056.特殊/儀式
扉は開かれた。高圧的な建物の存在。そして目の前に立ち塞がる大きな扉。目の前の異空間の入口にて、ファブリカとオリヴァレスティは躊躇うことはなく、扉の取っ手を掴み……手前に引いたのだった。
────私は開かれた扉の外から建物の中を目にする。外から見えていた煉瓦造り調の様相は「内装」にも及び、建物の中は、より堅牢に作られている印象を覚える。しかし、内装の全てが全てそのような素材によって形成されている訳でもなく、人の腰くらいの位置線から下は石のようなもので出来ているのが見える。
建物の床は恐らく木製であり……。様々な色や模様をした塊大の大きさが規則的に敷き詰められている。また、壁の方には何故だか、外が映っていない白枠の窓や絵画などがあり、天井には、この空間を照らす照明の存在が幾らか確認出来た。内部には机や椅子などが置かれている。その下には、赤い絨毯のようなものが、敷かれているのだ。
「ここは……」
「ね! すごいでしょ! ここは宿兼酒場、上等な内装に良心的な価格設定。様々な情報が行き交う憩いの場だね!」
「=うん。ここの料理は絶品早く食べたい。うん」
「オリヴァレスティのいう通りー、ここには情報が溢れているんだよー! 良心的な価格設定分はー、それで補っているといったところかなー? さて二人ともー、ここからが重要だよー」
「そうだった! 早く奥の間に行かないと!」
「……奥の間、ですか?」
「=うん。あそこにあるの、見える? うん」
扉が、開かれる。中へと入った私達は、入口から移動し、最も近い席に座る。オリヴァレスティは座りながらに身を乗り出すと、その小さな体をもってして最大限に、奥の間の方向を表現をしてみせる。
「……おかげで見えました。ありがとうございます……ところで、ここが、その……表向きのものだとすると、私達が目指している本来の場所はあの奥の間にある、ということでいいんですかね」
「うんうんー。オネスティーくんはー奥の間に入ってからが気になるみたいだねー!」
「私も初めて入った時は、驚いて声も出なかったよ!」
「=うん。たのしみたのしみ。うん」
「オネスティーくん! 私達はーこれからー、地下へと向かうのだよー!」
「え……そんな嬉しそうに……。地下なんて……って、あの扉の先に、地下があるのですか?」
「そんな驚くことでもーないよーなー」
「だよねー。兄ちゃんは地下好き?」
「=うん。趣向。うん」
「なんというか、嬉しくて、……はい。地下は好きです。落ち着けるので」
「……? ファブリカー。そんなに地下が好きならさ、もう接続点に案内しても問題ないんじゃない?」
「そうー? 前もって徐々に徐々に説明しておけばー、負荷が少なくていいかと思ったんだけどー。まあ耐性があるならー、効率性をとった方が懸命だねー!」
「=うん。じゃあさっそく注文を。うん」
「オリヴァレスティー……? 後でねー」
「はーい……。ってことで兄ちゃん! 奥の間に行かないと!」
「=うん。いこういこう。うん」
「今までの会話を聞いていた……のですが、余計怖くなりましたよ」
「大丈夫だよー! 暗いところがー怖いとか怖くないとかー、そういうものだからさー!」
ファブリカが席を立ち、オリヴァレスティもそれを受ける。私は、彼女らの微笑みから得体の知れない何かを感じ取る。これより広がる光景が、確実に不穏なものであると、考えてしまうのだ。
・・・・・・
言葉が空気へと溶けだし、薄らとしていく時を同じくして。継続され続けていた歩みが、鈍く止まる。彼女達に案内され、開かれた扉から奥の間という別室へと足を踏み入れた。私がそこで、初めて目にした奥の間の中身は……。別室でも、個室でも、控室でも、ない。一つの牢が、開かれた空間に存在しているといった歪な光景。これは紛れもなく、牢獄なのだ。
「……ここ、ですか? 間違えているとか……そんなことないですよね」
「兄ちゃん残念! ここは正真正銘私達の拠点に入るための接続点、つまり通過のための門ってことになるね!」
「=うん。門前払いやだやだ。うん」
「そうそうー! ここはまだ目的地ではないからねー! そんなに驚いてたら気が持たないよー。だってさー、この後することの方がー、どちらかといったら大変だしねー、オリヴァレスティ?」
「うんうん……。またあの子を見なきゃいけないと思うと考えちゃうけど、外部からの侵入者を阻止するためには必要なことなんだもんね」
「=うん。複雑かつ躊躇いのある手順は、それだけ安全性をより強固にするね。うん」




