んでくる。
雪弥は、ヒレステーキとコンソメスープ。そうして、ハンバーグとパスタを頼んだのはリーシェだ。
雪弥は、『逆だろ!』とか、『そんなに食うんか!』という言葉は飲み込むしかない。また、あの笑顔を向けられるからだ。
「さて食べるか。」
そう言いながら、雪弥はリーシェの行動に注目する。変なことをやったら転生者だと思われてしまう危険性があるからだ。
『以前に転移者がきていたら、行動でバレてしまうからな。窮屈だなぁ。』
そう思いながら雪弥は、リーシェと同じように行動する。
特に食前に特別なことをやらないと分かったので雪弥はやっと食べ始める。
「美味いなぁ。このステーキ。しっかり味が付いていて、レアな焼き加減がとてもいい。」
「こっちのパスタも美味しいですよ。食べてみます?」
「おう、もらうわ。」
そうして、雪弥がパスタを口に含んだ瞬間。舌がヤケドした。ヤケドするような辛さではない。本当にヤケドしたのだ。
「ごっふぅっ!! おぇぇぇぇ!! バァーーー!」
ちょうど、この世界にきたときのような変な声を出して倒れこむ。口からは微かに火が出ている。
「ユキヤ様!」
リーシェが雪弥の口に手を当てると光輝き出す。
すると、雪弥の口にできたヤケドによる痛みがすぐに引いていく。
「それは、治癒魔法か?」
喋れるようになったので雪弥はリーシェに質問してみる。
「そうです。しかし、申し訳ありません。フレイムペッパーは魔素を一定以上吸収すると発火するのです。着火材にも使われている食材です。しかし、それは通常の魔素量では、反応しないのです。ですから、食材として使われているのですが。」
「そう言っても発火したんだが。」
「それはおそらくユキヤ様の魔素量が多いことに起因するものだと思われます。魔素量を計測されたことはありますか?」
「いや、ないな。」
「でしたら、一回ギルドか魔法協会で計測した方がいいでしょう。そうすることで仕事がもらえるかもしれません。いや、おそらくフレイムペッパーを発火させるなら仕事がバンバンきます。」
「なら、この後は魔素量を測りに行くか。世の中すごい食べ物もあるんだな、黄リンみたいだな。」
『やはり、異世界の食べ物は合わない。』そう思った雪弥だった。
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口の中が急に発火するという騒動があったが、無事?に食事も終えた。
「さぁ、行くか。どこに行けばいいんだっけ?」
「ギルドか魔力協会です。一応、詳しく測るには魔力協会の方がいいですが、時間がかかってしまいますので、ギルドの方で簡易的に済ませてしまいましょう。ついでに、ギルド登録もした方がいいですね。」
「そうか。任せるわ。」
「魔力協会にはまた後日行きます。その時に調べてもらいますか?」
「そうするか。しかし、ギルドに登録するとなんか特典があるのか?」
「はい。説明を受けて貰えればわかると思いますが、主なことは、許可がいる場所に入れたり、指名依頼が来たり、報酬金が高くなったりすることがあります。」
「そうなのか。ランク制なのか?」
「そうですね。基本的にD→C→B→A→S→SS→SSS→Ex という階級が存在します。厳密に、規定があるのですが、詳しくは私も知りません。ただ、依頼の成功率や丁寧さや量が昇級の判断基準となっているようです。」
「降級とかもあるのか?」
「確かあったと思います。犯罪を犯した場合は即座にギルドカードの凍結およびギルド会員の永久剥奪となっています。重度の犯罪でない限り殆どが謹慎処分で済ませられていますが。」
「そうなのか。なかなかややこしいな。依頼は好きなものを受けられるのか?」
「依頼ボードに書いてあったもののみ受注可能です。あとは、依頼にも同様のランク設定がなされており、自分のランクよりも2ランク以上は受注できないような仕組みですね。」
「リーシェは詳しいな。ギルド会員なのか?」
「はい。一応、稼ぎたいときは依頼を受けていますね。」
「そうなのか。貴族なのに偉いな。」
「いや、そんなことないですよ。相続しない貴族の方などはギルドに登録して依頼をこなす方が多いですよ。」
