047.再会/真実
音声の異常か、何かを不具合があったのか。シュトルムは立ち去ってしまった。私とファブリカ、そして何故か確認出来るオリヴァレスティの三人は、訪れた沈黙に耐え、異様な空気の中で、次なる変化の訪れを待っていた。
・・・・
「……お待たせしました」
シュトルムの姿が見えると、その後ろには懐かしい人が立っていた。
「ヘーネル団長ー。無事で何よりですー!」
「ああ。君たちの持ってきてくれた素材が功をなし、この通り全て治った。感謝する。……シュトルム、改めて礼を言う、この借りは────」
「借りなんてありませんし、例など言われるものでもありませんよ。それに、もしそのようでしたら、こちらの方に、もう請求してありますから!」
「……?」
「この方に、私の研究を託したのです。私の研究が進むのならば、それは大いに嬉しいことなので……」
「気遣いに……感謝する」
「はい。それでは、私は作業がありますので、お帰りになられる際に、あちらの部屋に立ち寄ってくださいね」
シュトルムはそそくさと、奥の部屋に魔術槍を持ったまま消えてしまう。
「それでだ……大丈夫だったか?二人とも」
「大丈夫ですー!」
「問題ありません。それでなんですが」
「あー、分かるぞ。色々聞きたいことがあるよな」
「はい。あります。ですがまず、ダルミさんが見当たらないようですが」
「ああ、今はファブリカの認識阻害で、認識を消し、既に移転した前線基地に向かっている。早急に回収せねばならないものがまだ残っているからな」
「そうなんですか? ファブリカさん」
「ふんふんふーん。えー? 別にー隠すつもりはなかったんだよー! でも、さすがに油断ならないですしねー、団長ー?」
「まあ助かったのだ、それに越したことはない。……オネスティ。私がなぜ……いや、なぜ我々が帝国から攻撃を受けたのか、そしてなぜこの場にオリヴァレスティがいるのか、聞きたくて仕方がないのだろう?」
「……はい」
「その全ては密接に関わっている……まずは、ちゃんと話さないとな。すまないファブリカ。オリヴァレスティ。私達は上で話がある。あとは頼んだぞ」
私はイラ・へーネルに連れられ二人のもとを離れる。搬入口から外に出て、先に進む彼女について行くと、先程ファブリカと角を持ち帰った時に着地した場所へと辿り着いた。
・・・・
「オネスティ実は、オリヴァレスティは敵ではないんだ」
「そ、そうですよね。何食わぬ顔して、ここにいる訳ですし。ですがなぜです? 私はあの子が敵だという心持ちで、騙したのですが……逆に騙されていたなんて」
「それは済まない。こちらも最善の策を尽くしたんだ。だが……こう、手違いというか、命令の相違というか……」
「命令……これは誰かに指示をされて行っていること、なのですか?」
「そう……そうだな、こうなってしまっては仕方がない。いずれは話すつもりだったんだが、……これは仰ぐ必要は無いだろう。よしオネスティ。驚かないで聞いてくれ」
「は、はい。今更、ですけどね」
「オネスティ……君は、全ての人間から狙われる存在なんだ」
「え」
唐突なる言葉。今まで考えていたことが、無慈悲にも吹き飛んだ。
「どういうことですか?」
「君の体は、私達のそれとは比べ物にならない程の価値を秘めている。溢れんばかりの魔素は無限の可能性を器として体現出来る、希望なんだ」
「ちょっと待ってください。私は、私が……狙われているのは、私の知らないところで価値を見出されているからですか?」
「ああ、そうだ。君の体は巨万の富に匹敵するが、死ねば無価値であり、生きている状態に意味がある。それを所有しているものこそ、この世界の統治権が与えられる……」
「統治権って、私を所有────って、そういう事ですか。あなた方が、私を獲得するために……」
「つまりだな、今回私達が帝国に襲われたのも、いや、今回の宣戦布告をも全て、君が、『この世界』に帰還してきたことが始まりなんだ……」
「それは……」
「より正確に言うなら、君達がと言った方が正しいな」
「……どういうことですか?」
「……驚くのも無理ないか。無理を言ってすまない。……それならまず、昔話をしよう。ほんの一年前の話だが」
「……?」
「今からちょうど一年前。巨大な隕石と一人の女が共に王国近郊に落ちてきたんだ。その衝撃で山は削れ、地に穴が空いた。防御結界のお陰で住民に被害はなかったが、結界は再修復が必須な程に魔素を消耗してしまったんだ」
「……はい」
「そして、巨人のような体躯をして降りてきた彼女は、共に落ちてきた隕石を食べたんだ。……どうやらそれを糧にしているらしく、彼女はそれ故か人々から『捕食者』と呼ばれている」
「捕食者……」
「ああ。そして、次第に消えゆく隕石と共に彼女の身に変化が起きたんだ。巨人の如くその身を小さく……今の我々のように縮小させ、食事を終えた後は、無数の鎧を纏った軍勢を従えながら王都に進軍を始めた……先の衝撃で対抗する策を失い、王国は侵入を許す。王都に入った彼女は王の前で要求したんだが……それはなんだと思う?」
「そうですね。単純に考えると支配……属国。国の明け渡しでしょうか」
「そうだよな。絶対的な力、状況にある中で、普通ならそのような要求をするはずなんだ。しかし、彼女からの要求は予想外のもので、あくまでも建国の許可をとりつけるものであったんだ……それが何のためなのか、今も不明だ。……だが」
「────」
「彼女について、一つだけ分かることがある」
「それは……」
「────彼女は、この世界の人間ではない」




