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052.前線/昇降


「あ、なんだそれ!」



「=うん。なんか強そう。うん」



「もしかしてー、魔術槍ー?」



「いいじゃないか。シュトルム。これの事か、そうだな……感謝する」



「はは、いい仕事、しましたね。今日は酒が美味そうです」



(え、飲めるのですね)



「おいおい、まだ仕事中だろう」



「これは失礼、団長様の前でっ────って、もう出発してしまうのでしたね」



「そうだな。我々は残してきた調査がある。……ここは帝国領内だ、くれぐれも気を付けてくれ」



「そうですね。私達も戦線維持のための橋頭堡(きょうとうほ)となるつもりですから。安心して王国区域に向かってください。前線は押し上げておきます」





帝国による先制攻撃により王国と帝国は、所謂(いわゆる)戦争状態へと突入した。結界を消耗中の王国は上空からの脅威を排除したが、その(のち)。帝国によって、王国所属のトーピード魔導騎士団を捕縛される。そして。団員の通告により、王国側の救援隊としてターマイト戦略騎士団が帝国領に侵入、救援と前線押し上げに尽力しているのが、今の現状であろう。





「了解した。報告任務は任せる」





イラ・へーネルとファブリカ。そして、オリヴァレスティの順で、搬入口に向かう。私は、それに遅れないようにと足を動かす。





「あ、オネスティさん。出発する前に、一つ。もし一般の方に会う時があれば、やはり、必要以上に目立ってしまうかと思いますので、この被せ布で隠しておくことをおすすめします!」



「……気遣いに感謝します。それでは……また」





用意周到である。まるで中身を見透かされたかのような(はか)らいに、口元が(ほころ)びかけた。自身の表情くらいは読み取らせない為に。私は、この身を彼女達の元へと追い付かせたのだ。





・・・・・・





《搬入口/昇降機》





「って、ここから降りるのか」



「そうですよー団長ー! 私とオネスティーくんはー、案内されましたから疑いは抱きませんでしたがー! 初めてですとねー」



「ああ、そうだとも。このような剥き出しの出口は未経験だ」



「その通り。落ちたら怖い」



「=うん。こわいこわい。うん」



「そうですよね。この設備は、未経験でしたね」



「オネスティは、何か思わなかったのか?」



「確かに、少しばかり落ち着きが無くなりかけましたが……。ファブリカさんを見れば、そのような気持ちは吹き飛んでしまいました」



「ははーん、オネスティーくーん! そんなこと言っちゃってー、私が空中移動させてあげた時には、あんなに怖がってたくせにー!」



「そ、そういえばそうでしたね。魔鳥にいざ乗るとなった時にも、戸惑っていました」



「兄ちゃんは高いとこ、苦手なんだねぇ」



「=うん。かわいそうね。うん」



「オリヴァレスティさん。お先に、どうぞ」



「ま、余裕たっぷりでしょ! ねっ、へーネル団長!」



「そそそ、そうだな。そうだとも。さっ、早速乗り込むぞ!」



(────ああ、大変だ)





舌を出して挑発しながら搬入機に真っ先に乗り込んだオリヴァレスティ。それに続いて小さく親指を立てて微笑むファブリカが足を踏み入れる。私は、二人に遅れまいと足を動かそうとするが、私の後ろに控えている御方の存在に気づき、思い留まる。





「……へーネルさん。あそこには手()りがないので、不安定です。なので、私に御掴まりください」





私の少しばかり後方にて。手摺りを掴んだままである彼女の元へと近づき、耳元で尋ねる。





「べ、別に怖がってなどいない。それにそんなことしたら……色々とだな」



「いえ、その点は心配ありません。ちゃんと違和感のないようにしますから。さあ。心配なさらず、進みましょう」



「そうだな……では、お言葉に甘えて借りるとしよう。ダルミの詳細が気になるからな」





私は、イラ・へーネルに腕を貸し、先導して剥き出しの昇降機へと乗り込む。そして首を傾げ、こちらに注力する彼女らの前で、この光景があたかも普通であるかのような装いを(まと)うことにする。





「……この設備。どうやら動作時に揺れがあるみたいなので、こうして、団長さんに支えてもらっています。だから、みんなで支え合えば、もっと安定感が生まれると思う……のですが、どうですか」



「そういう事だったのね! なにか忘れ物でもあったのかと思ったわ!」



「=うん。実際、揺れがありそうだとは思っていたから、安心出来るの嬉しいね。うん」



「だねー! 出発の時とかー、到着した時とかー! 特に揺れたもんねー! 私もー、あの時そうすれば良かったかなー」



「……というわけだ。これより我々はこの搬入設備を用いて基地を離れ、一旦地上に降りる。そこから移転基地を目指す」





全員が搬入機に乗り込んだ時点で、監視用の出窓のようなところから顔を覗かせていた騎士に手を挙げ、合図を送る。手旗のようなものを持っていた騎士は、同じように待機していた少し先の騎士に合図を送ると、昇降機に取り付けられている安全装置のようなものが次第に、外枠より外れ始める。全ての杭が抜かれると、私達が足をつける鉄板は大きな音と共に一段ほど下降し、以後……等しい速度にて地面へ向けて動き出した。





「オネスティーくん! 降りる方が揺れるねー!」



「ですね。引き上げる方が、安定するのですかね?」



「たぶん、あれなんじゃ? 地面に設置させるにはある程度の余裕を持った速度じゃないと上手くいかないとか何とか……」



「=うん。引き上げる方は、最終位置が基地に定まっているけど、下ろす方は基地から離れた場所だからかな。うん」



「そ、そうだな。ああ。どちらにしても、着いたら早く降りるんだ」



「ですね……」





全員で手を繋ぎ支え合っているおかげで、確かに上昇時よりは揺れはしているが、落ちてしまう程ではない。だが、それでもイラ・へーネル団長はこの揺れが心底恐ろしいらしい。他の団員はそれに気づいているのか、それとも気遣いとして知らぬふりをしているのかは分からない。



しかし、気づいていてもそうでなくとも。団長がここより遥かに高い空中を、杖一つで悠々と飛行していたという事実は全員の共通認識としては存在しているだろう。……私は、空を飛ぶのと降りるのとでは何か異なるのであろうかと考えつつも、支えを崩さぬ為に意識し足をつけ、搬入機の接地の瞬間を待った。





・・・・・・


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