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062.拠点/方針


そういうとアンは、他の少女達に早く食事を終えるように(せか)かした。私はその姿を見て、どこか懐かしく、もの寂しくなってしまったのだ。





「……聞きたいことがあります。もちろん、食べたままで構いません」





アンはこちらを向くと、にこりと笑い足を引きずりながら近寄る。





「聞きたいこと? それってもしかして! ……あは!」



「その……アゴウシマイについてです。なぜ、そう呼ぶのですか?」



『ごちそうさま!』





少女達は皆、空腹が満たされたのか……。何となく幸せな雰囲気(オーラ)を纏いながら、御礼を言った。私の問いかけを気にしないでいる光景に、若干気が緩む。それに対して返事をしようと口を開きかけたが、五人もいる少女達の名前を思い出したところで、私は一旦、口を閉じる。





「……んとね、あたし達の名前は全員『ア行』から始まるからかな! ……あは!」



「……?」



「定かじゃない! なんと言っても! へーネル団長が決めたしね! ……あは!」



「なるほど、その名前……へーネル団長がつけたのですね」



「そう! へーネル団長! ……あは!」



「そうなると……皆さんは、トーピード魔導騎士団の仲間、になるのでしょうか」



「うんそーだよー! あなたが来ることも分かってたし! お姉ちゃんたちが! 騎士団の拠点についてるのも! はぐれたのも知ってるよ! あたし達って天才でしょ! ……あは!」



「……ま、ここは……拠点は、私たちの中……私達が作ったからねだからナ」



「ここにいれば自由自在に行動出来るぜェ!」



「……そうデスね。ここは安全、だって見えないデスからね」



「そういうこと! て違いではぐれちゃったファブリカお姉ちゃんと! オリヴァレスティお姉ちゃんの所へ合流するために! あたし達はあなたに接触したの! ……あは!」



「そしたら、二人に連絡が取れるということ────」



「それより! もう直接向かった方が早いよね! ……あは!」



「え」





────突然、光が消える。視界が途切れるその瞬間。五人の少女達が屈託のない笑顔を浮かべていた様は、心底恐ろしかった。





~・〜・~・~・〜・~・





匂い。とてもいい匂いだ。これは……食品系統の香りであろう。私は、いつの間にか感じ取れた感覚に集中し、その詳細を探る。





「……て、……く……」



(……。……?)





ある香りに集中していくと。か細く消え入りそうな『音』が、上方部から発生していると感覚的に掴む。私は、感じ取れた微量な音に注力する。食欲そそる香りに包まれながらも、その上にある音源を探る。匂い。そして音からなる感覚は精査され、私に訪れた次なる感覚は────。私は目を開けた……いや。(なか)ば強制的に開かされた視界の(ふち)に……。オリヴァレスティの指、そして、顔を見た。そして。彼女のもう一つの手には、『何か』が握られていたのだ。





「……え」



「もー! 早く起きてよ! 兄ちゃん! そうしないと、これ。口に入れちゃうよー!」



「=うん。おそい。うん」



「起きたみたいだねー、どこに行っていたかと思えばー、ア号姉妹さん達とー、一緒だったとかー」





自身の視界によって。地面に寝転び、仰向けのままに彼女達を目にしていたことに……気づく。見下ろされ、会話を続ける彼女達の表情は……。幾らかを除いて、(さげす)みに満ちたものであった。





「……オネスティさん。どうぞデス」



「ありがとう……エミリー」





エミリーが差し伸べた手を借りて身を起き上がらせる。私はその瞬間。今まで捉えていた空間とは異なる「場」に、自らが飛び込んでいたと気づく。





「ここが……、拠点……」





中世的様式(ゴシック)の空間。多数の蔵書が展開された空間に、その身を置いていた。エミリーの手を借り起き上がったことにより……。更なる異空間を目にするが、唐突に気づいてしまう。このような光景を目にする前。私の視界、そして感覚は当初、別のものを捉えていたはずである。