「貴族も大変なのか。」
「まぁ、やることが多いですからね。」
リーシェは苦笑いをして返答する。
おそらく、リーシェは貴族に自身の性格があっていないのだろう。
雑談しながら、リーシェと並んでギルドに入って行く。
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ギルドに入ると、まず広さに驚く。
受付嬢がいる、カウンターテーブルが奥にあり、その横にはおそらく、依頼書が貼り付けてあるだろう、大きなボードが複数台ある。
ギルドの天井は吹き抜けになっており、木造建築だが、真新しい印象を受ける。
日差しが窓から差し込んでいるので、室内でも明るく、テーブル席にはパーティーらしき人たちが、地図を広げたり、酒を飲んでいたりして賑わっている。
そこには、雪弥が見たこともない人種もいっぱいいる。
「すごいな。まるで人種の坩堝だな。もっと野蛮なところを想像していたが、全く違った。」
「はい、管理がすごく良いですからね。冒険者の方には、ここは世界一綺麗なギルドと評判ですよ。」
「ギルドがあるのは、ここだけじゃないのか?」
「はい。東に行けば、また違うギルドがありますよ。神都にもギルドが存在しますしね。」
「神都?」
「はい。宗教国家です。行ったことがないので、あまり詳しくは知らないのですが、最近はいい噂はあまり聞きませんね。」
「そうなのか?調べてみる必要がありそうだな。とりあえず、先に登録してギルドカードを発行してもらおう。」
雪弥は、ちょうど空いたカウンターの受付嬢に用件を話す。
「すまんが、魔素量の測定とギルドカードの発行を頼みたいんだが。」
「わかりました。新規の発行ですか?それとも再発行ですか?。」
「新規の発行だ。何か必要な書類はあるのか?」
「はい。国籍を証明できるものが必要になっております。なお、ル・ボア国内にて発行されたもののみ有効です。」
「これだな。」
そう言って雪弥は受付嬢に先ほど、入国審査で発行した国籍の書類を渡す。
「はい、確認し終わりました。これでギルドカードは作成できますが、紹介状などはお持ちでないでしょうか?」
「紹介状?」
「はい。有名な方からの紹介などで登録した場合、通常はDランクからにところを、他にランクで登録することにできます。」
「いや、紹介状はないな。Dランクからで構わない。」
「はい。かしこまりました。それでは、ギルドカードはこちらでございます。お受け取りください。」
「ありがとう。また来るよ。」
『やはり、テンプレ的な展開など現実では起こらんだろうな。』
雪弥はそう思いながら、受付を後にした。
「ユキヤ様、ギルドカードは登録できましたか?」
「思ったより早くできたな。正式なものだから、もっと時間がかかる物だと思ってたよ。」
「魔素量の測定は?」
「…………もう一回行って来るわ。」
「はぁ… そんなことだろうと思いましたよ。どこか、抜けていますよね。ユキヤ様は。」
「失礼な…どこも抜けてねーよ。」
そう言いながら、さっきの受付嬢を探し、先ほどとは違うカウンターに居たのを見つけた。
「すみません。魔素量の測定忘れてました。今からできますか。」
そう、話しかけたが、相手はキョトンとしてこっちを見ている。
雪弥は一瞬相手も忘れていたんだなと思った。
だが、その受付嬢は、さっきまでとの態度が変わっていた。
「若年性のボケなんですね?さっき話した人の顔も忘れましたか?」
雪弥はそう言われたので、ムキになって言い返してしまう。
「お前も、ボケてんな。アルミニウムばっか食べてんじゃねーの?」
「アルミニウム食べてもアルツハイマーにはならないと証明されています。」
「え、そうなんだ。じゃあ、もう、歳結構行ってるんじゃない?1000歳くらい?」
雪弥が挑発すると、その受付嬢からの殺気が飛んできた。
リーシェからの殺気よりもさらに数倍濃密にしたような殺気である。
「ぶっ殺す。」
受付嬢はそう呟いた直後、消えた。
いや、消えたと思っていたが、実際は雪弥に動体視力が彼女を捉えきれていなかったのだ。
