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053.大地/接地


《帝国領内》





「はあー、やっと着いた。疲れたな」



「ですねー、椅子が欲しかったですねー!」



「皆さん……早くここから離脱しないとですよ! ターマイト戦略騎士団が抑えているとはいえ、ここは一応帝国領内ですから」



「=うん。敵地怖い。うん」



「オリヴァレスティー? 本音漏れてるぞー?」



「これは私の言葉じゃないです」



「=うん。かんちがいこわこわ。うん」



「そうだな、オリヴァレスティの言うように、ここは敵地だ。故に私は、搬入機から即座に降りたわけだ」



(そこを繋げなくても良かったのでは……)



「ここは敵地、故に移動についての効率性が重視されるかと思うのですが……何故。私が言うのもあれですが、シュトルムさんの基地上から、飛び立てば良かったのではないですか?」



「もちろんそれが一番効率が良いのだが、このご時世だ。襲撃があったり……まず、情報が漏れているという揺るぎない事実がある以上、疑心暗鬼になることも必要だよ」



「そうそうー! あの基地から飛び立てば、目標を容易に算出されかねないからねー。私の認識阻害もー、大人数となればなるほど精度が落ちちゃうしー!」



「なるほど。地上に降り、……これだけ離れれば、その低下した精度も補える、ということですね」



「まあ、結局飛ぶことには飛ぶし、兄ちゃんにとっては変わらないよね!」



「=うん。かわいそうね飛ぶのは決まってたのね。うん」



「え」





これより空を飛ぶ。そんな会話の後にイラ・へーネルは例の魔鳥を出現させている。実に、恐ろしい。





「さ、全員。飛び立つ準備は整ったか?」



「準備できてまーす!」



「いつでも飛べる!」



「=うん。たのしみ。うん」





ファブリカとイラ・へーネルは、(たずさ)えていた杖を手元に移動させ、(またが)る。私は今一度、魔術に関連するものにおける浮遊の印象は、(あなが)ち間違っていなかったのだと、少しばかりの感動を覚える。一方、オリヴァレスティはというと。手旗(サイズ)の小さな杖を四本取り出し地面に置く。すると、それらを引き伸ばして長さを倍増させる。伸ばされた四本の杖で正方形を作ると、(まと)められたそれらは、何の力も加えずに、彼女の腰辺りまで浮遊した。





「オリヴァレスティさん。その……形状が、他のものと異なっているような……」



「ああ、これね! これは座って空を飛べる運搬用の杖なの! 私はそういう任務が多いからね。こっちの方が便利なんだ」



「なるほど……」



「さっ、オネスティ。君が乗る形状は、オリヴァレスティのものとも、私とファブリカのとも……違うようだがな」





イラ・へーネルは、にたりと笑みを向ける。





「……ありがとうございます。杖を持たない私に、わざわざ」



「はは、王国の拠点にいけば、(いく)らかはあるだろう。そこで調達するといい。────よし、上がるぞ」





イラ・へーネルによって出現された魔鳥。その大きな翼を器用に下ろし、私を背に乗せる。上部にて安定した後。柔らかめの羽に触れると、大きな羽音を響かせながら大地を蹴る。すると(またた)く間に上昇し、負荷のかかる動作を耐えた後には、自らがその場で浮遊しているというような感覚に包まれた。……私は、空中で待機をする魔鳥に乗りながら……。順々に上がってくる、トーピード魔導騎士団の面々を確認した。





「準備は出来たようだな。これより新拠点を目指す。私についてこい」





先導するイラ・へーネルを追いかける魔鳥から振り落とされないように捕まりながら、腕に付けられた魔術槍、そしてヴァシュロンに意識を向ける。こうして私達は、移転された新拠点……。ダルミがいるという、その場所へと出発した。





・・・・・・





《新拠点/外部》





「新しい拠点も、前回同様、山に通路を設け空間を生成させたものになる。ダルミには一足先に確認に向かってもらっているが……」



「連絡ー、やはり無いのですねー!」



「ああ、そうなんだ。これくらい近づけばもう。通信圏内に入り、送信された情報をこちらで受信することが出来るはずなのだが……」



「もしかして、送信するのを忘れたとか?」



「=うん。うっかり。うん」



「それはないはずだ。あのダルミが……いや、もし、送信していないのだとすると」



「まずいですね、何らかの不具合が発生したのでは」



「……もうすぐそこだ。降下準備を」





イラ・へーネルが先導して降りた場所、そこには山などなく……いや山と言うより地面すらなく、ただ透明な空気のような場所に接地していた。空中からそれを見ると、それこそ空の上を歩いているように見えた。





