087.浮遊/虚栄
曇空のもとに歩を進め、表情の曇った民衆を横目に大通りを抜ける。
再びこの王国に足を踏み入れ、目指した拠点を第一に捉えていたが為に、その他の事象に関して、即座に気づかなかったが……。
現時点の視界に映る、少なからずの事実としては。
光が遮断され薄暗いせいか、辺りには重苦しい空気が渦巻いている。
それを塞き止めるかのように佇む堅牢な門を抜け、先を急ぐ。
城壁を背後にした私達は、衛兵の目の届かない所までは歩き、十分に離れた所でファブリカとオリヴァレスティは杖を展開させた。
「よしー! 今回はー、私がオネスティーくんを運ぼうと思うんだけどー、どうかなオリヴァレスティー?」
「な、なんで私に聞くのさ! いいも何も、そうしないといけないんだし……」
「=うん。……。うん」
「すみません」
「いやいいよ! 仕方ないじゃんそんなの!」
「=うん。負担は少ない。うん」
「じゃーオリヴァレスティー! お願いねー!」
「ファブリカ……」
そそくさと荷物を纏め、杖に跨って短浮遊をするファブリカ。
彼女は、小さく静止した状態にて、指を向ける。
「食材が落ちないように、手伝ってもらいなよー!」
彼女が嬉々として指し示した辺りに視線を向けると、そこにはオリヴァレスティが一心不乱に集めていた食材袋が……置かれていた。
展開されたオリヴァレスティの杖はその場で地から離れ浮遊している。
何も置かれていない杖と、地に置かれた袋を交互に見た後。
私は、杖の展開者に対し迫るように、視線を送る。
「……抱えて乗ってね、落とさないようにね!」
「=うん。お菓子とお肉を抱えて空を飛ぶ。うん」
「……なんかー想像したら面白くなってきたなー!」
「ファブリカ……」
「ファブリカさん……」
「二人して纏まったところでー、出発しよっかー! あの先に団長とダルミが待ってるからねー」
緊急事態。
拠点の中で団長からの報告を受けた。
ターマイト戦略騎士団と合流した団長とダルミと別れて一夜開けた私達は、その連絡によって拠点から出発し、王国を脱した。
救援を求めて合流を要求する団長との連絡は、断片的である。
明確に判明していることは現時点において。
団長とダルミが戦闘下に置かれていることだけだ。
二つに分かれたトーピード魔導騎士団の一方が、検証不可能な状態におかれ、救援を求められているという暗泥なる現状。
現実として直面している彼女達は何を思っているのだろう。
「目標帝国領内ー! 発信源を辿って出発だー!」
「兄ちゃん! 振り落とされないようにね!」
「=うん。落とさないようにね。うん」
空高く浮遊したファブリカとオリヴァレスティ。
指を指して遥か遠方を指し示すも、「振り落とされる」などという言葉に気を取られ、一瞬、対応……反応が遅れた。
「振り落とされる……もしかして」
「そうそうー! 早いからねー!」
「うん! 急ぐ!」
「=うん。急いで出発。うん」
「え」
一瞬、乗り込み腰を下ろしていた面。
つまりはオリヴァレスティの杖が、歩行器具の地帯のように動く。
視覚的な情報から、すぐにそれが加速によるものであると理解したが、それに伴う反応を即応的に強いられたがために意識な足元へと移動してしまった。
あまりにも早く、予想を超えた空中加速に私はそれこそ、振り落とされないように足を踏ん張ることしか出来なかったのだ。
「気をつけてね! 身体に力を入れて、気をしっかり持っていれば! 大丈夫だから!」
「=うん。暫しの辛抱。うん」
「いいよいいよー! そのままそのままー! 頑張れーオネスティーくん!」
「はい……。私は大丈夫ですから、先を急ぎましょう」
「うん! ……ありがと!」
「=うん。お互い難しい立場だからね。うん」
その言葉を皮切りに……。
ファブリカとオリヴァレスティの空中飛行は、加速の度合いを増した。
私はなぜ、そのようなことを言ってしまったのかと後悔の念に駆られる。
若干大きく装った自らの言葉の結果として、足に更なる力を込める事となったのは……どうやら、また別の問題である。
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