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076.加速/落下


岩陰にて事の経過を伺う私達を余所(よそ)に、颯爽(さっそう)と飛び出したアン。

佇むメノミウスを清々しく、一直線上に捉えている。



目を見開き、視線を固定させた彼女。

その様は、目標残留物に対して吟味(ぎんみ)をしているようであった。



どこか寂しげな……なにか踏ん切りを付けたかのように小さな彼女は小さく頷くと、細やかな指先を五回折って数えながら後ろへ下がる。



その動作、私は思い出す。

視線に捉える目標体に対して引かれた直線、そこに立つ彼女。

その後進(こうしん)は、まさに助走距離の確保動作に酷似(こくじ)していた。



────腰を低くし、足を折り曲げて収縮させる。



瞬時として解き放たれた筋繊維。

反動とともに推進力(すいしんりょく)となり、アンを加速させた。



メノミウスとアン。

直線距離で結ばれた()()



置かれた点を更なる後端に移動させた彼女は……。

爆発的な加速力を(ともな)いながら、走り出したのだ。



乾いた口腔内に意識を度々(たびたび)向けながら。

私は、この目をしかと開け、その光景を見守った。



巨躯に向かい走る少女。

彼女は速度が上昇し、軽快なる動作を経た辺りにて、自らの「眼球」を覆う。



姉妹によって差のある色彩。

どれ一つとして同一のものが存在しない彼女達の目。



それを持ち得た疾走少女は……。

覆われた辺りから色彩を発光……(こぼ)れさせ、物質を生成させる。



巨大な槍。

先端に過剰にも思えるほどの大きさをした、岩のような刃先が輝く。



疾走中に自らの瞳を覆い、溢れ出した色彩によって生成された槍。

光が集まるようにして形成された武器は、彼女の手に保持されている。



そして、走り続ける彼女は思い切り足を曲げ、それを発条(バネ)のような要領で伸ばし、段差さえない場所から一気に跳躍した。



武器を振り上げながらに空中へ舞う。

その様子はさながら、競技選手のようであり、妹らしい華奢(きゃしゃ)な体が空中に舞う姿に不安と期待を織り交ぜながら、それを引き続き見守った。



跳躍の次にアンが行ったのは、姿態(フォーム)の修正である。



長く大きな槍を持ち、息を加速させる少女。

小さく可憐な彼女には見合わないほどの武器と共に。

紛うことなく清らかに、メノミウスの頭部を捉えている。



恐らく「跳躍」した彼女は、頭部を捉え、現位置を空中にて修正し、開いた差を……丹精込めて埋めようとしているのだろう。



しかし誠に、いくら武器の基本規模が雄大であったとしても空中で、それも不安定な状態にて向かうなど不可能に思えた。



だが、彼女はそんな不安を他所に、小柄で軽そうな身体を最大限に引き出し、目標との差を盛大鮮明に、詰めたのだ。



大地から跳躍し、空中を舞いながら姿態を定め、頃合を掴んだ彼女は握り締めた槍を大きく振るい、対象であるメノミウスの頭部に向かって跳躍時の運動(エネルギー)を最大限に生かして進行、清らかに突入した。



────水面に雫が落ちる。



それほどまでに静かに、そして鮮やかに……。

風靡(ふうび)的な結果を齎したアンは、メノミウスの頭部と共に地に足をつけた。





「……おお」



「やるねー……!」



「一瞬で……私、空いた口が塞がらないよ!」



「=うん。一撃必殺。うん」





攻撃を加えた際に彼女が使用していたのは長く大きな槍であり、振り上げの動作から振り下ろしにかけて発生した質量的加速を用いて「総量」とした。



彼女は自身の速度と槍先の動きを合わせ、それが狂いなく合致した時を計らって……相乗的に加算された力をを一点にぶつけたのだ。



……鮮血降り注ぐ中、笑顔で手を振る彼女。



既にその手には槍の存在などなく、彼女は普通の少女に戻っていた。





・・・・・・


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