095.侵入/疑心
重厚な門に空いた、人一人入れるかどうかといった程度の穴。
確かに開けられたその穴からは……。
空気が漏れ出し、辺りを緩やかに揺らしていた。
「よしよしー! 無事成功ー! あとはー、この先に何が広がっているのかー……なんだけどもー」
「そうだね、この先こそが、最も危険といっても過言ではなさそう……」
「=うん。未知なる領域。私は知らないこの場所は。うん」
「そういえば、そうでしたね。オリヴァレスティさんは、まだ、この先には……」
ファブリカと共に踏み入れた門の先。
記憶が正しければ……。
ターマイト戦略騎士団の内部に繋がっていると考えられる。
それに、その先にて出会った人物。
今となっては詳細は不明であるがシュトルム。
それに団長とダルミが同施設内に存在している可能性は高い。
それを踏まえて、人質との供述や、王国への反抗。
その他主張が混在する中、魔導騎士団は先に広がる空間に答えがあると捉えて、「突入」を敢行する意思を固める。
「そーなんだよねー! ……という訳で私は経験不足……この先の確認は」
「=うん。もし私が確認したら……。うん」
「はいはいー、私ねー。今から準備するから、そこで待っててー!」
再度告げられた準備の合図。
辺りを警戒しながら問題の穴へと近づくファブリカは……。
その先に杖を向け、風を生成させる。
集まった風は、穴から内部へと侵入する。
それを目にするなり彼女は、即座に離れた。
「ふんふんふんー、……んー? 反応はーないねー」
「え、誰もいないってこと?」
「=うん。もぬけの殻。うん」
「んー、それらしい反応はないしねー……」
「風で分かるのですか?」
私は一連の動作に疑問を抱く。
どのようにして先程まで、敵を排除していた風を用いて「内部状況」を把握したのかと、その内容にどこか引っ掛かりを感じたのだ。
「エクタノルホスの所に向かう前にー、反射探知をしたでしょー? あれは応用でねー。広範囲を調べるのに使うんだけどー、今回のはーその簡易版って感じかなー!」
「そういえば……思い出しました。杖を割る動作。あれが広範囲であり、そのまま風を発し、調節すれば内部状況を把握することが出来るのですね」
少し前に目にしていた魔素同調による反射探知。
開けた高台にて行ったのは、周辺状況を探る為であるとの会話を思い出す。
危険性を明らかにするべく行われた動作は広範囲に影響し、あの時のような流れを経ることによって周辺を知ることが出来る。
今回行われた、いわゆる簡易版の反射探知は内部。
そして、特定するものが限られているからこそであろうと推測する。
当然、炸裂する光球や先程より迫り、そして消えた影であったり、先へ急がねばならないのは、変わっていない。
「そうそうー! そしてー、その結果ー! 問題ないと考えられるんだよねー!」
「それじゃあ……」
「=うん。ついに。うん」
「そのためにー、もう少し大きくしよっかー!」
穴に向かって指し示したファブリカは、杖を用いて風の塊を生成。
既に開かれた穴を、更に拡大させる。
彼女の動作によって、外部と内部を隔てる壁は消える。
そして、私達の前に、記憶と同様の設備が現れた。
「突入ー!」
「突入! いくよ! 兄ちゃん!」
「=うん。まってー。うん」
誰より先に飛び出して、中へと消えたファブリカ。
それを追ってオリヴァレスティは、私を先導して進む。
足を踏み入れ視界の中に記憶を投影させると、単間隔の通路が現れる。
比較的暗がりである通路には不審な点は存在していない。
見えた先の集光部の前にて、ファブリカは足を止めている。
「ファブリカ! どうしたの?」
「いやー、それがさー」
「=うん。なんだろうか。うん」
唖然とした表情を向けてこちらに振り返るファブリカ。
彼女はその後すぐに、光の集まる部分にて指を示す。
「……あれ見てよー」
オリヴァレスティがファブリカの肩に手を当てて覗き見始めたので、私はそれを追うようにして視界を共有させる。
天井から吊り下がった巨大な光り輝く板。
その画面には、六角の巨塔が映し出されていた。
所在不明の特徴的な光景に、私の視線は自ずと向くが、すぐさま下ろした視界の中に、信じ難い光景が広がっていたのだ。




