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088.擦違/錯乱


◇ ◆ ◇ ◆





────炸裂音。



刹那として訪れた空には似合わぬ、異なる現象。



音が聴覚によって判別されるや否や。

至る所のいわゆる周囲にて私達を覆っていた「空気」が揺らぐ。



大波を打つかのように、空中が荒れると……。

その中を進む私達は、進行に際した釣り合いを失った。





「ファブリカ! あれはまずい! もうあんな所まで!」



「それは私達が帝国領内に侵入したからでしょ!」





揺らいだ上空の環境からか加速は止まり、緩やかな進行に切り替わる。





「もう……ここは帝国なのですか?」





驚愕した様子で目を見開き、ある一点を凝視しているファブリカ。

その様子を視界に収め、それを事前情報として尋ねる。





「瀬戸際ってところかなー! ……あれ、見えない? ……って、私には幸い重複があって人より視力がいいんだけどー、凄い量の魔術士がこっちに向かって魔術を放ってるんだよねー!」



「対処が必要だね……」



「=うん。まだここまで届いてはないけど、この揺れを見ると、しばらく進めば射程圏内に入るね。うん」



「その通りー、だからこうやってー距離を計算しながら徐行しているわけだけどー、まずいねー」



「どうしますか……」



「よしー、こうなったら一か八かーだねー!」



「え」



「オリヴァレスティー? 突っ込むよー! 術の準備は出来てる?」



「まあ、してないことはないけど……ほんとにやるの?」



「うんー! やるやるー! そういうことでオネスティーくん! 魔術槍での援護ー、頼んだよー!」





緩やかに進行を続けるファブリカとオリヴァレスティ。

杖に乗りながら空中を進む中、衝撃による揺らぎは大きさを増してゆく。



今も尚、ファブリカが重複の恩恵によって捉えたという「魔術士」との距離が狭まり、魔術の有効射程距離を更新していることに焦りを感じる。



時の流れと共に会敵へと近づき、行動の時が迫られる。

見えざる敵の中を潜る、という唐突なる作戦に、私はいつの間にか……援護役として、その「一員」に組み込まれていた。





「どのように援護を……」



「そーだねー! ひとつ言うならー、後ろに向かって、円盤が見えたら射出して欲しいかなー!」



「私はこれから防御区域を外身に展開するね! それで、ファブリカが私達に認識阻害をかければ……」



「=うん。魔術士に見つからず、安全に潜り抜けることが出来る。うん」



「そうそうー! 私とオリヴァレスティはーそれに手一杯だからー、オネスティーくんがー、後ろに向かって攻撃してくれればー、安全に離脱できると思うんだー!」



「円盤…….。後ろから射出することを限定するのは、進行方向に被らない為ですね」



「ご名答ー! それを防ぐ為にー、いきなり前に魔術士が割り込んで来ても困るしねー!」



「うん! 進行方向と逆なら、気づいても反応に至る頃には、私達、どんどん先に行っちゃってるからね!」



「=うん。早く中央、本陣を助けに行かないと。うん」





ファブリカそしてオリヴァレスティが互いに進行方向を定め。

腕を使った、盛大なる動作によって、指針を定める。



僅かな緩急と明らかな起伏により……。

今尚、その姿すら確認出来ない未知の空間に、滑り込む。



加速という名の非日常に再度足を踏ん張りながら。

抱えた荷物と共に取り残されてしまわないよう、意識を固く保持した。



────視界に捉えた無数の点。



それらが浮遊する魔術士であることは……。

飛び交う光線によって、否が応でも実感させられた。





「絶対にー身を乗り出したりしたらだめだよー! 少しでも当たったらー、ただじゃ済まないからねー!」



「あれが……魔術士ですか、本当に見えていないんですよね」



「もちろん! こうなったからには仕方ない! 兄ちゃん見てな! 突っ込むよ!」



「=うん。ファブリカ。いくよ。うん」



「了解ー! 合図はこっちでするからー! オネスティーくん!」





杖に跨り空を浮遊する魔術士群。

彼等は先程私達が、加速を始めた辺りに光線を撃ちこんでいる。



すぐ傍を空気を鋭く切り裂くような、高速移動物による圧縮音が至る所から聞こえ、目と鼻の先となった空中上の人集りを前に一瞬動きが止まる。



オリヴァレスティの杖に乗り込んだ私は、足を踏ん張り多大なる加速に耐えていたのだが、一瞬の切れ間のような静寂に肩透かしを受ける。





「────っ!」





魔術士群。

その目の前にて動きを止め、急制動にて荷物が前方へと移動するなり、私にとっての座面は予想する間もなく、空高くへと……上昇した。





「オネスティーくんー! 今ー!」





今にも衝突してしまうのではないかと思わせるほどの距離にて静止。

絶え間無き、一挙なる運動にて、上昇をする。



魔術士を進行方向とは逆向きの状態にて捉え……。

これこそが、射出に伴った瞬間なのであると悟る。



上昇し、後方下部に捉えた魔術士に視界を固定し。

右腕を指し示すかのように、向ける。



装着された魔術槍の充填口を開け、雑嚢(ざつのう)から魔術筒を取り出し加えると、流線形に見えた人影を目標に、甲から伸びた取手を引き込んだ。





「魔術による通常攻撃は有効じゃないー……つまりあれだよー、エクタノルホスの魔術阻害と同じような感じかなー!」



「なるほど、魔術阻害を破るように作られた魔術槍。封入した魔術を射出させる方法は、対人においても効用があるのですね」





不可視の円形。

杖の下部に備わっていた別枠の存在に射出された魔術筒が噴煙放ち進行すると、接触するや否や魔術士はその場から崩れ落ちた。



正体不明の円盤が魔術筒と接触すると浮力を削がれたかのように、それこそ翼をもがれた鳥のように儚く落ちていく。



以前、私は……。

魔術士、その下部に備わっていた円形の存在を目にしている。



……王国における奇襲。

その偵察時において、敵魔導部隊についての内容を記録していたのだ。


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