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086.進行/転換


「振り返らないでー、ただひたすらに進むんだー」





その言葉通り、辺りに纏う賑わいに目もくれず……。

先導し、店内の端を目指して、突き進む。



初めて私がこの場所に足を踏み入れた際。

説明の為に腰を下ろしていた机類に対し……。

ファブリカが、差し掛かろうとしている。



門から移動、当該空間に帰還する間までは、隣にいたオリヴァレスティ。

先頭の彼女に引き続いて、追い抜こうと試みる。



故に、私は彼女に困惑なる視線を送った。





「だね! 今は、ファブリカの言う通り! 外に出ることが先決だね!」



「=うん。忘れ物はないように。うん」





私は進む。

先頭のファブリカ、そして私に背中を見せるオリヴァレスティに倣って……。



前へと向かう。

後ろを振り返らず、脇にも目をくれず。

ただひたすらに、偽りの拠点の出口を目指した。



────開かれた扉。



躊躇(ためら)いなく踏み出した彼女を光源に、彩りを重ねている外界の光景に臨む。

それに伴い、比較的軽快な動作によって開かれた店の扉を大いに抜け、更なる「雑踏」へ深々と足を踏み入れる。



灰色の空、あまり光の差し込まない上面の曇り空。

それは帝国が投下した筒によるものである。



しかし。

その煙の合間から時折漏れる光、それが線となって降り注ぐ様は……。

幻想的な光景を作り出すには、十分であった。



そんな(まばゆ)い一線を受けながら、私の脱出を笑う彼女達。

その様子を思えば、こちらへと至るまでの動作とやらが、あまりに機械的であった「影響」によるものなのではないかと考えてしまう。



突然、私にはファブリカとオリヴァレスティに対面で待ち受けられているのが恥ずかしく思えたので、その上面から降り注ぐ光線にも負けず劣らずの表情を避けるべく、振り切らんばかりの勢いにて、後ろを振り向いた。



……私は再び、建造物を目にする。



いくつもの異なる旗がたなびく、煉瓦造りの巨大要塞のような建造物。

大いに幅のある大通りとは比較にならない程、それはまるで今まで歩いてきた道を塞ぐかのように、威厳深く聳え立っている。



それは今まで見てきた家や店の装飾の中でも極めつきで、これを見た瞬間に私は、やはりこの世界について何も知らないのだと思い知らされる。



細長い銀鏡(ぎんきょう)が煉瓦造り調の建物を覆う様に浮遊し、その上部には無数の銀鋲(ぎんびょう)が、尖端を外側に向けながら空中で静止している。



壁に備わっている幾らかの窪みに灯りが灯されているが、その「光源」は私の知るものではなく、完全な球体をした炎のようなものがそこにはあった。





「オネスティーくん! そろそろいーかなー!」



「扉を抜けて、大通りに身を戻した状態……これからすることは、一択だよね!」



「=うん。いざ進もう。団長とダルミのところへと。うん」



「……そうですね。行きましょう。……えっと、私にはその、思念伝達によって情報共有はなされていないのですが、お二人は────」



「帝国領内ー、ターマイト戦略騎士団内部だねー! ……しかもー! 平時じゃなくて交戦中ー……」



「二人は今、敵と交戦中。その救援に私達が呼ばれた……場所は、ここから離れた……つまり」



「=うん。つまり。うん」



「……つまり」



「王国から飛ぶことになるねー! オネスティーくん!」



「……結果を知ったばかりで、多少先が見えてしまいましたが」





不明瞭ではあるが、イラ・へーネル団長とダルミは現在、ターマイト戦略騎士団の内部におり、そこで戦闘を繰り広げているらしい。



発信された救援情報をもとにア号姉妹と別れ、曇下の通りに身を晒した訳だが、先に向かうそうだ……それも、ここから離れた「帝国領内」へと。



距離の離れた……そして帝国という単語を聞けば、ある程度はその先を想像出来てしまうことを実感しながらも、思い浮かんだ事象に注力する。



────飛行。



今、適性検査という方法によって明確に。

現時点では魔術の使用は不可であるとの判断が下された。



そんな私にとって、これからについて気に掛けることといえば。

次はファブリカ、オリヴァレスティのどちらに、自らの身がお世話になるのだろうかといった、稚拙にも思える「問題」についてである。





「……あそこから杖を持ってきてるんだからー、諦めるのにはーまだ早いからねー!」



「そうそう! 今は遠慮なく、ね!」



「=うん。悪くない悪くない。うん」



「それじゃー、私達はさっそくー、ここを抜けて門を越えようー!」



「そうだね! 急いで壁の外から飛び立たないとね!」



「=うん。行こう行こう。うん」



「そうですね」





蛮竜の広場。

その中心に置かれた物体(オブジェ)を目に焼き付け、大通りの先……端を臨む。



王国の先に付けられた「門」に向けて、私達は一歩を踏み出した。


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