093.認識/砲門
「シュトルムさんー、帝国魔術士の接近を知らせに向かった団長とダルミはー、無事なのですかー?」
「そうだそうだ! 早く返せ!」
「=うん。説明を。うん」
「えー、わ、私わ、は、戦いが好きですすす……ののようですね。そ、こでぇ、ここまで出てきまししかた、帝ン国を引き入れる王ォ国とはま、仲違いい、して、純なる戦闘へとと? それではぁ、移行しにいきますす……すです」
「……聞いてない」
「=うん。何が起きてるのだろうか。うん」
掠れた声はどの時よりも更に酷く、聞き取ることが困難となっている。
空間内を飛翔するが如く響かせる機械音。
やはり不穏であり、不気味な印象を抱かせる。
依然として「魔術槍」を託した彼の正体が、こうも変貌するものかと信じ難いものがあるが、記憶を辿りながら、特徴的な音声の切り替わり地点を思い浮かべれば……ある共通点に、気づく。
「……もしかして、シュトルムさん、戦闘時に人格が変わるのでは」
「いや、そうなんだろうけどさ。さっきから話してることを聞いた限り、なんで私達が……」
私の指摘は、無惨にも一蹴される。
「=うん。それに、王国に文句があって戦いたいっていうなら────」
「多分ー、王国外にいたのがー、私達だけなんじゃないかなー。……えーっとー、シュトルムさんー?」
「な、な、なんで? ななんで、でししょう、か?」
「そろそろー、本題に入らせてもらいますー。あなたはー、私達の敵ですかー?」
「て、敵? 私はぁ、国民をを? 無下にに、扱う王国にぃ嫌気が指したのですぅ、ででですから。御二方を人質にとらりぃながら、帝国へ、へとぉ行けられれる……所まで進行を……」
「……分かりましたー!」
「え?」
私は唖然とする。
何が分かったのだろうかと。
シュトルムの声すらも判別難解であるというのに、それを理解したとの文言を打ち出したファブリカは、何者なのだろう。
「え? ファブリカ、何が分かったの?」
どうやらオリヴァレスティも同様な意見らしい。
少なからず私だけが分からなかった、なんて事にならなくて救われた。
「=うん。団長とダルミは今もあそこにいる。敵対するのではなく、王国への反抗に対する自身の保身の為に、現行動に至っていると推測。認識阻害を破る方法として、攻撃を魔術槍にて行わせ判別。今尚砲門がこちらを向き、臨戦態勢であるのは、姿を消す魔術阻害と対防御魔術の魔術槍……未知なる相手との戦闘を望んでいるからか。うん」
どうやら分かっていないのは私だけのようだ。
オービス、君は……。
「王国に対しての不満ー、明確に敵と明言しない以上ー。私達はー危害を加えるつもりはーありませんー。なのでー」
「なので?」
「あなたにー、直接会いに行きますー!」
「え」
関連性があるのかと疑いたくなる程に、際立った言葉。
確かに、敵であるとは明言はしていないものの、オリヴァレスティの分析と照らし合わせた場合……ファブリカ側の言葉には危険性を感じさせるのだ。
「会いに行くって……もしかしてこの中を、ですか?」
「そうだよ! 周りには音声を集める道具が散らばってるし、いくら見えないからって……」
「=うん。どこにいるのか判別されてしまう。うん」
「相手から見えないー。それだけあるならー、あとはそれを阻むものを取り払ってしまえばー、十分かなー」
「そ、それられなら、わ、私はぁ────」
────砲門に再び、光が集まる。
再び訪れた移動の兆候。
手には杖を持ち、体全体をもって食品袋を保持している私には、その動作がどのようなものであるのかが、とても重要なのである。
「ファブリカ! まずい! まただ!」
「=うん。到着までに時間が無い。うん」
周囲に巡らされた道具。
それあってかファブリカの目標が不明だ。
さらにいえば。
未だシュトルムについても不透明であり、終始疑惑渦巻く中。
内部から空気が押し出た現空間内にて、息を潜めていた。
「うかうかしてらんなーいー! オリヴァレスティー! あとは私についてきてー!」
「分かった! ……ってことだから兄ちゃん! 掴まっててね!」
「わ、分かりました」
地面との距離は第一射を回避するべく、極限まで近づいていた。
だが、再び訪れた砲門への集光に「足を接地させる」という対応をとった。
「オリヴァレスティー! 頼んだー!」
「分かった! 絶対に外に出ないで!」
「=うん。維持、そして増幅。うん」
足を着け、オリヴァレスティは両手を空へと掲げる。
小刻みに震える身体に、血管浮き出た腕を目にして悟る。
「衝撃に備えて!」
彼女がそう口にしたのを境に、変化が起きる。
私達を囲むようにして現れた紫炎の囲い。
オリヴァレスティの腕から流れ出る物質は丸屋根状に展開される。
展開された紫炎の囲いは、私がその姿を視認したと同時に拡散し、中心から解き放たれたかのような拡張を見せると、辺りに火花が浮かび上がる。
「これで、声は聞こえないはず」
「=うん。手応えはあった。焼き切れたね。うん」
増幅していく紫炎。
曲線的な広がりに沿って次々と空中に現れた火花は、まるで何かが網に接触し、反応を散らしているのだと思わせる。
冴え渡る空、清々しいほどに炸裂し……。
火花を生み出した丸屋根状の囲いは、私達を中心として突き抜けた。
「……さてー、皆ー。ここからが本番ー、認識阻害を有効活用しないとねー!」
僅かな間隔にて浮遊していた両者とも、大地に足をつけて砲門を臨む。
問題の砲門は、第一射とは異なり認識阻害を展開しているのにも関わらず。
有ろうことか、正確に軌道修正をした。
無数に備わった砲門。
その「口」が私達に追いつくや否や、大地を揺らして光を収縮させる。
「────ッ、?!」
重力場に当てられたかのように。
全ての砲門に集まっていた光が、消え去る。
未知の空間に消失した光は間隔開けずに舞い戻り、一瞬の出来事によって訪れた変化、その反動から、何倍もの力を一点に集中させて放出する。