だが、雪弥は後ろに殺気を感じ、すぐさま無意識にしゃがみ相手の攻撃を回避する。
「勘だけはいいようね?だけど、次は決めるわ。その目障りな首を取ってあげる。」
そう言い、彼女が次の攻撃を行おうとした時、後ろから声がかかった。
「ここで騒ぐのはやめんかい。全く、こっちの仕事増やすんじゃねーよ。闘技場でやれ。いや、むしろヤれ。その、行き遅れそうな娘をもらってやってくれよルーキー。」
そう口にしたのは、髪がボサボサで、目が死んだ鯖みたいな目をしている、ガタイのいい男だった。
似合っていないちょび髭を生やし、ヤ○ザみたいな顔で、さらに切り傷がその厳つさを際立たせている。
「マスター。社長出勤ですか?もう、出勤時刻は7時間ほどオーバーしていますけど。どう頑張ったらこんな時間に起きるんですか?」
また、違う方向から別の声が聞こえた。
雪弥は振り返って、驚いた。
今喧嘩していた受付嬢と全く同じ顔の人がもう一人いたからだ。
そして、雪弥は彼女が、いや、彼女たちが双子であることを確信した。
『うわぁ。マジか。完璧にこっちの落ち度だ。まぁ、向こうも挑発してきたから、責任は向こう持ちで。』
雪弥は作戦を立てた。
『とりあえず、責任は全部向こうに押し付けて、慰謝料ふんだくって飯代にしよう。』
雪弥はクズであった。
「おい、ボウズ。なんでこんなところで喧嘩してるんだ?しかも、レイナと。」
どうやら、先ほど喧嘩した女性の名前はレイナというらしい。
マスターらしき男が雪弥に質問すると、雪弥は一瞬にやけた後、
「忘れていたことがあってね。もう一回受付をしてもらおうとしたのさ。そうしたら、急に喧嘩を売られたもんだからね。買ってやったんだよ。」
と言った。
「レイナはどうして喧嘩を売ったの?」
そう言ったのは、一番はじめに受付をしてくれた双子の片割れだ。
「前の担当だった客がうざかったからね。当たり散らしてやろうと思ったのよ。反省はしていないわ。」
雪弥と同じくらいのクズっぷりだった。
「いつものことじゃない。それに、私たち双子で初めてあった人は見分けがつかないのは当たり前でしょ。」
「わかってたよ。サラ姉と間違われるのは慣れっこだからね。ただ、ストレス発散したかった。反省は…いつかするわ。」
「はぁ…。ユキヤさん。こんな妹ですが許してやってください。」
「いや、気にしていない。」
珍しく雪弥が引く。
「だがな、流石に初対面で襲ってくるなんて非常識すぎるな。教育がなってない証拠だ。」
雪弥はクレーマーの鑑みたいなことを言いはじめる。
「というわけで、部下の責任はボスの責任だ。そこの、ヤ○ザみたいなマスター。金よこせ。」
やはりクズであった。
「はぁ。めんどくせーのに絡まれちまったな。全く。いくらだ?飯くらいなら奢ってやるよ。レイナの攻撃をかわした褒美にな。」
「たまたまだ。」
「そうね。マグレに決まっているわ。」
レイナが雪弥に同調する。
「初めて意見があったな。飯代もいらん、やりたいことは終わったからな。帰らせて貰う。」
そう雪弥は言い残しギルドから出て行った。
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※雪弥がギルドから出て行った後
「マスター。本気であいつが私の攻撃をかわしたと思っているんですか。マグレに決まっています。」
「いや。アレがマグレに見えるならお前がまだ未熟だからだ。完璧に避けられていた。下手したら、カウンターを2,3発食らっていたかもしれんぞ。魔素の扱いは拙かったが、体術や剣術なんかは、俺でも勝てないかもしれんぞ。」
「そんな馬鹿けたことはありません。もしそうなら、名前が知れてるはずです。」
「確かにな。神都のギルマスにも連絡を入れてみよう。なんらかの情報くらいは見つかるだろうからな。」
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「あっ。ユキヤ様のやっと戻られましたか。」
リーシェが退屈そうな声で雪弥を責める。
「すまないな。変なのに絡まれたから遅くなった。まぁ、そんなことより、今日泊まるところなんだが。オススメなところを紹介してほしい。」