「オリヴァレスティ……それって、もしかして(おもて)で食べたいって言ってたやつ……か?」



「そうそう! 貰ってきちゃった! あ、食べる?」



「=うん。はい、どうぞー。うん」





そう言って首を傾げながら、銀食器を差し出す彼女。私は、それを覗き込み、中身を確認するや否や、別の意味で首を傾げる。





「そうですね……。折角ですが、また今度にします。先程、メノミウスの卵を頂いたばかりですので……」





黒い紐状の生物を差し出されても、好んで食べたりは出来ない。なぜなら……。それは、生物だと分かるくらいに、動き回っているのだから。





「えーそうかー、でもいーな! 姉妹ちゃんの手料理をご馳走になれるなんて……ねぇねぇ皆……私にもちょうだいよー」



「=うん。うらやま。うん」



「いいぜェ、好きなだけ持ってきな!」



「……そうデスね。美味しいデスからね」



「……ま、でもあんまり食べすぎないでナ」



「そーだよ! オリヴァレスティお姉ちゃん! この任務が終わったら、一緒に食べよ! ……あは!」



「いいですねー! 本当は今食べているのでー、何個目だっけー? オリヴァレスティ?」



「ゔ」



「=うん。気をつける。うん」



「はいはいー、ア号姉妹のおかげでこうして、合流できたわけだしー、早速。へーネル団長が言われた通りー、実行に移しましょうー!」



「それって……」



「あれー、オネスティーくん、忘れちゃったのかなー?」



「え! まーでも! この短期間で行ったり来たり……? 大変だったからかな!」



「=うん。本当は……うん。なんでもない。うん」



「────」



「これからすることはー、なんとー。じゃかじゃかじゃか……じゃんー! オネスティーくんの力を知ることーですー……あれ、そうだよねー皆ー!」



「……ま、連絡は既に受け取っているナ」



「だよねぇ。団長からねぇ」



「早く、オネスティの力を試したいぜェ!」



「……そうデスね。あまり無理はしないで、正確に、ね」



「そーゆこと! それも! 含めて! あたし達は、ここまであなたを送ってあげたの! 偉い? ……あは!」



「うんうんーえらいねー! ア号姉妹ちゃん達はえらいねー!」



(ファブリカさん……)





子供の機嫌をとるようなファブリカ。その様子を見て、心を小さく落ち着かせた……が。次なる訪れは、すぐ近くに迫っている。私の力を知ること。それが今後の動きであり、それが認められたこと(すなわ)ち。目の前にて存在し、先程出会ったばかりの「ア号姉妹」というのがイラ・へーネル団長が連絡を入れた王国の者である事になる。



ターマイト戦略騎士団に対して。団長とダルミは敵の接近を知らせるために行動中である。二人を後にし、我々で拠点に辿り着いたということは……。意義や対価が、認められたからであろう。私の力を知ること。それが団長の……騎士団にとってどのような価値を見出すことが出来るのか。今後の生活基盤に大きく関わる重要な事柄である。その事に留意しながら。これから起こるであろう、行動に注力してかねばならない。





「……早速ー、そうしたいところーだけどー」



「どうも例の相手が出てくるのが、もう少しかかるみたいなんだよね!」



「=うん。待ち時間できた。うん」



「だからー、出発するまで寝ようー!」



「え……寝るって、その……あの、これから何を?」



「何をってー、オネスティーくんの特能ー、そして重複の有無を調べるためにー、ちょっとした相手と戦うだけだよー?」



「私が、戦うということですか?」



「うんー、合ってるようで違うかもー! オネスティーくんには戦闘もしてもらうけどー、それが主じゃなくてー、実際はーその生き物から得られる体液を使って調べさせて貰うよー!」



「その……生物……」



「……メノミウス、デス」





エミリーは、消え入りそうな声で……呟いた。


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