「え、ファブリカさん」





オリヴァレスティが位置的には最も近かったのだが、真相を尋ねる前に彼女は迷うことなく団長の後を追ってしまった。なので私は。急いで、最後に残ったファブリカの元へ向かったのだ。





「んー、なーにー?」



「いや、あれ、あれですよ! なぜ空中で歩いているのですか……」



「ああーあれねー! 認識阻害かけといたー!」



「そんな軽々と……。物体にも効果が作用するものなのですか、その認識阻害……というのは」



「そうなんだよー! 人に使う場合はー、範囲とか色々と考えなきゃいけないこともあるけどー、物体に関しては基本ないかなー! 回数の限界はあるけどー」



「それが特能の、力ということですね」



「そうそうー特能特能ー、あ、教えてもらったんだねー! 偉いねー! 普通の魔術とは違う分、後々大変だけど、まあ今を生きるのには十分だよねー!」



「?」



「さてー、オネスティーくんの疑問も解決したところでー、団長さんがお待ちですよー!」





その言葉により空中から、認識阻害のかけられた山を見ると、先に接地していたイラ・へーネルとオリヴァレスティがこちらを見上げている。そして、ファブリカが団長に向けて合図をすると……。私の乗る魔鳥は、一直線に地面へと向かう。何かに吸い寄せられるようにして進むその上で、様子を伺うと。団長の上部の空間に円形の(ひず)みが確認出来……。それが、魔鳥を収容するものであることに気づく。



その存在に気づいてからは早く。もう歪みと魔鳥との距離が目前へと迫った時。再び翼を器用に使い、私を包み込む。生暖かい羽毛の感触を感じると、私は外へと飛び出される。円形の歪みに吸い込まれ、消え去る魔鳥。薄ら顔で鈍く笑う、団長────。





「備えて!」





それらが走馬灯のように見えた時。聞こえてきたオリヴァレスティの言葉によって、目が覚めた。背中から伝わる感覚。柔腰掛(クッション)のような柔らかさ。私の身体は彼女の杖によって受け止められていた。





「兄ちゃん、大丈夫?」



「=うん。大成功。うん」



「ああ、何とか……」



「すまないすまない。魔鳥を休めなくてはならなくてな。少しばかり強引な手段をとらせてもらったが、上手くいってよかったよ。……なあ、ファブリカ」





後に到着したファブリカは、私の姿を見て悲しそうな顔をする。





「はあ……でもー。何も見えないところから落ちてー、地面を感じられない中での着地もー、見てみたかったですけどねー!」



(怖い……)



「私からすれば、ここにいる全員。空中で棒立ちしているように見えます」



「一応王国領まで戻っては来たが、どこで、この姿を見られているか分からない。オネスティの言うように、変な集団が空中浮遊しているなんて情報……流されたくないしな」



「ですねー! じゃー中に入りますかー。こちらですー!」





ファブリカが指し示す方向にはやはり何も無く……。私は、彼女の言う通りに近づくことにした。





「気をつけてくださいねー! どーぞー」





そう言って真っ先に飛び込むようにして歩みを進め先陣を切ったオリヴァレスティの体は、時が経つにつれ、足先から徐々に徐々に消えていった。その光景を見終わると団長が消える。そして、ファブリカが足を踏み入れ次第に消えようとしているのだ。……私は……これを逃すまいと、素早く駆け寄った。





「ファブリカさん、普通に、何も考えずに……足を踏み入れればいいんですよね?」





彼女は、待ってましたと言わんばかりに手を二回ほど叩く。すると、嬉々とした表情を浮かばせる。





「そうだー! そんなに気になるならー、私の手を使うといいよー。いい()()になるんじゃないかなー!」



「……? お、お願いします」





そんなことを言うファブリカは、腕を伸ばし、手の平を向ける。私は、少しばかりの強張りを見せながらも彼女の手に触れ、支えとした。手を引かれ、降りていくという感情感じながら。一歩また一歩と、正面に空を見ながら進んでいく。すると、ある時点にて、突然。空と地面との境界線が見え、私の視界から、青々とした光景は消え去った。





・・・・・・


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