006.過去/把握
《フェルゼン/彩雲彩花》【記憶】
目を開ければ、私を見下ろす大目玉とご対面だ。光源を受け、少しばかりの待ち時間の間に寝てしまったのかと実感する。私は、準備室に置かれていた椅子から腰を離して床に足をつけると、今回も実験として彼女の元へと向かう。
彩花の複製体。その大きさは半分であるが、力は二倍だ。活動の核として「h2Chiral/an」が内蔵されており、言うなれば彼女は生物と機械の混合なのだ。
「ぐぇっ……ご主人様。お戻りですか」
「……? ああ、フェルゼンおはよう。君の今日の予定は何かな?」
「本日の予定は、情報蓄積と基礎データ修正、それに追加改修、破損箇所修復になります」
「今日の予定は、いつもより多いな」
「はいご主人様。只今から作業を始めるには時間を要し、ご主人様の参加が遅れた為、時間が押しています」
「すまない……次は気をつける。……よし、フェルゼン。次は動作確認だ。さて……いつものをくれ」
「はい。ご主人。魔剤ですね」
「ありがとう……って、おいおい。これはこれは新作のやつじゃないか。これなかなか売ってないんだぞ」
「こちらは、彩花様が。それに伴い、伝言があります。再生しますか?」
「ああ……頼む」
────。
《────……私がいないことに気づいてる?────》
《────さて! 私はどこにいるでしょーか!────》
────。
────。
《────……ぱちぱちぱちぱち》
《────正解は!────あなたの頭上でーす!》
────。
「────再生終了」
「ありがとう」
「えへへ〜びっくりした?」
「なんてとこにいるんだ……」
緩く軽い巻きのかかった毛先と二つ結びの白髪。
目にかかるか掛からないかの瀬戸際を流れている前髪。
そこから特徴的な呆れ目を覗かせている彼女は、白衣を纏っている。
いつ如何なる時でも、背に青色の一本斜線の入った白衣を羽織り、お気に入りの黒色筒襟服を着込む服装は以前から変わっていない。
青色文字盤の素朴な腕時計を愛用しているのも同様。腰の流線を引き締める黒い革帯の締金は……。燻した金色である。
「よっ……と! ……どうかな? この子」
底の厚い靴にて着地をした彼女は、今まで天井にいたようだ。
「うーん、ご主人様はやめた方がいいかな」
「えー! それはボクの趣味なのにー。ちぇー……あとはー?」
「そうだな。まだどこかよそよそしいというか、人間味が薄いというか。……やはり『ボディ』の親しみが」
「そうだよねえ、まだ体は試作形態の状態だけど、いずれは人間そっくりに完成させて、……妹みたいにしたいな……!」
《────そうだ。頼代くん、明日……暇?》
「予定は無いけど、何かするのか?」
「あっ、ううん! 特に何か規定を設定しようとかじゃないんだけど……うーん、あそこ。昔、ボク達が作った秘密基地。久しぶりに見に行かない?」
「お、いいな。行こう。それじゃあ……今日は、早く寝ないとな」
──。
────。
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