068.偵察/大穴
《陸地/内部》
私は自らの身を落とした。正確には、一歩を踏み入れ、そこから落下した。出口などない空間に移動し、落ちてきた場所を確認する為に。私は咄嗟……即座に上を見るが、何も映らない。しかし。上を見上げ、確認を続けているうちに、ア号姉妹が続々と「無」から生成され落ちていく姿が流れんばかりに……確認される。その光景を目にして……。これと同様の手順を踏んで、私は今ここに立っているのだと知る。
「ついたねー! ここが目的地ー」
「ふー! よかったよかった! また成功だよ! ……あは!」
「やったぜェ! 無事保持も終えられたぜェ!」
私は、全員が降りてきた状態にてア号姉妹の腕を確認する。全て欠けることなく存在していた手足。それを見て、その言葉の信憑性を確固たるものと定めた。
「だよねぇ。この後、戻るにはもう一度同じことをしなくてはいけないのだよねぇ」
「……ま、その時はその時だナ」
「……そうデスね。今は、討伐対象……メノミウス、を見つけなくてはデスね」
「だね! この先……にいるとは思うんだけど……」
「=うん。どうも先行きが怪しい。うん」
オリヴァレスティもといオービスの言葉によって立ち込めた暗雲は、その視線の先を共有することによって確立した。
「穴……ですか」
自らを含む彼女達全員が不確定要素の塊を目にしている状況にて思い出す。穴……思えば私は、何か事ある毎に落ちてきた気がする。その関連性に至っては判明していない。だが目の前に存在していた穴は、ただいま落ちてきたばかりの空間にて、更に繋がる大穴として存在していた……。
「なんだろ、前より大きくなってるような? ……あは」
「そうだよねぇ。前に来た時より、明らかに大きさが拡大してるよねぇ」
「……ま、こうなったら確認するしかないナ」
「待ってろよォ! メノミウスゥ!」
「……そうデスね。大人数でいくとあれなので、一人を選抜するほうが安全デスね」
「ほほうー、その一人というのはー?」
「よし! 不肖オリヴァレスティ! 新人くんを推薦します!」
「=うん。何事も経験なりー。うん」
「え」
「うんうんー! それがいいよー! 頑張ってねーオネスティーくん!」
「あそこに、行けばいいんですね。大穴の縁から、……偵察ですね」
「頑張れ! オネスティさん! ……あは!」
「……ま、落ちないようにナ」
「あの先にッ、何があるのかッ、気になるぜェ!」
「だよねぇ。オネスティさん。是非、有益な情報をお願いだよねぇ」
「……そうデスね。私達は安全のために、ここで待つのがいいデス」
(…………仕方がない)
「……分かりました。では、行ってきます」
オリヴァレスティの颯爽とした提案と、彼女達の羨望に満ちた眼差しによって私は単身、地の上から落ちてきたこの空間に、またとして存在している「大穴」への進行を始める。ア号姉妹によるとその穴の形状が過去に記憶しているものと相違があるようで、それがために安全性を加味した結果……今に至る。私はこうして異議を唱える間もなく。答えが得られるであろう問題の場所へと偵察することとなった。
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《大穴/外縁》
私は、少しばかり離れた大穴、その縁へと辿り着く。後方に控えている彼女達のもとには振り返らず進んだ結果。視界には目的地のみが貼り付いている。
(……ん?)
満を持して問題の穴に辿り着いたのだが、当初彼女達と共に臨んでいた位置からは確認出来なかった事実に直面する。なんと。目の前にある穴はその大きさに当たるほんの一角に過ぎず、穴の大きさ、直径が段階的に大きくなっていたのだ。
外から見た穴の大きさ。そして、通常の地面より幾らか盛り上がった「縁」に立つことによって目にする事が叶った実際の……規模。その相違に明確な違和感を覚えながら……。縁の先から身を乗り出すようにして穴の内部、その先を臨む。
(……あれが、そうか)
覗き込んだ私の視界に映り込んできたのは。六つの連結した、横並びの身体を持った生物であった。身体の部分は明らかに六つ、手足もそれぞれ各部位ごとに不足なく存在しているのだが、頭部に至っては統合されている。一つの頭部に連結された六つの身体。その容姿は芋虫のようであり、「アルバス」にも似ているようであったが、その体躯の豊満さと至る所に生えている黒色厚毛を見れば、似ているのは主体だけであると、自らの考えを誠心誠意……改める。
先の前言を撤回。何にも似つかないその不気味な生物は、穴の下に確かに存在している。微動だにせず、そこに佇む生物を見れば。まるで、侵入者の訪れを待つかのように待機しているようである。だが。ここでの侵入者とは我々の事であると気づき。踏み出した足を引っ込めて、その場で身を戻す。
六つ身体に一つの頭。その容姿さえ判明すれば、後は特異なる生物の情報を「偵察内容」として持ち帰り、それが目標のメノミウスであるか否かの確認を行うことが出来る。────私はこうして。末恐ろしい生物から逃げ帰るように、彼女達の元へと戻った。
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