「変なのですか?気になりますけど、その話はまた後でにしましょう。宿泊施設はかなりありますね。お金はこちらが出しますから大丈夫です。本当はうちに泊まってもらってほしいのですが……… すみません。」
「いやいいんだ。それが当たり前だ。だが金まで出してもらって申し訳ない。立て替えという形で頼みたいんだが、それでも構わないか?」
「いや、大丈夫ですよ。お金はあげます。」
「それがダメなんだ。貸しを作るのはあまり好きではない。」
「…わかりました。ちょっと残念ですけど。」
「悪かったな。この借りは必ず返すよ。しかし、今日は疲れた。やっと休める。」
「そうですね。今日はユキヤ様にとって大変な1日だったかも知れません。では、泊まるところに行きましょうか。」
そうして雪弥は宿泊費をを3日分払いリーシェと別れた。
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一人になった後、雪弥は今日の出来事を反芻していた。横になったらすぐに、現実に引き戻された感覚がした。
「いろんなことがありすぎて、混乱のメーターが振り切ったな。1日で世界に順応するとは思わなかった。現実とは思えないほど奇々怪界な世界だな。これからの自分の身の振り方が分からん。」
雪弥は人間なのだ。いきなり周りの取り巻く環境ごと変わってしまったので、ついていくことなどできるはずがない。
「今日はもう終わった。明日何があるかも分からない。」
そう思っているうちに、ウトウトし出して、雪弥は遂に眠りについた。
読んでくださりありがとうございます。
以下プロットからの抜粋です。
・レイナ [家名:なし 種族:エルフ]
サラとは双子の姉妹。妹。年齢は100歳を超える。エルフにおいては双子は珍しく、世界でもほとんど存在しない。
・サラ [家名:なし 種族:エルフ]
レイナとは双子の姉妹。姉。レイナ同様100歳を超えている。
《その他の登場人物》
・ル・ボアのギルドマスター [種族:人間]
2代目ギルドマスター。初代はまだ健在だが、隠居して暮らしているため白羽の矢が立った。次代のギルマスの選考方法は、現在のギルマスの血縁者以外から選出され、投票によってきまる。
《フレイムペッパー》
食材。着火剤。魔素をある程度以上吸収すると発火する性質があるが一般人の魔力量では反応しないため、通常の料理にも使われる。また、発火する魔素量を持つ人は、食べれないことがわかっているので、食べない。一応、使われている場合は表示義務が存在する。
《ギルド》
[基本的にD→C→B→A→S→SS→SSS→Ex という階級が存在します。厳密に、規定があるのですが、詳しくは私も知りません。ただ、依頼の成功率や丁寧さや量が昇級の判断基準となっているようです。](本文引用)
設立は、最近なので、初代のマスターはまだ健在。とはいえ、年齢は600歳を超えている。
昇級の正確な基準は、
・依頼の正確さ
・依頼の達成する速度
・依頼の達成率(受注した依頼数における達成した依頼数の比率)
・適正なランクの依頼をこなしているか。(自分と同ランク又は±1ランクの依頼)
・緊急依頼の参加率
・特にギルド協会の役員が認めたものはこの限りではない。
《緊急依頼》
ギルドから冒険者に当てて出される特例の使命依頼。条件を満たす全てのギルドの冒険者が対象で、参加は自由だが、昇級に響く。なので、昇級したい人にとっては、ほぼ強制である。
《ギルド受付》
ル・ボアでは、カウンターが7つありいつも全ての窓口が混んでいる状況。空港みたいなところである。
依頼書の番号を言うことで、依頼を受ける。
《ギルド依頼ボード》
依頼書が貼り付けられているものがほとんどであるが、最近はハイテク化が進み魔法映像で壁に映し出す技術が使われているものもある。
《ギルドカード》
ランクや年齢、名前、生年月日、顔写真、国籍、裏面には臓器提供の意思確認があり、出入国する時に必要なパスポート的な役割も果たしている。
犯罪歴などはこのカードに記録される。なお、所持していない場合でも、犯罪歴は調べられる。