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046.邂逅/帰還


こうして……この手で動きを止めたエクタノルホスから。当初の目的である角の回収に移る事にした。頭部、そして額中央に存在している角を目にして。それを削り取ろうと手に握っている「ヴァシュロン」を交互に見る。





「……やってみますね」



「おねがいしまーす!」





成功するかどうかは分からないが、とにかく持ち合わせている刃物類はヴァシュロンという刺突剣のみであるから……祈るしかない。ファブリカに尋ねたところ。この角がエクタノルホスから生えている以上、魔術阻害は健在であるとのことであるが故に、魔術を用いない方法にて作業をしている。



そして、奴の筋繊維に強固に結びついている「角」に対して力を最大限に反映させる為に、先程のように両足をつけて全身の体重で腰を持ち上げる。そこから角の付け根に剣先を添え、目星(あたり)をつける。勢い良く、前方に向かって。剣と共に、突き進む。



(……だめ、か)



最初こそ、剣先は根元の皮膚に入り込んだが、直ぐに奥まで角の部位が続いているのかそこから先は一向に刃が入らず、ヴァシュロンを支柱に、足を張って静止してしまった。予想以上の難易度に頭を抱え、少しだけ刺さった刺突剣を抜いたが……。



────剣を抜いたとほぼ同時。突如として、体の底から滲み出てくるような「戦慄」を覚える。



後方から一定間隔で聞こえてくる音。平たく言うならば足音の様なものが次第に近づいてくるのが分かった。エクタノルホスを倒していた直後であり油断していたせいか、奴以外の生命体の存在をすっかり忘れてしまっていた。



私の後ろにいるのは、それに続く生物なのか……。それとも別の何かなのかは、一切検討がつかない。唯一分かるのは、後方の何かが足音を響かせながらこちらにどんどんと近づいてきているという事のみである。背中を震わせるように抜いたヴァシュロンの向きを持ち替えながら、恐る恐る、そしてゆっくりと振り返ろうとその身に力を入れる……。





「お疲れ様! ファブリカさん! それじゃあそれを運搬……って、あれ」



「=うん。ああ……これは手違いを。うん」



「お、オリヴァ……レスティ……?」





「傘」を持っているのにも関わらず展開することはない。

印象的な帽子から光沢のある髪を引っ提げている少女。



こちらを目にしながら呆然と立ち尽くしている現状の中。

私はオリヴァレスティことオリーの拍子抜けした顔を目にする。





「……ファブリカさん、これは。ど、どうして彼女のことを?」



「あのねーオネスティーくん。やっぱりー……混乱するかもしれないけどー、あのーオリヴァレスティはー」



「そ、それは! ……追々説明するとして! ファブリカさん! その角をみんなで運搬して、即時離脱を! 敵性反応ありとの情報が」



「=うん。報告ありありです。うん」



「そうだねー、オネスティーくん! この件についてはー、少しだけ待っててくれるー? まあー私達の目標はー、この角を団長とダルミにー、持ち帰ることだしねー!」



「……そうですね。それならでも遅くはないはずですね」





ファブリカに抱えられたまま「空」を浮遊する。



オリヴァレスティとの予想だにもしなかった再会。何故か共に浮遊し「角」を移動要塞に向け運搬している異常な光景。それらが一度に訪れ、処理が追いつかない……が、その唐突なる光景に、かえって驚くことは無かった。それは、角を持ち帰り、無事二人が回復すれば。なぜ襲撃が起きたのか、なぜ敵だとされたオリヴァレスティがこちら側にいるのかを知ることが出来るからだ。



私は……答え合わせのために、基地へと向かう。……そういえばまだ、オリヴァレスティから魔石を持って帰った御礼を頂いていないような気がする。





◇ ◆ ◇ ◆





私とファブリカは、移動中であった要塞の上部分に着地する。そして、搬入口から内部へと帰還する。持ち帰ってきた「角」は常駐していた騎士達によって回収され、晴れて目標を達成し、残すは報告のみとなった訳だが。出発した時とは異なる顔ぶれ、その(いささ)か居心地の悪そうな、ぎこちない動きのままのオリヴァレスティは、こちらの顔を見ようとはしない。





「エクタノルホスとの戦闘。お疲れ様です。ファブリカさん、オネスティさん。……あれ、こちらは」



「仲間ですー!」





ファブリカはシュトルムの問いかけにすかさず返答する。





「そうでしたか。それは何よりです。それと、お持ちになられました『角』に関して現在精製作業が進んでおります。そして、今回使用していただいた二種充填式魔術槍について、ですが……」





どうやら私達が持ち帰ったエクタノルホスの角は、先程引き取ってもらった騎士達が作業を進めているという。言葉を詰まらせたシュトルムは、ファブリカが私と同時に運んできた魔術槍を目にし、深々と腕を組む。





「そうですねぇ。私としてはこのまま、あなた方にこの武器を使って頂ければ嬉しいですね」



「……それって、情報蓄積のために、ということですか?」



「もちろんそれもあるのですけど、この具合を見たところ、上手く使ってくれそうですから。……もちろん無償とは言いませんけれど、やはりここは、定期的に見せに来ていただくというところで手を打ちましょうか」



「……複雑ですね」



「ええっ、オネスティさん嬉しくないのですか?」



「い、いえ。なんというか大きいというか持ち運びに困るというか」



「もちろんそれは考慮してあります。皆様が無事にこの基地を旅立たれるその時までに、持ち運びの容易な規格に作り替えますから!」



「……ぜひ、お願いします」



【────仮称、深部精神汚染除去薬精製完了】



「どうやら、完成したみたいですね」



【────薬剤投与・・・・完了。鎮静化を確認。・・・・生体反応活性化。全維持装置停止、以後対象の遠隔観察に移行】



「すみませんー、遠隔観察は要りませんよー?」



【────受理致しました。以後、対象を引き継ぎ、現計画を閉鎖します】



「あれ? ……わ、私は区画整理に向かいますので、しばしお待ちを」





◇ ◆ ◇ ◆


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