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079.研磨/凋落


「よしー、ア号姉妹も頑張ってるようだしー、負けずに私達もー、作業開始しないとねー!」



「だね! あの速度だと……早くしないと、待たせちゃうかも!」



「=うん。私達は骨を回収する。手間、かかりそう。うん」



「そうですね。メノミウスの元へと急ぎましょう」





そんな会話をしている合間にも。

ア号姉妹は肉を喰らい、巨軀(きょく)を分解させている。



また、オリヴァレスティが焦ったようにその場で飛び跳ねているのも分かる。





* * * * * *





《メノミウス》





「ついたついた! さてさて! ……あー、あーんな高い所から骨を取り出すなんて……」



「できるよー」



「=うん。知ってたけど言いたくなかった。うん」





進行し、至る所から振動が発生している区域。

メノミウスから発現(はつげん)した豊かな音色を(たの)しむ間もなく、彼女達は告げる。





「確かに……こう見ると、かなりの高さですが……?」



「まあまあー、見てなってー」





何かに警戒したかの如く、腰を低くさせたファブリカは手にした杖を空高く、ここでは上部に向かって、高らかに掲げる。





「ほれー、それなら手伝ってもらおー」





ファブリカの掲げた杖、その遥か情報に振動が起きる。



無より現れた無。



青みがかった着色された「風」を(まと)う彼女は、腰を低くして頭を抱えるオリヴァレスティに向けて清々しくも思える笑みを浮かべる。



────飛散。



纏われた風が瞬時として辺りに飛散すると、彼女を中心とした両端の地面に、水溜まりならぬ「風溜り」が形成されていた。



(……な)



形成された二つの風溜り。

淀み、色彩を持った風。

その風量は次第に増していき、それはいつの間にか「人の形」となっていた。





「うわーーーーっ!! でたこいつらーっ!!」



「え」



「=うん。うわーんこわいよー。うん」



「はいはいーオリヴァレスティー、毎度だけどー、この子たちは別に怖くないよー! まあー、団長のようには出来ないのもあるんだろーけどー」



「……もしかして、あの時私が見た、火柱を放つ人が……その……」



「そうそうー! 私のは初めて見たでしょー! 団長は影でー、私は風ー! 団長のように上手く出来なくて人っぽくはないけどー、まあーその分ー、色を付けてるんだんだけどねー!」





思えば、私はこのような姿を目にしていた。

それは、彼女……ファブリカそしてダルミ、その二人自身だ。



二人に初めて出会った時。

その姿は(もや)に隠れ判別することが出来なかった。

そう、ちょうどこの(かぜ)人間(ヒト)のように、顔がなかったのだ。





「こ、こわい。こわ……こわ……」



「=うん。こわ……。うん」





座り込み、耳を塞ぐオリヴァレスティ。

その周りを飛び跳ねるかのように回る二つの風の塊。


それを見て、先程まで彼女が同じ動きをしていたのを思い出し。

如何(いかん)せん正確に、密かではあるが、対比させてしまう。





「はいはいー、分かったよー。それじゃあー、お二人共ー。首元の肉を削ってきてくださいー!」



「これで、骨を(あらわ)にするのですね」



「そうそうー! 綺麗になった後はー、回収すればいいよねー」





小さく頷いた二つの塊は、空を飛びメノミウスの首元へと向かう。



張り付いた人型の風は、目標に張り付くと次第に高周波の音を発生させる。



(オリヴァレスティが耳を塞いでいたのは……)



よく……思えば……。

人型の風が発生し始めた頃から耳を塞いでいた彼女。

それは、この高周波の甲高い音を防ぐためであったのだと身をもって知る。



オリヴァレスティを見れば。

いつの間にか三角座りをしながら、暗い顔をしている。



私はそれを見て、今現在メノミウスを研磨している二人と彼女を交互に見比べたあと、暗黒的な淀みに深々と、近寄る。





「……これが、嫌なのですか……?」



「……そうじゃないんだよー、だってー、顔がない奴なんてー怖いじゃんかー……」



「=うん。それより先がないからね。うん」



「……顔。確かに怖いですよね、この音と合わせるとなかなか」



「……ん? 音? そんなの聞こえないけど」



「え」





彼女には、聞こえていない。

高周波の甲高い音。

何かが削れるかのような研磨音。



私には、この音を聞くのは初めてではないような気がするのだ。

そう、どこかで────。





「よしー、こんなもんかなー」





額の汗を拭い、声高らかに作業終了を告げるファブリカ。

……そうだ、あの時。

王国で乗った昇降機の中だ。



あそこで感じた違和感……なぜ今ここで、この音が。



私はオリヴァレスティから足を下げ……。

ファブリカに向かって足を踏み出した────が、踏みとどまる。



……無策に告げれば意図せぬ凋落(ちょうらく)に繋がってしまうかもしれない。



もし仮に、あの音を聞くのが初めてではないのだとすれば、何故彼女は、それを初めてであるかのように装っているのだろう。



……故に、私は向かう。

自らの真意を悟られぬように。


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