051.携帯/魔槍
シュトルムはそう口にすると……。背中で隠れていた、机の上の物を持ち出し、こちらへと掲げた。
「見てください! この形状! つい先程までは人二人で運べるか運べないかの重量、そして大きさでしたのに、ですよ!!」
(ファブリカは、それを一人で運んでいたという事実……)
「す、すごいですね。これ程までに縮小、軽量化されたということはやはり、運用形態は……」
「お察しの通りです! 今までは二人一組みにての運用が常でしたが、改造を施し、各個人で扱えるように機関を完結させました!」
「なるほど……充填から射出まで全部一人で。二人で役割分担するのも悪くはなかったですが、動作効率や運搬性などを考えると、こちらの方が武器としては優位ですね」
「そうなんですよ! それに威力に関しては魔術筒に充填出来る容量を増やし、調節が可能になりました! ……それに」
「?」
「なんと、この子。腕に取り付けて使用出来るのですよ!」
「ほ、ほんとですか。効率性は上がり、威力も上がって、さらに腕に付けられるなんて……」
「さ、ぜひつけてみてください!……どちらの手がよろしいですか?」
「……右手に、お願いします」
シュトルムは嬉々として、手にしていた魔術槍を私の右手に取り付ける。若干の重量感はあるが……。時計をもう一つ腕に取り付けたようなものであり、そこまで気にならない。少しばかり腕を動かしてみれば、すぐに慣れてしまう。動作感に関しては一切の違和感はなく……。まるで自身の腕が、そのまま延長されたような印象を覚える。
「なるほど、腕に着けてしまえば、と。おもろいほどに違和感がありませんね……どうしてですか?」
「それはですね! 先程の使用時に蓄積された内部の記憶情報を分析して、形状を事前に把握していた……といったら信じてくれますか?」
「い、いえ。特にありませんが、多分あの時かと」
「はい! 気づいてましたか、……これです」
シュトルム自身に取り付けられた、大きな撮影機のような瞳。こちらへと向けられると、少しばかり身構えてしまう。
「まあ、色々な細かい音を出しながら、凝視されると、何かなって思いますね」
「以後気をつけますね……私の観察によって手に入れた情報を元に形状を確認、装具が形作られたということです!」
「ということは、これから私は、そこにある魔術筒を携帯しながら、完全に一人で運用が可能になると……使用方法については……」
「使用方法については至って簡略化されています……はい、どうぞ」
机に置かれていたものより小型になった魔術筒。それをシュトルムは、鞄のようなものに入れ、手渡した。
「至って簡単! その袋に入った魔術筒を、携帯式魔術槍上部に存在する穴に捩じ込みます」
「ありますね」
「はい、そこに充填することが出来れば、安全装置が解除され、甲から取っ手が伸びてきます。腕を目標に伸ばした状態でそれを手招きするように引き込めば……」
「射出、出来るのですね」
「はい! 簡単ですよね!」
「はい、本当に便利です。ありがとうございます。でも……すみません、こんなに素敵なものを私なんかが……」
「まあ、へーネル団長の事もありますし……彼女の気持ちを汲み取るってことで、思う存分。携帯式魔術槍くんを使ってください」
「……分かりました。有難くいただきます。それで……私達は、そろそろ」
「ああ、はい! 分かっていますよ。……では行きましょう」
これから彼のもとを離れ、移動をし……。移転された新拠点前線基地へ、ダルミと合流する必要がある。今後調査をしていくにあたって。いつ、この身に危険が訪れるか分からない。ならば、自分の身くらいを守るために武器の一つや二つ所持しておいたとしても、何ら不都合はないだろう。
私は、腰に備わった伸縮可能な刺突剣と、腕に装着された魔術槍に意識を向けながら、彼と共に、清らかなる部屋を出る。期待と少しばかりの恥ずかしさを織り交ぜながら、先に広がる光景を想像し、左右非対称のこの身に、それを映していた。




