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085.警報/大衆


【警報】



私が魔術を使えるか否かを尋ねた際。

突如として拠点に警報音が鳴り響く。



それが警報、非常なる事態を伝える用途のものであると……。

直感的に悟る音調に、私は動きを止める。



聞き慣れた電子音とは似ても似つかない、鋭い金属的単調音。

私達を包み込むようにして、全方向から聴こえてくる連続的な警笛(けいてき)に……。



────全員の表情が変わる。





「……緊急事態だね。……あは」



「みんなー、伝わったー? 団長からの続報ー」



「なにか……あったのですか?」



「あーオネスティーくん、さっきの質問にはまた今度ー答えることになりそうだよー!」



「?」



「団長からー思念伝達により連絡が入ってねー。どうやらー助けを求めてるらしいー!」



「うん、途切れ途切れで不鮮明だったんだけど……帝国領内での交戦が激しさを増して、増援が必要みたいなんだ」



「=うん。団長、ダルミは敵の接近をターマイト戦略騎士団へ事前に報告。日を(また)ぎ、現在激戦なり。うん」



「そんなわけでー、オネスティーくんの魔術適性の件はー、限定的な適性がありーということでー。ひとまず締めておこうかなー!」



「……了解です」



「それじゃ! 後は出るのは簡単だよね! ……あは!」





アンは、拠点の後ろにあった扉に指を向ける。





「だよねぇ。入るのには、複雑な工程を経なければならないのだよねぇ」



「そうそう唇だっけかァ? そりゃ誰かに勝手に入られても大変だしなァ!」



「……ま、この場所で空間を繋ぐ私達としては、上の情勢の判別は難しいけどナ」



「……そうデスね。入ってくる情報が思念伝達によるものだと偏りはありますね。いつか……」



「……それじゃあ皆! あたし達の分も働いてきてよね! ……あは!」



「……ア号姉妹は、増援には加わっていないのですか?」



「そうだねー。ア号姉妹はー、ここから基本的には出られないんだー」



「うんうん、この空間を外の世界と繋げておくっていう大切な、ア号姉妹ちゃん達にしか出来ないお仕事があるからね!」



「=うん。ア号姉妹。凄いやつ。うん」



「そうですか……。皆さん、私なんかの検査のために色々ありがとうございました」



「感謝なんてしなくていいよ! 皆のためだしね! ひとまず可能性があるってことは分かって良かったよ! ……あは!」



「オネスティさんも特殊らしいだよねぇ。素質はあるようだけどねぇ」



「……放出口がないんじゃあ、溜まる一方。確かに特殊だよナ」



「今後の課題はァ! いかにオネスティさんの通気を良くするか、だぜェ!」



「……そうデスね。オネスティさん。今後ともよろしくお願いするデス」



「……こちらこそ。よろしくお願いします」



「よしー、纏まりも良いところでー。行きますかねー!」



「だねー。ア号姉妹ちゃん達ありがとね! また来るね! 今度はこの袋に外の食べ物入れてくるから!」



「=うん。待ってておくれ。うん」



「うん! 早く帰ってきてね! 無事と成功を祈って待ってるから! ……あは!」



「ご武運を、だよねぇ」



「生きて帰って来るんだぜェ!」



「……ま、その時は、また食事でも一緒に……ナ」



「……そうデスね。続報を期待しているデス」





纏まり始めた出発に、別れを悟る。



彼女達の後ろに控える扉の存在は……。

彼女と外界を隔てる壁の大きさを、想像させる。



左右に分かれ、扉へと続く道を作る彼女達。

先頭に立って進むファブリカを視界に収めながらオリヴァレスティを見る。



机の上に置かれた杖。

ファブリカがそれを持ってきたというのに……。

今となっては、預かり知らぬものとなっている。



その杖の現状。

自身を投影させてしまわないようにと、気を引き締めながら求む。





「これは、持っていった方がいいですか」



「だね!」



「=うん。いつ使えるようになるか分からないし、まず、魔術適性はあるからね。うん」



「そうですね、へーネルさんも杖のことを言及していましたね」





私は唯一、机の上に置かれた「杖」を手に取る。



その机に意識をした始めの頃は、様々な……特筆すれば「瓶」などが置かれていたが、今となっては、紛うことなく閑散としている。



その変化から、この空間での経過を視覚的に実感する。



黒一色の漆黒杖。

何一つとして装飾のないそれは……。

懐かしい工業物、大衆流用品を思い起こさせた。



何故か懐かしくも思えた簡素な形状。

色彩を感じながら、その堅牢なる重量を貼り付ける。



────扉を開き、静止させるファブリカ。



こちらを見ながらに、扉に沿って立つ彼女の傍。

近的範囲には、漆黒の渦が広がっていた。



こちらから外界を視認出来ない。

まるでその様子は、ここに残されるア号姉妹の現状を表しているようで……清い心のままに、深部に到りて直視することは難しかった。



机の上から杖を取り、一切の異物が消え去った、均整的「面」をもって。

確認容易い、示された自らが行うべき、旅立ちとする。



私達という異物が取り除かれることによって……。

彼女達の台は、日々の食卓によって彩られていくのだろうと考える。





「……じゃあ、行こっか!」





長方の形に口を開け、飲み込もうと待つ黒渦に、一歩を踏み入れた。





◇ ◆ ◇ ◆





《光彩/雑踏》





────私は開かれた扉の外から内部を目にする。



良心的な価格設定、宿兼酒場。

ここで食事をし、泊まる者は、内部の実情を知って何を思うだろう。



様々な情報が行き交う憩いの場。

そんなことを言っていたオリヴァレスティは……。

それを含めての、拠点を意味していたのかもしれない。



木製の床を歩み、規則的な模様をした()()()()存在を踏みしめる。



白枠の絵画に照らされた机や椅子。

そこに賑わう人々を見れば……。

この内部に存在している「空間」が虚実(きょじつ)のものに思えて仕方がない。



赤色の上質な絨毯に在する民衆。

煌びやかな内部を後にし、内装にも及んでいた煉瓦造り調の様相を扉の外から、上級的なる視界を保ち、確認する。



本来人々が目にしているのはこの空間で、先に広がる本質的な存在については認知していない現状にどことなく悲壮感を感じる。



あの場所から持ち出した杖は今も握られている。

秘められた五人を感じ、思い起こされるには、十分であるのだ。


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