070.静止/一案
《大穴/着地》
目を隠したままであるオリヴァレスティを横目に。私は、ファブリカと共に、大穴から飛び降りた。彼女は私を抱え、杖にて空間内を制御して降りる。同様にオリヴァレスティ、そしてア号姉妹達はその足に半透明の円盤状物質を生成させて、それを基盤にある種の浮遊を行う。
穴に飛び込み、地に足をつけた。恐らく一番下の階であろうこの場所は湿り気を含んだ空間であり……。地面に至っても同様だ。しかも、日差しは皆無である。だが。日差しは無いにしても暗闇ではなく、偵察の時も見たのだが。一切の不自由はなく、極めて鮮明に奥の方までを見渡せる。
何故なのか気になって上の方を見てみると、そこには苔のようなものが頭上一面に広がっており、それが月の明かりに近い光量で、私達が立つ場所を神々しく確かに、照らしていたのだ。全員が大穴を抜けて地に足をつけて前方を臨めば、一般的な二世帯家屋を二軒ほど縦に並べたかのような大きさをした対象生物が、その口を上げて威圧的な雰囲気を滲ませ、空間を喰らわんばかりの印象を過密にする。
「……こう、みると。メノミウスとあの光とで、不思議な感じですね」
「そうだねー! メノミウスはーともかくー、あれを見るのはーやっぱり初めてー?」
「あれは……なんですか」
「あれはー、ケゴヒリカっていうー生き物だよー?」
「生き物……」
「かわいいでしょ!」
「=うん。メノミウスを前にしてケゴヒリカの話をするとは。うん」
「……ま、といっても、こうして降り立ってからも動かなければ、全員で縁に立った時も何の反応も示さなかったからナ」
「もしかして! あの子達に食べられちゃったとか? ……あは!」
「……そうデスね。肉食ですから考えようには有り得るかもデスけど、まあもしそうなら、こう姿は残ってないデス」
「……たぶん寝てるんだと思うぜェ!」
確かに目の閉じているメノミウスを確認しながらも。私は、またも流されかねない疑問点に焦点を当て続ける。
「え、肉食……あの光源が、ですか?」
「……そうデスね。今あそこに群生しているケゴヒリカはれっきとした肉食動物デス」
「心配しなくてもー平気だよーオネスティーくん! いくら肉食と言っても、いきなり食べられるわけじゃなくてー、ゆっくりとー溶かされていくだけだからねー」
「だけ……。それなら良かったです。じゃあ、あの生物は、ゆっくりと対象を溶かすようにして捕食をする……って、そうしますと、あの光源はまさか」
「だよねぇ。捕食した動物の体内エネルギーを吸収、分解して栄養にするんだよねぇ」
「その時に! その間に! 発生してしまう余分な熱エネルギーが! ケゴヒリカ自体の薄い表皮から透けて、まるで光のように降り注ぐってこと! ……あは!」
「そのお陰で、私達は光に困っていないのですね」
「よしー、未知なる光源についての疑問点も解消されたことでー、いざー! 何故か止まったままのメノミウスに接触しようかなー」
『おーーーー!』
私を除いた全員が声高らかに杖を振り上げるが、これから行われるであろう「メノミウス」に対する接触が不確定要素に溢れており、なかなかどのように考えたとしても、乗り気にはなれなかった。自身の「能」を測るために必要だという体液の採取と、卵の回収が目標として存在しているものの、いざこう静止したままの生物をみれば……当然の如く、薄気味悪さも幾らかは感じざるを得ない。
私は異議を唱えることに抵抗を覚えながらも、流されているのかもしれないある事象に気にかけ続けていたが為に、決意する。右手に装着された魔術槍を強く保持。左手は刺突剣に添えたまま、顔を上げる。
「……あの、先程エルヴィラさんが言っていた……その静止についての一案なのですが」




