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003.状況/報告


《研究室外》【状況報告】



休憩をするといって外へ出た私は、周囲を(くま)無く確認する。

電波傍受の危険性を(かんが)みて反響器具を展開させるが、反応はない。



私は、腰に入れていた煙草箱(けむりばこ)を取り出し、小型変換装置を引き抜く。

そのまま耳に()じ込ませた器具をもってして、音声を聴き取り、口元に近づけさせた紙巻(かみまき)にて小さく会話をするのだ。





「こちらオネスティ、上手く縁談も(まと)まり、彼女の拠点へ足を踏み入れることに成功した」



「了解した。魔術書は確認出来たか?」



「……いや、まだ現物は確認していない。これから彼女の元へと戻り、さらなる調査を続ける必要がある。……どうやら彼女、かなりの情報を保有しているようだ、危険では?」



「目標は魔術書の回収であるが、早急(さっきゅう)な対処は厳禁だ。現物が彼女の手にある以上、所有者が移っている。即ち、彼女が魔術書を手放さない限り、門が開かない。……故に所持した状態で門前に立たせれば事足りる」



「了解。彼女をあくまで封鎖地帯にそのままの状態で移動、その意志にて門を開き、我々は後に残る『魔術書』を回収するんだな」



「その通りだ。それを念頭に行動する必要がある。現時点をもって回収任務を背面(はいめん)に移行し、監視対象の現状を維持、元に全容把握と誘導を実行せよ」



「了解。……っと」





私は通信を遮断する。

先程まで使用していた器具を回収し、異なる領域を展開。



直列型の装置(デバイス)を用いて新たに回線を確立。

さすれば、電波傍受の危険性は少なくなる。





・・・・・・





「────あー、フェルゼン?」



「こちらフェルゼン、何か問題が?」



「いやー、あの家族にしても、良くやるよ。相手方によく気づかれなかったな。あの母親役の人、若干若いような気もするが?」



「いえ、十分規定内ですよ。あの方々に関してはこの日のために全て改竄(かいざん)、そのように生きてきましたから問題は……あ、彩雲彩花(オリジナル)の趣味です」



「お、おい。やっぱり彩花の趣味か、いつまでその計画(プログラム)を続けるのか……。ああ……早く助けにいかないと。お前も早く会いたいよな」



「い、いえ、別に、ですよ! 別に別に、私は私ですから? 文句を言ってやりますよ!」



「よしその意気だ。……私も、言いたいことが山のようにある。────ああ、それでだ。機関に連絡をしたんだが、当初の計画から離れて、彼女を生かして観察を続けることになった。それも今すぐには魔術書は取り返さないと」



「そうですか。やはり、所有者情報が生きている状態では、さすがの機関も安易に行動出来ないようですね。私の中の青目の硝子玉(ナザールボンジュウ)によると、今後の運びとしては、彼女の情報を参考(サンプル)として醸成(じょうせい)し、奪い返すのではなく、あなたの管理の元で起動させるつもりでは」



「……まあ、そうなるとは思ってはいたんだ。しかし、彼女。事前情報になかったことを言ってたな」



「なんです?」



「いや……移動に伴って……見たところ、本当の縁談相手達が、殺されているようなんだ。二人が必要だとか、魔術書に記されているだとか、……解読は済んでいたか?」



「いえ、……そのような情報は確かにないですね。故に、それが真か否かを見極めるのが貴方の仕事、ですね!」



「そうだな……」





私は通信を切断する。

本来の紙巻を取りだし、噴射式燃焼器の設定を最小に変更して火を灯す。



休憩。

それを終えれば、曖昧な境界線を踏み越え、灯りを窒息させる。



私は酸欠なる煙を背負って研究室へと戻る。

その身体には、さぞかし甘くない香りが(にじ)んでいるのであろう。





・・・・・・





「戻ったぞ……って、何をしているんだ?」



「いや、お祝いを。私たち、これから夫婦になるのだし」





何故(なぜ)だか。

机の上に洋風の生菓子を置き、その上に蝋燭(ろうそく)を立て、火を灯している。





「え、ああそうか、そうだよな、はは。でもまだ、正式な取り決めは────」



「私とあなたはここで、生活するのですよ」



「え」



「いや、私と結婚したいのなら、まず、私のことを知ってもらいませんと。私は今すぐにでも向かいたいのですが、まあ、あなたは何も知らなそうですし、勉強。してからにしましょう。でも式の前には、全て終わっているでしょうけれど」





彼女の両親はその取り決めに納得し「結婚前の同棲」といった形で……私はこの日から、彼女の元で生活をすることになったのだ。紆余曲折はあったものの、上手く彼女の傍へと並ぶことが出来た。あとはいかにして、その(ふところ)に自然体を埋め込めるかが重要なのである。





・・・・・・





《幾日後/別日》



「そういえば、冷蔵庫にあった私の……飲み物知らないか?」



「ああ、あの派手な外観をした青色の炭酸飲料かしら」



「それだ、付け足すなら、力を二倍……いやさらに増やしてくれる優れものだ……ってまさか」



「そのまさか、ね。私、気になって飲んでしまったわ」



「な……そう悪びれもなく……」



「あらいやだ、頼代さん。私が勝手に飲んでおいてそのままにしておくとお思いで? ……ほら、新しいの買っておいたわよ」



「あっ、ああ、ありがとう……? まあ、おなじ……ことか。それで? どうだったんだ? その……味は」



「うーん、悪くはないのだけれど、ちょっぴり辛め、かしら」



「そうか……。じゃあ早速それを……」



「……まあ、あなた。そう簡単に私から贈賄物(ぞうわいぶつ)を受け取れると思っているのかしら?」



「?」



「もしこれが欲しければ……今日も研究に付き合う事ね!」



「分かった。だが、その代わりと言っては────」



「もちろんご褒美は、これだけ、では無いわ」



「お」



「研究に付き合ってくれたら、お買い物に行きましょう」



「大賛成。不悠乃、今日の研究内容は?」



「そうね……あの世界についてやそれを取り巻く現状、基礎的な知識はある程度話してしまったわね。というわけで今日は、少しだけ趣向(しゅこう)を変えて、新しい分野でも開拓してはいかがかしら?」



「私としては、話の一つ一つが衝撃で、まだ理解をするのに時間を要しているのだが、たしかに色を変えることによって彩りが変わってくるな。……ありだと思う」



「いい答えね。そうしたら、……今日は、複製体(クローン)についてなんかはどうかしら」



「そうか……複製体か、興味深い分野だな」





私は、その言葉をこの(タイミング)で耳にするとは、思いもしなかった。


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