082.抗体/試金
メノミウスの骨を運び、奥の部屋に消えるア号姉妹とファブリカ。
何を思ってか私とオリヴァレスティを残したが、やはりその意図は不明だ。
彼女達がこの場を後にするや否や。
黙々と袋を手に取り、戸棚から菓子類を詰めていくオリヴァレスティ。
私は、それを目にしながら……。
ファブリカに頼まれた「監視の任務」を実行しようとしていた。
「……そういえば、先程話していた食糧難の件。良い案かは分からないですが、一つ思い付いたことがあるのです」
「んー? メノミウスのお肉を使った話だよね!」
「=うん。美味しい美味しいお肉。うん」
「その件なのですけど、そのままお肉として提供するのではなくて、粉々にしたり、混ぜ合わせたりして形を変えれば受け取り易いのではないかなと」
「え? お肉を……粉々に……? それって美味しいのかな?」
「=うん。想像がつかない……。うん」
「あの、元の肉がどのようなものかにもよるとは思いますが……大抵混ぜたり纏めたりしてしまえば、何とかなると思います……」
「なるほどね、それじゃあ兄ちゃん、……これ! 食べてみてよ!」
「=うん。ご賞味ください。うん」
そう言って、戸棚から菓子類を詰めていたオリヴァレスティはその手を止め、下に置かれていた別の袋からメノミウスの肉を取り出し、差し出した。
目の前に突き出された肉。
一口大に切り纏められているとはいえ、その若干青みがかった断面と鼻腔を刺激する臭いが、私の……食欲を実食する前から、半減させた。
「それじゃあ……」
私は恐る恐る噛みしめる。
一度口にすれば、食感その他諸々が判明する。
……恐らくこれは、牛肉のそれに似ているようだ。
そこまでくれば、後の猜疑心は崩れ、拍子に沿って進んでいく。
「────そうですね。思ってたより、味は悪くないと思います」
「ほんと!? 兄ちゃんは大丈夫なんだね!」
「=うん。よし。抗体があるようだ。うん」
「抗体……? それは……」
「うん! メノミウスの肉には、魔素が大量に含まれてて、魔術に対する適性がない人が口にしたら、拒絶反応が出ちゃうんだよね!」
「=うん。だいたい半分。うん」
「つまり、メノミウスの肉をもって食糧難を解決するには、魔術適性がある人でないと……」
「それは大丈夫! もちろん、加工方法はちゃんとある!」
「=うん。外部的に抗体を生成させれば事足りる。うん」
「そうですか────って、待ってください、今気づきました」
「?」
「それって、この結果は偶然ということですか……?」
「まあ、抗体がなくても、吐くくらいだしね!」
「=うん。極めて軽度な被害、味を楽しむには許容範囲。うん」
「ええ……」
にっこりと笑いながら、作業を再開するオリヴァレスティ。
下手すれば腹を下していた後付けの宣告に、彼女がとても恐ろしく映った。
・・・・・・
「お疲れ様」
「うん! 終わり終わり! ふー!これで後は安心だ!」
「=うん。ながたびながたび。うん」
詰め込み作業も終わりが見え、オリヴァレスティは袋を閉じる。
そうしている間に扉が開き、中から人影が映し出される。
真っ先に目にした、とある人影の正体。
アンの手には、液体の入れられた瓶のようなものが握られていた。
《奥の間》
「お待たせ! オリヴァレスティお姉ちゃん! オネスティさん! 抽出終わったよ! ……あは!」
「その手にしているのが……」
「そう! これこそが! 魔術適性を調べる優れものー! ……あは!」
ア号姉妹が全員揃い、拠点に備わった椅子やら何やらに座る。
さすれば、次第と元の位置へ戻っていく。
そして。
扉の中からファブリカが顔を見せる。
最後に出てきた彼女の手には、何やら彼女のものとは異なる杖があった。
「オリヴァレスティー詰め終わったー?」
「うん! 終わったよ!」
「=うん。それが。うん」
「うんうんー! オネスティーくんにあげるやつね!」
魔術適性を調べる内容物を保持した瓶。
そして、空中を浮遊し高速で移動することが可能な杖。
その二物が、机の上に置かれる。
これを使えるか否か。
アンが携えた「瓶」その内容物の結果によって……私の今後が定まる。
つまり今が、重要な分岐点なのだ。




