060.地下/人影
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私はすぐさま目を開ける。嫌な感覚に支配される前に、正しい視界を求めれば……。そこは、異空間であった。自らが立っている場所は、外の明確な石畳の地面から一転した。また、「外見が唇」の中身からも大いに変化し、確認出来るのは、開けた空間に浮遊物漂う様と、未確認物体の存在である。
人二人分で精一杯な程の大きさをした浮遊をする石版。それらが果てなき距離感覚を形成させながら、上下左右全てを囲んでいる。────目を凝らし、箱のようなものを見つける。よく見れば、六面であった箱のようにも見えるものを捉える。さらに注視してみれば……。視界一面、それら全てに人工建造物が建ち並んでいるのが確認出来た。
目を閉じた後。これから向かう先は地下であると彼女達は言っていたが、そうは思えない。浮遊する石版の上に立ちながらに目にする光景。辺りに広がった空間には巨大な箱状の地面が散乱様が映し出され、それらを内包する面には人口建造物が立ち並んでいるのだから。
「ファブリカさん……? オリヴァレスティさん……?」
────返事がない。歪な光景の中で見渡しても、私以外の人影が見当たらない。そう……。先程まであんなに近くにいたファブリカ、オリヴァレスティがいないのだ。六面に分かたれた地面。それら全てが地であり、それぞれに生え揃っている人工建造物の不整合さから、地下の空間とは到底思えない。まさに、地上の違和感を更に増幅させた形に見受けられる。果てしなく続くそれらは、この身に息苦しさを感じさせないほどに拡張し、無限的な空間を作り出している。
霞みがかった盤面世界のほぼ中心。自らの存在が、不確実なものへと近づく。どの面に向かうのが心地よいのかという不必要な議論を重ね、下部こそ感覚的に救われるような気を僅かに感じたことを境に分岐点は収束を始める。消え去った思考にほのかに残る、「固定」に対する渇望を石版上にて呑み込みながら目にした異空間……それこそが、突如として認識した世界である。
私は、進む。周りの誘惑に耐え、ファブリカ、そしてオリヴァレスティを探す。様々な光景をも見ないようにして、ただひたすらに進み、歩く。不思議な道を抜け……いつの間にか、薄らとした影が貼り付いた「隙間」が、すぐ傍にて存在していることに気づく。
そして、脇に小さな穴を見つける。その隙間を目にして立ち止まり、目を凝らすと……。見過ごしていた光景が、ぼんやりと滲む。道とは言えない通り道から沿うように所狭しと物体が立ち並んでいる。それら犇めき合う中で、往来に沿って隣接しているのが常の光景と思い込み、一切の隙間など無いとばかり思っていた。
だが、それはこの偶然の一瞬。辺りに立ち並ぶ数々の誘惑を避けるため、結果として目にすることになった「光景」をもってして知る。避けたものを遥かに凌駕するほどの、新鮮な誘惑。私は、その光景に自らの目を疑った。先程まで抱いていたこの空間の印象。まるで真逆の光景を、信じることが出来なかったのだ。
────小さな隙間から覗き込んでいる、見窄らしい格好の少女達。人一人が入れるかどうか、それすらも分からないくらいの小さな隙間。そこに……この空間で……初めて人を見たのだ。か細い線のような隙間を見れば。その存在すら不確定なもののように思えてしまう。それこそ。見放されたかのように形作られた地点から「光」を目にしている少女達。……私は、目を離すことなど出来なかった。
(見つけた……)
その姿を目にして、溢れんばかりに心を踊らせる。ファブリカ、そしてオリヴァレスティと別れ……。状況が分からぬままこの空間を彷徨う中で。やっと見つけた、一つの希望。この空間、この場所がどのようなところなのか。それを知るために、私は尋ねなければならない。……勿論、今後の為に。そして私は一人、立ち止まっていた場所から。少女達が顔を出しているその「場所」へ向かって、足を動かしたのだ。
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