表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/219

080.接触/空虚


「お疲れ様です。風であそこまで綺麗に……まるで、削り取ったようですね」



「うんー? 風をもってー削るとはー、珍しい表現だねー。あれは厳密に言うとー、んー。切ってるーって方が正しいかなー!」





勘違いなのだろうか。

露になった骨、断面を削り取ったのは紛れもなく「人型の風」なのだが、その音に関しては関連性が掴めない。



表立って表現してしまえば、どれほどの効用が得られるのかは分からないが、少なからず今よりは心持ちとしても良くなるだろう。





「……よしー、お二人にも戻ってもらったしー。あとはー、回収だねー!」



「だね! ア号姉妹ちゃん達ももうそろそろ終わりそうだし、急ご!」



「=うん。もうそんなに残ってないから、早くしないと本格的に取られかねない……。うん」



「にしても、凄いですね。あれだけ分解……保管しても尚、見た限り、膨れがないとは……」



「私もア号姉妹ちゃん達の仕組みについてはまだまだ分からないことが多いよ! なんといっても、ずっと拠点の保持を任されていて、外に出られないみたいだし……」



「=うん。分かっているのはへーネル団長との関わりくらい。謎深き少女達……。うん」



「私もー、ここに来てだいぶ経ったけどー、確かにー良くは聞かされてないなー」



「そういえば、皆さんは……何故、魔導騎士団に?」



「私は重複者だったしー……思えば、働き口なんて限られてくるしねー。ま、こんなご時世で生きていくためにはー、使えるもの活用しないとねー!」



「私は辺境の出身で、簡潔に言うと血湧き肉躍る明日(あす)を求めて王都へ……」



「すごい簡潔にしてるよねーそれー!」



「=うん。う……それはまた追々。うん」



「まー、そんなとこだよー。皆、色々あるよねー……なんて言ってたら、もうこんなところだー!」





歩みを進めるファブリカの足が止まる。



その場で見上げた彼女に釣られて上を見れば……。

最早(もはや)骨格のみとなったメノミウスが、確認出来た。





「水が流入すれば、再生すると……」



「見て見てー! ここにある頭ー、これさえあればメノミウスは生き返れるってことだよねー、不思議だよねー」



「お肉……無限生成……。でももっと効率のいい方法があれば、食糧難には思うんだけど……」



「=うん。上の人達はこのお肉は、抵抗あるかもね。うん」



「食糧難……」



「そうー、ここ最近ねー。帝国との小競り合いが激化してきたからー、通商による効用が危ういんだよねー……。オリヴァレスティのいうようにー、こういったものが活用出来ればーいいんだけどー、なかなかねー!」



「そんなに、メノミウスの肉は、あれ……なんですか?」



「ううん! そんなことないよ! でも……慣れが必要かな!」



「=うん。まあ、調理さえすれば、あとはなんとでもなるさ。うん」



「オリヴァレスティは生で食べるもんねー!」



「う、うるさいやい! 生で食べたっていいじゃん! 美味しければそれでよいのだ! せっかくア号姉妹ちゃん達に保管して貰えるんだからねー! いっぱい食べるんだからねー!」



「はいはいー。じゃー落とすからー。オネスティーくん、両手を広げて受け止めてねー!」



「え」





何を言うのだろう。

唐突に告げられた余命宣告。

あそこまで大きく、そして高い所に確認出来る()き出しの「骨」を……まさか生身の人間に受け止めさせようとしているのか。



私は、背筋を()でられた時のような違和感を宣告より得る。

閉ざされた口から(わず)かに(こぼ)れた言葉を内部で往復させながら……。

私は、為す術なくか否か、言われるがままに両手を広げてしまう。



にやりと笑みを浮かべ、親指を立ててこちらに見せるファブリカ。

骨格に指を向け、起きるであろう動きに注目するオリヴァレスティ。



突如として訪れた命の危機に、両手を広げながら腰を落とし、上を見ながら目を見開く様は、傍から見れば不格好なものなのだろう。



……それは二人の表情を見れば、容易に証明される。



────杖を振りだし発生した風の刃は、首元の骨を断ち切った。



音などない、かえって静かな裁断。

段階的に確認出来る「落下」に息を呑む。



予測出来る落下地点に誤差を取り、半ば条件反射的に落下物の元へと向かう。



【接触】



(……な)



私は目を(つむ)っていた。



咄嗟に体が動き、誤差を修正した後。

落下を続けた骨を両手を広げて抱えたのだ。



……抱えた。

そう、今も尚、抱えている。



感触としては存在する「物体」を確認するべく。

恐怖のあまり閉じていた、重き目を姿なきものとせぬよう……開く。



すると。

私の若干歪んだ非鮮明なる視界は、紛れもない上部の存在を捉えていた。





「ファブリカさん……これ、軽いですよ。いや……それにしても、軽すぎではないですか?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